セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

日本超音波医学会第97回学術集会が2024年5月31日(金)〜6月2日(日)の3日間,パシフィコ横浜会議センター(神奈川県横浜市)で開催された。5月31日に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー5「SLD診療における超音波検査の意義とATIの未来」では,兵庫医科大学消化器内科学の飯島尋子氏が座長を務め,飯島氏,新百合ヶ丘総合病院消化器内科の今城健人氏,岩手医科大学内科学講座消化器内科分野の黒田英克氏,兵庫医科大学消化器内科学の西村貴士氏の4名が講演を行った。

2024年9月号

日本超音波医学会第97回学術集会ランチョンセミナー5 SLD診療における超音波検査の意義とATIの未来

座長公演:SLDの潮流とマルチセンタースタディ

飯島 尋子(兵庫医科大学消化器内科学)

近年,脂肪性肝疾患(SLD)診療が大きな話題となっている。ここでは,3名の演者による講演に先立ち,SLD診療の潮流と,マルチセンタースタディの概要を報告する。

SLD診療の潮流

日本肝臓学会の調査による肝硬変の成因別分類を見ると,2018年以降,C型肝炎ウイルス(HCV)やB型肝炎ウイルス(HBV)が減少した一方,アルコール性肝障害(ALD)や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を成因とした肝硬変が増加している。また,厚生労働省の肝炎等克服政策研究事業に関連した調査における,肝細胞がんによる死亡率の成因の経年的推移を見ると,HCVによる死亡率が大幅に減少しているのに対し,非B非Cの,特に代謝性疾患による死亡率が飛躍的に増加している。こうした背景を受け,国内では2023年に,SLDの新概念として「MAFLD(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease)」が提唱された1)。これは,脂肪肝があり,肥満,2型糖尿病,あるいは2種類以上の代謝異常のいずれかを合併している状態を示す。しかし,その直後に欧米の肝臓学会などから新しいSLDの概念として「MASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)」が提唱され2),5つの心代謝系危険因子のうち,少なくとも1つの存在を含むように定義が変更された。また, ある程度の飲酒量のあるMASLDは「MetALD(MASLD and increased alcohol intake)」と定義された。
『NAFLD / NASH診療ガイドライン 2020(改訂第2版)』の肝線維化進展例の絞り込みフローチャートでは,FIB-4 indexとNFS(NAFLD fibrosis score)を用いて肝細胞がんのリスクを層別化している。一次スクリーニングではFIB-4 index:1.3以上,NFS:−1.455以上の症例を絞り込み,二次スクリーニングおよび精密検査では,血液検査や肝生検,エラストグラフィを適宜用いて,線維化の程度に応じたサーベイランスを行うことが求められている。また,米国肝臓学会が2023年に発表したSLDのガイドラインでは,FIB-4 index:1.3以上はリスク評価に「FibroScan」(Echosens社製)あるいは肝線維化の評価指標であるELF(enhanced liver fibrosis)スコアを用いるとしている。日本でも2024年2月にELFスコアが保険収載されており,血清を用いた線維化の診断法が見直されつつある。
一方,わが国では,肝疾患拠点病院および肝専門医療機関における超音波診断装置の普及率はいずれも100%であり,さらに,脂肪減衰法のソフトウエア搭載装置の普及率は,それぞれ約80%,約40〜60%に上る。そのため,これらの機器やソフトウエアの使用も考慮する必要があると考える。

マルチセンタースタディの概要

こうした状況の中,2019年9月に,NASHの評価における超音波アプリケーションの有用性を評価するマルチセンタースタディ(iLEAD試験)が開始され,2024年5月に“Radiology”に論文が採択された。肝線維化が進行する前のNASH〔現名称はMASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)〕を予測することを目標としており,肝生検による組織診断をゴールドスタンダードとして,キヤノンメディカルシステムズの超音波診断装置搭載の「Liver Package」(Attenuation Imaging:ATI,Shear wave Elastography:SWE,Shear wave Dispersion map for SWE:SWD)を用いることで,脂肪化や炎症を多角的に測定可能か評価した。
SWDでは炎症,ATIでは脂肪化,SWEでは線維化について,それぞれ進行の程度と測定値との相関を検討した。特に注目すべきはSWDで,肝小葉の炎症が強くなるほどdispersion slopeが上昇していた。また,ATIとSWEも,それぞれ脂肪化や線維化の程度との相関を認めた。iLEAD試験では,SWDがMASHの予測に有用であると結論づけている。
なお,続く3名の講演では,ATIの肝脂肪化診断能を評価した「ATiMIC Study」の概要をご報告いただく。

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。

●参考文献
1)川口 巧,肝臓,64(2): 33-43, 2023.
2)Rinella, M. E., et al., J. Hepatol., 79(6): 1542-1556, 2023.

 

飯島 尋子(兵庫医科大学消化器内科学)

飯島 尋子(Iijima Hiroko)
1983年 兵庫医科大学卒業。同年 同大学病院第三内科教室臨床研修医。1996年 同第三内科助手。2000年 東京医科大学第四内科講師。2003年トロント大学トロント総合病院放射線科客員臨床教授,トロント大学サニーブルック校舎医学生物物理学教室客員教授。2005年 兵庫医科大学中央医療画像部門助教授,内科肝胆膵科助教授(兼任)。2008年〜同大学超音波センター長,内科・肝胆膵科教授(兼任)。2023年〜同大学特別招聘教授。

 

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