セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

日本乳腺甲状腺超音波医学会第1回春季大会が,2024年5月31日(金)〜6月2日(日)の3日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて開催された。2日に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー1「乳房超音波検査の対策型検診に向けた精度管理の重要性」では,名古屋医療センター乳腺科の森田孝子氏が座長を務め,愛知乳がん検診研究会の須田波子氏が,「対策型 乳房超音波検診が始まる かもしれない─どんな機種,どんな機材なら大丈夫?」をテーマに講演した。

2024年8月号

日本乳腺甲状腺超音波医学会第1回春季大会ランチョンセミナー1 乳房超音波検査の対策型検診に向けた精度管理の重要性

対策型 乳房超音波検診が始まる かもしれない ─どんな機種,どんな機材なら大丈夫?

須田 波子(愛知乳がん検診研究会)

国の対策型乳がん検診はマンモグラフィで行われ,従事者(読影医師・診療放射線技師)の技量,施設・画像(画質・撮影技術・読影環境など)の評価・認定をNPO 法人日本乳がん検診精度管理中央機構(精中機構)が行っている。超音波検診については,現在,従事者の認定のみで施設・画像評価はない。国が対策型超音波検診を採用するかもしれないとの観測はあり,実現すれば精中機構は超音波検診にも施設・画像評価を開始するであろう。本講演では,装置や機材構成の観点から,乳房超音波検診に求められる画質や判定時の表示環境を考察する。

乳房超音波検診に適した画質

キヤノンメディカルシステムズの超音波診断装置には,プレミアムハイエンドシリーズの「Aplio i-series」,ハイエンドシリーズの「Aplio a-series」および「Aplio me」,コンパクトシリーズの「Aplio flex」と「Aplio go」がある。演者は現在「Aplio a550」を使用する機会が多い。以前使用していた「Aplio 400」に比しBモード画像における正常構造の描出能は格段に向上しており,乳房超音波検診だけでなく精査にも役立っている。

1.正常構造の描出能
画質が向上し乳腺の正常構造が把握しやすくなると,異常所見の観察にも新たな視点が得られる。講演では,乳管,腺葉境界面の2つを例にとり,正常例の見え方を確認した後,異常所見を示した。

1)乳管の描出
乳房超音波画像で描出される索状の低エコーは乳管を包む密な間質で,その中に線状の高エコーがとらえられることがあり,それが乳管壁である。1本線として観察されることもあるが,平行な2本線としてとらえられることもある。Aplio a550では,こうした構造を把握しやすい。症例1は,2年前の超音波検診で拡張乳管内に小さな充実性部分を複数認めたが,血流が少ないため濃縮物と考え精検不要とした。その後の検診で増大・増加し,精密検査を行った。乳管壁の肥厚,充実性部分の多発が明瞭に描出された(図1)。細胞診で上皮は採取されなかったが,本人の希望で造影MRIを他院に依頼した。他社製ハイエンド超音波診断装置でも似た画像が得られた。MRIで乳管内は造影されず,T1強調画像(脂肪抑制なし)で乳管内が高信号となり,油分と濃縮物を見ていたと考えられた。

図1 症例1:乳管内に多発する充実性エコーを指摘された症例 *図1〜4はAplio a550で記録

図1 症例1:乳管内に多発する充実性エコーを指摘された症例
*図1〜4はAplio a550で記録

 

2)腺葉境界面の描出
何森らは,正常の腺葉の構造・複数腺葉の立体的な配置を念頭に置いたBモード画像観察法を提言した1)。複数の腺葉が重なる時,その境界面が白い線としてとらえられることも報告された。Aplio a-seriesでは,この境界面を認識しやすくなり,病変だけでなく「病変をいれた腺葉」を意識できるようになった。

2.石灰化の描出
症例2は,2年前のマンモグラフィ検診で両側に乳腺症の石灰化を認めた。今回のマンモグラフィ検診では左上部末梢のごく小範囲に集簇性の石灰化が増加した。Aplio a550で探すと小範囲の病変(点状高エコー)が明瞭に描出され(図2),最終診断は非浸潤性乳管癌(DCIS)であった。

図2 症例2:マンモグラフィにて石灰化を指摘された症例

図2 症例2:マンモグラフィにて石灰化を指摘された症例

 

3.DCISと浸潤癌の区別
症例3は,高齢者の超音波検診で,右C区域に囊胞と低エコー域が認められた。低エコー域内に仕切りのような横向きの線が多数見られ,脂肪置換された正常構造が病変内部に残されていることが想像された(図3 a)。エラストグラフィでも特異的な硬さを示す結節は形成されていないように思われた(図3 b)。病理組織像はDCISで,超音波像とおおむね一致することが確認された。

図3 症例3:DCISと浸潤癌の区別

図3 症例3:DCISと浸潤癌の区別

 

超音波診断装置の精度管理

1.正しい画質設定
乳房超音波検査では,正常構造を追跡しながら走査し,逸脱する所見に着眼するから,検診に用いる装置も(前掲のとおり)正常構造を把握できる画質でなければならない。しかし,行き過ぎた画質設定では正常のテクスチャが変質し,異常所見の観察にも支障を来す。症例4 は線維腺腫(多発)の症例で,前医の他社装置画像とAplio a550の画像を比較できた。大きな線維腺腫は,Aplio a550(図4 b)では腫瘤は側方陰影を伴い明瞭平滑で均質である。持参画像(図4 a)では内部エコーの評価が難しい。小さい線維腺腫の画像では,周囲のテクスチャが異なり,持参画像は上述の観点での走査には向かない(図4 c,d)。

図4 症例4:他院の過去画像を持参した線維腺腫(多発)の症例

図4 症例4:他院の過去画像を持参した線維腺腫(多発)の症例

 

2.装置の経年劣化対策
装置・探触子ごとにファントム画像を定期的に撮像し,買い替え時期を見定めるとよい。著しく劣化した装置で運用が続かぬよう,装置をリースで導入し,あらかじめ更新年度を決めている施設もある。

判定用の表示機材・構成のポイント

超音波画像は画像データとして施設内サーバに保管されるようになった。つまり,観察は診断装置付属のディスプレイで行うが,医師による判定は別のディスプレイで行うのである。マンモグラフィでも撮影装置の仕様によりディスプレイの要件がおのずと決まるので,超音波診断装置本体のディスプレイと同等の表示ができることを最適解だとすれば,Aplio a550の場合,200万画素以上,180cd/m2以下,ガンマ2.2前後(RGBのガンマカーブ)のディスプレイ,となる。キヤノンメディカルシステムズの超音波診断装置のディスプレイはRGB(ガンマ2.2 前後)で表示されているから,GSDF(通称DICOMカーブ)適用のディスプレイに表示させると(ガンマ2.2とGSDFとの階調特性の差により)本来よりも黒に傾いた画となる。180cd/m2よりもさらに輝度を下げた方が装置で見ている画像に近い。Aplio a550からは約123万画素の画像が発生する。本体ディスプレイと同じ面積でピクセル等倍表示を求めるなら,200~300万画素のディスプレイが妥当であろう。

マンモグラフィと超音波の表示連携

演者は,キヤノンメディカルシステムズの構築した読影環境を利用する機会が多い。PACS「RapideyeCore」,マンモビューワ「Rapideye Saqura」,5MP ディスプレイ2面,サブモニタ,2MPの医用カラーディスプレイで構成された環境では,マンモグラフィはRapideye Saqura で操作・観察できるが,同日併用の超音波画像があると,2番目のDICOMビューワが自動的に起動し表示を行う。こうして各モダリティの画像が妥当なディスプレイに別々に表示されるが,DICOMビューワが2つ起動されているため読影操作がまったく干渉しない。

まとめ

乳房超音波診断装置として最上位機種が導入できなくても,正常構造を念頭に置き観察眼を鍛えれば質の高い検診は可能と考える。一方で,優れた装置でも画質設定が不適切であれば良好な画像を得られない。保管した画像データを表示する機材の要件は確認した方がよい。マンモグラフィ・超音波の併用検診では,円滑な表示フローが望まれる。

* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれます。

●参考文献
1)Izumori, A., et al., Breast Cancer, 20(1) : 83-91, 2013.

一般的名称:汎用超音波画像診断装置
販売名:超音波診断装置 Aplio a550 CUS-AA550
認証番号:230ABBZX00019000

一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム
販売名:汎用画像診断ワークステーション用プログラム RapideyeCore SVIW-TMH05
認証番号:227ADBZX00060000

 

須田 波子(愛知乳がん検診研究会)

須田 波子(Suda Namiko)
1993年 新潟大学医学部卒業。名古屋大学医学部附属病院で研修。94年 中津川市民病院外科。99年 名古屋大学大学院医学研究科外科学第2入学。2002年マリンクリニック非常勤勤務。2003年 名古屋大学大学院修了,順和病院勤務。2013年〜名古屋医療センター乳腺科非常勤勤務。

 

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