セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第63回日本核医学会学術総会 / 第43回日本核医学技術学会総会学術大会が,2023年11月16日(木)〜18日(土)の3日間,グランフロント大阪(大阪府大阪市)にて開催された。17日(金)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー10では,座長の汲田伸一郎氏(日本医科大学放射線医学主任教授)の下,桐山智成氏(同大学放射線医学講師)と野坂広樹氏(同大学健診医療センター)が,「ここまできた国産デジタルPET!!―新技術を語るときに我々が語ること,コンソール前の雑談集―」と題して,同社の最新デジタルPET-CT「Cartesion Prime / Luminous Edition」の基本性能や,性能評価に関する疑問点などについて語りあった。本稿では,その一部を抜粋して報告する。

2024年2月号

第63回日本核医学会学術総会 / 第43回日本核医学技術学会総会学術大会ランチョンセミナー10

ここまできた国産デジタルPET!! ─新技術を語るときに我々が語ること,コンソール前の雑談集─

〈座長〉汲田伸一郎  桐山智成/野坂広樹

(座長)汲田:キヤノンメディカルシステムズは,自社開発の製品として,前身の東芝メディカルシステムズ時代の2014年にTime-of-Flight(TOF)技術を搭載したPET-CT「Celesteion」の販売を開始し,2019年にデジタルPET-CT「Cartesion Prime」,さらに,2023年4月には最新機種「Cartesion Prime / Luminous Edition」の販売を開始しました。本ランチョンセミナーでは,国産メーカーの装置において,どこまで技術革新が進んでいるのかを,野坂氏を中心に検証していただきます。また,桐山氏には,基本性能を評価するための物理指標などについての疑問を忌憚なくぶつけていただき,さらに画質について評価していただきます。

Cartesion Prime / Luminous Editionの特徴

野坂:当院ではこれまで3台の他社製PET装置が稼働していましたが,それぞれ光電子増倍管(PMT)-PET-CT(2009年導入),non-TOF-PET(2011年導入),半導体検出器(silicon photo multiplier:SiPM)-PET-CT(2019年導入)と性能差が非常に大きく,画質にも大きな違いがありました。こうした状況の中,2023年8月にnon-TOF-PETを更新してCartesion Prime / Luminous Editionが導入され,当院では現在,2台のSiPM-PET-CTが稼働しています。Cartesion Prime / Luminous Editionの基本性能は図1のとおりで,TOF時間分解能は280ピコ秒未満,PET検出器幅は27cm,ディープラーニング応用再構成「Advanced intelligent Clear-IQ Engine-integrated(AiCE-i)」などが搭載されています。

桐山:本音を言えば,このようなカタログの記載を見ても,われわれ臨床医からすると,実感を伴って性能を理解するのはなかなか難しいですね。

野坂:そうですね。技術が進歩していることはわかりますが,では,実際にどのような画像が得られるのかというのは気になるところです。そこで,まずファントム実験を行い,各装置の性能を比較してみました。

図1 Cartesion Prime / Luminous Editionの基本性能

図1 Cartesion Prime / Luminous Editionの基本性能

 

性能評価:均一性,ノイズ,コントラストの評価

野坂:NEMA Bodyファントムを使用し,バックグラウンド放射能濃度は2.53kBq/mL(被検者あたり3.7MBq/kgを投与し60分後の収集開始時の放射能を想定),放射能濃度比はバックグラウンド:ホット球=1:4となるような溶液を封入しました。また,撮像条件は,日本核医学会が作成した「18F-FDGを用いた全身PET撮像のためのファントム試験手順書」を参考としました。なお,本手順書に記載されている評価法は,30分間収集したデータをゴールドスタンダードとするものですが,現在のPET装置で30分かけて収集すれば,どの装置でも良好な画像が得られるため,今回は実臨床で使用する30〜120秒のデータを10の条件で処理し,画質評価を行いました。なお,画像再構成条件はTOF補正あり,Point Spread Function(PSF)補正あり,各種画像再構成法で比較とし,評価項目はバックグラウンド領域の変動係数(CVbackground),%バックグラウンド変動性(N10mm),%コントラスト(QH,10mm)としました。
図2は,Cartesion Prime / Luminous Editionにおけるバックグラウンド領域の%CVです。ファントムに封入された球が最もよく見えるスライス断面を中心として,±1cm および±2cm の計5断面にそれぞれ37mmのROIを12個ずつ,計60個設定し算出しています。横軸が撮像時間,縦軸が%CVbackgroundですが,撮像時間が短くなるほど%CVbackgroundが増加していることがわかります。これは,撮像時間が短くなれば,均一性が低下するということを示しています。撮像時間は,1bed 2分の場合,全身では14分程度,1bed 1分の場合,全身では7分程度ということになります。また,グラフの右側に記載されているのは各種画像再構成法で,CP AllpassはCartesion Prime / Luminous Edition(CP)でフィルタ不使用の画像,CaLM MildとCaLM Standardは「Clear adaptive Low-noise Method(CaLM)」を適用し強度を変えた画像,最後がAiCEによる画像です。
CaLMは,Non-Local Mean法をベースとしたキヤノンメディカルシステムズ独自のノイズ低減処理技術です。Gaussianフィルタを使用すると画像全体が均一に平滑化され,コントラストが低下しますが,CaLMではボクセルごとに処理の仕方を変えているため,コントラストは保ちつつ,ノイズのみが平滑化されます。ROIごとの周囲のカウントの勾配や違いを確認しながら,加重平均の重み付けを計算する画像処理です。

図2 Cartesion Prime / Luminous Editionにおける37mm hot球の%CV backgroundの評価

図2 Cartesion Prime / Luminous Editionにおける37mm hot球の%CV backgroundの評価

 

桐山:同じような信号値のものが連続している時には,同じ信号であるとして再構成を行い,信号値の高いものと低いものがあれば違う信号として処理を行う,つまり,均一のものが連続しているかどうかを考慮して処理を行うことで,小さなホット球でもより明瞭になる,ということでしょうか。

野坂:おっしゃるとおりです。また,AiCEはディープラーニングを応用し,長時間収集の統計ノイズの少ない画像を教師データとして学習に用いることで,効果的にノイズ低減を行える画像処理です(図3)。ここまでの内容を踏まえ,改めて図2を見てみましょう。

桐山:AiCEは最もノイズが少ないため,ほかの再構成法と比べて均一性が最も優れているということですね。撮像時間が30秒でもこれだけ均一性が高いのであれば,1日の検査件数を大幅に増やせそうだと期待してしまいますね。

図3 Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)の概要

図3 Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)の概要

 

野坂:ですが,ここではまだ%CVbackgroundの評価のみです。また,このグラフは,Cartesion Prime / Luminous Editionのみの結果となります。そこで,当院で稼働するもう1台のSiPM-PET-CTの結果を図2のグラフに重ねてみます(図4)。

桐山:やはりAiCEが最も良い結果を示していますね。

図4 Cartesion Prime / Luminous Editionと他社製SiPM-PET-CTにおける%CV backgroundの比較

図4 Cartesion Prime / Luminous Editionと他社製SiPM-PET-CTにおける%CV backgroundの比較

 

野坂:続いて,N10mmの結果を示します(図5)。10mmの小さいROIを設定し,ROIの平均値と標準偏差(SD)から値を求めています。

桐山:先ほどと同様にAiCEの結果が最も良く,CaLMの結果も良いので,Cartesion Prime / Luminous Editionは物理的にノイズをかなり抑制できていると言えますね。

図5 10mm hot球における%バックグラウンド変動性(N10mm)の評価

図5 10mm hot球における%バックグラウンド変動性(N10mm)の評価

 

野坂:おっしゃるとおりです。では,次はバックグラウンドではなく,10mmのホット球そのものを見る指標であるQH,10mmを見ていきます(図6)。これは,前述のバックグラウンド:ホット球=1:4になっているかどうかを評価する指標です。

桐山:60秒以下では,CaLMの数値が高くて良好ですが,AiCEが低めですね。

野坂:AiCEは,ノイズだけでなくコントラストも低下しているような印象です。ただし,他社の装置も含めて比較すると,Cartesion Prime / Luminous Editionは全体として良好な結果が得られていると言えます。

桐山:実際はSUV=4のホット球が,画像ではSUV=2〜2.5程度で描出されているということですよね。

図6 10mm hot球の%コントラスト(QH,10mm)の評価

図6 10mm hot球の%コントラスト(QH,10mm)の評価

 

野坂:QH,10mmはコントラストのみの評価ですが,ノイズとコントラストを合わせて評価するQH,10mm/N10mmという指標もあります(図7)。

桐山:最も良いのはCaLM Standardで,AiCEもかなり良い結果と言えますね。一方,他社装置の結果はCP Allpassと同等で,撮像時間30秒のQH,10mm/N10mmの値が3〜4ですが,そもそもQH,10mm/N10mmの基準値はいくつなのでしょうか。

野坂:前述のファントム試験手順書には,QH,10mm/N10mmが2.8を超える値を目標にすることと記載されています。

桐山:ということは,現在のSiPM-PETであれば,どの装置や撮像条件でも,30秒撮像すれば基準値はクリアできると考えられますね。

野坂:SiPM-PETとなる以前に設定された基準なので,今後SiPM-PETが市場に増えるとなると基準値の見直しが必要かもしれません。

図7 QH,10mm/N10mmの評価

図7 QH,10mm/N10mmの評価

 

画質評価:国産デジタルPETはここまできた!

野坂:まず,30秒収集のファントム画像をお示ししますが,いかがでしょうか(図8)。

桐山:ほとんどの画像はノイズが目立っていますが,AiCEはわりと良好な画像が得られていると思います。

図8 30秒収集のファントム画像

図8 30秒収集のファントム画像

 

野坂:では次に,更新した装置も含め,当院のPMT-PET-CT,non-TOF-PET,SiPM-PET-CT,Cartesion Prime / Luminous Editionの実際の臨床画像をお示しします(図9)。撮像時期は異なりますが,すべて同一患者です。

桐山:ここで会場の皆さんにクイズです。どれがどの装置で撮った画像かおわかりでしょうか。

会場参加者:(1)がSiPM-PET-CT,(2)がCartesion Prime / Luminous Edition,(3)がPMT-PET-CT,(4)がnon-TOF-PETです。

桐山:正解です。SiPM-PET-CTはコントラストが高く空間分解能も良いですが,背景の軟部組織や肝臓に細かなノイズが少し目立ちます。一方,Cartesion Prime / Luminous Editionはやはり均一性が高いですね。

図9 異なる装置による同一患者の画像 (答え)(1)SiPM-PET-CT,(2)Cartesion Prime / Luminous Edition,(3)PMT-PET-CT,(4)non-TOF-PET

図9 異なる装置による同一患者の画像
(答え)(1)SiPM-PET-CT,(2)Cartesion Prime / Luminous Edition,(3)PMT-PET-CT,(4)non-TOF-PET

 

野坂:次に,Cartesion Prime / Luminous Editionで再構成条件を変えた画像を示します(図10)。

桐山:30秒収集のAllpass,CaLM Mild,CaLM Standard,AiCEの画像ですが,どれがどの画像かおわかりになりますか。

会場参加者:(1)がCaLM Mild,(2)がCaLM Standard,(3)がAllpass,(4)がAiCEです。

桐山:正解です。Allpassが最も粒状のノイズが目立ち,AiCEが最も均一性が良好です。また,肝臓の均一性は,物理評価でもAiCEが最もノイズ低減効果が大きかったですが,臨床画像でも同じような結果が得られていることに驚きますね。

図10 Cartesion Prime / Luminous Editionで再構成条件を変えた画像(30秒収集) (答え)(1)CaLM Mild,(2)CaLM Standard,(3)Allpass,(4)AiCE

図10 Cartesion Prime / Luminous Editionで再構成条件を変えた画像(30秒収集)
(答え)(1)CaLM Mild,(2)CaLM Standard,(3)Allpass,(4)AiCE

 

野坂:では次に,同一症例の60秒収集の画像です(図11)。

会場参加者:(1)がAiCE,(2)がCaLM Standard,(3)がAllpass,(4)がCaLM Mildです。

桐山:正解です。60秒でも十分臨床に堪えうる画像が得られていますね。

野坂:実は,本症例は肝転移があるのですが,重要なのは,例えば30秒収集のAiCEを適用した画像で病変を指摘できるか,ということです。AiCEを用いることで均一性は向上し,肝臓はきれいに描出されていますが,QH,10mmの検討ではAiCEはコントラストが低下していましたので,臨床画像では30秒収集の場合,病変のコントラストが低下するのではないかという懸念があります。

桐山:そのような観点から改めて両者の画像を比較してみると,60秒収集の画像であれば,小さく淡い肝転移もはっきりと指摘できますね。物理評価の結果と併せて総合的に評価すると,AiCEでは,1bed 1分程度で読影に堪えうる良好な画像が得られ,10分以内で全身の撮像が可能ということになります。まさに,「国産デジタルPETはここまできた!」と言えるのではないでしょうか。

図11 図10と同一症例の60秒収集の画像 (答え)(1)AiCE,(2)CaLM Standard,(3)Allpass,(4)CaLM Mild

図11 図10と同一症例の60秒収集の画像
(答え)(1)AiCE,(2)CaLM Standard,(3)Allpass,(4)CaLM Mild

 

Cartesion Prime / Luminous Editionの新機能

(座長)汲田:さまざまな検討の結果,Cartesion Prime / Luminous Editionは物理的特性に優れ,高性能であるということがわかりました。なかでもAiCEは,短時間収集でも良好な画像が得られますが,均一性に優れ,ノイズ低減効果が高いというのは非常に重要だと思います。
ところで,Cartesion Prime / Luminous Editionで新たに追加された機能はあるのでしょうか。

野坂:「デバイスレス呼吸同期」です。これは,患者さんに外部呼吸モニタ装置を取り付けることなく,収集されたデータから体動情報を自動抽出して呼吸同期を行う技術です。実際の画像をお示しします。本症例(図12)は高齢のため呼吸が荒く,肝臓辺縁にある病変がぼやけたため(a),検査後にデバイスレス呼吸同期を適用したところ,病変が明瞭となりました(b)。適用範囲を自分で決められ,必要に応じて後から適用できることは強みであると思います。現状では再構成に少し時間を要するので,今後の改良に期待したいところです。また,アンモニアPETによる心臓の検査も行いました。定量解析ソフトウエアも利用可能で,十分な解析結果が得られています。

(座長)汲田:当院では以前からアンモニアPET検査を行っていますし,そのほかの特殊検査も,キヤノンメディカルシステムズ社と協力しながら実臨床での検討を進めていくと聞いています。国産メーカーならではの利点として,各医療機関からの要望などに対して速やかに対応していただけることが挙げられますので,今後の対応にも期待しています。本日はありがとうございました。

図12 デバイスレス呼吸同期の適用

図12 デバイスレス呼吸同期の適用

 

*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*AiCEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

一般的名称:X線CT組合せ型ポジトロンCT装置
販売名:PET-CTスキャナ Cartesion Prime PCD-1000A
認証番号:301ACBZX00003000

 

汲田伸一郎 氏

座長:汲田伸一郎 氏

桐山 智成 氏

桐山 智成 氏(Kiriyama Tomonari)
2003年 日本医科大学医学部卒業,同放射線科入局。2011年 同大学院にて博士課程修了。同年 日本医科大学医学部放射線医学助教。2018年〜同講師。

野坂 広樹 氏

野坂 広樹 氏(Nosaka Hiroki)
2014年 茨城県立医療大学卒業。ひたちなか総合病院入職。2018年
茨城県立医療大学大学院博士課程修了。東京医科歯科大学病院に異動。2019年〜日本医科大学健診医療センターに異動。2023年 金沢大学大学院博士後期課程修了。

 

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