セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第51回日本磁気共鳴医学会大会が2023年9月22日(金)〜24日(日)の3日間,軽井沢プリンスホテル ウエスト(長野県北佐久郡)にて開催された。23日(土)に行われたキヤノンメディカルシステムズ社共催のランチョンセミナー6「AI時代のMRI画像診断」では,浜松医科大学放射線診断学講座教授の五島 聡氏が座長を務め,帝京大学医学部放射線科学講座の山本麻子氏と藤田医科大学医学部放射線診断学の大野良治氏が講演した。ここでは,山本氏の講演内容を報告する。
2024年2月号
第51回日本磁気共鳴医学会大会ランチョンセミナー6 AI時代のMRI画像診断
BasicにもUniqueにも ─PIQE×骨軟部領域の初期経験─
山本 麻子(帝京大学医学部放射線科学講座)
骨軟部領域のMRIは,ほかの領域と比べて多くの点で特殊である。まず,患者の主訴が曖昧で,多くは強い痛みを主訴に受診するため,短時間撮像が基本となる。依頼医は,検査目的が絞り込めないためオーダが曖昧になりがちである。撮像を担当する技師は,複数断面の撮像やシーケンス追加など非ルーチンの撮像を迫られることが多い中で,臨機応変な対応が必要となる。また,読影医は,骨軟部領域の解剖が細かく,バリエーションが多いことに加え,疼痛再現体位ではない体位で撮像された画像から動きを推測して読影する能力が求められる。依頼医の期待に応える読影結果を提供するためには,高解像度画像が必要となるが,ディープラーニングを用いることで,短時間撮像,高解像度画像,さまざまな目的への対応の三者いずれも諦めることなくMR撮像が可能になると考える。
「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」の初期使用経験
キヤノンメディカルシステムズのDeep Learning Reconstruction(DLR)であるAiCEは,画像情報を低周波と高周波に分離し,高周波成分のみをディープラーニングで選択的に学習させることで,高いSNRの画像をシーケンスに依存することなく出力可能とする技術である。例えば,肩の関節唇損傷の診断において,上腕二頭筋長頭腱が関節窩に付着する領域は関節包や靭帯のバリエーションが多いため,従来,“don’t touch region”,つまり「読み過ぎてはいけない,所見を取り過ぎてはいけない」領域とされてきた。しかし,3T MRIの画像にAiCEを適用することで明瞭な画像が得られるため,損傷のメカニズムを理論的に説明できるのであれば,関節唇損傷と診断することが可能となる。
図1は,AiCEを適用した交通外傷症例の膝の画像であるが,内側半月板に断裂(▽)を認めるほか,これまで“don’t touch region”とされてきた前十字靭帯の前内側線維束(anteromedial bundle)遠位部の断裂(○)が,無視できないほど明瞭に描出されている。
また,図1→は後内側支持組織損傷(posteromedial corner injury)である。従来のMR画像では,後内側支持組織損傷は内側半月板後節の腫脹のように描出されるが,AiCEを適用した画像では,後斜走靭帯のsuperficial arm(図1←)とcentral arm(→)の著明な腫脹を分離して評価できるほか,斜膝窩靭帯(◀)も確認でき,これらから後内側支持組織損傷であることを容易に診断できる。
このほか,AiCEを適用した膝蓋骨の関節軟骨のMR画像を拡大したところ,軟骨下骨,境界領域,関節軟骨の深層・中間層・表層が明瞭に描出され,病理所見と近似していた。また,関節軟骨深部損傷の症例(図2)では,AiCEを適用することで,関節軟骨の表層の欠損とともに,深層に至る裂傷や中間層の層間剥離も明瞭となった(a)。
AiCEの導入によって,ルーチンシーケンスにおいても撮像時間が短縮するとともに,明らかに画質が向上し,肉眼解剖や病理所見に近似した画像所見が得られるようになった。それにより,これまで“don’t touch region”とされてきた領域にも踏み込んで読影できるようになり,関節においては画像情報を基に受傷機転を論理的に説明可能となっている。
「Precise IQ Engine(PIQE)」の原理と特長
PIQEは,ディープラーニングを活用し,低SNR・低解像度の画像を高SNR・高分解能な画像に変換する技術である。低解像度の画像にdenoising DLRをかけてノイズを低減し,さらに,zero-fill interpolation(ZIP)処理によってマトリックスサイズを上昇させ,DLRによって実収集画像に近づけることで,高SNR・高分解能な画像が生成される。ZIP処理ではブラーリングやリンギングが課題となるが,2回目のDLRに課題を解決するトレーニングを組み込むことで抑制している。
図3は,1分24秒で撮像した手関節背側の関節リウマチ症例の冠状断像である。手背側に走行する背側手根骨間靭帯(DIC),背側橈骨手根骨間靭帯(DRC),尺側手根伸筋腱はAiCE(図3 b)でも同定可能であるが,PIQE(c)では,各構造やDRCの部分断裂および尺側手根伸筋腱の長軸断裂がより明瞭である。
図4は,乾癬性関節炎の中手指節関節(MP関節)のT1強調画像である。元画像(図4 a)でも第3・4指のMP関節にびらんを認めるが,PIQE(c)では本疾患に特徴的な付着部および付着部周囲のびらんに加え,造骨性変化を来していることが明瞭に描出されている。
AiCEからPIQEへの潮流がもたらす可能性
AiCEからPIQEへの潮流は,われわれに新たな選択肢を与えると考える。検査時間の短縮や検査数の増加,時間短縮によって得られた余裕を腫瘍などの非ルーチン検査に充てる,などが考えられるが,新たな情報を取得できる検査を付加することも一つの選択肢である。
腰椎分離症疑いや指屈筋腱断裂疑い評価などのMRIが苦手とする検査依頼に対しては,CT like imageの追加が有用である。CT like imageを作成しMPRで評価することで,骨折によって完成した腰椎分離症や分離部の骨肥厚を安定して評価可能である。また,指屈筋腱断裂の評価に当たり,手はきわめて微細な構造で構成されており,手指の変形も強いため,2D画像だけで断裂部位を評価するのは困難である。CT like image(図5)では,MP関節レベルで腱(→)が急激に細くなっていることが視認でき,断裂していることが推定できる。
このほか,関節リウマチの評価のために手を加温して行う非造影MR血流撮像も,新たな情報として当院にて検討を行っている。
まとめ
ディープラーニングがもたらす画像再構成法の進歩によって,従来は撮像時間やシーケンス数とトレードオフの関係にあった分解能を諦めない時代が近づきつつある。分解能は,骨軟部放射線診断医にとって探究心そのものと言えるものであり,DLRがより病理や解剖画像に近似した画像を提供してくれるのであれば,今後さらに,依頼医の期待に応え,患者のメリットにつながる画像を探究していきたい。
*記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
*AiCE,PIQEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
山本 麻子(Yamamoto Asako)
2004年 東京女子医科大学卒業。亀田総合病院,帝京大学医学部放射線科学講座講師などを経て,2019年 University of California, San Diego留学。2021年 帝京大学医学部放射線科学講座講師。2023年〜同准教授。
- 【関連コンテンツ】