セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
2023年11月号
第46回日本呼吸器内視鏡学会学術集会ランチョンセミナー5 気管支鏡検査の正確性向上のために ~CアームX線システムの最新活用法~
クライオバイオプシーにおけるCアームの活用
丹羽 崇(神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長)
結核療養所を端緒とする当センターは、呼吸器科専用の内視鏡検査室で年間約800〜1000例の気管支鏡検査を行い、クライオバイオプシーや喀血カテーテル治療、硬性鏡下処置なども多数実施している。本講演では、キヤノンメディカルシステムズ社製CアームX線TVシステム「Ultimax-i」や新画像処理条件などを用いたクライオバイオプシーの実際について報告する。
クライオバイオプシーでのCアームの活用
当センターは、旧装置の更新に伴い、2023年にUltimax-iを導入した(図1)。Ultimax-iを選定した最大の理由は、ワークスペースを広く確保できたためである。幅が約249cm、奥行が約226cmと非常にコンパクトな設計で、壁に寄せた設置もできたため、これまでよりワークスペースを確保することができた(図2)。従来と同じ内視鏡検査室に設置したが、周囲に内視鏡システムやナビゲーションシステムを設置するスペースを確保しつつ、スタッフがスムーズに移動することが可能になった。特にクライオバイオプシーには複数のスタッフを要するほか、将来的に迅速細胞診(ROSE)を導入することになれば広いスペースを必要とする。これらの点から、Ultimax-i導入は非常に有益であると考えている。
クライオバイオプシーを行うに当たり、CアームX線TVシステムは必須である。米国の大学病院で経気管支鏡下クライオバイオプシー(TBLC)を日常診療に導入し、手技に伴う合併症の発生頻度について検討したところ、重篤な有害事象が25例中6例(24%)と高率で発生し、そのうちの1例ではX線透視を行っていなかった1)。また、気胸を発症した2例(8%)はいずれもX線透視を行っておらず、これらの結果からTBLCはX線透視下での施行が必須であると言える。
米国胸部疾患学会(ACCP)が2020年に発行したガイドラインでは、間質性肺疾患(ILD)に対するTBLCについて、Ungraded Consensus-Based Statementではあるものの「透視下に行うことが望ましい」と記載されている2)。さらに、「クライオ生検指針―安全にクライオ生検を行うために―第1.1版」(日本呼吸器内視鏡学会クライオ生検指針作成ワーキンググループ)でも、「びまん性肺疾患あるいは末梢肺病変を対象に生検を行う際には、X線透視装置が使用可能であることが必須である」と明記されている3)。
なお、本指針で必須とされているのは「X線透視装置」である。これは、Cアームに限定すると、Cアームが稼働していない施設ではTBLCを実施できなくなるためである。一方、経気管支肺生検(TBLB)では患者の体位変換を行い、末梢接線方向を描出する必要があるが、鎮静状態にある患者の体位変換は難しく、特に酸素投与を行っている症例では非常に困難である。そのため、実際にはCアームの使用が望ましいと言える。
新画像処理条件とCアームの可動範囲
びまん性肺疾患に対するTBLCでは、胸膜から1cmの安全マージンを確実に取った上で、透視下に生検を行うことが必須である(図3)。これにより、気胸のリスクを軽減することができる。一方、プローブ位置が内側になりすぎると良質な検体採取が困難となり、stuckの原因となる。
手技中に接線方向を明瞭に描出するためには、患者の体位を大きく回転させるか、Cアームを回転させて対応する。したがって、Cアームの可動範囲やスムーズな回転が重要となる。さらに、もう一つ重要なのが透視条件である。図4は、Ultimax-iに新たに搭載された新画像処理条件を適用した画像である。新画像処理条件を適用することで、気管支末梢部およびデバイスまで明瞭に視認可能となる。特に、びまん性肺疾患などでは炎症や線維化などの影響で画像が不明瞭となるケースがあり、そのような症例では特に新画像処理条件は非常に有用性が高いと考えている。
また、Cアームの可動範囲も接線方向の描出に大きくかかわる。LAOは装置上部を患者の左側に傾けてX線を照射し、左下葉の気管支を垂直方向に描出する(図5)。一方、RAOでは右下葉の気管支が明瞭に描出できる(図6)。Ultimax-iのCアーム可動範囲はLAO90°〜RAO41°、CRA45°〜CAU45°と広く、あらゆる角度からの観察が可能である(図7)。
加えて、Ultimax-iは動作がスムーズなため手技を行いやすく、検査時間が短縮することで、X線の照射時間の短縮にもつながる可能性がある。
症例提示
症例1は、多発性のすりガラス陰影を呈するILD疑いの症例である(図8)。CアームをRAO41°まで回転させることで、右下葉底部(B8、B9)の非常に広範なすりガラス陰影を視認でき、この位置で検体採取を行った(図9)。
ただし、RAOを最大可動範囲まで回転させても、接線を完全に描出できないケースもある。そのような場合、当センターでは「横隔膜接線」という概念を用いて透視を行っている。横隔膜の上端は胸膜と接していることから、横隔膜のドーム上部に接していれば、ほぼ接線であると判断できる。当然のことながら、側胸部の接線方向が描出できれば安心して生検を行えるが、横隔膜接線という概念もクライオバイオプシーにおいては有効である。
また、装置の構造上、LAOはさらに深い角度まで回転させることが可能である。図10ではCアームの角度をLAO65°まで回転して観察しているが、心陰影に重複する部位であるにもかかわらず、超音波プローブUM-S20-17S(オリンパス社製)および極細径内視鏡スコープBF-MP290(オリンパス社製)が標的の陰影とともに明瞭に描出できている。このように当センターでは、クライオバイオプシーのみならず、末梢肺病変の生検にもCアームを積極的に活用している。
高画質・低線量検査コンセプトによるデバイス視認性の向上
クライオバイオプシーを行うに当たっては、画像が鮮明であるほど検体を採取しやすい。Ultimax-iに搭載されている高画質・低線量検査コンセプト「octave SP」では、デジタル補償フィルタ(DCF)(図11)や透視デジタル補償フィルタ(F-DCF)などの技術により、照射線量を従来比65%低減しつつ、従来と同等以上の高画質な画像を取得できる。クライオバイオプシーにF-DCFを適用することで、肺野内のハレーションと横隔膜近傍や内視鏡スコープ内の黒潰れが抑えられ、クライオプローブなどのデバイスの視認が容易になる(図12)。
症例2は、左上葉胸膜直下に腫瘤影を認め、ガイドシース下クライオバイオプシー(TBLC-GS)を行った症例である(図13)。ガイドシース挿入後に超音波気管支鏡(EBUS)にて境界部高エコーの病変を描出したが、F-DCFの適用により腫瘤影と超音波プローブ、ガイドシースの位置関係が明瞭に確認できた(図14)。続いて1.1mmのクライオプローブを挿入したところ、目的の位置にプローブがアタッチされ、ガイドシースを留置したままプローブが抜去される様子も鮮明に描出された(図15)。
まとめ
クライオバイオプシーを行う際は、安全上、Cアームを用いることが望ましいと考える。また、クライオバイオプシーは多くのスタッフを必要とするため、検査室内のスペースは広いほどよい。通常、内視鏡検査室を複数の科で共同使用する施設が多いが、省スペース性という点からも、Ultimax-iの導入を提案したい。
さらに、Ultimax-iでは新画像処理条件により透視像の視認性が向上し、細径プローブ(1.1mm)などの使用時も有用である。装置の省スペース性に視認性の向上が加わることで、内視鏡検査室においてステント留置術などのインターベンションも容易に行えるようになる。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
●参考文献
1)DiBardino, D.M., et al.: High Complication Rate after Introduction of Transbronchial Cryobiopsy into Clinical Practice at an Academic Medical Center. Ann. Am. Thorac. Soc., 14(6): 851-857, 2017.
2)Maldonado, F., et al.: Transbronchial Cryobiopsy for the Diagnosis of Interstitial Lung Diseases : CHEST Guideline and Expert Panel Report. Chest, 157(4): 1030-1042, 2020.
3)日本呼吸器内視鏡学会クライオ生検指針作成ワーキンググループ:クライオ生検指針―安全にクライオ生検を行うために―第1.1版.気管支学, 44(2):121-131, 2022.
一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:多目的デジタルX線TVシステム Ultimax-i DREX-UI80
認証番号:221ACBZX00010000
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