セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第13回世界核医学会が,2022年9月7日(水)〜11日(日)に国立京都国際会館(京都府京都市),12日(月)と13日(火)に石川県立音楽堂(石川県金沢市),10月3日(月)〜11月30日(水)にWebでハイブリッド開催された。9月9日(金)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー6では,京都大学大学院医学研究科放射線医学講座(画像診断学・核医学)の中本裕士氏が座長を務め,東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科先端人工知能医用画像診断学講座の土屋純一氏が,「Experience with Clinical Use of Deep Learning Technology(臨床におけるDeep Learning 技術の使用経験)」をテーマに講演した。

2023年1月号

第13回世界核医学会ランチョンセミナー6 Innovative PET/CT Imaging in Patient Care

Experience with Clinical Use of Deep Learning Technology(臨床におけるDeep Learning 技術の使用経験)

土屋 純一(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科先端人工知能医用画像診断学講座)

東京医科歯科大学医学部附属病院では,キヤノンメディカルシステムズ社製のデジタルPET/CT「Cartesion Prime」を日本で初めて導入した。Deep Learningを応用した画像再構成技術である“Advanced intelligent Clear-IQ Engine-integrated(AiCE-i)”を搭載後,これまでに2000件以上のPET検査を実施している。本講演では,当院での使用経験を踏まえ,AiCE-iの概要や,デジタルPETの画質におけるAiCE-iの効果,病変検出や病期分類にAiCE-iがもたらす効果などについて述べる。

AiCE-iの概要

1.技術的な特徴
Cartesion Primeは,同社の従来型PET/CTである「Celesteion」と比較し,基本性能が大幅に向上している。PET検出器に半導体光センサ(silicon photo multiplier:SiPM)を採用したほか,time-of-flight(TOF)時間分解能は280ps未満に向上,PETの体軸方向検出器幅は270mmに拡大し,さらにはAiCE-iが搭載された。
AiCE-iは,大量のデータセットを分析し,ノイズと信号を識別するよう学習させることで,PETデータ用のneural networkを構築している。これにより,コントラストを損なうことなくデータからノイズ成分を効果的に除去し,画質を向上させることが可能となる。なお,AiCE-iはFDG-PETのみを対象とし,全身に適用することができる。
われわれは,AiCE-iのプロトタイプ(Deep Learning Reconstruction:DLR)の開発に携わり,その研究成果を報告した1)図1はDLRのアルゴリズムで,aはdeep convolutional neural network(DCNN)の構造,bは集積部のコントラストを重視したDCNNのトレーニングの概要である1)。DCNNのトレーニングには,高品質なPETデータと低品質なPETデータのほか,損失関数の計算時にそれぞれのボクセルに異なる重み付けを割り当てるためのウエイトマップも使用しており,出力時に小さな特徴もしっかりと保存するよう学習させている。これにより,DLRを適用した画像〔DLR(+)〕では,DLRを適用しない画像〔DLR(−)〕と比較して,例えば頭部では大脳皮質と髄質の境界のコントラストが明瞭となり,神経核や歯状核,赤核の描出が良好となるほか,胸部では血管の輪郭や肋骨の生理的なFDG集積が明瞭となり,解剖学的部位が認識しやすくなる。腹部では脂肪や肝臓のノイズが少なくFDG集積が均一に描出され,腎盂へのFDG集積も明瞭となる。また,骨盤内も骨髄や腸のFDG集積や膀胱の輪郭が明瞭となる。

図1 DLRのアルゴリズム (参考文献1)より引用転載)

図1 DLRのアルゴリズム
(参考文献1)より引用転載)

 

2.症例提示
図2は代表的な症例で,67歳,男性,転移性肺がんである1)。DLR(+)では,肺結節のFDG集積がきわめて明瞭で,肝臓の描出も均質であり,ノイズが低減されている。
図3はその他の代表的な症例で,abは脳転移,cdは耳下腺腫瘍である1)。右2列の画像では微小なリンパ節転移や複数の骨転移を認めるが,DLR(+)の方がFDG集積がより明瞭である。
表1にSUVパラメータを示す1)。DLRを適用したデジタルPET画像(deep learning processed PET:dPET)の方が,従来の再構成によるPET画像(conventional PET:cPET)よりも基本的にSUVmaxが高いが,これはDLRを適用することでSUVmaxがノンフィルタの画像に近くなるためである。また,DLRを適用すると肝臓のSUVmaxが低下するが,これはDLRによって肝臓のノイズが低減するためである。

図2 DLRが有用であった代表的な症例:67歳,男性,転移性肺がん a,b:MIP像 c,d:頸部 e,f:胸部・縦隔リンパ節転移 g,h:胸部・肺転移 i,j:肝臓 k,l:腎臓 m,n:膀胱 (参考文献1)より引用転載)

図2 DLRが有用であった代表的な症例:67歳,男性,転移性肺がん
a,b:MIP像 c,d:頸部 e,f:胸部・縦隔リンパ節転移 g,h:胸部・肺転移
i,j:肝臓 k,l:腎臓 m,n:膀胱 (参考文献1)より引用転載)

 

図3 その他の代表的な症例 a,b:脳転移 c,d:耳下腺腫瘍 e,f:肺がん g,h:大腸がん術後・リンパ節転移・肝転移 i,j:乳がん術後・骨転移 k,l:大腸がん術後・リンパ節転移(参考文献1)より引用転載)

図3 その他の代表的な症例
a,b:脳転移 c,d:耳下腺腫瘍 e,f:肺がん g,h:大腸がん術後・リンパ節転移・肝転移
i,j:乳がん術後・骨転移 k,l:大腸がん術後・リンパ節転移(参考文献1)より引用転載)

 

表1 cPETとdPETにおけるSUVパラメータ (参考文献1)より引用転載)

表1 cPETとdPETにおけるSUVパラメータ (参考文献1)より引用転載)

 

デジタルPETの画質におけるAiCE-iの効果

1.検討の目的と方法
現在では,多くの施設でデジタルPETが導入されており,より鮮明でシャープな画像の取得が可能になっていると思われる。そこで,デジタルPETの画像にAiCE-iを用いることでさらなる画質向上が可能か,ファントム実験を行い視覚的に画像を評価した。また,SUVパラメータの解析も行った。使用装置はCartesion Primeで,FDG-PET検査の条件は4時間以上の絶食,FDG:3.7 MBq/ kg,安静時間:投与後60分,収集時間:90秒 / bed,再構成条件はiteration 2,subset 12,Gaussian filter 3mmとした。

2.結 果
図4は,体重60kgの日本人患者を想定したファントムの画像を,AiCE-i適用の有無で比較している。AiCE-iの適用なし〔AiCE-i(−)〕でも7.9mm球を視認できるが,AiCE-iを適用〔AiCE-i(+)〕することで球の周囲に見られるノイズが抑制され,より明瞭となる。これは,体重100kgの日本人患者を想定したファントムでも同様であった。
図5は物理評価の結果である。AiCE-i(+)では,90秒 / bedの条件でコントラストノイズ比(QH, 10mm to N10mm ratio:QNR)と変動係数(coefficient of variation:CV)共に基準をクリアしている。AiCE-iはバックグラウンドノイズを抑制することでCVを低減し,SUVの再現性の向上に貢献している点は特に注目に値する。
次に,臨床画像におけるAiCE-iの効果を総合的に評価した。スクリーニングまたは悪性腫瘍の検出を目的に当院を受診した30症例(男性13,女性17)を対象に,AiCE-i(−)とAiCE-i(+)の画像を取得し,描出能,ノイズ,全体の画質について視覚評価を行い,SUVパラメータを比較した。その結果,描出能,ノイズ,全体の画質のいずれもAiCE-i(+)の評価が高かった(表2)。SUVパラメータは,プロトタイプのパラメータ(表1)と似た傾向を示した。また,肝SNRは,AiCE-i(−)と比較しAiCE-i(+)の方が有意に高かった(図6)。

図4 体重60kgの日本人患者を想定したファントムの画像

図4 体重60kgの日本人患者を想定したファントムの画像

 

図5 物理評価の結果

図5 物理評価の結果

 

図6 肝SNRの比較

図6 肝SNRの比較

 

表2 臨床画像の視覚評価スコアの比較

表2 臨床画像の視覚評価スコアの比較

 

3.症例提示
1)代表的な症例
症例1(図7)は,50歳,女性,転移性乳がんである。AiCE-i(+)にて多発骨転移がより明瞭に描出されている()。

図7 症例1:転移性乳がん(50歳,女性)

図7 症例1:転移性乳がん(50歳,女性)

 

2)低集積病変
症例2(図8)は,71歳,男性,慢性リンパ性白血病である。AiCE-i(+)にて低集積のリンパ腫病変がより明瞭に描出されている()。肝臓や脾臓のノイズが少なく,均一に描出されているため,病変の活動性も識別しやすい。

図8 症例2:慢性リンパ性白血病(71歳,男性)

図8 症例2:慢性リンパ性白血病(71歳,男性)

 

症例3(図9)は,37歳,女性,高安動脈炎である。炎症へのFDG集積は悪性腫瘍よりも弱く検出しづらいが,AiCE-i(+)では大動脈や分枝のFDG集積が明瞭である()。

図9 症例3:高安動脈炎(37歳,女性)

図9 症例3:高安動脈炎(37歳,女性)

 

3)バックグラウンドの集積が高い症例
症例4(図10)は,60歳,男性,転移性腎がんである。AiCE-i(+)にて,バックグラウンドの集積の高い脳転移が良好に描出されている()。
症例5(図11)も,バックグラウンドの集積が高い疾患の代表的な症例で,81歳,男性,膵臓がんである。AiCE-i(+)のPET画像では,造影CT画像と一致する位置に白い領域を認め(),膵臓がんの中央にある壊死を明瞭に描出できている。
症例6(図12 下段)は,61歳,男性,胃がん術後である。AiCE-i(+)にて脾臓周囲の播種が明瞭に描出されている()。図12 上段は本検査の半年前に撮像した画像であるが,AiCE-iを適用していれば脾臓周囲の小さな播種性病変を検出できていた可能性がある。

図10 症例4:転移性腎がん(60歳,男性)

図10 症例4:転移性腎がん(60歳,男性)

 

図11 症例5:膵臓がん(81歳,男性)

図11 症例5:膵臓がん(81歳,男性)

 

図12 症例6:胃がん術後(61歳,男性)

図12 症例6:胃がん術後(61歳,男性)

 

4)微小病変
症例7(図13)は微小病変の代表的な症例で,71歳,女性,悪性リンパ腫である。肝右葉の表面にある5mmほどのFDG集積は,AiCE-i(+)にてより明瞭に描出されている()。AiCE-iによって肝臓のノイズが低減され,微小な病変も検出可能となる。
症例8(図14)も微小病変の代表的な症例で,64歳,女性,肺がん術後である。AiCE-i(−)では骨髄のFDG集積に隠れて病変を見逃す可能性があるが,AiCE-iを適用することで馬尾の微小な転移性病変が鮮明となる()。

図13 症例7:悪性リンパ腫(71歳,女性)

図13 症例7:悪性リンパ腫(71歳,女性)

 

図14 症例8:肺がん術後(64歳,女性)

図14 症例8:肺がん術後(64歳,女性)

 

病変検出や病期分類にAiCE-iがもたらす効果

1.病変検出における効果
病変検出におけるAiCE-iの効果について,肝転移を中心に検討を行った。対象は,肝転移のある16症例(男性12,女性4)で,EOB造影MRIを基準としてFDG-PETで描出されている病変数を算出し,AiCE-i(−)とAiCE-i(+)の画像を比較,SUVパラメータも評価した。MRIとPETは間隔を空けずに施行した。図15は代表的な症例で,74歳,男性,転移性膵臓がんである。AiCE-i(−)と比較し,AiCE-i(+)の方がより多くの肝転移の検出が可能であることがわかる。検討の結果,病変検出数,SUVmax,target-to-background ratio(TBR)のいずれも,AiCE-i(+)の方が良好であった(表3)。
次に,すりガラス陰影のある13症例(男性4,女性9)について,AiCE-i(−)とAiCE-i(+)の画像を視覚的に比較してスコア化し,SUVパラメータも評価した。図16は代表的な症例であるが,すりガラス陰影のわずかなFDG集積も,AiCE-i(+)では鮮明に描出されている。また,SUVmaxと視覚的グレードスコアはAiCE-i(+)の方が有意に高かった(表4)。現在,すりガラス陰影について,AiCE-i(+)の画像を用いて腫瘍の層別化に取り組んでいる。
頭頸部領域において,当院は口腔がんの症例が非常に多いことが特徴である。PET検査では,頭頸部の収集時間は240秒と長い時間をかけて撮像し,その後,90秒の全身撮像で口腔がんの画像を取得している(図17)。頭頸部がんの20症例を対象に,長時間撮像と,AiCE-i(+)全身短時間撮像のPET画像を視覚的に評価し,正常組織のSUVパラメータも分析した。視覚評価の結果,長時間撮像とAiCE-i(+)全身短時間撮像のグレードスコアに有意差を認めなかった(表5)。また,SUVパラメータについては,長時間撮像,長時間撮像のノンフィルタ,AiCE-i(+)全身短時間撮像についてそれぞれSUVmaxを比較したところ,有意差は認めないものの,AiCE-i(+)全身短時間撮像の値は長時間撮像のノンフィルタの値とやや近似していた(表6)。
なお,検査時間は,長時間撮像+AiCE-i(−)の全身短時間撮像が合計13分,AiCE-i(+)全身短時間撮像が合計9分であり,AiCE-i(+)全身短時間撮像では検査時間を31%短縮することができる。

図15 病変検出におけるAiCE-iの効果 74歳,男性,転移性膵臓がん症例における肝転移の検出

図15 病変検出におけるAiCE-iの効果
74歳,男性,転移性膵臓がん症例における肝転移の検出

 

表3 肝転移における病変検出数,SUVmax,TBRの比較

表3 肝転移における病変検出数,SUVmax,TBRの比較

 

図16 すりガラス陰影におけるAiCE-iの効果

図16 すりガラス陰影におけるAiCE-iの効果

 

表4 すりガラス陰影におけるSUVmax,視覚評価スコア,TBRの比較

表4 すりガラス陰影におけるSUVmax,視覚評価スコア,TBRの比較

 

図17 頭頸部における撮像時間およびAiCE-iによる画像の変化

図17 頭頸部における撮像時間およびAiCE-iによる画像の変化

 

表5 頭頸部における視覚評価スコアの比較

表5 頭頸部における視覚評価スコアの比較

 

表6 臨床画像の視覚評価スコアの比較

表6 臨床画像の視覚評価スコアの比較

 

2.病期分類における効果
病期分類におけるAiCE-iの効果について,乳がん術後の53症例を対象に,AiCE-i(−)とAiCE-i(+)におけるリンパ節転移の診断能を比較したところ,診断能や感度,特異度はいずれも同等であった(表7)。
次に,リンパ腫の40症例(男性22,女性18)を対象に,病期分類および治療効果判定について検討した。初回検査および治療効果判定や再発疑いのためにPET検査を行った症例について,核医学専門医1名がAiCE-i(−),もう1名がAiCE-i(+)の画像を読影し,検出された横隔膜上病変,横隔膜下病変,節外病変が陽性か陰性かを評価した。疾患はホジキンリンパ腫,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL),濾胞性リンパ腫などである。病期分類および治療効果判定の結果は,AiCE-i(−),AiCE-i(+)共に完全に一致しており,AiCE-iは日常診療で使用可能であることが示された。

表7 病期分類におけるAiCE-iの効果 乳がん術後症例におけるリンパ節転移の診断能の比較

表7 病期分類におけるAiCE-iの効果
乳がん術後症例におけるリンパ節転移の診断能の比較

 

まとめ

AiCE-iは,画質向上や検査時間の短縮を可能とするほか,腫瘍の層別化にも有用であり,非常に有望な技術であると考える。

*Advanced intelligent Clear-IQ Engine-integrated(AiCE-i)は画像再構成処理の設計段階でAI 技術を用いており,自己学習機能は有しておりません。
*記事内容は,講師のご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

●参考文献
1)Tsuchiya, J., et al. : Deep learning-based image quality improvement of 18F-fluorodeoxyglucose positron emission tomography : A retrospective observational study. EJNMMI Phys., 8(1): 31, 2021.

一般的名称:X線CT組合せ型ポジトロンCT装置
販売名: PET-CTスキャナ Cartesion Prime PCD-1000A
認証番号:301ACBZX00003000

 

土屋 純一(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科先端人工知能医用画像診断学講座)

土屋 純一(Tsuchiya Junichi)
2009年 東京医科歯科大学卒業。2019年 同大学大学院にて医学博士号を取得。放射線科医,核医学専門医の研修を経て,2021年〜同大学院医歯学総合研究科先端人工知能医用画像診断学講座。

 

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP