セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
日本核医学会PET核医学分科会 PETサマーセミナー2022 in 甲府が2022年7月29日(金)〜31日(日)に甲府記念日ホテル(山梨県甲府市),9月16日(金)〜10月31日(月)にオンデマンド配信で,ハイブリッド形式で開催された。7月30日(土)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー3では,社会医療法人財団慈泉会相澤病院ポジトロン断層撮影センターの小口和浩氏が座長を務め,広島大学病院診療支援部画像診断部門の高内孔明氏と広島大学原爆放射線医科学研究所放射線災害・医科学研究機構の石橋愛氏が「Digital PET-CTとDeep Learning再構成技術の使用経験」をテーマに講演を行った。
2022年11月号
日本核医学会PET核医学分科会 PETサマーセミナー2022 in 甲府 ランチョンセミナー3 Digital PET-CTとDeep Learning再構成技術の使用経験
Cartesion Primeの臨床的な視点での使用経験
石橋 愛(広島大学原爆放射線医科学研究所放射線災害・医科学研究機構)
広島大学病院は,病床数約740床を有し,外来患者数は1日約2000人に上る。核医学検査部門では,PET-CT 1台,SPECT-CT 2台が稼働しており,PET-CTではデリバリーFDGを用いて1日約12件の検査を行っている。2022年3月には,半導体検出器PET-CTである,キヤノンメディカルシステムズの「Cartesion Prime」が導入された(図1)。本講演では,Cartesion Primeの特長や臨床的な視点での使用経験について,症例を踏まえて報告する。
Cartesion Primeの特長
1.主な特長
Cartesion Primeの臨床における主な特長として,半導体検出器PET-CTであること,“Variable Bed Time”収集が可能であること,“Advanced intelligent Clear-IQ Engine-integrated(AiCE-i)”を搭載していることが挙げられる。
●半導体検出器PET-CT
Cartesion Primeでは,発光量が多く減衰時間が短いLYSOシンチレータと,半導体(silicon photo multiplier:SiPM)光センサを組み合わせたデジタルPET検出器が採用されている。シンチレータとSiPMが1:1対応であるため,画像の歪み補正や位置演算が不要で,効率的なγ線検出が可能となった。また,このデジタルPET検出器は,光電子増倍管(PMT)よりも薄く,検出器自体が非常にコンパクトになっている。
●Variable Bed Time
Variable Bed Timeは,収集範囲を複数の領域に分割し,それぞれの部位に適した収集時間を設定可能とする技術である。旧型PET-CTでは,例えば2分 / bedと設定すると,頭部から下肢まで同じ設定時間での収集が行われていた。一方,Variable Bed Timeでは,領域によって収集時間を変更できるため,重点的に撮像したい部位は長く,そのほかの部位は短時間で収集を行い,効率的な全身撮像が可能となる。例えば,体幹部を重点的に撮像する場合は,胸部は3分 / bed,腹部は4分 / bed,頭頸部は2分 / bed,下肢は1分 / bedなど,各施設の運用に応じた設定が可能となる。
●AiCE-i
AiCE-iは,人工知能(AI)技術を応用した画像再構成技術であり,キヤノンメディカルシステムズのCTやMRIにはすでに搭載されているが,PETにおいても適用が可能となった。AiCE-iを用いることで,コントラストを維持しつつ,ノイズを低減した画像の取得が可能となる。図2はAiCE-iの概要であるが,長時間収集した高品質な画像データを教師データとし,統計ノイズが含まれた低品質な画像を高品質な画像に変換するようトレーニングされたニューラルネットワークを構築する。そして,実際の装置で収集した画像をこのニューラルネットワークで処理することで,統計ノイズを除去した高品質なデータが取得可能となる。AiCE-iでは,ニューラルネットワークのトレーニングの過程でAI技術を用いており,PET装置の再構成システムは自己学習機能を有していない。
Cartesion Primeでは,これらの技術によって,ノイズ低減,画質改善,小病変の描出能向上が図られ,放射性薬剤の低投与量かつ短時間収集での画質維持が期待できるほか,効率的な画像収集が可能となった。
2.画質改善の実例
当院ではPET撮像にデリバリーFDGを使用しているため,体格に応じて投与量を変更することは難しく,高体重患者では相対的に低用量となり,画質劣化を来すことがある。図3は体重100kg以上,BMI 40以上の高体重患者で,FDGの体重あたりの投与量が3MBq程度となるため旧型PET-CT(a)ではノイズが目立つが,Cartesion Prime(b)では目立たなくなっている。
また,同一症例について,収集時間を変化させて画像再構成を行った。旧型PET-CTでは,収集時間が短いとノイズが多くなるため,10分未満の場合,読影に影響が出ると思われる(図4 b)。Cartesion Primeでも4分までは肝臓などのノイズが目立つが,8分以降はノイズが軽減され,明瞭な画像が得られている(図4 a)。
本症例について,体幹部の冠状断像を再構成した。冠状断像において,旧型PET-CTでは122秒まで肝臓のノイズが目立つが(図5 b),Cartesion Primeでは90秒からノイズがかなり低減されている(a)。また,肝SNRを「がんFDG-PET-CT撮像法ガイドライン 第2版」1)に則り算出したところ,旧型PET-CTと比較しCartesion Primeの方が全体的に高値を示し,100秒 / bed以降は肝SNRが一定であった(図5 c)。
図6は,体重の異なる4症例におけるCartesion Primeと旧型PET-CTの画像の比較で,上下の画像は同一症例である。通常,体重の増加に伴い肝SNRは低下するが,Cartesion Primeでは旧型PET-CTと比較し,同等の撮像時間でも肝SNRが向上しており,また,低体重の患者と同等の値が得られていた(図6 a)。
Cartesion Primeを用いた検査の実際
1.当院の収集プロトコール
当院ではデリバリーFDGを用いて,投与60分後から検査を開始している。収集時間は投与量と体重によって決定するが,胸腹部を重点的に収集しており,例えば体重75kg,投与量229MBqの場合では,頭頸部90秒 / bed,胸部181秒 / bed,腹部212秒 / bed,大腿部108秒 / bedの計16.9分などとしている。
2.Cartesion Primeによる部位別の画像の特長
Cartesion Primeでは,頭部においては旧型PET-CTよりも皮髄境界が明瞭となるほか,基底核と尾状核などが明瞭に分離される。
胸部においては血管壁の境界が明瞭で,肋骨の骨髄の集積なども旧型PET-CTより視認しやすくなっている。また,心筋の生理的集積がきわめて低い場合において,集積がない部分と血液プールが明瞭に区別可能であった症例を経験している。
腹部においては,肝臓と脾臓の境界がきわめて明瞭となるほか,腎盂や腎杯の尿中FDGの有無が良好なコントラストとして描出される。
3.症例提示
症例1は,70歳代,男性,食道がん脳転移の症例である(図7)。Cartesion Primeの画像にて転移巣にFDGの集積を認め,その周囲の浮腫の部分は大脳皮質の集積低下が明瞭である。本症例は右視床にも転移があるが,視床の生理的集積と転移巣の間に浮腫によってわずかに集積が低下している箇所があり,分離しやすくなっている。脳は生理的集積があるため,FDG-PETにて脳転移を検出するのは難しいと言われるが,Cartesion Primeでは浮腫による集積低下に注目することで転移巣を検出しやすくなると期待している。
症例2は,70歳代,男性,肺がんの症例である(図8)。右上葉にすりガラス結節を認めるが,CTでの経過観察では6か月後にもサイズの大きな変化を認めなかった。旧型PET-CTでは,濃度を変更することで病変をわずかに視認できるが,Cartesion Primeではより明瞭となる。SUVmaxは,旧型PET-CTが0.4,Cartesion Primeが0.7であった。
症例3は,50歳代,男性,甲状腺がん肺転移の症例である(図9)。CTでの経過観察では,1年4か月後にも結節サイズの変化を認めなかった。旧型PET-CTでも淡い集積を認めるが,Cartesion Primeではより明瞭に視認できる。SUVmaxは,旧型PET-CTが1.5,Cartesion Primeが5.8であった。
症例4は,70歳代,男性,直腸がん肺転移の症例である(図10)。旧型PET-CTにて肺に淡い集積が指摘されたものの,脊椎の骨髄の生理的集積と分離できなかった。8か月後のCTでは結節サイズが増大しており,Cartesion Primeでも集積がきわめて明瞭である。4か月後の時点で結節サイズにほとんど変化は見られないものの,Cartesion Primeでは脊椎の骨髄の生理的集積と肺結節の集積を分離可能であった。本症例は患者が治療を希望しておらず,経過観察のみを行っていたが,8か月後の経過観察時に,ほかの部位にも転移を疑う病変を認め,化学療法が開始された。
症例5は,60歳代,女性,子宮体がん肝転移の症例である(図11)。PET-CT検査前の造影CTでははっきりとした病変を指摘できなかったが,Cartesion Primeでは微小な点状の集積を認めた。Gd-EOB-DTPA造影MRIでは,拡散強調画像(DWI)にて高信号を示し,肝細胞相で信号が低下しており,肝転移疑いのため化学療法が開始された。
症例6は,80歳代,男性,食道がんの治療効果判定で,Cartesion Primeにて治療前後に検査を施行した(図12)。治療前には食道に非常に強い集積を認め,縦隔リンパ節転移が多発している。化学療法を2コース行い,約2か月後の画像では原発巣の腫瘍の縮小と集積低下を認め,リンパ節転移も縮小し,集積が不明瞭となった。Cartesion Primeによる治療効果判定については,まだ詳細な検討を行っていないが,旧型PET-CTよりも集積の変化を視認しやすくなっており,有用性が期待できる。
まとめ
Cartesion Primeの導入によりPET画像のノイズ低下,画質改善,高体重患者(相対的低投与量)での画質維持が確認され,小病変の描出能も向上した。今後,さらなる症例の蓄積により,有用性をより詳細に検討していきたい。
*Advanced intelligent Clear-IQ Engine-integrated(AiCE-i)は画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており,自己学習機能は有しておりません。
*記事内容は,講師のご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
●参考文献
1)福喜多博義,他:がんFDG-PET/CT撮像法ガイドライン 第2版. 核医学技術,33:377-420, 2013.
一般的名称:X線CT組合せ型ポジトロンCT装置
販売名:PET-CTスキャナCartesion Prime PCD-1000A
認証番号:301ACBZX00003000
石橋 愛(Ishibashi Mana)
2000年 鳥取大学医学部卒業。放射線科入局。倉敷中央病院地域災害医療センターなどを経て,2012年 大阪大学核医学講座特任助教。2015年 鳥取大学医学部附属病院助教。2018年同講師。2022年より広島大学原爆放射線医科学研究所放射線災害・医科学研究機構特任講師。
- 【関連コンテンツ】