セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2022年7月号

第1回 CXDIオンラインユーザーセミナー

散乱線低減処理の活用について

田沼 隆夫(聖マリアンナ医科大学病院 画像センター)

田沼 隆夫

聖マリアンナ医科大学病院では現在,一般撮影室5部屋,およびポータブル装置3台のFPDを,すべてキヤノンメディカルシステムズが取り扱うデジタルラジオグラフィ(DR)「CXDIシリーズ」で統一している。“ワンショット長尺撮影”や“アドバンスエッジ強調処理”,ディープラーニングを用いたノイズ低減処理などの研究,および日常臨床で活用している。
本講演では,CXDIシリーズにおける “散乱線低減処理”について,技術的な特徴を述べた上で,知っておくべきポイントや今後の展望を述べる。

散乱線低減処理の特徴

散乱線低減処理とは,グリッドレス撮影を行った場合に,グリッドレス画像から推定した散乱線低減情報を元画像から減算し,コントラストを改善する画像処理である。CXDIの散乱線低減処理の利点としては,撮影後の画像にも適用できること,処理時間が短いこと,設定が簡単で処理レベルの変更も容易なこと,撮影部位の使用制限がないことが挙げられる。
グリッドレスで撮影した胸部ファントムの画像に散乱線低減処理を適用し,処理レベル(Lv0〜10)の変化に伴うコントラストの変化を視覚的に評価した。その結果,Lv4でグリッドありの画像と同等以上のコントラストが得られた(図1)。一方,コントラストを上げると粒状性が低下する。そこで,散乱線低減処理レベルとノイズの関係を視覚的に評価したところ,Lv4以上でグリッドありの画像よりもノイズが多くなった。そのため,当院では画質のバランスを重視し,散乱線低減処理はLv3までとしている。

図1 散乱線低減処理レベルの変化に伴うコントラストの変化

図1 散乱線低減処理レベルの変化に伴うコントラストの変化

 

画像供覧

当院では,ポータブル撮影や撮影室でのベッド上での撮影は,ほぼ全例グリッドレスで行っており,さまざまな部位に使用している。実際の画像を供覧する。
図2は胸部ポータブル撮影の画像であるが,グリッドレス(b)でも散乱線低減処理Lv3を適用することで,グリッドあり(a)と遜色のない画質が得られている。
図3は腹部の画像で,aは術前に据え置き型装置で撮影したグリッドありの画像,bは術後に病棟のポータブル装置で撮影したグリッドレス+散乱線低減処理Lv3の画像である。術後の画像は腸管ガスが目立つものの,グリッドありの画像と遜色のない画質が得られている。
当院では,もともとグリッドレス撮影を行っていた乳幼児にも,散乱線低減処理を積極的に用いている。図4は,従来の画像処理パラメータ(a)と従来条件+散乱線低減処理Lv1(b)の画像比較である。乳幼児の撮影では管電圧を60kVpとしていたが,被ばく〔入射表面線量(ESD)〕低減を目的に70kVpで撮影を行った。単純に管電圧を上げるとコントラストが低下するが,散乱線低減処理を弱いコントラスト改善処理として用いることで,画質を担保しつつ被ばくを約4割低減している。
図5は,左大腿骨頸部骨折に対する人工骨頭置換術後にオペ室で撮影された,ポータブル装置の画像である。当院では,術後にガーゼなどの残留物の確認のため,通常撮影画像とアドバンスエッジ強調処理画像の2つをサーバに送っている。撮影条件は据え置き型とほぼ同じで,グリッドレスの画像には散乱線低減処理を適用する。医師からは,人工骨頭と骨髄腔内に充填された骨セメントの評価には,グリッドレスでも画質は十分であるとの評価が得られている。
グリッドレス撮影の画質は,部位によってはグリッドありの画像に及ばないが,グリッドレス撮影には重量が軽く取り回しが容易であることや,ミスアライメントがないなど利点も多い。そのため,撮影目的が達成されるのであれば積極的に活用すべきであると考える。

図2 胸部ポータブル撮影

図2 胸部ポータブル撮影

 

図3 腹部ポータブル撮影

図3 腹部ポータブル撮影

 

図4 乳幼児ポータブル撮影

図4 乳幼児ポータブル撮影

 

図5 整形領域のオペ室ポータブル撮影

図5 整形領域のオペ室ポータブル撮影

 

散乱線低減処理を活用するために

グリッドレス撮影には,オーバーレンジ(線量過多による黒つぶれ),散乱線推定の誤差によるコントラストの変動,画像ノイズの影響(高体厚に弱い)という3つの弱点がある。散乱線低減処理を臨床で活用するためには,これらを理解する必要がある。そこで,当院にて検証を行った。

1.オーバーレンジ
胸部ファントムを90kVp,8mAs,撮影距離(SID):130cm(ESD:0.79mGy)の条件で,グリッドありとグリッドレスで撮影した。使用FPDは「CXDI-710C Wireless」で,シンチレータ素材はヨウ化セシウム(CsI)である。CsIを用いた標準体型の胸部正面撮影において,ESD:0.79mGyというのは高線量であり,線量プロファイルを確認したところ,グリッドレス撮影ではオーバーレンジを起こしていた。「日本の診断参考レベル(2020年版)」(Japan DRLs 2020)では,日本医学放射線学会修練機関における胸部正面撮影のESDの中央値は0.24mGy,当院の中央値は0.26mGyであり,0.79mGyはその約3倍である。このことから,実臨床においてはオーバーレンジはそれほど問題にならないと思われる。

2.コントラストの変動
グリッドレス撮影に対する散乱線低減処理の注意点として,メーカーによっては事前に設定したSIDと実際のSIDが異なると,FPDに到達する線量が想定と異なってしまい,コントラストが変動することがある。一方,CXDIの散乱線低減処理は,撮影条件の設定は不要で処理レベルを選択するだけで使用できるため,経過観察などで線量のバラツキがあったとしても,安定したコントラストが得られる。

3.画像ノイズの影響
当院にて経鼻胃管チューブの位置確認目的にグリッドレス撮影を行ったところ,高体厚の患者であったため,Exposure Index(EI):167,ESD:0.1mGyと撮影線量が不十分で,チューブの多くはノイズに埋もれ描出できなかった。オーバーレンジを恐れて線量を下げすぎないよう,注意が必要である。

散乱線低減処理の今後─ノイズ低減

散乱線低減処理では,画像処理の過程で散乱線の推定用ノイズ低減処理と,散乱線低減処理使用時に元画像に自動加算されるノイズ低減処理が行われ,さらに,ユーザーが調整可能な通常のノイズ低減処理が行えるよう設計されている。これらにより,量子ノイズの増加という課題を解決し,画像の粒状性を改善しており,散乱線低減処理においてはノイズ低減処理も重要な要素の一つであると言える1)。そこで,キヤノン株式会社は,ディープラーニングを応用した新しいノイズ低減技術として,“Intelligent NR”を開発した(図6)。現在,販売開始前であるが,当院で共同研究を行っている。
Intelligent NRは,ニューラルネットワークに数万通りの画像を学習させて得られたノイズ低減モデルを用いてノイズ低減を行っている。特に低線量部に強く,従来法よりもはるかに自然なノイズ低減効果が得られる。ファントム画像におけるノイズ低減効果を確認したところ,従来法と比較しIntelligent NRでは,胸部撮影にて特に低線量になりがちな上腹部でも,椎体の信号を残しつつノイズが大幅に低減されていた。
散乱線低減処理にIntelligent NRを応用することで,低線量かつ低SNRな部位の画質がさらに改善され,被ばく低減にもつながっていくことが期待される。

図6 Intelligent NRの概要(画像提供:キヤノン株式会社)

図6 Intelligent NRの概要(画像提供:キヤノン株式会社)

 

* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
* Intelligent NRはノイズ低減処理の設計段階でAI技術を用いており,本システム自体に自己学習機能は有しておりません。

●参考文献
1)向笠恭司:散乱線低減処理における画質改善の仕組み. 画像通信, 41(1) : 41-46, 2018.

一般的名称:X線平面検出器出力読取式デジタルラジオグラフ
販売名:デジタルラジオグラフィCXDI-710C Wireless
認証番号:229ABBZX00020000
製造販売元:キヤノン株式会社

 

田沼 隆夫
Tanuma Takao
2006年 駒澤短期大学専攻科卒業。同年,聖マリアンナ医科大学病院画像センター入職。医療情報技師,医用画像情報専門技師。

 

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