セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第80回日本医学放射線学会総会が2021年4月15日(木)〜18日(日)にパシフィコ横浜(神奈川県横浜市),4月28日(水)〜6月3日(木)にWebでハイブリッド開催された。4月17日(土)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー11では,熊本大学大学院生命科学研究部放射線診断学講座教授の平井俊範氏が司会を務め,杏林大学医学部放射線医学教室(現・東京女子医科大学東医療センター放射線科教授)の町田治彦氏,愛媛大学大学院医学系研究科放射線医学教室教授の城戸輝仁氏,広島大学大学院医系科学研究科放射線診断学研究室教授の粟井和夫氏が,「Area Detector CTのさらなる技術革新〜質的診断・定量評価への挑戦〜」をテーマに講演を行った。
2021年7月号
第80回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー11 Area Detector CTのさらなる技術革新 〜質的診断・定量評価への挑戦〜
Spectral CTの現状と臨床応用
町田 治彦[杏林大学医学部放射線医学教室(現・東京女子医科大学東医療センター放射線科)]
キヤノンメディカルシステムズ社の高速スイッチング方式によるDual Energy(DE)技術“Spectral Imaging System”(Spectral CT)がPhase 2へと進化し,Deep Learning Reconstruction(DLR)を用いた最新の画像再構成技術による画質向上,金属アーチファクト低減処理“SEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)”の併用,心臓検査への応用,DEによる付加価値の向上などを実現している。本講演では,Spectral CTの臨床応用について,仮想単色X線画像や基準物質画像の有用性,尿路結石や心臓検査への応用などを紹介する。
仮想単色X線画像
仮想単色X線画像(virtual monochromatic imaging:VMI)は,低keV画像でのコントラスト向上,造影剤量の合理的低減,spectral curve(横軸keV-縦軸HU)による物質弁別に有用である。
大動脈解離で胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)を施行した症例は,フォロー中に腎機能が低下してきたため,造影剤を減量してCTアンギオグラフィを撮影した(図1)。従来の画像(造影剤量90mL,120kVp)に比べて,造影剤量を半減した60keV画像は,被ばく線量を増加することなくCT値を維持し,従来と同等以上の画質を得ることができた。
図2の症例は,MRIではlipid richな副腎腺腫と診断できたが,CTではCT値が15HUで副腎腺腫と断定することが難しかった。そこで,Spectral CTを用いてspectral curveを描くと,正常副腎は左上向きの曲線となるのに対し,病変(図2左上→)は脂肪に特徴的な左下向きの曲線を呈し,副腎腺腫と診断することができた。また,横軸を実効原子番号(Zeff)としたヒストグラム解析でも脂肪にピークが認められ,lipid richな副腎腺腫と診断できる。
基準物質画像
基準物質画像のヨード強調画像としては,2物質弁別でヨード密度画像,3物質弁別でヨードマップを得ることができ,これらは組織灌流の評価や囊胞と充実性腫瘍の鑑別に有用である。一方,ヨード抑制画像としては,2物質弁別で水密度画像,3物質弁別でvirtual non-contrast(VNC)画像を取得でき,仮想単純CTとして用いることができる。さらに,この原理を骨に応用すると(virtual non-calcium画像とする),骨髄浮腫や腫瘍浸潤を鋭敏に検出することができる。
図3は肺血栓塞栓症症例で,70keV画像で造影欠損域(→)が認められた。ヨードマップでは,その末梢でくさび状にヨードの集積が低下しており,肺灌流が低下していることがわかる。
図4は膀胱がん症例であるが,胸部造影CTを撮影したところ,前縦隔に軟部濃度を示す腫瘤性病変が認められ,前縦隔リンパ節転移が疑われた。しかし,同部位はヨード強調画像では低ヨードで造影効果に乏しく,また,ヨード抑制画像で高吸収となったことから,高タンパク液を含む胸腺囊胞であると判断できた。さらに,胸腺囊胞と膀胱がんでspectral curveを描くと,異なる曲線パターンを示したことから,リンパ節転移は否定的と判断できる。
図5は,新鮮椎体圧迫骨折症例である。カルシウム成分を除去したvirtual non-calcium画像では,椎体内の骨髄の脂肪成分が低吸収に描出されるが,骨髄浮腫が生じると脂肪よりもCT値が高いため高吸収に描出される。また,電子密度画像でも高信号に描出される。同部位は,MRIのDixon法のWater画像(脂肪抑制T2強調画像)でも骨髄浮腫が確認された。
尿路結石への応用
Spectral CTの尿路結石への応用について,杏林大学泌尿器科と共同研究を行っている。Spectral CTでは,尿酸結石と非尿酸結石の判定を補助でき,実効原子番号1)による成分分析も可能なため,適切な治療方針2)の選択に有用である。尿路結石の成分が尿酸結石の場合は,経口結石溶解療法の適応となる。また,シスチン結石もしくはカルシウム結石の場合は,体外衝撃波結石破砕術(ESWL)抵抗性のため手術が第一選択となる。さらに,ストラバイト結石は尿路感染と関連があるとされており,抗生剤治療など尿路感染に対する治療も考慮される。
図6の左腎結石は,Zeffヒストグラムで実効原子番号が7.78となり,尿酸の実効原子番号の範囲(6.2〜7.8)3)に入る。また,尿酸とカルシウムの2物質弁別を行い,尿酸を赤に設定すると尿管結石とともに赤く示されることから尿酸結石と判断でき,薬物療法の適応となる。
実効原子番号は,ストラバイトが9.2〜10.0,シスチンが10.2〜11.8,シュウ酸カルシウムが12.1〜13.8であると判明していることから3),Spectral CTで尿路結石の成分推定を行うことで,適切な治療方針を選択することができる。
心臓検査応用への将来展望
Spectral CTの心臓検査への応用について,杏林大学循環器内科と共同研究を行っている。Spectral CTでは,MRIの遅延造影効果(LGE)と同様の遅延造影効果(late iodine enhancement:LIE)の評価が可能である。また,金属アーチファクト低減処理であるSEMAR併用により,植込み除細動器(ICD留置例でも評価することができる。LIEは,不整脈の起源となりうる心筋線維化の同定や,心筋症の鑑別診断にも有用である。
心室頻拍の症例では,心臓MRIでは下中隔に遅延造影が認められた。Spectral CTのLIEでは,SEMAR併用によりICDリードからの金属アーチファクトを低減でき,低エネルギー(60keV)画像にすることでコントラストが向上した。さらに,ヨードマップ画像では遅延造影がより明瞭となった。
Spectral CTのLIEは,心サルコイドーシスの評価にも有用であると考えられる。遅延造影の評価に加え,ヨードマップの情報とヘマトクリット値から,細胞外容積分画(ECV)も推定することができると期待している。Spectral CTでは,単純CTを撮影しなくても,計算に必要な造影前後のCT値もしくはヨード密度の上昇値をミスレジストレーションなく取得でき,より正確なECV評価が期待できる。
まとめ
DLRを応用した高速スイッチング方式のDECTであるSpectral CTは,仮想単色X線画像やspectral curve,各種基準物質画像などさまざまな臨床応用が可能で,SEMAR併用により金属アーチファクトを大幅に低減することができる。また,Spectral CTによる尿路結石の成分分析は治療方針の選択に有用である。将来的には,心臓への応用にも期待している。
* Spectral Imaging Systemは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いています。
* 本ソフトウエアは特定疾患の検出を自動で行うものではなく医師により判断されます。
* 記事内容はご経験や知見による,ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
●参考文献
1)Rompsaithong, U., et al., Abdom. Radiol.(NY), 44(3): 1027-1032, 2019.
2)Kambadakone, A.R., et al., Radiographics, 30(3): 603-623, 2010.
3)Kulkarni, N.M., et al., J. Comput. Assist. Tomogr., 37(1): 37-45, 2013.
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000
一般的名称:汎用画像診断装置ワークステーション
販売名:医用画像処理ワークステーション Vitrea VWS-001SA
認証番号:224ACBZX00045000
町田 治彦(Machida Haruhiko)
1997年 三重大学医学部卒業。同年 東京女子医科大学放射線科入局。2009年 同大学東医療センター放射線科講師。2015年 同准教授。2017年 杏林大学医学部放射線医学教室准教授。2021年4月より東京女子医科大学東医療センター放射線科教授。
- 【関連コンテンツ】