セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
2021年2月号
第48回日本救急医学会総会・学術集会 ランチョンセミナー14 COVID-19時代における救急診療のニューノーマル
災害・感染対策における医療コンテナソリューション
松原 馨(株式会社Sansei)
当社が開発した医療コンテナソリューション「MC-Cube(Medical Container-Cube)」は,医療に関するあらゆる設備・ユニットを国際標準化機構(ISO)の668規格コンテナに内蔵し,輸送性と拡張性を担保した製品群の総称である。本講演では,MC-Cubeの特徴を紹介した上で,災害・感染対策における有用性を,実証事例を踏まえて報告する。
MC-Cubeの特徴
MC-Cubeは,コンテナの中にさまざまな医療設備をユニット化できる“柔軟な拡張性”と“多様性”が特徴である(図1)。災害に備えるためには検査装置・設備や非常電源などを万全にする必要があるが,たとえそれらが万全であっても,災害によって建屋や配線設備が破損したために検査装置・設備などが使用不能となることもある。その対応策の一つとして提案しているのがMC-Cubeである。
MC-CubeのCTコンテナ車は,ISO規格に準拠した40フィートコンテナの中に,CT室,オペレーション室,発電機室を備えたオールインワンパッケージのソリューションである。エアサスペンションを装着したシャーシの上に搭載されているため,CT装置にダメージを与えることなく運搬可能である。トレーラーヘッドを装着すれば,陸路やフェリーで運搬でき,シャーシを外せばコンテナとして鉄道や船舶などで輸送することもできる。
コンテナは,全方向鉛厚2mmの遮蔽工事によってX線防護されているほか,断熱材によって外気温変化に対応している。CTコンテナ車の1号機では,CT装置は東芝メディカルシステムズ(現・キヤノンメディカルシステムズ)社製のモバイル対応16列MSCT「Alexion」を搭載した。Alexionはガントリ内に車載ユニットを装備しており,X線管容量は3.5MHUと大容量である。また,オペレーションルームにはPACSも装備しているため,通常の病院と同等の画像処理・保存ができ,NTTドコモの4G(5G)環境下では遠隔読影にも対応している。さらに,CT室とオペレーション室には空調機を備え,発電機はドイツ・ABZ社製の製品を搭載している。発電機は,軽油850L満タン時には168時間の連続稼働(1日8時間で21日間稼働)が可能で,外部に電源供給することもできる。したがって,どのような環境下に移動・設置しても,直ちに運用できる(図2)。
CTコンテナ車の実証事例の紹介
2016年4月に発生した熊本地震では,発生2日後に弊社より内閣府に無償支援を申し入れ,熊本市民病院にCTコンテナ車を2か月半(5月15日〜7月28日)使用していただいた。熊本市民病院では,3病棟のうち2棟で壁の崩落や天井のひび割れがあって立ち入り禁止となり,CT装置が使用不能となったほか,入院患者は転院,外来および救急診療の受け入れは停止の状態であった。
この時使用されたCTコンテナ車は,経済産業省の2020年度「JAPANブランド育成支援等事業」の採択を受け,現在,ウズベキスタンに向けて移送中である。ウズベキスタンの基幹病院や僻地など数か所に設置し,実際にCT検査を行いながら,高度医療機器の普及や現地医療スタッフの医療技術向上,安全教育,人材育成を図る。さらに,取得したCTデータを日本に送り,遠隔画像診断支援事業の確立に向けた実証実験を行う予定である。
MC-Cubeの新たな展開
世界最高峰のラリー選手権“World Rally Championship(WRC)”が,2020年は日本開催〔新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により2021年に開催延期〕となることを受け,2019年に「セントラルラリー愛知・岐阜2019」が愛知県で開催された。この会場で,MC-Cubeの20フィートコンテナを2つ連結して診療ブースと経過観察ブースを構築し,ブース内の心電図情報や超音波画像を仮想基幹病院に通信転送し,遠隔医療の実証実験を行った。国際自動車連盟(FIA)WRC副メディカルデリゲートで今大会の医療部門責任者に内部をチェックしていただき,WRC本番で十分に使用可能であることが確認された。
2020年1月には,済生会横浜市東部病院にて首都直下型地震を想定した災害医療訓練が実施されたが,その際,災害時・感染対策時対応の医療コンテナを提供した。さらに,2020年2月には,厚生労働省から各都道府県に対し,COVID-19対策の一環として「帰国者・接触者外来」の設置が要請されたことを受け,済生会横浜市東部病院では医療コンテナ2台を屋外に連結設置し,感染者外来として活用していただいた。
20フィートMC-Cube(医療コンテナ)の室内壁面には,ドイツ・メディック社製のガラスウォール(強化ガラス)を採用している(図3)。このガラスウォールは,ドイツ・ロベルト・コッホ研究所の壁面の衛生条件のレポートによる規定に則しており,抗菌保護状態を持続できる構造となっている。
さらに,COVID-19流行下においては,感染症診察室やPCRラボとして運用できるよう,現在設計を行っている。COVID-19の感染確認検査であるPCR検査の感度は約71%であるのに対し,CT検査の感度は約98%との報告1)もあることから,CT検査を実施したいという要望が増えている。一方,感染者を院内に受け入れることが困難な場合もあるため,CT検査を建屋外で実施可能なCTコンテナを活用することで,感染対策における有効性が期待できる(図4)。また,建屋外へのCTの設置はプレハブでも可能であるが,プレハブは新型インフルエンザ等対策特別措置法下で建築確認申請などが免除されているため,将来性は不透明である。一方,CTコンテナは車両のため,建築確認申請などは不要である。
MC-Cubeの今後の展望
2018年に,福島県いわき市にて「第8回太平洋・島サミット」が開催され,日本主導による太平洋島嶼国への開発援助などについて話し合われた。その際,CTコンテナ車を見ていただき,数か国から支援の要望もあったが,心臓CT検査が要件として挙げられた。これまで,CTコンテナ車では16列MSCTしか搭載できなかったが,2020年1月にキヤノンメディカルシステムズ社の80列 / 160スライスCT「Aquilion Lightning Helios i Edition」の車載キットが発売され,CTコンテナ車に搭載可能となった(図5)。さらに,現在,キヤノンメディカルシステムズ社と当社の合同プロジェクトとして,Aquilion Lightning Helios i Editionを搭載した新たな感染対策CTコンテナを設計中である。
Aquilion Lightning Helios i Editionは,ガントリ開口径が78cmと大きいため患者がガントリに接触しづらく,さらに,寝台の上下左右の調整を遠隔操作で行えるため医療従事者が患者に接触する機会を低減可能である。また,スキャン時間が短いため息止め困難な患者の撮影にも対応できるほか,被ばく低減技術“AIDR 3D”の標準搭載,および人工知能を応用した被ばく低減技術“AiCE”の搭載も可能であるなど,感染対策に有用な仕様・機能となっている(図6)。
まとめ
われわれは今後も,さまざまなニーズに応える医療コンテナの開発に取り組み,災害・感染対策としての有用性を広めていきたい。
●参考文献
1)Fang, Y. et al. : Sensitivity of Chest CT for COVID-19 : Comparison to RT-PCR. Radiology. 296(2): E115-E117, 2020.
松原 馨(Matsubara Kaoru)
1979年 東京都立放射線専門学校卒業。同年 東京慈恵会医科大学附属病院放射線部入職。同第三病院放射線部技師長補佐,同青戸病院放射線部技師長補佐,同第三病院放射線部技師長を経て,2013年に朝日新聞東京本社診療所入職。2018年〜株式会社Sansei顧問。
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