セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第84回日本循環器学会学術集会が,2020年7月27日(月)〜8月2日(日)までWeb開催された。8月1日(土)に行われたキヤノンメディカルシステムズ社共催のランチョンセミナー23「超音波診断装置の新境地」では,島根大学医学部内科学講座内科学第四教授の田邊一明氏の司会の下,総合東京病院心臓血管センター医長の滝村英幸氏と東海大学医学部付属八王子病院臨床検査学教授の村田光繁氏が講演を行った。ここでは,滝村氏の講演内容を報告する。

2020年10月号

第84回日本循環器学会学術集会ランチョンセミナー23 超音波診断装置の新境地

High Quality Imageによる心血管治療の最前線

滝村 英幸(総合東京病院心臓血管センター)

末梢動脈疾患(PAD)の診療において,超音波診断装置は必須のモダリティである。本講演では,High Quality Imageを実現するキヤノンメディカルシステムズ社のプレミアム超音波診断装置「Aplio i-series」,およびタブレット端末型の「Viamo sv7」を用いたPAD診療の実際と有用性を報告する。

PAD診療における超音波診断装置の有用性

PADは慢性腎臓病に合併することが多く,造影剤腎症を来すと死亡率が高くなる1)ことから,診断・治療に当たっては腎機能を維持することが重要となる。また,浅大腿動脈(SFA)に対する薬剤コーティングバルーンの治療成績を見ると,治療後1年以降にある一定の割合で再狭窄・再閉塞が見られる2)ため,定期的な経過観察が必要となる。
PADの診断および経過観察にはCTAやMRAなどさまざまなモダリティが用いられるが,なかでも超音波は,非侵襲的かつ造影剤も不要で,リアルタイムでの血流評価が可能であるなどメリットは非常に大きい。そのため,PADの診断はもとより,末梢血管形成術(EVT)の術前評価や,治療戦略およびデバイスの決定,EVT術中の評価,経過観察まで超音波が活用されている。
PADの診療に求められる超音波診断装置は,アーチファクトが少ないこと,浅部から深部まで明瞭であること,鮮明なBモード画像が得られること,高フレームレートであること,ドプラが明瞭であること,石灰化に強いこと,などが実現されていれば理想的である。また,EVTにおける超音波ガイド下ワイヤリングでは,腎機能の低下した慢性完全閉塞病変(CTO)に対しても,炭酸ガス造影を併用することで造影剤なしで治療できるほか,安全なワイヤリングが可能となるなど,多くのメリットがある。

高機能・高画質がPAD診療にもたらすメリット

1.診療に役立つアプリケーション
さらに,キヤノンメディカルシステムズ社の超音波診断装置には,診療に役立つさまざまなアプリケーションが搭載されている。“SMI(Superb Micro-vascular Imaging)”は,血流を非常に繊細に描出でき,石灰化も明瞭である。“Strain Elastography”では,血管内の硬さを見ることで病変性状を評価することができる。また,超高周波プローブを用いて潰瘍がある部分の3D画像表示や,“Fly Thru”による血管内のイメージングも可能である。さらに,CTと超音波の画像を同期表示する“Smart Fusion”によって,石灰化の状態などを確認しながらガイドワイヤを操作することもできる。

2.Bモードの画質向上のメリット
一方,超音波においては,やはりBモードの画質が非常に重要である。われわれは以前,Bモードの画質が向上したことで,SFA-CTOへのantegrade approachでのガイドワイヤ通過の成功率が向上したことを経験している。被ばくおよび造影剤の低減や手技時間の短縮にもつながっており,Bモードの画質向上はメリットが大きい。そして,Aplio i-seriesは,このBモードの画質に非常にこだわって開発されている。

Aplio i-seriesの特長と治療の実際

1.Aplio i-seriesの特長
Aplio i-seriesは,ハイエンドマシンでありながら起動が速い,タブレット型のセカンドコンソールで手技中に手元での画像参照が可能,また,3〜7MHzという超広帯域をカバーする7MHz iDMS(intelligent Dynamic Micro Slice)プローブ「PLI-705BX」は,1本で全身の検査に対応するほか,浅部から深部まで明瞭に描出可能,などの特長がある。
超音波ガイド下ワイヤリングに当たっては,血管の中心を通る長軸像を描出し,その断面像中にガイドワイヤが描出されるように通過させる。ガイドワイヤがずれた時に正しい位置に戻ったことを確認するためには,非常に薄いスライス厚の超音波像が必要となる。これを実現するために,Aplio i-seriesでは,“iBeam Forming”により一度の超音波送信の複数の反射波を同時にとらえ,さらに,1本の走査線に対して得られた複数の受信信号を合成することでビームが細く,均一となった。また,iDMSプローブを用いた“iBeam Slicing”では,開口と焦点をダイナミックに制御することで,従来のプローブに比べて浅部から深部まで均一かつ非常に薄いビームを実現している。断層像のスライス厚を薄くした上で,きわめて明瞭な画像が得られることが大きな特長と言える。

2.Aplio i-seriesを用いた治療の実際
図1は,SFA-CTOへの足背動脈からの穿刺(trans ankle intervention:TAI)であるが,24MHzプローブ(PLI-2004BX/2002BT)にて足背動脈が明瞭に観察できる。血球エコーや,穿刺針が血管内に入ると血液が逆流する様子がきわめて鮮明に描出されるため,確実で安全な穿刺が可能となる。SFAの閉塞断端からガイドワイヤを進めていく際にも,めざす方向にしっかりと進められるほか,石灰化や血管内のインピーダンスの差がBモードの画像として表現されており,プラークの性状も判別できる(図2)。また,治療後の止血確認のためのSMIでも,きわめて明瞭な画像が得られている(図3)。

図1 足背動脈穿刺 24MHzプローブを用いることで足背動脈が明瞭に観察できる。

図1 足背動脈穿刺
24MHzプローブを用いることで足背動脈が明瞭に観察できる。

 

図2 エコーガイドワイヤリング

図2 エコーガイドワイヤリング

 

図3 SMIによる治療後の止血確認

図3 SMIによる治療後の止血確認

 

3.超音波ガイド下穿刺の実際
穿刺の際に超音波を用いるメリットは非常に大きい。特に,Aplio i-seriesはスライス厚が薄いため,針を明瞭に描出してピンポイントで穿刺することができる。
図4は実際の超音波ガイド下穿刺の画像であるが,針先が明瞭に描出されるため,麻酔時(a)に血管直上まで針を進めて麻酔をかけることで患者の痛みを軽減できるほか,穿刺中(b,c)にはSFAと大腿深動脈も区別可能で,SFAに直接穿刺針を進めることができる。Aplio i-seriesでは,このような良好な画像が日常的に得られている。
図5はやや硬い病変の穿刺であるが,留置されているステントも明瞭に観察できる(a)ほか,止血の際に,カラードプラ(b)では描出されないわずかな出血がSMI(c)で確認でき,確実な止血が可能なため,安全面でのメリットも大きい。
図6は膝下動脈治療時の坐骨神経ブロックである。Aplio i-seriesでは神経が明瞭に描出されているため,このような繊細な手技においても,神経を損傷することなく安全な麻酔薬の注入が可能である。

図4 超音波ガイド下穿刺

図4 超音波ガイド下穿刺

 

図5 超音波ガイド下穿刺および止血

図5 超音波ガイド下穿刺および止血

 

図6 膝下動脈治療時の坐骨神経ブロック

図6 膝下動脈治療時の坐骨神経ブロック

 

4.33MHz超・超高周波リニアプローブ
Aplio i-seriesでは,新たに33MHzの超・超高周波iDMSリニアプローブ「PLI-3003BX」が開発された。新開発の振動子によるさらなる高周波化・広帯域化とiDMS技術の採用により,表在領域の静脈弁や血球エコーも明瞭に観察可能であり,SMIでもより鮮明に血流を観察できる。
図7は,膝下動脈が3本すべて閉塞している。本症例のように,足背動脈から穿刺できない場合は指の極小血管穿刺(Yubi Pun)を行うが,33MHzの超・超高周波リニアプローブでは,わずか0.5mmの血管も確実に穿刺してガイドワイヤの挿入も可能であった(図7)。

図7 Yubi Punにおける超音波ガイド下穿刺 33MHzの超・超高周波リニアプローブを用いることで,わずか0.5mmの血管でも確実な穿刺が可能である。

図7 Yubi Punにおける超音波ガイド下穿刺
33MHzの超・超高周波リニアプローブを用いることで,わずか0.5mmの血管でも確実な穿刺が可能である。

 

ポータブルエコー「Viamo sv7」の特長と使用の実際

タブレット端末型のViamo sv7も,Bモードの画質にこだわった開発が行われている。Aplio i-seriesなどにも搭載されている空間・周波数コンパウンド技術“ApliPure Plus”や,信号を解析し構造を強調する“Precision Plus”,最先端のティッシュハーモニック“Differential THI”,最適化機能“Realtime Quick Scan”などが搭載されており,計測もAplio i-seriesと同様に行えるため,使い慣れた操作性で高画質な超音波像を得ることができる。本体サイズはコンパクトでありながら,12.3インチのモニタで大きく鮮明なBモード画像が表示でき,さらに,滅菌カバーで覆えばカテーテル室で術者が気軽に操作することもできる(図8)。
図9は閉塞した撓骨動脈穿刺であるが,逆行性の血流が認められる部位に穿刺してガイドワイヤを通していく際に,Viamo sv7にてわずかな隙間を確認しながら穿刺することができる。本症例では,閉塞部位にワイヤを通して開通させることができており,細い血管の穿刺においてもBモード画像が役立っている。
このほか,足に壊疽のある患者の治療後の経過観察に当たり,Viamo sv7では血流が保たれているかの確認をベッドサイドでも非常に行いやすく,画質的にも十分に満足できる。カメラ機能で写真を撮影してDICOM保存できるため,患者の写真管理にも有用である。胸腔穿刺においては,高周波プローブを用いることで肋間を明瞭に描出し,肋間動脈を避けて安全な穿刺を行うことができる。また,画質はAplio i-seriesには及ばないものの,ベッドサイドやカテーテル室で坐骨神経ブロックを行う際には,コンパクトなViamo sv7の利便性が高い。

図8 Viamo sv7を用いた超音波ガイド下穿刺

図8 Viamo sv7を用いた超音波ガイド下穿刺

 

図9 閉塞した撓骨動脈穿刺

図9 閉塞した撓骨動脈穿刺

 

まとめ

Aplio i-seriesでは,画像構築の進化によりBモードの画質が飛躍的に進化した。iDMSプローブは広帯域をカバーするため,浅部から深部まで明瞭な画像が得られ,汎用性が高い。また,非常に薄いスライス厚がもたらすきわめて鮮明な画像での観察が可能となったことで,特に治療における有用性を実感している。
タブレット型のViamo sv7においても,コンパクトでありながらポータブルエコーとしては最高の画質が得られ,Aplio i-seriesと同じ感覚で操作できるという点でも非常にメリットが大きい。

●参考文献
1)Sigterman, T.A., et al., Eur. J. Vasc. Endovasc. Surg., 51(3):386-393, 2016.
2)Zeller, T., et al., JACC Cardiovasc. Interv., 13(4):431-443, 2020.

 

滝村 英幸

滝村 英幸(Takimura Hideyuki)
2006年 聖マリアンナ医科大学医学部医学科卒業。2008年 済生会横浜市東部病院循環器内科。2015年〜同医長。2016年〜現職。

 

 

 

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