セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第43回日本乳腺甲状腺超音波医学会学術集会が2019年10月5日(土),6日(日)の2日間,コラッセふくしま(福島県福島市)にて開催された。5日に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー1では,自治医科大学医学部臨床検査医学教授の谷口信行氏が座長を務め,福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座主任教授の鈴木眞一氏が,「甲状腺腫瘍の超音波診断〜良悪性の鑑別に超音波を生かす〜」と題して講演した。

2020年1月号

第43回日本乳腺甲状腺超音波医学会学術集会ランチョンセミナー1

甲状腺腫瘍の超音波診断 〜良悪性の鑑別に超音波を生かす〜

鈴木 眞一(福島県立医科大学医学部甲状腺内分泌学講座)

鈴木 眞一

内分泌外科外来では,主に甲状腺,副甲状腺,副腎,多発性内分泌腫瘍症などの診療を行うが,それらのうち,甲状腺腫瘍の鑑別診断は近年,超音波検査が第一選択となっている。本講演では,甲状腺腫瘍の診断におけるキヤノンメディカルシステムズ社製超音波診断装置「Aplio i800」の有用性について報告する。

Aplio iシリーズの特長

Aplio iシリーズの新開発・送受信技術“iBeam Forming”は,送受信ビームの形状を浅部から深部まできわめて細くし,かつ高密度にすることができる。また,スライスの厚み方向にも超音波音場を制御可能な超広帯域「iDMSプローブ」を用いれば,iBeam Slicing技術によってスライス方向のビーム幅をより細くすることが可能となり,高解像度で鮮明な画像が得られる。当院では,5〜18MHzの「PLI-1205BX」と,8.8〜24MHzの「PLI-2004BX」の超高周波リニアプローブを採用している。さらに,微細血流の検出能が向上するiBeam Formingによる“iSMI(Intelligent Superb Micro-vascular Imaging)”が非常に使いやすくなっている。
このほか,Aplio iシリーズには,Shear wave Elastography(SWE)とStrain Elastographyの2種のエラストグラフィや,iDMSプローブ使用時に断層像のスライス厚を調整し,立体的に広がる微細な血管構造を連続性良く描出する“Slice Thickness Control”などが搭載されている。

甲状腺腫瘍の診断のポイント

『甲状腺超音波診断ガイドブック 改訂第3版』1)では,甲状腺充実性病変の精査基準として,病変サイズが20mm以上では全例,10〜20mmでは悪性疑い症例のみ,5〜10mmでは強く悪性を疑う症例のみにそれぞれ細胞診を行い,5mm以下では全例経過観察を行うとしている。また,日本超音波医学会の「甲状腺結節(腫瘤)超音波診断基準」2)には,悪性所見として,形状:不整,境界:不明瞭粗雑,内部エコー:低レベル・不均質,微細高エコー:多発,境界部低エコー帯:不整/なし,などがある。このうち5〜10mmの結節では,この悪性項目のほとんどが該当する場合を,「悪性を強く疑う」として細胞診を勧める。
症例1(図1)は,甲状腺の右葉の結節であるが,形状は不整,境界は不明瞭粗雑,低エコーがあり内部エコー不均一,微細高エコー多発,境界部低エコー帯なしで,明らかに悪性の所見である。

図1 症例1:甲状腺右葉の結節

図1 症例1:甲状腺右葉の結節

 

症例2(図2)は,血流が多い以外に悪性を疑わせる所見は見られず,良性の可能性が高い。本症例のような画像所見の場合,濾胞癌,濾胞性腫瘍,プランマー病が考えられる。
このように,iSMIを用いることで,血流の詳細な評価が可能となった。iSMIはより広範囲を高フレームレートで,クラッタを低減しつつ微細血流を映像化することができる。

図2 症例2:良性と思われる結節

図2 症例2:良性と思われる結節

 

甲状腺腫瘍の診断におけるエラストグラフィの有用性

エラストグラフィ(組織弾性評価)は,甲状腺腫瘍の診断においても臨床応用が進んでいる。エラストグラフィの手法にはさまざまなものがあるが,Strain ElastographyとSWEの大きく2つに分けることができる。

1.Strain Elastographyの特徴
Strain Elastographyは,用手的加圧あるいは血管などの拍動による組織の歪みの程度を赤〜青のカラーで表示する機能で,組織が硬いほど青く表示され,色の程度や分布に応じてグレード1〜4に分類する1)。甲状腺腫瘍においては,青が多いグレード3,4は有意差を持って圧倒的に悪性であり,グレード1,2はほぼ良性である。また,筋肉をコントロールとした場合の相対的な腫瘍全体の歪み比を,Strain Ratioとして数値で表すことができる。当院の悪性35症例,良性30症例におけるStrain Ratioは,良性が平均0.66±0.25,悪性が平均0.26±0.12で,当院ではカットオフ値を0.4としている。Strain Elastographyの結果は,動画による定性的な判定の結果とも一致しており,使いやすい機能である。

2.SWEの特徴
SWEは,生体の一部にプッシュパルスを送信することにより発生するせん断波が組織内を伝播する速度が,組織の硬さに応じて変化する性質を利用して,組織の硬さを数値で表すことを可能にした機能である。せん断波は組織が硬いと速く,軟らかいと遅く伝播する。せん断波の伝播速度Vs(m/s)と弾性率E(kPa)の間にはE=3ρV2(装置は密度ρ=1として計算)の関係があるので,Vsを測定することにより弾性率EもkPaで表され,硬い場合には高値を示す。そして,ある時間間隔ごとのせん断波の位置を示すデータがPropagation Mapとして表示される。この時,Propagation Mapの線の間隔は,軟らかい物体では速度が遅いため狭くなり,硬い物体では速度が速いため広くなる(図3)。

図3 周囲より硬い物質がある場合のPropagation Map

図3 周囲より硬い物質がある場合のPropagation Map

 

3.症例提示
前述の症例2について,エラストグラフィの画像を提示する。Strain Elasto-graphy(図4)のStrain Ratioは0.41(グレード2)で,かろうじて良性であった。SWE(図5)では,腫瘍部分のPropagation Map(b)の線の幅が狭くなっているが,弾性率を見ると,胸鎖乳突筋の13.8kPaに対して腫瘍部分は11.9kPa(グレード1)であり,筋肉をコントロールとした場合の病変と筋肉の弾性率の比であるSWE indexは0.86であった。なお,当院のSWEは,Strain Elastographyに合わせ硬い組織を青,軟らかい組織を赤と,通常とは逆の色で表示している。

図4 症例2のStrain Elastography

図4 症例2のStrain Elastography

 

図5 症例2のSWEとPropagation Map

図5 症例2のSWEとPropagation Map

 

症例3(図6)は甲状腺乳頭癌で,病変部分は,Strain Elastography(b左)では青く,Propagation Map(b右)では線の間隔が広くなっており,弾性率は110.1kPaと非常に硬いことがわかる。

図6 症例3:甲状腺乳頭癌

図6 症例3:甲状腺乳頭癌

 

われわれは,SWE画像のカラー分布をStrain Elastographyと同様にグレード1(良性)〜4(悪性)に分類している(図7)。SWEの画像は青のコントラストが非常に強いため,比較的判断しやすい。

図7 SWEのグレード分類

図7 SWEのグレード分類

 

症例4の甲状腺腫瘍は,Strain Elastography(図8 a)でグレード3で,Strain Ratioは0.26,SWE(図8 b)では病変が青く,SWE indexは5.4であり,悪性を強く疑われ,細胞診の結果,乳頭癌であった。同腫瘍の外側頸部リンパ部であるが,細胞診でがん細胞は検出されなかったが,iSMI(図9)で内部血流が認められ,強く悪性(転移)が疑われ,切除後,転移が確認された。

図8 症例4:甲状腺乳頭癌のStrain ElastographyとSWE

図8 症例4:甲状腺乳頭癌のStrain ElastographyとSWE

 

図9 症例4のリンパ節のiSMI(内部血流あり)

図9 症例4のリンパ節のiSMI(内部血流あり)

 

SWEの弾性率は組織の硬さが絶対値で表示されるが,再現性の乏しい値であることが知られていた。一方,筋肉の弾性率は安定しているため,筋肉をコントロールとして,当院の良性病変(151症例),境界型病変(13症例),悪性病変(76症例)について,それぞれのSWE indexを算出した(表1)。mean SWE indexは,良性:2.3,境界型:3.3,悪性:4.4と段階的に上昇しており,明瞭に分かれている。カットオフ値は3と4の間ということになるが,4以上であればかなり硬い組織であると判断できる。症例4のSWE indexは5.4と,かなり硬い組織であることから,確実にがんであると判断できる。

表1 SWEの定量値の比較およびSWE index

表1 SWEの定量値の比較およびSWE index

 

リンパ節転移の超音波診断

1.超音波による質的診断の重要性
リンパ節転移は特に若年者に多い。成人でリンパ節転移が疑われればすぐに細胞診を行うが,若年者の場合は生理的に甲状腺が腫脹していることが多く,全例に細胞診を行うことはできないため,超音波にて存在診断はもとより質的診断が行えることが望ましい。
小児甲状腺がんについて理解しておくべきポイントをまとめると,乳頭癌が大半,両側例・ハイリスク例以外は片葉切除を行う,放射性ヨウ素(RAI)治療が行われていないことが多い,血中サイログロブリン(Tg)のフォローが不十分,生理的腫脹が多い,成人より細胞診のハードルが高い,リンパ節腫脹が多い,超音波での検索,特にリンパ節の観察がより求められる,などが挙げられる。

2.リンパ節転移の超音波所見に対する検討
甲状腺乳頭癌のリンパ節転移の診断能について,さまざまな超音波所見の感度と特異度を見た研究では,腫大リンパ節のサイズなどが良好な診断能を有していることが報告されている3)。そこで,われわれはAplio i800を用いて,当院の平均20歳の良悪性145症例を対象に,小児・若年者甲状腺がんの術前・術後リンパ節の超音波所見について,上記の報告と同様の項目で検討を行った。

1)検討項目
検討項目は,腫大リンパ節のサイズ(短軸方向,長軸方向),長軸/短軸(L/S),高エコーリンパ門の消失の有無,内部低エコー,内部点状高エコー(石灰化),嚢胞変化,周辺の血流増加,さらに,Strain Elastography,SWEによる硬さの評価である。

2)結果
良性については性差はないが,悪性は若干女性に多かった。腫瘍サイズは6mmを超えると悪性と言われるが,実際に悪性では,短軸方向が7.1mm(5mm以上が78%),長軸方向が10.9mm(10mm以上が50%)であった。また,悪性では,L/S<2が89%,リンパ門の消失が89%,内部低エコーが100%,内部点状高エコー(石灰化)が67%,嚢胞変化が33%,周辺の血流増加が78%に見られ,前述の報告3)とほぼ同様の結果であった。

3.症例提示
症例5は,甲状腺乳頭癌症例である。左#Vbのリンパ節にリンパ門の一部消失と充実部分が認められ,転移が疑われた。ADFにて充実部分に血流と高エコーが見られ,エラストグラフィではStrain Ratioが0.3(図10),Propagation Mapでは線の間隔が広く(図11),非常に硬い組織であり,リンパ節転移であることは明らかである。

図10 症例5(22歳,女性):甲状腺乳頭癌症例のリンパ節のStrain Elastography

図10 症例5(22歳,女性):甲状腺乳頭癌症例のリンパ節のStrain Elastography

 

図11 症例5のSWE(左)とPropagation Map(右)

図11 症例5のSWE(左)とPropagation Map(右)

 

症例6は甲状腺乳頭癌術後4年目の精査である。内部に囊胞成分を伴うリンパ節腫大があり(図12 a),iSMI(図12 b)とADF(図12 c)にて内部に少量の血流が認められ,リンパ節転移であった。

図12 症例6(19歳,男性):甲状腺乳頭癌のリンパ節転移

図12 症例6(19歳,男性):甲状腺乳頭癌のリンパ節転移

 

4.小括
小児・若年者甲状腺がんの術前・術後診断には,超音波によるリンパ節転移の鑑別診断が重要である。若年者では生理的(良性)リンパ節腫脹が多く,なるべく細胞診を行わずに質的診断をできることが望ましい。リンパ門の消失,嚢胞の有無,低エコー,点状高エコー,血流亢進,厚み5〜6mm以上,L/S<2が重要であり,Strain ElastographyやSWEも有用性が期待される。さらに,鑑別不能な場合には,細胞診や穿刺Tg測定を行い,若年者では術中迅速診断も考慮すべきである。

まとめ

甲状腺結節の診断は超音波がきわめて有用であり,Bモード,そしてドプラ法(ADF,iSMI含む)やエラストグラフィ(Strain Elastography,SWE)と,1台の超音波機器でいくつものアプリケーションを備えたAplio i800は,甲状腺診療においても威力を発揮している。

●参考文献
1)甲状腺超音波診断ガイドブック 改訂第3版,2016.
2)日本超音波医学会用語・診断基準委員会・他, 超音波医学, 38(1): 27-30, 2011.
3)Leboulleux, S., et al., J. Clin. Endocrinol. Matab., 92(9): 3590-3594, 2007.

 

鈴木 眞一(Suzuki Shinichi)
1983年 福島県立医科大学医学部医学科卒業。1990年 医学博士取得。米国カリフォルニア州サンディエゴBurnham研究所客員研究員,福島県立医科大学附属病院教授/乳腺・内分泌・甲状腺外科部長,同大学医学部器官制御外科学講座教授などを経て,2013年〜同医学部甲状腺内分泌学講座主任教授/同大学付属病院甲状腺・内分泌外科部長(現職),長崎大学客員教授(〜2018年3月まで)。2018年〜同大学医学部外科部門部門長。2019年〜同大学国際交流センター副センター長。その他,福島県災害医療調整医監,福島医科大学放射線医学県民健康管理センター臨床部門副部門長(甲状腺検査担当),一般社団法人日本内分泌外科学会理事長,一般社団法人日本乳腺超音波医学会前理事長などを歴任。

 

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