セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

2019年5月24日(金)〜26日(日)の3日間,日本超音波医学会第92回学術集会など超音波関連の4つの学会・研究会によるUltrasonic Week 2019がグランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)を会場に開催された。26日に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー12では,大阪大学大学院医学系研究科/保健学専攻機能診断科学講座の中谷 敏氏が座長を務め,聖マリアンナ医科大学循環器内科の出雲昌樹氏と筑波大学医学医療系臨床検査医学の石津智子氏が,「知っていますか? Aplio i-seriesの魅力〜心エコー編〜」をテーマに講演を行った。

2019年9月号

Ultrasonic Week 2019ランチョンセミナー12 知っていますか? Aplio i-seriesの魅力 〜心エコー編〜

SHD診断と治療へのアプローチ

出雲 昌樹(聖マリアンナ医科大学循環器内科)

近年,structural heart disease(SHD:構造的心疾患)に対するカテーテル治療が広く普及している。その代表例が,大動脈弁狭窄症(aortic stenosis:AS)への経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)や,僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation:MR)に対する「MitraClip NTシステム」(アボット社製)を用いた経皮的僧帽弁形成術(MitraClip治療)である。
本講演では,キヤノンメディカルシステムズの超音波診断装置「Aplio i-series」の2D/3D経食道心エコー(TEE)を用いたSHDの診断・治療について,当院での経験を踏まえて報告する。

TAVIにおける術中エコー

1.TAVI術中エコーの心得と利点
TAVIは現在,国内160以上の施設で行われており,大部分の施設では全身麻酔下で術中TEEを実施している。TAVI術中エコーにおいて,超音波診断を担当する医師・技師(以下,エコー医)が持つべき3つの心得があると考える。
1つ目は「有事に備える」で,TAVI合併症は,現在使用されるデバイスではほとんど発生しないが,忘れた頃にやってくるため,パトロールを怠らず常に備えることが必要である。2つ目は「攻めのエコー」で,エコー医は手技の流れを理解し,起こりうる事態を事前に察知して,術者が想定する以上の情報を提供することが,術者の信頼を得る上でも重要である。3つ目は「堪えるエコー」で,基本的に術者はCT画像と透視画像を信じて手技を行い,困った時にエコーを頼るが,われわれはそれに堪えて,役割を果たすことが大切である。
Aplio i-seriesのTEEプローブはX線が透過し,透視を妨げないという他社製装置にはないメリットがある(図1)。これにより術者は,ストレスなく手技に集中することができる。
TAVIにおいて全身麻酔下で術中TEEを行う最大の利点は,合併症を早期発見できることである。全体が見えるようにDepthを深く設定し,TAVI人工弁の位置,aortic valve complex周囲の破裂の有無や上行大動脈解離の有無,ワイヤ位置を確認し,さらに心嚢水,左室壁運動,MRをチェックする。より致死的な合併症につながる可能性があるポイントを確認することが,エコー医に求められている。

図1 X線を透過するAplio i-seriesのTEEプローブ

図1 X線を透過するAplio i-seriesのTEEプローブ

 

2.弁輪面積計測
TAVIの弁輪面積計測は,CTがゴールドスタンダードであり,CTによるバルブ選択が術後の大動脈弁逆流(AR)を減少させるという検討1)や,中等度以上の弁周囲逆流(PVR)の予測はCTが最も良いとする検討2)が報告されている。一方で,経験値によりCTでの人工弁サイジング一致率に差が生じるとの報告3)もある。また,3D TEE,CT,MRIで大動脈弁輪計測を比較した検討4)では,MRIが最も正値に近く,CTは過大評価,3D TEEは過小評価となることが報告されている。
術前の弁輪計測においては,短径計測となる2D〔経胸壁心エコー(TTE)/TEE〕は過小評価となり,3D TEEもCTと比べると若干過小評価となることを念頭に置く必要がある。当院では重篤な合併症を予防するため,CTで計測した弁輪面積の妥当性を術中TEEで確認し,差がある場合には3D TEEおよびCTで再計測している。

3.zero contrast TAVIとデバイスの進化
当院では,eGFR<30の症例は造影CTを撮影しない。そのため,これまでにTAVIを実施した350例中25例で,造影CTを行わずにマルチモダリティを駆使して術前評価を行うzero contrast TAVIを行っている。単純CTで石灰化分布とaortic valve complex,3D TEEで弁輪面積,MRIでaortic valve complexやアクセスルートを確認しており,実施した25例は問題なく治療を完遂している。
zero contrast TAVIを可能にする大きな要因が,人工弁デバイスの進化である。シースの細径化はもとより,ステントの網目がより細く密になり,柔軟性が向上したことで,弁輪破裂などの致死的な合併症が大きく減少している。TAVI用人工弁「SAPIEN」(エドワーズライフサイエンス社製)の臨床試験であるPARTNERⅠ試験およびPARTNER II試験では,術後30日の全死亡率が,試験開始当初の6.3%から最新デバイス(SAPIEN 3)では1.6%へと,約1/4に低下している。なお,当院における術後30日以内死亡率は0.85%と低く,安全にTAVIを提供できている。
術中TEEは,合併症の予防だけでなく,弁輪計測の精度担保に有用である。さらに,術中TEE を用いたzero contrast TAVIにより,腎機能が低下した患者への治療適応が広がる。3D TEEでの弁輪計測は,複雑で慣れるまでに時間を要するが,実績を重ねて術者の信頼を得ることで,より安全なTAVIの提供に貢献できるだろう。

4.Aplio i-seriesの大動脈弁解析ソフトウエア
Aplio i-seriesに,大動脈弁解析ソフトウエア“Aortic Valve Analysis”が搭載可能となった(図2)。大動脈弁の断面設定では,操作パネルのつまみの回転操作だけで表示角度を変えることができ,短軸・長軸の模式図も表示されるため,どこを動かしているのか理解しやすい。トレースラインは,ワンボタンで自動解析でき,非常に有用である。ただし,トレースラインの解析においては,横方向は見えにくい場合が多いため,弁輪部1断面だけでなく,左室側に位置をずらしながら左室の連続性を見て設定することが重要である。
また,本ソフトウエアには,生体弁の種類・サイズを選択すると弁輪径や弁輪面積の目安を示す機能も実装されており,エコー医を強力にサポートする。

図2 大動脈弁解析ソフトウエアAortic Valve Analysis

図2 大動脈弁解析ソフトウエアAortic Valve Analysis

 

術中ガイドにAplio i900を用いたMitraClip治療

2018年4月に保険収載されたMitraClipは,現在国内59施設で導入され,すでに約1000例のMitraClip治療が実施されている。当院でも2018年4月にMitraClip治療を開始し,術前スクリーニングにAplio i-seriesの3D TEEを用いてきた。その間にも,術中ガイドとしての使用をめざしてキヤノンメディカルシステムズと技術開発を進め,2019年4月に世界で初めて「Aplio i900」を術中ガイドに用いたMitraClip治療を実施した。現在行われているカテーテル治療の中では,MitraClip治療が術中ガイドエコーに求める正確性や画質のレベルが最も高く,Aplio i900が,その要求に応えられるかを実証した。

1.術前評価
症例は70歳代,男性,機能性MRで,繰り返す心不全によりMitraClip治療の適応となった。演者は,複数の診療科によるハートチームのカンファレンスにおいて,2D TEEの断面の角度がわかりやすいように僧帽弁の模式図とともに示している(図3)。Aplio i900では,2D画像,カラードブラ共に明瞭な画像を得られ,MRの評価にも十分に有用であった。また,Aplio i900では3D TEEを用いた僧帽弁解析ソフトウエア“Mitral Valve Analysis”を利用でき,弁輪面積やtenting height,tenting volumeなどを容易に計測することができる(図4)。
機能性MRに対するMitraClip治療は,coaptation length(前尖と後尖の接合長)2mm以上,coaptation depth(tenting height+coaptation length)11mm未満が良い適応となるため5),術前に必ず計測している。本症例のcoaptation lengthは約2.3mmであり,MitraClip治療適応と判断した。

図3 MitraClip治療カンファレンスにおける2D TEEの提示

図3 MitraClip治療カンファレンスにおける2D TEEの提示

 

図4 僧帽弁解析ソフトウエアMitral Valve Analysis

図4 僧帽弁解析ソフトウエアMitral Valve Analysis

 

2.術中TEE
当院では,3D TEEによるMitraClip術中ガイドにおいてtrue bi-commissure view(僧帽弁を真横から見た表示)を重視している。教科書には,僧帽弁のbi-commissure viewの角度は45〜60°と記載されているが,実際は症例によってまったく異なる。Aplio i900の3D TEEでは2Dの断面ラインと角度が表示されるため,本症例の場合は,true bi-commissure viewの角度は87°と把握できる(図5 右)。また,bi-commissure viewの設定においては,3D画像の回転操作で2D角度の変更が可能で,術中にストレスなくtrue bi-commissure viewを設定することができる(図6)。

図5 術中TEE:true bi-commissure viewの設定

図5 術中TEE:true bi-commissure viewの設定

 

図6 Aplio i-seriesではストレスのないtrue bi-commissure view設定が可能

図6 Aplio i-seriesではストレスのないtrue bi-commissure view設定が可能

 

MitraClip治療では,大腿静脈アプローチで右房から左房へと卵円窩の中隔穿刺を行う。この際,クリップ留置操作のスペースを確保するため,僧帽弁から卵円窩までの高さを4cm以上とする必要がある。この計測は2Dでも可能だが,より正確を期すため,当院では3Dでも確認している。3Dではlateral側からmedialを見るviewで,卵円窩の穿刺位置を確認している。本症例は,卵円窩最上部で高さ4.5cmとなるため,卵円窩の上の方を穿刺する必要があることがわかる(図7)。

図7 術中TEE:当院における2Dと3Dによる中隔穿刺部位の確認(W.I.P.)

図7 術中TEE:当院における2Dと3Dによる中隔穿刺部位の確認(W.I.P.)

 

中隔穿刺を行い,左房内にクリップを進入させた後は,2Dのmulti-planeでtrue bi-commissure viewと長軸像の直交2断面を表示し,クリップの位置を確認しながら慎重に僧帽弁に近づけていく(図8 a)。クリップがターゲットに近づいたら,僧帽弁の前尖・後尖に対してクリップが垂直になっているかを3Dで確認する(図8 b)。

図8 術中TEE:クリップポジションの確認

図8 術中TEE:クリップポジションの確認

 

僧帽弁尖の把持においても,true bi-commissure viewでクリップのグリッパーダウンをしっかりと確認する。僧帽弁の把持を確認できないと,適切なクリップ留置ができなかったり,片弁のみの把持(SLDA)という不具合につながったりするため,確実なガイドで,術者に確認してもらうことがきわめて重要である。
留置後に2Dでクリップの状態を,3Dで僧帽弁が8の字状になっていることを確認する(図9)。本症例は,クリップを2つ留置後,3Dカラードプラで残存MRの程度に問題がないことを確認できた(図10)。
術後にMitral Valve Analysisで解析し,弁輪面積などを治療前と比較することができるため,術者へのフィードバックにおいても有用である。

図9 クリップ留置後の確認

図9 クリップ留置後の確認

 

図10 クリップ留置前後の3Dカラードプラ

図10 クリップ留置前後の3Dカラードプラ

 

まとめ

キヤノンメディカルシステムズは,超音波診断装置の開発においてSHDへのアプローチにも注力しており,Aplio i-seriesで利用可能な大動脈弁/僧帽弁の解析ソフトウエアは,エコー医の大きな力となっている。今回,当院において,現在のカテーテル治療の中でエコーの責務が最も重いMitraClip治療を,Aplio i900による術中ガイドで完遂することができた。同社は,海外メーカーと競り合える3D TEEを有する唯一の国内メーカーであると言え,今後もエコー医をサポートするような技術開発に期待したい。

●参考文献
1)Hayashida, K., et al., EuroIntervention, 8・5, 546〜555, 2012.
2)Jilaihawi, H., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 61・9, 908〜916, 2013.
3)Le Couteulx, S., et al., Diagn. Interv. Imaging, 99・5, 279〜289, 2018.
4)Tsang, W., et al., Heart, 98・15, 1146〜1152, 2012.
5)Feldman, T., et al., J. Am. Coll. Cardiol., 54・8, 686〜694, 2009.

 

出雲 昌樹(聖マリアンナ医科大学循環器内科)

出雲 昌樹(Izumo Masaki)
2004年 聖マリアンナ医科大学医学部卒業。2010年〜Cedars-Sinai Medical Centerにて2年間留学。2017年〜聖マリアンナ医科大学循環器内科講師。

 

 

TOP