セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第83回日本循環器学会学術集会が2019年3月29日(金)〜31日(日)の3日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)にて開催された。30日(土)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー30では,島根大学医学部内科学講座内科学第四教授の田邊一明氏を座長に,岡山大学病院循環器内科超音波診断センター助教の高谷陽一氏と仙台厚生病院心臓血管センター循環器内科医長の桜井美恵氏が,「マルチモダリティ診療におけるエコーとMRIの役割」をテーマに講演した。ここでは,高谷氏の講演内容を報告する。
2019年6月号
第83回日本循環器学会学術集会ランチョンセミナー30 マルチモダリティ診療におけるエコーとMRIの役割
Fusionイメージングを活かす治療戦略
高谷 陽一(岡山大学病院循環器内科超音波診断センター)
キヤノンメディカルシステムズ社製超音波診断装置「Aplio iシリーズ」のアプリケーション“Smart Fusion”は,事前に撮像したCTやMRIの画像とリアルタイムの超音波画像を超音波診断装置のモニタ上に並列表示し,断面を連動して評価するFusionイメージング機能である。Fusionイメージングを用いることで,CTの優れた空間・位置分解能と,超音波によるリアルタイムな血行動態評価や繰り返し評価という,それぞれの利点を同時に享受することができる。心エコーにおいて,Fusionイメージングが最も有用性を発揮するのは成人先天性心疾患(ACHD)であるが,われわれは,同社の画像解析ワークステーション「Vitrea」にて心エコーと心臓CTの情報をFusionする“US Cardiac Fusion”の冠動脈疾患への応用についても検討を行っている。本講演では,ACHDと冠動脈疾患におけるFusionイメージングの活用について報告する。
ACHDの現況とFusionイメージングの有用性
ACHDの患者は年間1万人ほどのペースで増加しており,われわれが診断する機会も増えている。ACHDは心形態が複雑で心エコーでの評価が困難なため,通常は事前に撮影されたCT画像を確認し,三次元的な形態を把握してから心エコーに臨む。一方,Fusionイメージングでは,あらかじめ超音波診断装置に取り込んだCTやMRIのボリュームデータを,プローブに取り付けた磁気センサを利用して超音波画像と連動させることで,CTの断面を自由自在に切り出して血管の状態などを把握しつつ,エコーで血流の評価を行うといったことが同一画面上で容易に可能となる。ACHDの評価にはFusionイメージングが特に有用であり,診断をストレスなく行うことができる。
症例1は,40歳,女性,修正大血管転位症のRastelli術後である。意識消失の原因精査で当院紹介となった。LV-PA conduit(Rastelli管)内の狭窄が疑われたが,心エコーでは手術の影響でエコーウインドウが制限されていた。狭窄が疑われる部位の連続波ドプラ最大血流速度(V peak)は3.5m/sと数値上は中等度狭窄であるが,計測箇所が不明確であり診断が困難であった。そこで,CTとのFusionイメージングを行ったところ,CTにて心エコーで評価した箇所よりも中枢側に狭窄病変が認められ,再度行った血流評価でRastelli管内はV peak 4.5m/sの高度狭窄であることが確認できた(図1)。後日,左室−肺動脈導管再建術を施行した。
冠動脈疾患へのFusionイメージングの活用
経皮的冠動脈形成術(PCI)の適応を評価するためには,心臓CTや冠動脈造影検査(CAG)による形態評価に加えて,心筋虚血の評価を行うことが必須である。虚血の評価方法には,心筋SPECTや冠血流予備量比(FFR),瞬時血流予備量比(iFR)などがあるが,コストや侵襲性が高い,検査に手間がかかるといった課題がある。そこで,より簡便かつ低コスト・低侵襲で実施可能な方法として,Fusionイメージングの虚血評価への活用について検討を行った。
虚血評価に当たっては,壁運動異常を客観的に評価するために,キヤノンメディカルシステムズ社製超音波診断装置の3D壁運動解析アプリケーション“3D-Wall Motion Tracking(3D-WMT)”を用いた。3D-WMTは,心臓を三次元的に観察できるほか,断面依存性がない,2D解析で問題となるthrough-plane現象を克服できる,範囲をイメージしやすいなどのメリットがある。一方,スペックルトラッキングでの虚血評価の指標として,ストレインの低下,area change ratio(ACR)の低下,post-systolic shortening(PSS)の有無などが報告されているが,いずれも心筋虚血に特異的ではないという課題があり,超音波だけでは判断が難しかった。
そこで,われわれは,3D-WMTと心臓CTの情報を組み合わせたUS Cardiac Fusion(図2)を用いることで,3D-WMTのpolar mapと冠動脈の走行が一致すれば虚血の範囲を可視化でき,診断の可能性が高まると考えた。さらに,責任血管の同定や,血行再建の治療戦略の決定にも有用性が期待できる。本検討では,3D-WMTの指標はdyssynchrony imaging-area change ratio(DI-AC)を用い,3D-WMTの面積変化率のピーク到達時間と収縮の遅れを赤(遅れ)〜緑(正常)で特異的にマッピングすることで虚血を評価した(図3)。
●症例提示
実際の症例で,3D-WMTでも2D心エコーと同等に壁運動異常を評価可能か,かつUS Cardiac Fusionでの心臓CTの冠動脈走行とpolar mapが一致しているかを確認した。
症例2は,69歳,女性,陳旧性心筋梗塞(OMI)である。心臓CTにて右冠動脈(RCA)の慢性完全閉塞(CTO)を認め,左回旋枝(LCX)midにも狭窄が疑われ,CAGでも同様の所見であった。2D心エコーでは下壁に壁運動異常が認められた。3D-WMTを見ると,2D心エコーで指摘された壁運動異常が明瞭で(図4),US Cardiac Fusionでもpolar mapと冠動脈の走行が一致し(図5),RCA領域に虚血が認められ,OMIをしっかりと評価できた。US Cardiac Fusionを用いれば,虚血領域と責任血管を評価できる可能性は十分にあると考えられる。
次に,中等度狭窄における虚血評価として,ドブタミン負荷心エコーを用いたUS Cardiac Fusionについて検討した。この時,心拍数が上昇しても3D-WMTにて心内膜面をトレース可能であるかも含めて評価した。
症例3は,73歳,女性,労作性狭心症(EAP)である。心臓CTにて左前下行枝(LAD)midに狭窄を認め,proximalにも狭窄が疑われた。2D心エコーでは,ドブタミン負荷前後ともに壁運動異常は認めなかった。3D-WMT(図6)では,ドブタミン負荷後(b)でも問題なく心内膜面がトレースされ,明らかな壁運動異常が認められた。US Cardiac Fusion(図7)では,ドブタミン負荷後の画像(b)にてLAD midの領域に加え(▶),proximal(▶),対角枝領域にも虚血が認められた。CAGでも同部位に有意狭窄を認め,PCIを施行した。
症例4は,71歳,男性。急性非代償性心不全,左室機能不全,下壁OMI,重度の僧帽弁閉鎖不全症(MR),心房細動,腎不全があり,強心薬投与,持続的血液濾過透析を行っている症例である。CAGでは,RCA#2にCTO,LAD midに有意狭窄があり,iFRで虚血を認めた。LADに対するPCIに異論はないが,RCA(CTO)は前医で2回PCI不成功であり,治療の必要性を含めて議論を要した。CTとドブタミン負荷心エコーのUS Cardiac Fusionを施行したところ(図8),ドブタミン負荷後(b)では,LAD領域に虚血が出現し,RCA領域においては安静時と比較して虚血の範囲の増大を認めた。心不全加療を行う上でRCA(CTO)へのPCIは必要であると判断し,本症例はLADならびにRCAにPCIを施行した。治療後,心不全は軽快し,左室拡大も改善し,MRも中等度から軽度へ減少した。強心薬,透析の離脱も可能になった。
US Cardiac Fusionの今後の展開
US Cardiac Fusionによる心筋虚血評価の可能性については,今後も検討を重ねていく必要がある。経胸壁3D超音波プローブや3D-WMTのさらなる精度向上,虚血評価の指標の検討,冠動脈の中等度〜高度狭窄においてSPECTやFFR/iFRにどこまで迫れるか,などについても検討が必要である。
その上で,US Cardiac Fusionには,心エコー図と心臓CTのみで簡単に施行できる,リアルタイムにいつでも繰り返し評価できるなど多くのメリットがある。冠動脈疾患において,冠動脈狭窄の評価はもとより,虚血性心筋症に対する総合的な治療戦略を検討する上でも,US Cardiac Fusionは非常に有用と考える。
まとめ
Fusionイメージングを用いることで,ACHDの心エコー図の評価を正確に行うことが可能となり,臨床的にきわめて有用である。また,冠動脈疾患においては,心筋虚血を視覚的にイメージしやすく,治療戦略を検討する上で非常に有効な可能性がある。
高谷 陽一(Takaya Yoichi)
2004年 岡山大学医学部卒業。2012年より現職。ASDなどstructure heart diseaseのカテーテル治療に携わりながら超音波画像診断を行う。
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