セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
日本超音波医学会第91回学術集会が,2018年6月8日(金)〜10日(日)の3日間,神戸国際会議場(兵庫県神戸市)などを会場に開催された。10日に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー14では,和歌山県立医科大学循環器内科の赤阪隆史氏が座長を務め,聖マリアンナ医科大学循環器内科の出雲昌樹氏と東住吉森本病院循環器内科の宮崎知奈美氏が,「キヤノンメディカルシステムズが提供する心エコー装置の新たな展開2018」をテーマに講演を行った。
2018年10月号
日本超音波医学会第91回学術集会ランチョンセミナー14 キヤノンメディカルシステムズが提供する心エコー装置の新たな展開2018
キヤノンメディカルが切り拓くSHDの未来
出雲 昌樹(聖マリアンナ医科大学循環器内科)
Structural heart disease(SHD:構造的心疾患)のインターベンションが近年,注目されている。SHDは,経皮的冠動脈形成術(PCI)の適応となる冠動脈疾患以外の循環器疾患を指す言葉で,SHDの治療として,以前から経皮経静脈的僧帽弁交連切開術(PTMC)や経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)などが行われてきた。最近では,大動脈弁狭窄症への経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)や,僧帽弁閉鎖不全症への「MitraClip NTシステム」(アボット社製)を用いた経皮的僧帽弁形成術(MitraClip治療)などが行われるようになっている。
SHDへのインターベンションが臨床にもたらす変化の一つに,直接組織を見ることなく画像診断のみでデバイスのサイズ決定や合併症の予測を行うことが挙げられる。特にTAVIでは,術中にきわめて重篤な合併症が起こりうることから,より詳細な術前評価と迅速な術中評価が求められる。また,もう一つの変化として,複数の診療科がハートチームを構築し,合同で治療に当たることが挙げられる。高齢者の多いSHDの治療では,多くのスタッフの連携と,より慎重な治療法選択が求められる。そして,超音波診断を担当する医師・技師は,イメージングスペシャリストとしてハートチームにかかわっていくことが重要である。
キヤノンメディカルシステムズの超音波診断装置「Aplio i-series」には,心機能評価のための優れた機能が搭載されているが,近年,特に3D経食道心エコー(3D TEE)の進化が著しい。本講演では,3D TEEの使用経験を中心に,症例を踏まえて報告する。
大動脈弁狭窄症のTAVIにおける3D TEEの有用性
症例1は,89歳,女性,NYHA分類 Ⅲ度,STS score 6.1%で,経胸壁心エコーでは弁口面積 0.37cm2,最大血流速度 6.6m/s,平均圧較差 111mmHg,左室駆出率(LVEF)74%と,重度の大動脈弁狭窄症である。TAVI術前にTEEにて弁輪径を計測し,大動脈弁閉鎖不全症の有無を確認するが,左室流出路は楕円形のため2Dのみでは不十分である。弁輪面積の術前計測においてはCTがゴールドスタンダードであるが,当院では,全身麻酔下であれば必ず術中に3D TEEを用いて弁輪面積を計測し,perimeter(外周長)も参考にしている。
2D TEE長軸像では弁輪径は短径16.7mmであり(図1 a),3D解析をしたところ,弁輪面積は400mm2と術前CTでの計測値(393mm2)とほぼ同等で,perimeterも3D TEEが74mm,CTが70mmとほぼ差がなかった(図2)。なお,進化したTEEでは,2Dカラードプラの表示が非常にきめ細かくなっている(図1 b)。
TAVIの実施に当たり,本症例では自己拡張型の人工弁「コアバルブEvolut R」(日本メドトロニック社製)を使用した。Evolut Rにはサイズが23mm,26mm,29mmの3種類あり,前述のperimeterの値から26mmを選択した。当院ではゴールドスタンダードであるCTだけでなく,必ずマルチモダリティでの計測結果を参照するが,これはCTでの経カテーテル人工弁(THV)サイジング一致率にもラーニングカーブが存在するためである1)。そのため,TAVIの初期段階,特に最初の50症例程度までは,われわれは必ず3D TEEを実施することを推奨している。当院ではCTと3D TEEで10%以上の誤差が生じた場合は術中に再計測を行っており,本症例では実際に,この新しい3D TEEにてCTと遜色のない計測が可能であることが確認できた。
人工弁を展開するに当たり,キヤノンメディカルシステムズの3D TEEプローブがインターベンション医に高く評価された。他社製プローブでは,X線透視による弁輪部の描出を妨げることがあったが,本プローブはX線が透過し(図3),透視を妨げないためである。これにより,術中にもエコー画像でしっかりとガイドすることが可能となった。
人工弁留置後の弁周囲逆流(PVL)の評価に当たっては,multi-plane表示が可能な3D TEEプローブで直交二断面を同時に描出可能であり,カラードプラの短軸像および長軸像でPVLの状況を確認することができる(図4)。また,流出路のmulti-plane画像で人工弁の拡張状況も確認可能であり,本症例では一部拡張不良が認められ,後拡張が必要と判断された。後拡張後のmulti-plane画像では,長軸像でPVLが大幅に減少していることが確認できた(図5)。
本症例は,キヤノンメディカルシステムズの3D TEEを用いることで,TAVIを安全に完遂し得た。
僧帽弁閉鎖不全症のMitraClipスクリーニングにおける3D TEEの有用性
3D TEEで僧帽弁閉鎖不全症のカラードプラ画像を確認したところ,良好な画像が得られたことから,MitraClip治療の術前スクリーニングにも使用可能と考えた。MitraClip治療の術前スクリーニングは,3D TEEで最も詳細な評価が求められる検査の一つと考えている。
MitraClip治療は,術前評価,術中ガイド,術後評価,長期経過観察のいずれにおいても超音波検査が重要であり,なかでも術前の適応評価はきわめて重要である。MitraClip治療はTAVI同様に低侵襲のため体外循環を行う必要がなく,安全かつ簡便である。また,beating下での治療効果判定も可能なほか,クリップの複数回把持が可能な点も大きな利点である。
当院では,MitraClip治療が保険収載された2018年4月に治療を開始し,週1回のペースで6月までに7例に対して施行している。患者の平均年齢は74歳,平均STS scoreは17.6%とハイリスクで,平均左室駆出率も低く,いずれも手術不適応である。7例のうち6例は機能的僧帽弁閉鎖不全症,1例は僧帽弁逸脱もあるミックスタイプであった。MitraClip治療の最も良い適応2),3)は,病変が僧帽弁の中央にある,弁尖の石灰化なし,僧帽弁口面積(MVA)4cm2以上,後尖長10mm以上,flail gap 10mm以下かつflail width 15mm以下の症例である。さらに,機能的僧帽弁閉鎖不全症では,coaptation lengthが2mm以上,tenting heightが11mm未満の方が治療しやすいため,術前にはTEEによるこれらの評価が求められる。なお,Mitra Clip治療は,これまでに世界で6万例以上施行されているが,約7割が機能的僧帽弁閉鎖不全症である。
症例2は,50歳,男性で,非虚血性心筋症のほか,二尖弁のため数年前に大動脈弁置換術(AVR)を施行されており,最近になって心不全を繰り返すことから当院を受診した。
通常,機能的僧帽弁閉鎖不全症ではTEEで僧帽弁の描出が不明瞭なことが多いが,Aplio i-seriesの3D TEEでは,本症例を明瞭に描出できた。同社の“Mitral Valve Analysis”ソフトウエアはトラッキング性能が優れており,弁尖の追跡も良好で,時相ごとに計測結果が表示される。本症例の僧帽弁テザリングを見ると,tenting heightが9.3mmと11mm未満であるが(図6),MPR画像上で実際にクリップする僧帽弁の中央を計測したところ,tenting heightは15mm,coaptation lengthは1.7mmであった。一方,後尖長は15mmと長さは十分に保たれていた。また,MVAをMPR画像上で計測するのは困難であるが,本ソフトウエアでは自動で解析されるため,きわめて有用である。本症例は,4.22cm2と十分な面積を有していた。3Dカラードプラの描出も良好であり(図7),病変は中央からlateral側に多く,medial側には少ないことがわかった。
以上から,本症例はtenting heightとcoaptation lengthがMitraClip治療の適応条件を満たしておらず,治療がやや困難と考えられるため,もう少し症例を重ねてから治療を行う方針とした。
本ソフトウエアでは,きわめて多くの計測を自動で行っているが,われわれはそれらの中から,普段よく使用する計測値を選択して表示するようにしている。特に,僧帽弁輪の高さは3Dでしか得られない値であり,僧帽弁逆流の状態などをしっかり確認でき有用である。
“Smart Fusion”によるSHDの右室評価
近年,TAVIやMitraClip治療後の予後に右心機能が関連することが報告されている4),5)。
心エコーによる右室の評価に当たっては,RV Focus Viewで右室の最大径を測定する必要があり,2Dエコーのみで最大径を測定できているかを確認するのは困難である。MitraClip治療後の症例の4 chamber viewをMR画像とフュージョンさせて確認したところ,やはり最大径は描出できておらず,3Dで確認すると右室の端の方が切れていた。そこで,RV Focus Viewに切り替えてみたところ,本症例では最大断面がしっかりと描出され,きわめて有用であった(図8)。
一方,RV Focus Viewでも最大断面が描出できない症例もあるが,そのような場合は同社独自のSmart Fusionを用い,CTやMRIの画像をガイドとしてプローブの位置を調整することで,右室の最大断面を良好に描出可能となる(図9)。同一症例における撮像断面による右室基部径を比較すると,4 chamber viewでは20mm,RV Focus Viewでは25mm,CTガイドの画像では33mmと大幅にサイズが異なっており(図10),Fusion Imagingで右室の最大断面をしっかりと確認することが重要であると考えられた。
まとめ
キヤノンメディカルシステムズのAplio i-seriesは,近年,3D TEEやFusion Imagingの技術が大きく進歩している。さらなる技術の進歩に期待するとともに,われわれもその進歩に追いついて,SHDの未来を切り拓いていきたい。
●参考文献
1)Le Couteulx, S., et al. : Multidetector computed tomography sizing of aortic annulus prior to transcatheter aortic valve replacement (TAVR); Variability and impact of observer experience. Diagn. Interv. Imaging, 99・5, 279〜289, 2018.
2)Boekstegers, P., et al. : Percutaneous interventional mitral regurgitation treatment using the Mitra-Clip system. Clin. Res. Cardiol., 103・2, 85〜96. 2014.
3)Feldman, T., et al. : Percutaneous mitral repair with the MitraClip system ; Safety and midterm durability in the initial EVEREST (Endovascular Valve Edge-to-Edge REpair Study)cohort. J. Am. Coll. Cardiol., 54・8, 686〜694, 2009.
4)Asami, A., et al. : Prognostic Value of Right Ventricular Dysfunction on Clinical Outcomes After Transcatheter Aortic Valve Replacement. JACC Cardiovasc. Imaging, 2018(Epub ahead of print).
5)Kaneko, H., et al. : Prognostic Significance of Right Ventricular Dysfunction in Patients With Functional Mitral Regurgitation Undergoing MitraClip. Am. J. Cardiol., 118・11, 1717〜1722, 2016.
出雲 昌樹(Izumo Masaki)
2004年 聖マリアンナ医科大学医学部卒業。2010年〜Cedars-Sinai Medical Centerにて2年間留学。2017年〜聖マリアンナ医科大学循環器内科講師。
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