セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第77回日本医学放射線学会総会が2018年4月12日(木)〜15日(日)の4日間,パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)で開催された。14日(土)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー11では,国際医療福祉大学学長の大友 邦氏が司会を務め,大阪大学大学院医学系研究科放射線医学教授の富山憲幸氏,広島大学大学院医歯薬保健学研究科放射線診断学研究室教授の粟井和夫氏,慶應義塾大学医学部放射線科学教室教授の陣崎雅弘氏が,「次世代CT / 技術による臨床最前線」をテーマに講演を行った。
2018年7月号
第77回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー11 次世代CT / 技術による臨床最前線
次世代CT:胸部CT診断における進歩
富山 憲幸(大阪大学大学院医学系研究科放射線医学)
大阪大学では,2017年12月からキヤノンメディカルシステムズ社製の超高精細CT装置「Aquilion Precision」が稼働している。本講演では,Aquilion Precisionの特長と,われわれが行っている伸展固定肺を用いた画質評価などについて述べる。
Aquilion Precisionの特長
1.主な仕様
Aquilion PrecisionのX線検出器は,シンチレータに新素材を採用し,Z方向のスライス幅は0.25mmと従来CTの半分,X-Y方向には従来CTの2倍となる1792chの素子を配列し,空間分解能が向上している。X線管球は焦点サイズが従来CTの1/3以下で,0.4mm×0.5mmの極小焦点が使用でき,高出力にも対応している。撮影寝台は,2段スライド機構により振動が従来CTの1/2以下に抑制され,高精度な天板制御が可能である。また,長年にわたり,X-Y方向512×512マトリックスだった画像再構成は,1024×1024,2048×2048が選択可能なことが最大の特長である。データ量は増加するものの,高速処理技術により1024マトリックスの画像を80枚/秒(80fps)で再構成することができる。
2.空間分解能の検討
実際の撮影に当たっては,従来CTと同等のNRモード(0.5mm×896ch),X-Y方向のみ高精細なHRモード(0.5mm×1792ch),Z方向も高精細なSHRモード(0.25mm×1792ch)が選択できる。また,Aquilion Precisionの最大空間分解能についてファントムを用いて検討したところ,SHRモードでは0.15mmのスリットまで識別できた(図1)。この時の検討では0.14mmのスリットも識別できたが,Aquilion Precisionの最大空間分解能は公式には0.15mmとなっている。
3.FOVとマトリックス
FOVとマトリックスから求めたピクセルサイズを図2に示す。赤で示したピクセルサイズは従来CTの空間分解能である0.35mmで対応可能であったが,Aquilion Precisionではピンクおよび黄色で示したピクセルサイズにも対応可能である。使用するFOVとマトリックスに応じて表現できる分解能が変わってくるため,被写体の大きさを考慮して最適なマトリックスを選択する必要がある。体幹部で一般的に用いられるFOV 320mmの場合,2048マトリックスを選択するとピクセルサイズは0.156mmとなるが,Aquilion Precisionの最大空間分解能で描出可能と考える。
伸展固定肺を用いた画質評価
Aquilion Precisionの画質を従来CTと比較するために,伸展固定肺を撮影した。FOV 160mmの画像を単純拡大で2倍,4倍,8倍(図3)とした場合,Aquilion Precisionでは明らかに画質が良好であり,気管支の拡張まできれいに確認できる。
今回,われわれは,伸展固定肺を用いてAquilion Precisionの画質に関する3つの研究を開始し,論文発表した1)〜3)。
1.従来CTと超高精細CTの画質比較1)
従来CTとAquilion Precisionの各モードについて,肺野の正常構造の画像を比較した(図4)。従来CTのヘリカルスキャン(図4 a)とAquilion PrecisionのNRモードのヘリカルスキャン(図4 b)では辺縁にダークバンドアーチファクト(↓)が見られるが,Aquilion PrecisionのSHRモードではヘリカル/ボリュームスキャン(図4 c,d)共に明らかにアーチファクトが低減しており,肺内構造も明瞭に描出されている。この画像の気管支,血管,視覚的ノイズ,ストリークアーチファクト,ダークバンドアーチファクト,肺野全体の画質について2名の放射線科医がスコア化して評価したところ,Aquilion Precisionの方が全体的に点数が有意に高く,非常に高画質であった。ただし,視覚的ノイズについては,SHRモードのボリュームスキャンにて若干増加していることがわかった。
病変部についても同様に評価を行った。Aquilion Precisionでは結節部分も明瞭で,すりガラス結節,充実結節など10項目についてスコア化したところ,Aquilion Precisionの方が有意に高得点であった。ただし,小葉内網状影だけは,従来CTの方が評価が高かった。小葉内網状影は肺胞出血などのときに見られ,俗にcrazy paving appearanceと言われる敷石状のすりガラス影である。Aquilion Precisionでは,内部構造がより細かく描出されることですりガラス影の認識が困難となり,スコアの低下につながっていると思われる。そのため,Aquilion Precisionの一部のCT所見については,従来とは異なる評価基準を用いる必要があると考える。
2.マトリックスの差による超高精細CTの画質比較2)
図5は肺気腫症例であるが,マトリックスサイズが上がるに従って明らかに画質が改善している。正常構造の気管支,血管,視覚的ノイズ,ストリークアーチファクト,肺野全体の画質について評価したところ,512マトリックスと比較し,1024および2048マトリックスの方が有意にスコアが高く,p valueも有意であった。ただし,視覚的ノイズについては512マトリックスの方が評価が高かった。
病変についても,512マトリックスに比べて1024および2048マトリックスの方が有意に評価が高く,2048マトリックスが最も高評価であるものの,1024マトリックスでも十分に評価が可能な症例も多いと考えられた。
3.管球回転速度の差による超高精細CTの画質比較(電流固定)3)
Aquilion PrecisionのSHRモード(1024マトリックス)の画像について,管電流を200mAに固定し,回転速度のみを1.5秒,0.75秒,0.35秒に変えて,気管支,血管,視覚的ノイズ,ストリークアーチファクト,肺野全体の画質について評価したところ,0.35秒では視覚的ノイズのスコアが低かった。回転速度が上がると被ばく線量が低減するため,ノイズは増加する。また,肺野全体の画質も回転速度が遅い方が向上していた。なお,ボリュームスキャンでは,ヘリカルスキャンの1/2の線量で同等の画質が得られる。
症例提示
肺がん疑い症例にて,0.25mmスライス厚,AIDR 3D Enhanced再構成時のマトリックスサイズによる違いを比較したところ,マトリックスサイズが上がるに従って明らかに画質が向上していた(図6)。
まとめ
Aquilion Precisionの最大空間分解能は0.15mmと,従来CTと比べて明らかに画質が改善している。一方,非常に微細な構造まで描出できるため,それも考慮して最大空間分解能を超えないFOVとマトリックスサイズを選択する必要がある。今後は,画質の向上により,いかに診断を変えるような臨床的有用性を示せるかがカギとなる。
●参考文献
1)Yanagawa, M., et al., Eur. Radiol.(accepted).
2)Hata, A., et al., Acad. Radiol.(in press).
3)Honda, O., et al., Eur. J. Radiol.(under revision).
富山 憲幸(Tomiyama Noriyuki)
1987年 大阪大学医学部医学科卒業。99年 British Columbia大学附属Vancouver総合病院放射線科客員研究員。2006年 大阪大学大学院医学系研究科助教授。2010年より同教授(放射線医学)。
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