セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
日本超音波医学会第90回学術集会が,2017年5月26日(金)〜28日(日)の3日間,栃木県総合文化センター(栃木県宇都宮市)などを会場に開催された。27日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー6では,岡山大学大学院医歯薬総合研究科生体制御学講座(循環器内科学)教授の伊藤 浩氏が座長を務め,聖マリアンナ医科大学循環器内科講師の出雲昌樹氏と杏林大学医学部第二内科学教室准教授の坂田好美氏が,「Aplio iシリーズで診る心臓の構造と機能」をテーマに講演を行った。
2017年9月号
日本超音波医学会第90回学術集会ランチョンセミナー6 Aplio iシリーズで診る心臓の構造と機能
iで進化した3次元Tracking ─RV評価の進化とともに!
坂田 好美(杏林大学医学部第二内科学教室)
心エコーにおけるスペックルトラッキング技術を用いた心筋壁運動解析のアプリケーションである“Wall Motion Tracking”(2D-WMT,3D-WMT)は,東芝メディカルシステムズ社製超音波診断装置「Artida」および「Aplio iシリーズ」に搭載されている。今回,Aplio iシリーズに搭載された2D-WMTでは,画像の改善とトラッキング機能の改善により検査中にOn-lineでAuto-tracking法により自動的に心筋壁運動解析が可能となり,再現性に優れたより正確な結果が得られ,従来よりも解析時間が短縮された。左室拡張末期容量(LVEDV)や左室収縮末期容量(LVESV),左室駆出率(LVEF)の自動計測のほか,心筋全体および局所(16セグメント)のlongitudinal strain,transmural strain, circumferential strain, radial strainの解析結果がPolar Mapで表示され,ストレインカーブも表示できるなど,より簡便に視覚的および定量的に心機能評価ができるようになっており,非常に有用な機能となっている。
2D-WMTにおけるlongitudinal strainとLVEFを比較すると非常に良い相関が得られ,再現性も高い。また,ストレインは,LVEFでは判定困難な早期の心筋障害が検出でき,視覚的では判定困難な局所壁運動障害でも感度よく定量的に判定することが可能である。さらに,心筋局所のストレインの時間成分の解析から,post-systolic shortening(PSS)やdyssynchronyの評価が可能であり,これらの指標による心機能解析の有用性も証明されている。
Aplio iシリーズでは,3Dトランスデューサーの進歩により,画質の改善やトラッキング機能が画期的に進化しており,本講演では,3D心エコーの心機能解析が3D-WMTでどのように進化したかについて述べる。
左室の3D-WMTの検討
3D Wall Motion Tracking(3D-WMT)法は,三次元的に心筋壁運動を解析でき,二次元解析で問題となる“対象が断面から逃げてしまう”という“Through-Plane現象”の影響を受けることなくより正確な心筋壁運動が評価できる。また,2D-WMT と同様に3D-WMTでも,Auto-tracking Analysisにより心内膜面のトレースから解析をすべて自動で行える。
左室の3D-WMTのAuto-tracking Analysisの精度を検証するために,わざと軸をずらした画像で解析を行ったところ,約15秒で自動に画像の軸合わせが訂正され,左室全体の3D Speckle Tracking解析結果が簡便に得られた(図1)。Aplio iシリーズでは,元画像が高画質となったこと,120°×120°のワイドアングルにより拡大心でも心臓全体をとらえられることで,従来よりも解析精度が向上している。さらに,新開発の3Dセクタープローブ(PSI-30VX)が,Artidaで使用していた従来プローブ(PST-25SX)と比較して小型・軽量化され,把持しやすくなったことで操作性が向上したほか,新しい送受信回路で高分解能・高感度を実現するなど,機能が大幅に向上した。
3D-WMTによる左室機能評価
1.Area Change Ratioによる左室機能評価の検討
3D心エコーは,心臓全体のフルボリューム画像を収集解析することにより,2D心エコーよりも左室容量やLVEFをより正確に評価可能である。さらに,局所の内膜面の面積変化率を解析するArea Change Ratio(ACR)は,長軸方向への伸展(longitudinal strain)と円周方向への伸展(circumferential strain)の両方の心筋運動情報を反映する指標である。これを用いて3D-WMTの左室機能評価について検討した。
対象は健常25例で,3D-WMT を用いてOn-lineのAuto-tracking AnalysisでLVEF,ACR,longitudinal strain,circumferential strainを求めたところ,検者間誤差が小さくきわめて再現性の高い結果が得られ(図2),LVEFとACRのストレイン値の間に非常に良好な相関を認めた。
さらに,3D-WMTにて局所評価も可能かどうか検討を行った。図3は下壁心筋梗塞症例であるが,ACR>−10%のの部分が心筋梗塞領域(青)であり,局所心筋壁運動障害の定量的評価とともに心筋梗塞範囲の判定が視覚的に簡便に可能となった。
2.Activation Imagingによるdyssynchronyの評価の検討
3D-WMTでは,“Activation Imaging”が可能である。これは,3D-WMTで得られる局所心筋の収縮の立ち上がり時間の差をカラーマッピングで表示し,いわゆる収縮動態の時間成分を見ることでdyssynchronyの評価が可能な機能である。そこで,実際の症例で検討を行った。
図4は拡張型心筋症症例で,LVEFは35%であるが,心不全を起こしている。心筋収縮のタイミングを見ると,中隔から収縮が始まり,最も遅いのは側壁で,delayは175msであった。このように,Activation Imaging はdyssynchronyの評価にも非常に有用性が高く,しかも自動解析が可能である。
3D-WMTによる右室機能評価の検討
次に,3D-WMTによる右室機能評価について検討を行った。3D-WMTを用いることにより流入路,流出路を含めた右室心内膜のトラッキングが可能であり,右室拡張末期容量,右室収縮末期容量,右室駆出率(RVEF)の値を得ることができ右室全体機能の評価ができる。
1.2D心エコーによる右心機能評価の限界
右心機能評価が特に有用な疾患は肺高血圧症である。肺高血圧症は, 1群:肺動脈性肺高血圧症(PAH),2群:左心系疾患に伴う肺高血圧症,3群:肺疾患および低酸素血症に伴う肺高血圧症,4群:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTRPH),5群:その他に分けることができるが,一般的に最も多く見られるのは2群である。左心不全の症例においても重症度・予後規定因子として肺高血圧および肺高血圧による右室機能障害の指標が重要視されている。
肺高血圧症による右心機能障害の機序は,肺動脈圧が上昇することで右室拡大・右室心筋肥大が起こり,重症になると右室機能障害の増悪,相対的右室心筋虚血,三尖弁逆流の増大などが生じ,心拍出量の低下,右房圧の上昇が起こり,右心不全を来す。しかし,欧州のガイドライン1)を見ると,心エコーでの予後評価指標としてや右房面積は挙げられていても,右室機能指標は用いられていない。右室は非常に複雑であり,その機能を2D心エコーにて1断面で評価するのは困難である。従来のガイドライン2)における2D心エコーでの右室収縮機能評価の指標には,右室面積変化率(%RVFAC)やTAPSE,三尖弁輪収縮速度(TVS’)などが用いられているが,角度依存性や描出断面の問題などから,これらの指標で右心機能を正確に評価するのには限界がある。
一方,2D Speckle TrackingによるRV longitudinal strainは,角度依存性なく定量的な右室機能評価が可能で,PAH症例の右室機能障害や予後の評価に有用であると報告されている3)。そのため,米国のガイドライン2)では心機能障害の指標の一つとなっているが,やはり2D Speckle Trackingでは二次元画像の一方向だけの収縮の評価しか行えないため,複雑な右室の評価を行うには問題がある。そこで,3D-RV WMTを用いて検討を行う必要があった。
2.右室専用ストレイン解析ソフトウエアによる3D-RV WMT解析の有用性
従来の右室の3D Speckle Trackingの評価は,右室専用のストレイン解析ソフトウエアがなかったため,左室用の解析ソフトウエアを応用しており,右室流出路などの右室の特異的な形態の情報は加味されていなかった。そのため,正確な右室形態を踏まえた専用のストレイン解析ソフトウエアの登場が望まれていたが,ついに,東芝メディカルシステムズ社によって開発された。
右室は,流入路部,心尖部,流出路部の大きく3つに分けられる。右室心筋の線維配列は,心内膜側の心筋線維は長軸方向に,心外膜側の心筋線維は円周方向に走行しており,その2つが合わさって収縮を起こしている。そのため,その両方の心筋運動情報を持つ3D-RV WMT によるACRの解析が,右室収縮能の評価に有用である。
東芝メディカルシステムズ社の右室専用のストレイン解析ソフトウエアは,筑波大学との共同研究により開発されたもので,ヒツジによる実験では,3D Speckle Trackingでのストレイン値と超音波クリスタル法で算出されたストレイン値は非常に良く相関し,特にACRは最も良い相関が得られ,右室の3D評価として非常に有用性が高いことが報告されている4)。そこで,当院にて臨床で応用し,右室の流入路,心尖部,流出路がすべて網羅されている3D-RV WMT によるACRを用いてPAH症例の右室機能評価を行い,詳細な右室機能評価が可能であった(図5)。さらに,本ソフトウエアでは右室が7分画に分けられているが,心筋全体の評価に加えて各分画のストレインカーブの描出が可能であった(図6)。ArtidaによるPAH 109症例の3年間の長期予後評価を行ったところ,従来法(2D)での右室機能評価よりも,3D Speckle TrackingによるACRが最も有用な予後評価因子であった。
今回,Aplio iシリーズにてOn-lineで3D-WMTによる解析を行う画像描出の検討を行った。従来,右室のトラッキング評価の際には必ず右室が中心にくるように画像撮像をしていたが,今回は左室・左房・右室・右房の四腔全体を含めて撮像し,同一心拍の四腔それぞれの3D-WMTの解析を行う“Quad Chamber Tracking (QCT)”により右室のトラッキング解析も行った。実際の解析結果(図7)を見ると,右室は流入路,流出路ともに描出されており,トラッキングも良好で,RVEFやGlobal RV-ACRの値も得られた。また,Global RV-ACRは,心臓カテーテル検査における肺血管抵抗(PVR)や平均肺動脈圧(mPAP)と良好な相関が認められた。ただし,Global RV-ACRは右室全体の評価であり,局所の状況は不明であった。そこで,3D-RV WMTにて右室を7セグメントに分割し,それぞれのストレインカーブから右室の流入路(3セグメント),心尖部(2セグメント),流出路(2セグメント)の平均ACRを算出すると,健常者25例では流入路のACRが最も大きく−30%であり,流出路は−19%,心尖部は−20%であり,ACRはそれぞれの領域で異なることが明らかになった。また,健常者25例とPAH 50症例のACRを見ると,右室の流入路,心尖部,流出路のいずれにおいてもPAH症例の方が有意差をもってACRの絶対値が小さく,右心機能評価においては,今後,局所それぞれの領域をおのおの評価していくべきと考えられる。
3.左心系疾患における右室機能評価の有用性
拡張型心筋症は,左室拡大し左室収縮能が著明に低下する左心系疾患であるが,重症例では右室機能も低下する。このような疾患では,Aplio iシリーズの進化した3D Speckle Trackingにて同一心拍で四腔を同時に撮像するQCTで,左心と右心機能,および両心機能の関連などの評価が可能となる。
左心系疾患に伴う肺高血圧症は,左室拡張末期圧や左房圧が上昇し,左房圧の上昇が肺動脈圧に伝播し肺動脈圧が上昇し生じる。肺動脈圧の上昇が続くと右室機能障害を起こして右心不全が起こる。そのため,予後規定因子としては現在,LVEFよりも,心拍出量低下を来す右心機能障害の評価の方が重要と言われている5)。さらに,左心不全症例は,一般的に肺高血圧症を合併すると予後が悪く,しかも肺動脈圧が高いほど右心機能障害・右心不全が重症となり,長期予後が悪化する6)。
そして,肺高血圧症で予後悪化例を抽出するためには,肺高血圧の有無に加え,Speckle Tracking法による右室ストレイン値により右心機能障害出現を判定することが重要と考えられる。実際に,HFpEFでもHFrEFにおいても,心不全が重症になるほど右室ストレインが減少することが報告されている7)。そのほか,LVEFの低下した大動脈弁狭窄症でも,右室ストレインが減少する例では長期予後が悪いと言われている8)。そのため,左心系疾患においても,右室ストレインによる右心機能を同時に評価する必要がある。今後,QCT による左心右心機能関連の評価,3D-RV WMTによる右室機能の評価により,左心系疾患の心機能評価・治療効果判定などにさらに有用な指標が得られると思われる。
4.3D-WMTによる3D経食道心エコーの可能性
Aplio iシリーズの3D-WMTでは,右室の3D経食道心エコー(3D TEE)でのトラッキング解析が可能となり(図8), 3D TEEでは経胸壁心エコーで描出しづらい右室流出路が,より明瞭な画像でトラッキングできるため,有用性が高い。今後,右室機能評価における有用性が明らかになっていくと思われる。
まとめ
Aplio iシリーズの進化した3D Speckle Trackingでは,右室専用のトラッキング解析ソフトウエア3D-RV WMTが登場した。これにより,今まで不可能であった右室全般および局所機能のより正確で詳細な評価が可能となり,今後,肺高血圧症や心不全症例において新たな心機能評価が可能になると考えられる。
また,さまざまな疾患において左室・右室の両方の機能を同時に評価し,その相互関連を検討することが心機能評価に有用と考えられるが,同一心拍の左室・左房・右室・右房の四腔全体の3Dストレイン解析が可能なQCTを用いることにより,心臓四腔全体の機能評価が可能となり,さらなる心機能障害の機序の解明につながっていくと思われる。
なお,Aplio iシリーズでは,2Dおよび3D画像の改善,解析機能の自動化・簡便化にて検査時間の短縮,より詳細な心機能評価が可能となっており,活用の幅はさらに広がっていくと考えている。
●参考文献
1)Lau, E. M., et al., Eur. Respir. J., 46・4, 879〜882, 2015.
2)Lang, R. M., et al., J. Am. Soc. Echocardiogr., 28・1, 1〜39, 2015.
3)Fine, N. M., et al., Circ. Cardiovasc. Imaging, 6・5, 711〜721, 2013.
4)Atsumi, A., et al., J. Am. Soc. Echocardiogr., 29・5, 402〜411, 2016.
5)Rosenkranz, S., et al., Eur. Heart J., 37・12, 942〜954, 2016.
6)Strange, G., et al., Heart, 98・24, 1805〜1811, 2012.
7)Morris, D. A., et al., Eur. Heat J. Cardiovasc. Imaging, 18・2, 212〜223, 2017.
8)Dahou, A., et al., Heart, 102・7, 548〜554, 2016.
坂田 好美(Sakata Konomi)
1984年 杏林大学医学部卒業。2007年より杏林大学医学部第二内科学准教授。医学博士。心エコーを用いた虚血性心疾患,心筋症,肺高血圧症における非侵襲的心機能解析につき研究しており,近年はスペックルトラッキング心エコー法を用いて肺高血圧症の右心機能評価を行っている。
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