セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第75回日本医学放射線学会総会が4月14日(木)〜17日(日)の4日間,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。16日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー11では,岩手医科大学附属病院循環器放射線科教授の吉岡邦浩氏を座長に,順天堂大学医学部・大学院医学研究科放射線医学講座准教授の隈丸加奈子氏,東京大学医学部附属病院22世紀医療センターコンピュータ画像診断学/予防医学寄付講座特任助教の前田恵理子氏,北海道大学病院放射線診断科講師の真鍋徳子氏が,「心血管領域における320列面検出器CTの最新臨床応用」をテーマに講演した。
2016年7月号
第75回日本医学放射線学会総会ランチョンセミナー11 心血管領域における320列面検出器CTの最新臨床応用
320列面検出器CTの臨床応用(冠動脈)
隈丸加奈子(順天堂大学医学部・大学院医学研究科放射線医学講座)
心疾患における予後予測や治療の適応の判断に当たっては,従来は心臓カテーテル検査をベースとした評価法が主流であったが,CT技術の発展により,血管構造や血流・血圧,心筋perfusionの評価がより低侵襲に可能となった。本講演では,冠動脈における320列面検出器CT(ADCT)の最新臨床応用として,冠血流・血圧の指標の一つであるTAG(Transluminal Attenuation Gradient)の解析,およびCTによる冠血流予備量比(Fractional Flow Reserve:FFR)の測定について,当院での経験を踏まえて述べる。
TAGの有用性
1.TAGの概要と有用性
ADCTでは冠動脈全体が同一時相で撮影できるようになり,冠動脈の起始部と末梢では断面の平均CT値が異なることが注目された。また,狭窄がある場合は狭窄のない部分よりも,狭窄前後で造影効果の低下がより顕著となる現象が2010年に報告され1),TAGの概念が発見された。
TAGは,冠動脈入口部から血管長軸上の距離とその断面の平均HUを線形プロットした際の傾き(HU/cm)と定義されており,正常と異常の閾値は−15HU/cmとされることが多い。TAGの考え方は,ある2点間の距離(Δx)を造影剤が移動する際に血流が遅いほど時間がかかり,また,造影剤がピークに達するまでの間のある時点における2点間のCT値差は血流が遅いほど大きくなる。つまり,何らかの病変によって血流が低下している血管の方が造影効果の差が大きくなることから,TAGΔHU/Δxで定義され,血流が遅いほどTAGが大きくなる(図1)。
TAGの有用性についてはカテーテルFFRとの相関が検討されており,CTA単独よりもTAG+CTAの方がFFR低下の検出感度・特異度が高いことが報告されている2)。
2.VitreaによるTAGの自動解析
現在,東芝メディカルシステムズ社のワークステーション「Vitrea」では,オンサイトでTAGの自動解析が可能である。石灰化のある部分を自動で除外し,石灰化がなく平均のCT値に関して信頼度が高いと思われる部分を用いて傾きを計算している。図2は,Vitreaで自動解析を行った当院の症例であるが,左前下行枝(LAD)のカテーテルFFRが0.71と低下し,TAGも−17.4HU/cmと,閾値とされる−15HU/cmを下回っており,カテーテルFFRとの相関が見られた。
また,Vitreaに搭載されているTAGの計算ソフトウエアの再現性を検証したところ,被検者間では高い再現性が得られ,マニュアルで計算したTAGとの比較においても高い一致性が見られた3)。解析時間は,以前は1枝あたり2分であったが,現在は3枝すべて計算しても約1分と,大幅に短縮している。
CTによるFFRの計算
1.FFR-CTの特徴と算出方法
FFR-CTは,数値流体解析を用い,CT画像によって得られた血管形状のデータから,大動脈血圧,安静時冠動脈血流量,最大充血時の微小血管循環を仮想し,仮想的な血流における冠動脈の流速や圧,流量を算出する手法である。FFR-CTとカテーテルFFRについては,さまざまなスタディにて良好な相関があると報告されている。また,カテーテルFFRとFFR-CTの比較,およびカテーテルFFRとTAGの比較では,TAGよりもFFR-CTの方がカテーテルFFRとの相関が良好だったとの報告もある4)。
数値流体解析にてFFRを算出する場合,正確な境界条件設定がきわめて重要となる(図3)。Qは血流量を表しており,FFRの算出に当たっては,これらすべての境界条件であるQを定義する必要がある。冠動脈血流総量は同じだが,個々の出口(Qout)の境界条件が変化すると,算出されるFFRが大きく異なる。
2.CT-FFRの特長
一方,東芝メディカルシステムズ社が新たに開発した“CT-FFR”は,流体構造連成解析を用いることで,Qを含む境界条件を患者固有の値として推定し,FFRを算出可能である。具体的には,心位相の70〜99%のマルチフェーズのCTAのデータを用い,この間における血管断面積および血管体積の変化を測定するが,患者固有の境界条件を求めているため,従来の手法と比べてより高精度なFFRの算出が期待される。当院では現在,CT-FFRの有用性について,同社と共同で評価を行っている。
また,CT-FFRの解析はオンサイトで施行可能である。始めに複数ボリュームのデータを読み込み,その後,centerlineとcontourのマニュアル修正,FFR計算を経て解析結果を表示するまでの所要時間は,30〜60分である。なお,centerlineとcontourのマニュアル修正について,石灰化の少ない血管での再現性を検証したところ,マニュアル修正なし,centerlineのみ修正,centerlineとcontourの両方を修正のいずれも比較的良好であった。つまり,石灰化の少ない症例についてはcenterlineとcontourのマニュアル修正を最小限にすることで,解析時間を短縮できると考えられる。
3.症例提示
症例1は,75歳,男性。CTAにてLAD #6に局所的な75%狭窄が疑われ,心臓カテーテル検査を施行した。FFRはカテーテルFFR,CT-FFR共に0.91と,完全に一致していた(図4)。
症例2は,54歳,男性。CTAにてLAD #7と左回旋枝(LCX)に有意狭窄が疑われ,心臓カテーテル検査を施行した。カテーテルFFRでは,LADは0.73と低下,LCXは末梢でも0.93と保たれていた。一方,CT-FFRではLADは0.62と同じく低下しており(図5),LCXは0.91と保たれていた。
当院ではこれまで10症例の解析を行っているが,いずれもカテーテルFFRとの良好な相関が確認されている。
まとめ
TAGは造影効果の情報を用いて安静時の冠血流を評価する試みであり,FFRとの良好な相関が報告されている。
また,東芝メディカルシステムズ社が開発したCT-FFRは,従来法と比較してより高い解析精度が期待される。
●参考文献
1)Steigner, M.L., et al. : Iodinated contrast opacification gradients in normal coronary arteries imaged with prospectively ECG-gated single heart beat 320-detector row computed tomography. Circ. Cardiovasc. Imaging, 3・2, 179〜186, 2010.
2)Wong, D.T., et al. : Transluminal attenuation gradient in coronary computed tomography angiography is a novel noninvasive approach to the identification of functionally significant coronary artery stenosis ; A comparison with fractional flow reserve. J. Am. Coll. Cardiol., 61・12, 1271〜1279, 2013.
3)Chatzizisis, Y.S., et al. : Accuracy and reproducibility of automated, standardized coronary transluminal attenuation gradient measurements. Int. J. Cardiovasc. Imaging, 30・6, 1181-1189, 2014.
4)Ko, B.S., et al. : Diagnostic Performance of Transluminal Attenuation Gradient and Noninvasive Fractional Flow Reserve Derived from 320-Detector Row CT Angiography to Diagnose Hemodynamically Significant Coronary Stenosis ; An NXT Substudy. Radiology, 279・1, 75〜83, 2016.
隈丸加奈子(Kumamaru Kanako)
2005年 東京大学医学部医学科卒業。2012年 医学博士(同大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻)取得。同大学医学部放射線科で研修の後,ハーバード大学医学部・ブリガムアンドウィメンズ病院放射線科リサーチフェロー。2014年 同アシスタント・プロフェッサーを経て,2015年より順天堂大学医学部・大学院医学研究科放射線医学講座准教授。
- 【関連コンテンツ】