セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
Ultrasonic Week 2015が2015年5月22日(金)〜24日(日)の3日間にわたり,グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)で行われた。24日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー12「ここにも使える ここまで診える」では,川崎医科大学検査診断学教授の畠 二郎氏を座長に,岩手県立久慈病院神経内科 リハビリテーション科医長/岩手医科大学医学部内科学講座神経内科・老年科分野助教の大浦一雅氏,京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻医療検査展開学講座教授の藤井康友氏と日本大学病院消化器内科科長・超音波室室長の小川眞広氏が講演を行った。
2015年8月号
Ultrasonic Week 2015 ランチョンセミナー12 ここにも使える ここまで診える
関節リウマチをSMIで診る
藤井 康友(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻医療検査展開学講座)
本講演では,「関節リウマチをSMIで診る」と題し,東芝メディカルシステムズのイメージング技術である“Superb Micro-vascular Imaging (SMI)”の有用性と展望について概説する。
関節リウマチ治療の現状と超音波診断の位置づけ
関節リウマチは,関節に滑膜炎が生じ,それが長期化することで滑膜が肥厚化して,軟骨や骨組織が破壊される自己免疫疾患である。有症率は0.4%と言われており,わが国では約70万人の患者がいると推定される。関節リウマチに罹患していた著名人として,フランスの印象派画家,ルノワールが挙げられる。ルノワールは晩年,関節リウマチによる四肢の変形が起こっていたため,変形した指に助手が筆をくくりつけ,創作を行ったと言われる。このように,関節リウマチは,関節破壊による疼痛や機能障害など日常生活動作(ADL)の低下が大きな問題となっている。
しかし,近年,サイトカイン阻害薬やT細胞阻害薬といった生物学的製剤が登場したことで,関節破壊の進行を抑制することが可能となり,関節リウマチの治療法は劇的に変化した。より効果的な治療を行うためには早期診断と正確な活動性の評価が必要だが,滑膜炎の診断は容易ではない。滑膜炎の検出率に関する研究における医師の診察,超音波検査併用,カラードプラ併用それぞれの診断精度を見ると,特に手首や膝,足指の関節では,超音波検査,パワードプラを併用した方が高いという結果が出ている1)。この結果からも超音波検査は,関節リウマチの早期診断に有用であることがわかる。
また,活動性の評価法としては,寛解基準がある。これは,圧痛関節数,腫脹関節数,患者による全般評価,医師による全般評価を数値化し,さらにsimplified disease activity index(SDAI)でスコア化して,SDAI≦2.8の場合に,臨床的に寛解であるとしている。ところが,臨床的寛解が達成されても関節破壊が進行する症例も存在しており,無症候性滑膜炎が関与していると考えられている。
これらを踏まえると,超音波診断には,早期関節リウマチにおける滑膜炎の同定を行い関節破壊が始まる前の治療につなげること,そして,治療開始後における診察だけでは診断できない滑膜炎を同定し,適切な強度の治療につなげることが求められる。さらに,治療の目的は関節破壊を抑制することであり,滑膜炎を高感度で検出することが重要である。
微細で低流速の血流信号を検出するSMI
滑膜炎の超音波画像では,滑液の貯留と滑膜の肥厚,骨皮質の途絶,関節破壊が描出される(図1)。また,滑膜炎の進行は,まず血流の増加が起こり,滑膜が肥厚して,それが長年にわたることで関節破壊を来す。そこで,早期診断・治療を行うためには,超音波画像で血流の増加を検出することが有用である。
2008年に発表された論文2)では,臨床的寛解の患者に超音波検査,パワードプラを施行し,血流信号が見られた症例に対して1年後にX線検査を行うと,血流信号のない症例と比較して,有意に関節破壊が見られるという結果が示されている。つまり,臨床的寛解の段階で血流信号が認められれば関節破壊が起こる可能性があり,早期に治療を行うことで関節破壊を抑制できる。そこでわれわれは,SMIを用いて血流信号の検出に取り組んでいる。SMIは,微細で低流速の血流信号を検出できる技術であり,早期診断・治療に役立つと期待されている。
症例提示
症例1は,左手第3指MCP関節の滑膜炎である。パワードプラ画像とSMI画像共に血流信号が豊富に描出されている(図2)。パワードプラ画像は血流信号が多く描出されているようにも見えるが,これはブルーミングによって血管からはみ出したものである。一方,SMI画像は血管の走行をきれいに描出している。
症例2は,右足拇指MTP関節の滑膜炎である。パワードプラ画像で血流信号を確認でき,SMI画像でも豊富な血流信号が検出できている(図3)。しかし,パワードプラ画像は浅部の血流信号は描出されているが,深部の血流信号は不十分である。対して,SMI画像は,深部の血流信号も明瞭に描出され,高い感度で検出できている。
症例3〜5は,SMI画像で血流信号が検出され,パワードプラ画像では血流信号が見られなかったものである。症例3は,左肘頭窩の滑膜炎で,SMI画像では豊富な血流信号が得られているが,パワードプラ画像ではほとんど血流信号が検出できていない(図4)。また,症例4は左手関節橈側の滑膜炎であるが,パワードプラ画像では血流信号を描出できていないが,SMI画像は高い感度で血流をとらえている(図5)。症例5は,左膝外側の滑膜炎であるが,これもパワードプラで検出されない血流信号が,SMI画像では豊富に得られている(図6)。
無症候性滑膜炎におけるSMI画像の評価
われわれは,関節リウマチの無症候性滑膜炎におけるSMI画像の評価を行った(図7)。対象は,2014年9月1日〜12月31日に当院を受診したSDAI基準で臨床的寛解,または低疾患活動性の関節リウマチ患者11症例。方法は,手首と指の関節をグレイスケール画像,パワードプラ画像,SMI画像で観察し,0〜3点のスコアリングを行った。このスコアリングは,日本リウマチ学会関節リウマチ超音波標準委員会が提唱しているもので,信号なしが0,点状信号が1,信号が融合するが信号範囲が肥厚滑膜の半分以下の場合が2,信号が融合し信号範囲が肥厚滑膜の半分以上の場合が3というグレーディングになっている。
結果は,11症例中4症例に異常所見が見られた。異常所見が検出された関節は,パワードプラ画像が15か所,SMI画像が17か所と,SMI画像の方が高くなった。また,グレーディングの総和も,パワードプラ画像が19ポイント,SMI画像が26ポイントとなっており,SMI画像の方が高い感度で滑膜炎を検出していると考えられる。
さらに,SDAIについて,SMI画像で信号が検出された症例と検出されなかった症例の2群に分けて比較検討を行った。この結果では,SMI画像で信号が検出されなかった方が,SDAIが若干高い傾向にあることが明らかになった。これは統計学的有意差がないものの,SDAIの指標を考える上で興味深い結果と言え,今後も症例を重ねて検討したい。
まとめ
関節破壊を診断するモダリティには,超音波診断装置以外にX線撮影装置やMRIがある。しかし,X線画像は過去の炎症の結果として変形した四肢を描出するだけで,ADLに関与する情報は少ない。また,MRIは関節破壊の描出能に優れているが,費用面からすべての施設が導入するのは難しい。これらを考慮しても,SMIは,無症候性滑膜炎を高感度で描出して早期診断・治療を可能にし,関節破壊を未然に防ぎ,ADLの向上に寄与できる技術として期待できる。
●参考文献
1)Nakagomi, D., Ikeda, K., Okubo, A., et al. : Ultrasound can improve the accuracy of the 2010 American College of Rheumatology/European League against rheumatism classification criteria for rheumatoid arthritis to predict the requirement for methotrexate treatment. Arthritis. Rheum., 65・4, 890〜898, 2013.
2)Brown, A.K., Conaghan, P.G., Karim, Z., et al. : An explanation for the apparent dissociation between clinical remission and continued structural deterioration in
rheumatoid arthritis. Arthritis. Rheum., 58・10, 2958〜2967, 2008.
藤井 康友(Fujii Yasutomo)
1992年 自治医科大学医学部卒業。卒後9年間,故郷広島県の地域医療に従事。自治医科大学医学部臨床検査医学講座助手および講師を経て,2013年より京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻医療検査展開学講座教授。
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