セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

東芝メディカルシステムズ(株)主催の首都圏支社第6回東芝DRユーザーズセミナーが2014年3月8日(土),東芝ビルディング(東京都港区)にて開催された。医療法人社団進興会 オーバルコート検診クリニック院長の馬場保昌氏を座長に,東京都がん検診センターの小田丈二氏と入口陽介氏,慶應義塾大学病院予防医療センターの杉野吉則氏の3名が講演を行った。

2014年7月号

首都圏支社第6回東芝DRユーザーズセミナー 胃X線造影検査の今を知る

胃X線造影検査の現状と今後の展開

杉野 吉則(慶應義塾大学病院予防医療センター)

杉野吉則 氏

杉野吉則 氏

胃X線造影検査において良好な画像を得るためには,X線撮影装置はもとより,造影剤,検査法のすべてが優れている必要がある。本講演では,良好な画像を得るための装置,造影剤の改良や,実際の検査における撮影のポイントについて,装置開発の歴史的な流れも踏まえて述べる。

X線撮影装置,造影剤,検査法の改良

X線撮影装置,造影剤,検査法の改良は,すべてが連動して行われてきた。直接X線撮影(アナログ)装置の時代に,高圧撮影やグリッド比を高くすると造影効果が落ちることから,高濃度造影剤を導入し開発した。その過程で,高濃度造影剤には胃粘液を除去する作用があることがわかり,それを効果的に行うためには撮影時に交互に体位変換するのではなく,身体を回転させなければならないことがわかった。当時,欧米では,高濃度造影剤が開発され,報告された文献ではすでに「必ず3回転させる」と書かれており,これに気づいたことが,現在日本で行われている右回り3回転で始まる基準撮影法につながった。検査法はきわめて重要であり,回転や体位変換,圧迫を適切に行うことで,胃粘液がきれいに除去され,バリウムが十分に付着し,胃粘膜の微細な所見が明瞭に描出可能となる。
一方,X線撮影装置はアナログでの高精細化が図られてきたが,1980年代にCR,90年代にDR,2000年頃にはFPDが登場し,筆者もDR開発当初から東芝社と共同で装置の開発に取り組んできた。さらに,最近ではCアーム型の装置へと進化している。

X線撮影装置について

●デジタル化とFPDの登場

図1 さまざまな検出器における空間分解能

図1 さまざまな検出器における空間分解能

X線写真を撮影する際にはさまざまなボケが生じるが,その原因として,管球焦点・被写体とフィルムの距離,グリッド,撮影時間,フィルムと増感紙の密着などが挙げられる。アナログ装置でこれらの解決をめざして取り組んだが,デジタル化でも同様の問題に取り組んだ。
検出器に関しては,コンベンショナル(conventional film-screen system:CFSS)からDR,そしてFPDヘ,FPDになって直接変換方式から間接変換方式へと変化している。最初は100万画素(以下,1M)のI.I.-DRからデジタル化が始まったが,解像度はCFSSの方が圧倒的に優れていた。その後,400万画素(以下,4M)のDR(4M-DR)が登場したことで,ついにCFSSを凌駕するに至ったが,その1〜2年後にFPDが登場した。4M-DRとFPDの画像を比較してみると,空間分解能は4M-DRの方が優れているが,早期胃癌の微細な所見はFPDの方がシャープに描出されている(図1,2)。また,CRは高精細画像が得られる特長があり,DRはI.I.-TV系を用いるため動画撮影や,取り込んだ画像をリアルタイムに表示可能なほか,線量が低減できるなどの特長がある。そして,FPDはその両方を兼ね備えている点が評価できる。

図2 4M-DRとFPDの比較 早期胃癌,0- II c,M,35mm(2002年)

図2 4M-DRとFPDの比較
早期胃癌,0- II c,M,35mm(2002年)

 

●Cアーム式寝台装置の有用性

X線撮影装置の改良では,画質や安全性の向上は図られてきたものの,操作性や寝台については1950年代頃からほとんど変化していなかった。そこで,当院では2002年にFPDを搭載したCアーム式寝台装置を導入した。Cアームではオーバーチューブとアンダーチューブを切り替えられるほか,さまざまな角度に管球を振ることができる(図3)。従来も斜入角撮影という方法が行われてきたが,その場合は管球だけを振るためX線がフィルム面に対して斜めから入るのに対し,Cアームによる多方向撮影では検出器が常に管球と直交する方向にあるので,それだけ画質を損なうことなく撮影できることになる。実際に撮影を行ってみると,斜入角20°程度までは空間分解能の低下はほとんど見られない(図4)。本装置導入後に施行した約500例を分析してみると,全画像の54.8%で斜入撮影を行っており,Cアームは非常に便利なものであると実感した。また,早期胃癌161病変について,病変の部位と多方向撮影の有用性を検討したところ,大彎や前壁で特に有効だった。

図3 多方向撮影が可能なCアーム式寝台装置1)

図3 多方向撮影が可能なCアーム式寝台装置1)

 

図4 Cアームによる斜入角20°の画像2)

図4 Cアームによる斜入角20°の画像2)

 

●症例提示

図5は,小彎前壁寄りの I + II c型の早期胃癌だが,Cアームの管球を振ることで噴門との距離が良く把握できる。

図5 小彎前壁寄りの早期胃癌1) 〔U Ant-Less,0- I + II c,25mm,T1(SM2)〕

図5 小彎前壁寄りの早期胃癌1)
〔U Ant-Less,0- I + II c,25mm,T1(SM2)〕

 

図6は,小彎後壁寄りの II c型の早期胃癌だが,二重造影の際,小彎寄りの病変は椎体と重なってしまうことがある。しかし,Cアームの管球を振って椎体の陰影から外れるように撮ることで,病変が明瞭に描出できるため,きわめて有用である。

図6 小彎後壁寄りの早期胃癌1) 〔M Post,0- II c,17mm,T1(M)〕

図6 小彎後壁寄りの早期胃癌1)
〔M Post,0- II c,17mm,T1(M)〕

 

そのほかの症例においても,管球を振ることにより,陥凹部にバリウムをうまく溜めた状態で撮影できる(図7)など,特に術前検査においてはきわめて有用である。また,スクリーニングにおいても,ちょっとした動きであれば口頭で患者に伝えるよりも,左右に管球を振るだけで容易に最適な位置での撮影が可能となる。

図7 幽門部の小彎寄りの早期胃癌1) 〔L Less,0 II -c,15mm,T1(SM2)〕

図7 幽門部の小彎寄りの早期胃癌1)
〔L Less,0 II -c,15mm,T1(SM2)〕

 

その後のFPDの進歩

●直接変換方式と間接変換方式

FPDには,アモルファスセレン(a-Se)にてX線素子を直接電荷に変換する直接変換方式と,ヨウ化セシウム(CsI)などのシンチレータによりX線を光に変換してからフォトダイオードで電荷に変換する間接変換方式がある。直接変換方式は空間分解能に優れるが,SNRが低く低線量の透視画像で劣る,空調などの環境制限が多い,製造工程管理が難しく量産化に向かないなどの課題がある。一方,間接変換方式は,空間分解能が直接変換方式より劣るが,SNRが高く低線量の透視画像に優れる,環境制限が少ない,製造に特殊技術が必要だが量産化は可能というメリットがある。東芝社は当初,直接変換方式FPDを開発していたが,近年,新たに開発した間接変換方式FPD1314では,CsI柱状結晶の改良により検出量子効率(DQE)を改善するとともに光散乱を押さえ込むことで,空間分解能の向上が図られた(図8,9)。FPD1314は,キャリブレーション時にX線照射不要,室温は通常環境,起動時と検査終了時のオートキャリブレーション機能搭載,使用時以外は通電不要という特長を備え,安定度が高く管理しやすいFPDとなっている。ファントムを用いて直接変換方式と新開発の間接変換方式FPDの画像を比較したところ,空間分解能はほぼ同等で,SNR,コントラスト分解能は間接変換方式の方が優れていた。

図8 CsI柱状結晶構造の改良 CsI柱状結晶の改良で検出量子効率(Detective Quantum Efficiency)を改善すると共に光散乱を押さえ込むことで空間分解能も向上

図8 CsI柱状結晶構造の改良
CsI柱状結晶の改良で検出量子効率(Detective Quantum Efficiency)を改善すると共に
光散乱を押さえ込むことで空間分解能も向上

 

図9 従来CsI膜と高精細CsI膜の比較 DQEと分解能(CTF)との関係

図9 従来CsI膜と高精細CsI膜の比較
DQEと分解能(CTF)との関係

 

まとめ

最新の間接変換方式FPDは,解像力チャートの単体撮影では直接変換方式の限界解像度がわずかに優れているものの,散乱線の影響を加味した評価では同等であるとの結果であった。バーガーファントムでは,SNRの高い間接変換方式の方がコントラスト分解能に優れていた。最新の間接変換方式FPDは,直接変換方式FPDと同等レベルの画像が得られると考えられ,X線撮影装置の新たな方向性が見えてきたと思われる。

●参考文献(画像引用転載)
1)杉野吉則・他:新しい画像検査・診断法と今後の展開─胃X線検査における平面検出器(FPD)を搭載したCアーム式装置の有用性.胃と腸, 39(12), 1572〜1582, 2004.
2)杉野吉則・他:早期胃癌X線診断における装置・造影剤および検査法の進歩. 胃と腸, 38(1),11〜20, 2003.

 

座長:馬場保昌 氏

座長:馬場保昌 氏
1969年 久留米大学医学部卒,同年第二内科入局。71年 癌研究会癌研究所病理研修。75年 癌研究会附属病院内科医員,95年 同総合健診センター所長。2001年 早期胃癌検診協会中央診療所所長。2011年 安房地域医療センター消化管診断科部長。2014年〜進興会オーバルコート健診クリニック院長。

馬場座長のコメント
装置を中心とした画像精度,装置開発の歴史,造影剤,Cアーム搭載装置について,さまざまな方向からお話ししていただいた。特に,FPDの開発の方向性は間接変換方式に変わってきており,その画像は直接変換方式と同等であるとの報告であった。

 

杉野 吉則(Sugino Yoshinori)
1975年 慶應義塾大学医学部卒。 同大学病院放射線診断部に入局し,放射線診断学,特に消化管のX線診断・内視鏡診断・病理診断を研修。平塚市民病院放射線科医長,ドイツ・ベルリン自由大学留学,慶應義塾大学専任講師(医学部放射線科学),准教授を経て,2012年8月より慶應義塾大学病院予防医療センター長。

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP