セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)
第29回日本乳腺甲状腺超音波医学会が,2012年10月7日(日),8日(月)の2日間,北九州国際会議場で開催された。7日に行われた東芝メディカルシステムズ社共催のランチョンセミナーでは,聖フランシスコ病院放射線科の磯本一郎氏が座長を務め,りんくう総合医療センターがん治療センター長兼外科主任部長の位藤俊一氏が,「最新の乳房超音波診断~乳腺造影の幕開け」を講演した。
2012年12月号
第29回日本乳腺甲状腺超音波医学会ランチョンセミナー
最新の乳房超音波診断 ~乳腺造影の幕開け
位藤 俊一(地方独立行政法人りんくう総合医療センターがん治療センター長兼外科主任部長)
2012年8月,超音波診断用造影剤「ソナゾイド」の乳房腫瘤性病変への適用が保険収載された。ソナゾイドによる乳腺の造影超音波に関しては,第II相,第III相の治験の結果でMRIに劣らない結果が得られており,今後,乳がんの診断や,術前化学療法における効果判定などで大きな役割を担うことが期待される。本講演では,われわれがこれまで行ってきた治験の症例を中心に,乳腺領域における造影超音波の有用性と今後の期待について述べる。
■乳房の微細な構造を描出するBモード画像の高画質化
当センターでは,「Aplio500」(東芝メディカルシステムズ社製)を使用して乳房超音波検査を行っている。Aplio500は,ApliPure/ApliPure+とPrecision Imagingによって,空間分解能およびコントラスト分解能が向上し,診断の基礎となるBモードの画質が向上していることが特徴である。乳房超音波では,造影の前にBモード画像で病態の全体像を把握することが重要になるが,Aplio500では高分解能の画像処理技術と高周波プローブ「PLT-1204BX」などを組み合わせることで,高精細なBモード画像が得られている。
図1は,充実腺管癌(solid-tubular carcinoma)で悪性度の高いtriple negativeの症例である。浸潤範囲や乳管内進展も含めて,がんの広がりを把握することは治療方針の決定に重要だが,Aplio500とPLT-1204BXを使用し,Differential THI(D-THI)の13MHzで行ったBモード画像では,腫瘍の内部が明瞭に描出され,組織性状の確認が可能である。非浸潤性乳管癌(DCIS)の症例でも,Bモード画像で低エコー腫瘤や衛星結節(娘結節)まで描出され,乳管の拡張や腫瘤だけではなく,がんの広がりを評価でき,治療方針の決定にも重要な情報となる。DCISでは,術前治療は原則考えられないが,手術の際に温存療法が妥当かどうかを判断することができる。
■3D/4D inversion,Micro Flow Imagingなど,造影超音波用のアプリケーションを搭載
Aplio500では,カラードプラ,エラストグラフィ,造影超音波用の3D/4D imaging,Micro Flow Imaging(MFI),Arrival Time Parametric Imagingなどのアプリケーションにおいても,高精細Bモード画像をベースに利用できることが特徴である。
図2は,triple negativeの悪性度が高い進行した大きな腫瘍の造影超音波画像である。この症例では,血管新生阻害剤による術前化学療法を施行したが,治療方針の決定には,主病変や転移リンパ節に対して,Bモードやカラードプラに加えて造影超音波を行うことで,組織内の性状や血流の状態を確認して行っている。Aplio500ではエラストグラフィの精度が向上し,3D/4D機能についても,ボリュームデータから血管の構造などを再構築するinversionによる立体画像を観察でき,容積の計算なども可能になっている。
造影超音波は,微細な血流まで描出が可能で,不染域の確認も容易である。不染域と組織の対比については今後詳しく検討する必要があるが,造影超音波によってカラードプラなどでは難しかった,血流の有無の把握が可能になると考えられる。治療効果判定のためには微細血流の評価が重要であり,造影超音波によって確実に判定できるようになれば,術前治療の効果判定が早期に可能になる。実際に当センターでは,より少ない侵襲で評価が可能な造影超音波検査が,CTやMRIに代わり増えている。
MFIは,造影剤の信号を連続的にトレースする造影画像表示モードだが,血管造影よりも細かな腫瘍内部の血流や血管構築が確認できる(図3)。difectになる部分や腫瘍の栄養血管の走行などもリアルタイムで確認でき,CTやMRIでは得られないリアルタイム性の高い情報を把握できる。MFIでは経時的に表示することも可能で,カラードプラでは得られない血流情報の評価が可能になる。
図4の症例の転移リンパ節でも,高周波探触子であるPLT-1204BXを使うことで,細かな内部エコーまで観察できる。超音波によって治療の経過とともに内部エコーがどのように変化するかを確認することで,効果判定などで新たな知見が得られることが期待される。リンパ節を見る際には,局在部位や血管との位置関係などがポイントになるが,治療効果が現れるにつれ,リンパ節の転移巣がわかりにくくなるため,あらかじめ3Dによって位置関係を記録しておくことで,継続した観察が可能になる。図4は,aが腋窩,bが鎖骨下のリンパ節だが,鎖骨上窩についてもしっかりと描出されており,inversionによって簡便により詳しく見ることができることは超音波の利点のひとつである。
リンパ節の造影超音波では,カラードプラではわからなかった血流が描出されている。PLT-704SBTプローブ,PLT-805ATプローブを用いて,5MHz,MI値0.2前後に設定しているが,ソナゾイドは中音圧から低音圧で観察するため,周波数はやや低い方が血流評価は容易になる。微細な血流が把握でき,リンパ節の治療効果判定にも有効である。さらに,Aplio500に搭載された最新のアプリケーションであるArrival time Parametric Imaging(Parametric MFI)を使用することで,血流の時間的な経過を把握することが可能になる(図5)。Parametric MFIは,造影剤の到達時間を断層像上にカラー表示するもので,画面上のオレンジ色が早く流入する血管を,ピンク色に近いほど遅く流入した血管を表している。今後,治療効果判定のために興味深いデータが提供されることが期待される。Parametric MFIについては肝臓領域などで研究が進んでいるが,乳房超音波においても,血管新生阻害剤や術前化学療法,臨床試験中の術前ホルモン治療などの効果判定が,造影超音波により少ない侵襲で早く明らかになれば,アレルギーなどの問題でCTやMRIが実施できない場合にも有効で,患者さんの利益も大きくなると考えられる。
■Aplio500による乳腺造影超音波の症例提示
当センターでは手術室に超音波診断装置を複数設置し,手術直前にも造影超音波を行ってリアルタイムに切除ラインを決定している(図6)。造影超音波による乳がんの画像診断について,以下に症例を提示する。
●症例1:充実腺管癌に対する術前化学療法
2サイクル(約8週間)の術前化学療法によって,血管新生阻害剤が奏功し,腫瘍が軟化してきているのがエラストグラフィでも確認でき,カラードプラでも血流の減少が確認できる(図7)。主病変の造影超音波では,血流は残っているものの,組織内の血流がかなり落ちているperfusion difectが見てとれる(図8)。腫瘍のサイズの変化の前に血流の減少が現れることが多く,造影超音波によって血流を確認することで,治療法が有効かどうかを早期に判断できる。
4Dの造影超音波では,CT画像のように任意の断面を連続して表示(Multi View表示)することが可能で,造影剤の流入の様子が時系列に確認できる(図9)。4DではA Plane(矢状断面),B Plane(軸位断面),C Plane(冠状断面)での観察が可能で,腫瘍部分や周囲の血流を任意のスライス方向から連続的に把握ができる。治療効果判定や手術の際には,冠状断面(C Plane)で俯瞰的に確認することで,切除範囲のマーキングに有効である。
症例1の肥大した転移リンパ節でも,2サイクルの治療によって縮小していることが,Bモード,カラードプラ,3D画像で確認できた(図10)。MFIでも,サイズ,vascularityともに小さくなっていることがわかる(図11)。
この症例の主病変で,治療前にtime intensity curve(TIC)を計測した。Aplio500に搭載されている造影データの定量解析ツールであるTCA(Time Curve Analysis)を使用している。2サイクルの術前化学療法後の計測では,perfusion difectになっていることがわかる(図12)。TICによる解析結果の評価については,いくつか論文も発表されているが,ROIの設定方法などが今後の検討課題と考えている。
●症例2:硬がん,HER2過剰発現
症例2は硬がんで,HER2の過剰発現があり,Ki-67 50%と増殖能が高く,治療前のカラードプラや3D imageでは,血管の走行や栄養血管の流入の様子が確認できた。術前化学療法の効果判定だけでなく,手術の際にも術前の超音波検査によって,栄養血管の走行や流入部位をしっかりと確認することで,断端陰性の確率が高くなると考えられる。
造影超音波でも,腫瘍内の微細な血流や周囲の血管走行まで明瞭に確認できる(図13)。これは,PLT-704SBTプローブで5.5MHzによる造影超音波だが,症例によって見え方が異なるため,最適なプローブや周波数を選択することが必要である。細かな血流を確実にとらえるためには低い周波数が有利だが,この症例ではMI値0.20,フレームレート16程度で,リアルタイム性に問題なく,細かい部分まで観察できている。
造影超音波では,時相によって色分けされるParametric MFIを写真などで参照しながら,リアルタイムでのMFIで確認している(図14)。Parametric MFIは,静止画でも時系列の血管の流入状況が把握でき,カルテに貼付するだけで簡単に評価できるというメリットがある。
2サイクルの化学療法前後の画像(図15)では,腫瘍の大きさや血流が大きく減少していることがわかる。造影超音波は効果が出やすい症例では1サイクルで変化をとらえることもあり,治療方針をより早い段階で判断することが可能で,患者さんにとっての利益も大きいと考えられる。
TIC(図16)では,vascularityについて視覚だけでなく,定量評価を試みている。化学療法を施行しても腫瘍のサイズが変わらない場合などには,治療の妥当性や薬剤変更の決定を判断する必要があるが,造影超音波のTICはその1つの指標になると考えられる。MRIを撮像するよりも簡単に,短時間に,より少ない造影剤量で情報が得られる造影超音波は,画期的な検査法だと考えられる。
●症例3:乳頭腺管癌(papillo-tub ular carcinoma),Luminal A
Luminal Aでホルモン感受性があり,増殖能もそれほど高くない乳頭腺管癌の症例である(図17)。
造影超音波では,ヒトデのような血管構築が少しずつきれいに描出されてくる(図18)。現在,臨床試験中の術前ホルモン治療では,治療の効果が画像ではわかりにくいことが多いが,造影超音波によって微細血流を確認することができれば,ある程度の評価は可能ではないかと考えられる。今後,わが国からの臨床試験の結果が世界に発信される予定だが,その評価にも造影超音波が寄与すると考えられる。
MFIでは,いったん造影剤を破壊して,早い時相の動脈相を連続して観察できるが,ソナゾイドのバブルは壊れにくく,長時間の観察ができ,術前の評価にも有効である(図19a)。
Parametric MFI(図19b)では,ピンク色の部分が多く,比較的遅く流入する血流が多いことがわかる。これはLuminal Aのおとなしい乳がんの特徴だと考えられるが,悪性度の高低によってarrival timeが異なることも考えられ,今後,検討が必要と思われる。また,造影超音波は検査の状況によっても左右されることがあり,arrival timeについても起点と終点の基準など,定量評価に向けた標準化を進めていくことが必要である。
●症例4:充実腺管癌,triple negative
充実腺管癌のtriple negativeの症例(図20)だが,3D inversion画像で腫瘍の広がりや形状,容積などを把握することができる(図21)。3D画像ではさまざまな断面で観察が可能で,術前などのシミュレーションに利用することを考えている。現状でも短時間でデータ集積ができるが,手術直前には一層の時間の短縮が必要と考えられ,今後の進歩に期待したい。
図22は,乳管のFly Thru画像である。Fly Thruは管腔内をバーチャルに観察できる新しい画像表示法で,乳管の中を飛んでいる(Fly Thru)ように見られるという意味では画期的な手法である。これをどのように応用するかは今後の課題だが,将来的には乳管内視鏡に置き換わるような展開を期待したい。
※ ※ ※
ソナゾイドは直径2~3μmで赤血球より小さく,極細径の血管まで描出可能であり,超音波診断装置側のプローブなどを使い分けることで,細かな血管や血流の少ないケースでも対応可能である。今後,症例を集積して,乳房の造影超音波のエビデンスを明らかにすることが重要と考えられる。
位藤 俊一
1984年兵庫医科大学卒業。同年大阪大学入局。2003年からりんくう総合医療センター外科医長,現在はがん治療センター長,ならびに外科主任部長。