滋賀県草津市のはやし脳神経外科クリニックは、JR南草津駅から車で5分の場所に2023年5月に開院した。大津赤十字病院などで脳神経外科の専門医として研鑽を積んだ林 晃佑院長が、その経験を生かして頭痛や物忘れに対する外来を設けて、ていねいで安心できる診療を提供している。同クリニックでは、キヤノンメディカルシステムズの1.5T DLR(Deep Learning Reconstruction)-MRI「Vantage Gracian」を導入して、「MRI検査が可能な脳神経外科」として即日検査を行っているのも特徴だ。林院長にクリニックの開業の経緯とDLR-MRIを活用した診療のねらいについて取材した。
林院長は、京都大学大学院修了後、大津赤十字病院など京都大学の関連病院で脳神経外科医として勤務、2023年に同クリニックを開業した。南草津は交通至便で京都や大阪にも近く、ベッドタウンとして発展している街でもある。林院長は開業のねらいについて、「病院で脳神経外科医として15年間、急性期を中心に研鑽を積みましたが、手術で助けられる患者さんには限界があることを痛感していました。病気になる前の予防的なアプローチや、超高齢社会の中で認知機能の低下や脳卒中の後遺症のフォローなど慢性期までカバーする診療の提供をめざして開業しました」と述べる。
医師は林院長のほか非常勤で2名、看護師4名、臨床検査技師1名、受付事務5名、非常勤診療放射線技師5名など。頭痛外来、首・腰外来、物忘れ外来、高次脳機能障害などの診療のほか脳ドックも行っている。画像診断機器は、MRIのほかX線撮影装置「RADREX」、超音波診断装置「Aplio go」などが導入されている。また、林院長のトレードマークでもあるカピバラのイラストを使ったクリニックのロゴも印象的だ。林院長は、「最新の医療技術を提供することはもちろんですが、ハードルが高いイメージがある脳神経外科を少しでも気軽に受診していただけるように、ロゴを含めてアットホームで柔らかい雰囲気のクリニックをめざしています」と説明する。
同クリニックでは、MRIを導入して即日検査を行っている。MRIの導入について林院長は、「開業に当たって、MRI導入は必須だと考えていました。大きな病院ではMRIの検査数が多くて、ともすれば2か月先の予約ということもあります。症状や不安を解消してほしくて来ている患者さんに、何もしてあげられないもどかしさがありました。そこで自分のクリニックでは、MRIを導入して即日検査が可能な診療を提供したいと考えていました」と述べる。機種選定に当たって林院長は、画質と国内メーカーであることを重視したという。
「患者さんに精度の高い診断を提供するためにも、しっかりと診断ができる画質を求めました。同時にトラブルやメンテナンスなどアフターサービスへの対応を考えて、国内メーカーを最優先に考えました。予算を含めて各社のMRIを検討して、画質や使い勝手、アフターサービスなどをトータルに判断してキヤノンメディカルシステムズのVantage Gracianを導入しました」
電子カルテシステムなど医療情報システムも含めてキヤノンメディカルシステムズ系列の製品・システムがそろっているが、林院長は、「トラブルがあった時の対応の早さなどは、国内メーカーならではの安心感があります。何かあったときに患者さんに迷惑をかけたくないので、故障やメンテナンスなどのアフターサービスの受けやすさを第一に考えました。選定時から手厚いサポートをいただき、開院後も安心して診療を行えています」と話す。
Vantage Gracianは、ディープラーニングを用いて設計したSNR向上技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」を搭載した1.5TのDLR-MRIである。AiCEは「Compressed SPEEDER」など従来の高速撮像技術に併用することができ、高分解能化やさらなる高速撮像を可能にする。同時に、プランアシスト機能などによる操作性の向上、静音化機構の「Pianissimo Zen」やコンパクト設計などでクリニックでの導入や運用を容易にしている。
Vantage Gracianについて林院長は、「1.5TながらDLR技術であるAiCEを搭載していることで、3Tに匹敵する画質を得られることが選定の決め手でした。導入前に実際にAiCEを適用した画像を見て、他社やほかの1.5Tの機種と比べても画質の違いに驚きました。病院クラスに導入されるようなMRIを、クリニックレベルで導入できるところにも魅力を感じました」と評価する。
Vantage Gracianは、撮像室の最小設置面積が16m2と小さく、クリニックの限られたスペースでも問題なく設置できた。林院長は、「装置自体もコンパクトで設置スペースも最小限で済み、診察室やスタッフのための空間をしっかりと確保できました」と述べる。静音化機構によって検査中の騒音が抑えられているのも特長だが、林院長は「明るい室内や検査時間の短さとも相まって、患者さんのMRI検査への抵抗感を軽減していると思います」と言う。
■Vantage Gracianによる臨床画像
開院後の状況を林院長は、「頭痛を訴えて来院される患者さんが多いです。勤務医時代は二次性頭痛を主に診ていましたので、一次性頭痛がここまで多いのかとびっくりしています。頭痛に悩んでいても、大きな病院にかかることをためらっている患者さんがたくさんいることを実感しています。そういった患者さんに対しても、重篤な疾患の可能性を否定する意味も含めてMRI検査を行っています。ご本人の安心のためでもありますが、実際に片頭痛だと思って検査したところ、クモ膜下出血だった例を2例ほど経験しました。ほかにも脳腫瘍や脳動静脈奇形などが見つかって大学病院に紹介したこともあり、改めて早期発見や治療のためにMRIは有用だと実感しています」と述べる。
MRIでは、基本的にT2強調画像、T1強調画像、MRA、FLAIR、拡散強調画像(DWI)、T2*強調画像を撮像している。林院長は、「これだけ撮像しても10分で終わるので、患者さんにもストレスなく検査を受けてもらえます。診察してから検査、終了後に画像を踏まえた説明を行いますが、1日30件の検査を行っても診療時間内に終わっています」と述べる。非常勤で検査を担当する診療放射線技師はVantage Gracianについて、「AiCEによってSNRが高い画像が得られることで高速撮像が可能です。操作性も、複雑なパラメータは奥に隠れていて初心者でも使いやすいインターフェイスです。また、頭部や脊椎用のコイルの感度が高く、これも短時間撮像につながっていると感じます」と述べる。下肢の非造影MRAも短時間で高画質が得られているが、林院長は、「足のしびれで受診された患者さんで、腎機能があまりよくなかったのですが、造影剤を使わずに検査を行い下肢静脈の閉塞が見つかりました。循環器内科に紹介してスムーズな治療につなげることができました」と述べる。
同クリニックでは、2023年12月から専門医による脊髄外来をスタートし、2024年4月からは月4回診療を行っている。それに伴い、頸髄や腰髄のMR撮像が増えている。林院長は、「脊髄腫瘍(髄内腫瘍)の症例を経験しましたが、腫瘍が鮮明に描出され大きさや広がりがわかり診断に役立ちました。また、変形性頸椎症や腰部脊柱管狭窄症での椎間孔の評価も容易になりました」と述べる。そのほか、物忘れ外来の認知症検査では、通常の撮像に加え、VSRAD検査やMRシステルノグラフィ(CISS)を追加している。
超音波検査では、頸部内頸動脈狭窄や頸動脈ステント留置後の評価などを行っている。検査は林院長が行っていたが、4月からは臨床検査技師が担当する。林院長は、「Aplio goはコンパクトな装置ながら高画質で頸動脈内のプラークなども鮮明に描出されます」と述べる。
MRIの検査件数は1日30件を超えることもあり、患者数は順調に伸びている。林院長は、「予想以上に多くの受診をいただいており、うれしいかぎりです。待ち時間の発生や患者さんのお話を聞く時間が十分取りにくいことが悩みの種です」と話す。クリニックの今後の方向性について林院長は、「認知症の点滴治療薬が承認されましたが、治療の評価にはMRI検査が必要です。MRIがすぐに撮れるメリットを最大限に生かして、MRIを必要とする患者さんのサポートができるといいですね」と述べる。診療に関しては、脳卒中の回復期のリハビリテーションへの取り組みを検討しており、林院長は「回復期を過ぎても持続可能なリハビリを行えるような場を提供していきたいと考えています」と言う。
最新の医療技術を機動力高く提供する同クリニックが、地域の中で存在感を発揮していくことは間違いない。
(2024年1月26日取材)
※本記事中のAI技術については設計の段階で用いたものであり、本システムが自己学習することはありません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Elan MRT-2020
認証番号:225ADBZX00170000
類型:Vantage Gracian