医療の進歩に伴い,各診療科でさまざまな手技・検査が行われる中,臨床現場のニーズに応えるためにX線TV装置も進化を続けている。キヤノンメディカルシステムズのデジタルX線TV装置「Astorex i9」は,新開発の技術・機能でX線TV装置のスタイルを変え,スムーズな手技・検査を支援し,患者や医療従事者の安全を守ることをめざした最新のシステムである。亀田クリニックで2021年9月に稼働を開始したAstorex i9の泌尿器科領域における活用や有用性について,泌尿器科の志賀直樹部長にインタビューした。
亀田クリニック(診療科32科,病床数19床)は,房総半島における基幹病院である亀田総合病院に隣接し,約100室の診察室を有する独立型の外来専用施設である。2021年9月,主に泌尿器科と消化器内科・外科が検査や手技を行うX線TV室にAstorex i9を設置した。
このAstorex i9を多用する亀田総合病院・亀田クリニックの泌尿器科には,現在17名の医師が在籍し,泌尿器腫瘍や尿路感染症,尿路結石,排尿障害など,幅広い疾患に対して専門性の高い医療を提供している。その中でも尿路結石を担当する志賀部長は,経尿道的腎尿管結石砕石術のエキスパートとして知られ,これまでに手掛けた手術は2000例近くに上る。
泌尿器科では,定期的な尿管ステントの交換や緊急で結石の詰まりを解除するための尿管ステント挿入処置のほか,造影検査も多く実施している。入院が必要な手術は,高齢患者が多いことから安全を考慮して病院の中央手術室で行う一方で,外来で対応可能な無麻酔での手技はAstorex i9を用いて行っている。
■Astorex i9のi-fluoroによる視野
志賀部長は,X線TV装置を用いる手技では,被ばく低減をポリシーとしている。その理由について,「医学生時代に見た皮膚科学の教科書に,手の皮膚がんの症例として泌尿器科医の写真が掲載されていました。研修医当時,前立腺肥大症で必須だった尿道造影検査を数多くこなしていましたが,X線の照射領域に検査者の手が入ることが避けられないため,被ばく低減への意識を強く持つようになりました。手技のスピードを上げて透視の時間を短くすることで,医師・患者の被ばくと痛みを軽減できると考え,研鑽を積んできました」と説明する。
画質向上
明瞭な透視像により短時間の照射でデバイスを確認
Astorex i9は,高画質・低被ばくな透視を実現する検査コンセプト「octave i」を取り入れていることにより,照射線量を約65%低減している。また,octave iでは高画質な透視が可能になり,例えば挿入したガイドワイヤの長さを確認しながら目的位置に到達するタイミングを判断する短時間の透視でも十分に視認できる。志賀部長は,「難しい症例では安全のために透視しながら操作しますが,多くの場合は最後の確認に1秒程度の透視で十分です。わずかな時間で確認するためには明瞭な透視像が必要ですが,Astorex i9ではデバイスや構造をはっきりと確認でき,最低限の透視での手技を可能にしています」と話す。
また,造影検査については,「被ばく低減の観点から,症例によって造影剤の濃度を細かく調整し線量低減に努めていますが,透視の性能が高ければ,少ない,濃度の低い造影剤でもしっかり認識することができます。Astorex i9は透視性能が高いため,造影剤濃度を下げても透視の線量や時間を低減できると考えます」と述べる。
i-fluoro
安全な視野移動で被ばく低減にも貢献
i-fluoroは,コリメーションにより透視中に天板や映像系を動かさずに視野移動,視野拡大を可能にする新しい診療スタイルである。正方形での視野の移動・拡大だけでなく,コリメーションにより全画面を縦・横に分割して長方形に絞ることもできるため,穿刺や内視鏡の手技においても患者を動かすことなく,安全に視野の移動が可能だ。泌尿器科の手技における有用性について,志賀部長は次のように説明する。
「尿路は膀胱から腎臓まで範囲が広く,例えば尿道造影でもFPD全体で透視すると腎臓まで被ばくしてしまいます。i-fluoroを活用して関心領域に照射野を絞ることで,対象以外の領域への被ばくを抑制できますし,術者の手を照射野から外すことができます」
このように,i-fluoroは透視だけではなく,そのまま撮影することもでき,手技の流れを止めない運用を実現しながら被ばくの低減にも貢献している。
多目的寝台
術者の立ち位置に合わせて柔軟なポジショニングが可能
さまざまな科で多目的に活用することをめざしたAstorex i9は,寝台も新たに開発された。泌尿器科での使用においては,頭側/足側視野が天板端9cmまで移動するため砕石位での手技・検査をしやすく,天板の左右(手前・奥)方向にも視野を寄せられるため,i-fluoroと組み合わせることでポジショニングの自由度が大きく向上する。患者の右側面(寝台の正面)に立って手技を行う志賀部長は,「患者を天板中央にポジショニングすると,寝台に身を乗り出すようにして手技を行うことになるため腰への負担が大きくなります。Astorex i9は映像系の移動範囲が広いため,患者を少し手前にポジショニングし,i-fluoroを使うことで,負担のない姿勢で手技を行うことができます」と話す。
省スペース
広さが限られた検査室でも余裕を持った設置が可能
Astorex i9は奥行き方向が173cmとコンパクトで,壁付けでの設置が可能となっており,検査室内に広くワークスペースを確保しやすい点も特長である。また,左右対称デザインのため,検査室のレイアウトや検査・手技内容に柔軟に対応する。志賀部長は,「この検査室は他施設と比べて非常に狭いのですが,Astorex i9はコンパクトなため術者が砕石位,寝台正面のいずれに立つ場合でもワークスペースを確保できます。検査に私が入る時は1人なのですが,基本的には医師が2名入り,さらに看護師が入っても,スペース的に支障なく手技・検査を行えます」と述べる。
また,検査室内には透視操作のためのコンソール「i-console」を導入し,透視でのポジショニングではなく,i-consoleやi-fluoroを使った事前の照射範囲決めで被ばくを最小限にしている。そして,その後のX線照射やi-fluoroの切り替えは操作室の診療放射線技師に指示を出して行うスタイルで,手技の時間短縮を図っている。
Astorex i9のさらなる活用の可能性について,志賀部長は,「尿管結石では,緊急処置として外来で尿管ステントを入れて後日砕石術を行うケースがありますが,腎機能が低下している場合は安全を期して入院としています。しかし,なかには1日の入院でリスクの見極めがつく患者も多くいます。当施設は有床クリニックなので,そういったケースをクリニックで対応するようになれば,限られた医療資源を有効活用できると考えています」と話す。泌尿器科の手技・検査に被ばく低減という価値をもたらすAstorex i9が,患者と術者に寄り添った医療を可能にしている。
被ばく低減に有用な視野移動機能i-fluoroと高い追従性で素早い手技にも対応するoctave iの実力
泌尿器科の手技・検査におけるi-fluoroやoctave iの有用性について,志賀部長に聞いた。
─i-fluoroの有用性について
i-fluoroを用いることで,検査や手技に合わせて必要な位置のみにX線を当てることができ,患者や術者の被ばくを低減できます。尿管ステントの交換ではステント留置側だけを観察できればよいため,視野を半分に絞ることで被ばくする領域を半減できます。また,膀胱尿管逆流の造影検査では,造影剤注入中は膀胱部分だけを観察し,左右のどちらかに逆流が始まったら逆流した側に視野を移動するという使い方ができます。
─Astorex i9の画質について
被ばくを抑制しながら高画質を得られています。透視で観察しながらガイドワイヤやステントを挿入する際にも追従性が高く,明瞭な画像を得られます。尿路結石で使用する異物付着防止型ステントは透視で少し視認しにくいのですが,Astorex i9は明らかに見やすいと言えます。
(2023年9月30日取材)
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一般的名称:据置型デジタル式汎用X線透視診断装置
販売名:デジタルX線TVシステム Astorex i9 ASTX-I9000
認証番号:302ADBZX00081000
医療法人鉄蕉会 亀田クリニック
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