横浜市磯子区の医療法人光陽会磯子中央病院(篠﨑仁史理事長、小島利協病院長、病床数180床)は、急性期から回復期までをカバーして地域に根ざした医療を展開している。同院では2022年5月、キヤノンメディカルシステムズの320列CT「Aquilion ONE / NATURE Edition」が稼働した。高度急性期と開業医をはじめとする地域の医療機関をつなぐ“ハブ”としての役割を果たすと同時に、面検出器と高速撮影、人工知能(AI)を応用した画像再構成法など最新の機能を生かした心臓検査などにも取り組み、地域に根ざした医療を展開する同院での320列CTの活用を取材した。
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1971年開設の同院は、2010年に現在地に移転し、整形外科領域を中心に外科、内科、脳神経外科、循環器内科などを標榜する。同院のある磯子区周辺には、高度急性期や救命救急センターを持つ医療機関が数多くあり、高度な救急医療に対する体制が整っている。同院は、その中で高齢化に伴って発生する急性期の疾患に幅広く対応すると同時に、高度急性期や地域クリニックをつなぐ“ハブ”としての役割を果たしている。同院の地域での役割について野口宗哲事務長は、「当院は、整形外科領域を中心に地域に貢献してきましたが、近年は地域の医療環境の中で不足している内科系の診療科も充実させ、地域の救急急性期病院として対応ができるような診療体制をとっています」と説明する。
今回、64列CTからのリプレイスで、320列CTのAquilion ONE / NATURE Editionが新たに導入された。同院では、地域連携のハブ機能を果たすには高度な画像診断技術が不可欠であるという方針の下、2020年から常勤の放射線科医2名で、質の高い画像診断と迅速な検査結果の返送が可能な体制を構築してきた。また、高瀬クニック(現・高瀬記念病院)で数多くの冠動脈CTを手掛け、キヤノンメディカルシステムズとも共同研究・開発を行ってきた近藤 武医師(寿光会中央病院循環器科、藤田医科大学客員教授)を特別顧問に迎えて冠動脈CT検査に関する指導を受けるなど、院内の撮影技術の向上にも積極的に取り組んできた。Aquilion ONE / NATURE Editionの導入も、さらなる診断機能の強化をめざしたものだ。
Aquilion ONE / NATURE Editionは、ディープラーニング技術を応用した画像再構成技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」や超解像技術「Precise IQ Engine(PIQE)」などのアプリケーションを搭載する。放射線科の伊藤邦泰副院長はAquilion ONE / NATURE Editionでの診療について、「整形外科の検査を多く行っており、胸椎から骨盤までの広範囲撮影では、80列モードでのヘリカル撮影で撮影時間が短縮しています。画質に関しては、以前の64列CTと同等のSDとしていますが、AiCEによる再構成で被ばく線量が低減されています。320列CT導入後、検査依頼は増加していますが、処理系のコンピュータが一新されたことで画像表示の時間も短縮しました」と述べる。また、放射線科の小原貴之技師長は、「通常の画像再構成とAiCEやPIQEの処理を並列で行えるので、画像処理を待つ時間はなくなりました。操作する人間側の対応が追いつかないぐらいです」と述べる。
地域の医療機関からの依頼検査は、CT(単純、造影、冠動脈)、MRI(単純)、骨密度、マンモグラフィで行っている。CTについては、Aquilion ONE / NATURE Edition導入に加えて、オンラインで検査予約や結果参照が可能なシステムを整備し、予約枠も土日祝日を含めて365日受け入れる体制に変更した。予約検査はCT、MRIを合わせて現在月間60〜70件。野口事務長は、「Aquilion ONE / NATURE Editionの導入は、当院だけでなく“地域の320列CT”という側面もあります。地域の開業医の先生方に開放して積極的に活用いただけるように、予約や検査結果の返送のシステムを併せて構築しました。365日受け付けるようにしたのも、自院の装置のように気軽に利用できるように配慮したものです」と述べる。小原技師長は、「紹介検査のワークフローを向上するため、予約枠をなくしました。造影CTについては週2日の検査枠を設けていますが、そのほかのCTは当日依頼での検査も可能です。オンライン予約システムと併せて、いつでも気兼ねなく、簡単に利用していただける体制を構築しています」と述べる。紹介検査の運用については、検査や読影体制の構築に加えて、地域連携室のスタッフと放射線科の伊藤副院長、小原技師長が直接近隣の医療機関を訪問して説明やフォローアップを行って連携を構築してきた。320列CTの導入の効果については、院内での冠動脈CTの検査件数増に加えて、地域のクリニックからの画像検査紹介件数も右肩上がりで増加している。(図1)。同院では、直接的な検査件数の増加だけではなく、検査後の同院の診療科への受診が増えることを含め、病院経営的なプラスの効果にも期待している。
近藤特別顧問は、同院では64列CTの時から冠動脈CTの検査プロトコールや撮影技術の指導を行ってきた。Aquilion ONE / NATURE Edition導入後に取り組んでいるのが、ATP負荷心筋パーフュージョンCT(stress CTP)とspectral CTによる遅延ヨード造影画像(delayed iodine enhancement:DIE)を用いて、1回の検査で冠動脈狭窄、心筋虚血、心筋梗塞部の評価を行う包括的心臓検査だ。小原技師長は、「月800件以上の検査を行う日々のCT検査枠の中で、できるだけ短時間で評価が可能な検査方法として近藤先生と共にプロトコールの検討を行いました」と述べる。包括的心臓検査のプロトコールは、test bolus tracking(TBT)法を用いて80kV、100mAでstress CTPを撮影し、その撮影中に80kV、800mAのBoost CCTAを撮影、その後、spectral CTでDIEを取得するもので、安静時撮影を省略することで最短20分での検査を可能にしている。近藤特別顧問は負荷のみのCTPについて、「最近の研究では、心疾患の予後評価にはCFRなどの心筋血流の評価が有用なことがわかってきました。心筋虚血の定量評価のゴールドスタンダードは15O-H2O(水) PETですが、ダイナミックCTPでもそれに匹敵する結果が得られるという論文が出てきており、320列CTの導入を契機として取り組むことにしました。ここは臨床病院ですので、短時間でかつ被ばくも考慮して負荷CTPのみとしています。造影剤の入っていない状態の単純CT画像で補正することで、水PETに近い値が得られています」と説明する。小原技師長は、「現在まで30件弱の検査を行っていますが、被ばく線量はDRLs 2020のCCTAとほぼ同等で、冠動脈から遅延造影による評価までが可能になっています」と述べる。心臓CTではPIQEによる再構成も行っており小原技師長は、「PIQEと金属アーチファクト低減技術のSEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)を組み合わせて、脊椎にインプラントが留置されていても冠動脈がきれいに描出できた症例を経験しました」と述べる。
■Aquilion ONE / NATURE Editionによる包括的心臓検査(CCTA+stress CTP+DIE)
Aquilion ONE / NATURE Editionについて、今後、頭部のCTPなどにも活用していきたいと伊藤副院長は言う。小原技師長は、「検査をサポートするAIのさらなる活用など機能の向上を期待していますが、一方でわれわれ技師スタッフが単なる“スイッチマン”にならないように日々研鑽を積む必要性を痛感しています。放射線科では、定期的に勉強会を開催して技術や知識を学ぶようにしています」と言う。Aquilion ONE / NATURE Editionの導入で学会発表など学術的な成果も生まれている。また、院内からも整形外科や冠動脈検査などでCTへのオーダが増えつつあり、地域からの紹介検査でも冠動脈CTの依頼が入るなど、320列CT導入の効果は着実に現れつつある。Aquilion ONE / NATURE Editionが、臨床面だけなく地域の医療をさまざまな側面で充実・向上させる推進力となっていくことが期待される。
(2023年5月29日、6月7日取材)
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000
※AiCE、PIQEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており、本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
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