鹿児島市立病院は、2015年に同市内の加治屋町から現在地(上荒田町)に新築移転した。同院に3台目の320列のArea Detector CT(ADCT)として「Aquilion ONE / PRISM Edition」が2022年1月に導入された。本装置はキヤノンメディカルシステムズのAIソリューションブランド「Altivity」のもと、ディープラーニング技術を応用した画像再構成技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」や超解像技術「Precise IQ Engine(PIQE)」を搭載したADCTの最上位機種である。同院の診療の現況と、AI技術で開発された画像再構成技術の臨床での運用と評価について、坪内博仁病院長とスタッフに取材した。
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同院は病床数574床、標榜診療科32科で高度急性期医療を提供する。新築移転から約8年が経過するが、この間、ドクターカーの運用拡大など救命救急センターの機能強化、手術支援ロボットの導入や先進内視鏡診断・治療センターの開設、地域医療支援病院の承認、地域がん診療連携拠点病院(高度型)の指定を受けるなど診療機能を強化してきた。2013年の就任以来、病院運営の先頭に立つ坪内病院長は、「鹿児島県では、500床以上の大規模の公的病院は、鹿児島大学病院と市立病院のみです。地域医療の充実だけでなく、次世代を担う医療人の育成という面からも当院の役割は大きいと考え、最先端の医療機器整備にも取り組んできました」と述べる。
同院のCTは、放射線科にAquilion ONE / PRISM EditionとAquilion ONE / ViSION Editionの2台、隣接する救命救急センターにもAquilion ONE / ViSION Editionが1台、そのほか腔内照射計画用として80列CTの「Aquilion PRIME」が1台、さらにAngio CTとしてもAquilion PRIMEが1台稼働している。そのほか3テスラ2台を含む3台のMRI、PET-CTや放射線治療装置などを整備している。放射線科の医師は6名、診療放射線技師は常勤28名、非常勤6名。放射線技術科の⻄元⾠也科⻑は、「CTをはじめ最先端の機器を導入して診療を支えています」と述べる。
高度医療機器の整備について坪内病院長は、「優秀なスタッフが力を存分に発揮するためにも医療機器は重要であり、CTやMRIなど画像診断機器をはじめ、移転時から最先端の高度医療機器を整備してきました。実際に優秀なスタッフとの相乗効果で、DPC(標準病院群)の病院機能評価でも全国の地域基幹病院と引けを取らないレベルまで成長しています」と説明する。
Aquilion ONE / PRISM Editionは、3台目のADCTとして2022年1月に導入された。放射線科の中山博史部長は、「一番はAiCEを適用した低被ばく検査と画質の向上に期待しました。当院は、先天性心疾患など小児・新生児に対する診療を行う県内唯一の施設であり、小児のCT検査が多いことから、被ばく低減技術は機器選定の大きなポイントになりました」と述べる。
鹿児島県における先天性心疾患の診療は、心臓血管外科の松葉智之医長が2020年に鹿児島大学から赴任以降、同院が中心的な役割を担っている。また同院は、周産期と小児医療を統合した成育医療センターを設けており、小児救急を含めて24時間高度な医療を提供できる体制を整備している。先天性心疾患の診療について松葉医長は、「先天性心疾患では、病態の把握や手術計画のために、心臓の形態の把握が必要でCT検査は欠かせません。息止めや体動抑制が難しい小児のCT検査では、被ばく低減と同時に1回の検査で必要十分な画像が得られることが重要です。Aquilion ONE / PRISM Editionでは、ワンスキャンで心臓を含めた肺動静脈の撮影が可能で、さらに細かい情報まで把握できるようになりました」と述べる。
2022年の小児(14歳以下)に対するCT検査件数は1251件で、そのうち心臓検査は92件となっている(表1)。年々増加する小児の心臓検査に対応するため、Aquilion ONE / PRISM Editionの導入に当たっても小児検査用の造影剤注入器など周辺設備も含めて環境を整備した。検査は、放射線治療で使用する固定用クッション(Vac-Lok)で固定し、ワンボリュームスキャンで撮影し鎮静なしで行っている。隈 浩司主幹は、「ADCTでは、高速撮影で心臓を1ボリュームでカバーでき、寝台移動もなく一瞬で検査が終わるため鎮静の必要がなくなりました。さらにAquilion ONE / PRISM Editionでは、PIQEによる画像再構成によって従来よりさらに線量を落とした検査が可能になっています」と述べる。
小児の心臓CTの画像再構成に用いられているPIQEは、Aquilion Precisionの高精細画像を教師データに用いてトレーニングしたDeep Convolutional Neural Network(DCNN)によって、ADCTの画質を向上する超解像技術だ。中山部長はPIQEで処理した画像について、「PIQEでは線量を下げた撮影でも、小児や新生児の小さい心臓の細かい解剖まで把握できます(図1)。以前のADCTでも見えてはいましたが、PIQEではノイズが減って、よりスムーズな画像で観察できるようになりました。成人の冠動脈ステントでも、ステント内腔の描出能が向上して再狭窄の有無が判断しやすくなっています(図2)」と述べる。撮影線量は、PIQEの適用によってAIDR 3Dと比較して40〜50%削減されている。隈主幹は、「PIQEでは、高い空間分解能を維持しながら大幅な線量低減ができています。現在、夜間の救急撮影でも小児の場合には、被ばくを考慮して救急センターのADCTではなくAquilion ONE / PRISM Editionで撮影しています」と言う。松葉医長は、「先天性心疾患では、繰り返し検査や治療が必要なことが多いので、CTの被ばくは少ないに越したことはありません。できるだけ少ない線量で、治療に必要な形態情報が得られることが重要です」と述べる。小児疾患に対するCT検査については、心臓カテーテルを用いた手技の際でも、先天性疾患では個々の患者で形態が異なることから、安全性を担保するためCT撮影を行い術前に形態を把握した上で手技を行っているとのことだ。
■Aquilion ONE / PRISM EditionのPIQEを適用した臨床画像
AiCEやPIQEの運用について中山部長は、「AI技術を使った画像再構成では、ノイズ低減の効果を画質の向上に生かすか、被ばく低減するかの選択が考えられますが、当院では画質を担保して被ばくを低減する方向で撮影条件を設定しています。そのため、腹部造影検査では造影の時相を追加するなど情報量を増やして、検査の質を上げて運用しています」と言う。同院では、Aquilion ONE / PRISM EditionではAiCEとPIQE、そのほか2台のADCTはAIDR 3Dを使用している。CTの撮影プロトコールの作成について隈主幹は、「Aquilion ONE / PRISM Editionの導入時に、3台のADCTのプロトコールをすべて統一しました。単にメーカー推奨のプロトコールに合わせるのではなく、当院のこれまでの画質や画像SDを維持しながら調整を行いました。同じADCTでも機種や画像再構成法が異なるため、キヤノンメディカルシステムズのアプリケーション担当や放射線科や小児科の医師とも相談して、プロトコールを決定しました」と説明する。
Aquilion ONE / PRISM Editionの稼働以降、小児や心臓以外にも腎機能が低下あるいは片腎の患者に対する低管電圧撮影による造影剤量を減量した検査、急性期脳血管障害に対するCT perfusion検査、CTガイド下生検など対応する検査は多岐にわたっており検査件数が増えている。西元科長は、「救命救急センターのADCTはコロナ対応もあるため、放射線科の2台のADCTに検査が集中します。なかでもさまざまな領域で低被ばくで高精細画像が得られるAquilion ONE / PRISM Editionの稼働率が上がっています。導入前には、画像再構成のスピードを心配したのですが、AiCE、PIQEでの再構成を行ってもワークフローに支障はありません」と評価する。
西元科長は放射線科の今後の運用について、「3台のCTの更新時期が異なるので、最先端の装置が稼働できるように計画的に整備して診療をサポートしていきたいですね」と語る。中山部長はCTのこれからについて、「Dual energyを活用した造影剤量の低減や、さらにその先のフォトンカウンティングCTにも期待したいですね」と述べる。
坪内病院長は病院のこれからについて、「DPCのデータ解析で次に何が必要かが把握できるようになっていますので、疾病構造の変化を予測しながら地域の中で必要な医療を提供していきます」と語る。AI技術とCTのさらなる活用が期待される。
(2023年1月17日取材)
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000
※AiCE、PIQEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており、本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
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鹿児島市立病院
鹿児島県鹿児島市上荒田町37-1
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