小樽掖済会病院は、小樽・後志(しりべし)地域で消化器疾患に特化した専門的な医療を提供し公的病院としての役割を担っている。同院に2022年9月、キヤノンメディカルシステムズの高精細CT「Aquilion Precision」が導入された。0.25mmスライス厚の検出器やDeep Learning技術を応用した画像再構成技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」を搭載したAquilion Precisionは、その高精細画像のクオリティが評価され、現在、国内で40台以上が稼働する。消化器疾患を中心とする臨床病院での診療に高精細画像をどう生かすのか、向谷充宏病院長、平野雄士副院長、放射線部の大家佑介副技師長に取材した。
|
|
|
同院は、海員(船員)の支援を目的とする日本海員掖済会の病院として1944年に開設された。掖済とは、「腋(わき)に手を添えて救い導く」意味であり、現在では社会の要請に応えて広く一般に向けた医療、介護、社会福祉事業を展開している。病床数は138床ながら、内科、外科ともに消化器を専門とする医師をそろえ、内視鏡による検査・治療、開腹や腹腔鏡下手術、肝動脈化学塞栓術(TACE)、抗がん剤治療まで高度な医療を提供している。向谷病院長は同院の診療について、「小樽市を含む後志二次医療圏には、当院も含めて4つの公的医療機関(済生会小樽病院、小樽市立病院、小樽協会病院)があり、それぞれの特色を生かした診療を提供しています。その中で当院は、消化器疾患に特化して、病気の早期発見と診断、内視鏡的手技をはじめとする適切な治療を提供しています。また、患者さんを最後まで責任を持って診るということで、がんなどの消化器疾患の患者を対象に緩和医療にも力を入れています」と述べる。2021年の手術は大腸がん84件、胃がん17件など総計567件、上部・下部内視鏡(検査、治療含む)6279件、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)138件などとなっている。また、後志地域は消化器内科・外科の医師が少ないこともあり、倶知安やニセコなどから同院への救急での搬送も多く地域からの信頼も厚い。
明治期から港湾を中心に物流の要衝として栄えた小樽市だが、現在は人口減少が続き、高齢化率も40%を超えるなど日本の課題を先取りする地域でもある。向谷病院長は、「だからこそ消化器疾患に特化した高度で専門的な医療を全力で提供し、急性期病院としての役割を果たすことが必要だと考えています」と言う。
その中で、同院は2022年9月に0.25mmスライス厚の検出器を搭載した高精細CTのAquilion Precisionを導入した。今回は80列CTのAquilion PRIMEからの更新となったが、高精細CTを選定した理由を平野副院長は次のように言う。
「Aquilion Precisionの高精細画像は従来CTとは一線を画しており発売当初から注目していましたが、当初は大学病院や総合病院に導入されるケースがほとんどで、一般病院のメインの装置として単独で運用するのは難しいと考えていました。特に当院は消化器疾患の撮影が中心で、造影検査の連続撮影での管球の熱耐性や体格の大きい患者さんに対する画質などが懸案でした。情報収集をしつつ経過を見ていましたが、画像については2018年にAiCEが搭載され画質や撮影線量の面で現実的な運用が可能になったこと、また、北海道でも大学病院への導入が進み高精細画像への認知が高まってきたことから、臨床のニーズに高いレベルで応えるためにも導入を決定しました」
向谷病院長は、消化器外科の中でも肝胆膵の悪性腫瘍を専門として、膵臓、胆囊・胆道の手術、肝臓の塞栓術を手掛けている。Aquilion Precisionの高精細画像への期待を次のように述べる。
「Aquilion Precisionに一番に期待するのは、手術のための正確な“設計図”の提供です。消化器のがんの治療においてCTが高精細画像になることで、手術前に深達度やリンパ節転移などがんの広がり具合をより正確に把握して治療方針を決めることができます。さらに、シミュレーションとして利用することで、より正確な手術支援が可能になると期待しています。例えば、肝臓がんであれば何%切除が必要で残肝容積は何ccかが予測できれば、患者さんに最適な治療方針が決定できます。消化管のがんの深達度は超音波内視鏡(EUS)でもわかりますが、CTでは周辺臓器や血管走向を含めた把握が可能で、より客観的な設計図をもたらし、患者さんへの説明にも有効です。高精細画像によってその精度が向上することを期待しています」
CTの検査件数は2021年度で年間4000件、1日では15件前後でAquilion Precision導入後も検査件数に変化はない。同院でのCT検査は、急性腹症から術前精査まで約9割を腹部領域が占める。腹部領域の高精細画像を用いた検査の初期経験について平野副院長は、「腹部血管像など手術支援の画像のクオリティは大きく向上しています。現状ではまだ、最適な撮影条件や造影法については検討中ですが、Aquilion Precisionの高精細画像の持つ基礎的なポテンシャルの高さを実感しています」と言う。大家副技師長は、「造影による血管の描出能は明らかに向上しています。大腸がん症例でも、より末梢の血管まで描出されています。大腸がんの手術では、ガイドラインで支配血管によって10cmごとに切離ラインが決定されますので、高精細画像によってより正確な術前のプランニングが支援できると期待しています」と説明する。消化器領域での高精細画像の有用性について向谷病院長は、「血管の描出能が上がったことで、選択的TACEではCT画像を用いた術前プランニングで栄養血管を同定し、複数の病巣を塞栓した症例を経験しました(図1)。心臓領域でカテーテル検査が冠動脈CTに置き換わったように、CTの画像が高精細になることで非観血的で安全な手技が可能になると実感しています」と述べる。
大腸CT検査(CT Colonography:CTC)への適用について平野副院長は、「CTCのVRやvirtual endoscopy(VE)画像でも、1024マトリックスの画像で再構成することで、腸管内の腫瘍の描出能が向上しました(図2)。タギングされた残渣の認識もしやすくなっていると感じています。スクリーニング検査にどこまでの画質を求めるかは慎重に検討する必要はありますが、高精細画像が大腸がんの深達度診断にどこまで寄与できるかなど、従来のCTの限界を超えた診断が可能になると期待しています」と述べる。
■Aquilion Precisionによる臨床画像
同院では、Aquilion Precisionの3つのスキャンモードのうちSHR(0.25mm×0.25mm)で撮影している。画像については、放射線部では1024マトリックスの画像をザイオソフト社製のワークステーション(WS)に保存し参照している。PACSへは、データ容量の関係から512マトリックスに変換して転送しているが、大家副技師長は、「導入前は高精細画像には1024マトリックスが必須だと考えていたのですが、実際の画像を見ると512マトリックスであっても0.25mmの検出器で撮影した画像は分解能が上がっており、明瞭に描出されています」と述べる。また、AiCEについて平野副院長は、「ノイズが自然に除去されており、脂肪織の部分がクリアに描出されています。Aquilion Precisionの高精細画像と合わせてストレスなく読影可能な画像が提供できています」と述べる。撮影線量についても、Aquilion PRIMEと比較して2〜3割程度低い線量となっている。
Aquilion Precisionでは、X線管球の焦点サイズをラージ(大)4、スモール(小)2の6種類から選択できる。同院では現在、部位や撮影範囲、線量などから自動で焦点サイズを決定するオートモードを使用している。大家副技師長は、「今後、焦点サイズを含めて、管電圧などの撮影条件、造影法など、Aquilion Precisionで高精細画像を収集するための検討を進めていきたいと考えています。高精細画像で何が見えるようになって何がわかるのか、診療科の医師とも相談しながらチャレンジしていきたいと思います」と述べる。
平野副院長はAquilion Precisionの初期経験を踏まえたこれからの方向性について、「Aquilion Precisionで画像の精度が上がって細かい血管や腫瘍などが描出されるようになりましたが、それが実際の読影や診断、その先の治療にどのように寄与するかは、これから検証が必要です。消化器領域での高精細画像の臨床的な価値についてしっかりと示していきたいですね」と言う。
小樽の地で消化器診療を究める同院での高精細画像がもたらす“新しい景色”に期待したい。
(2022年12月19日取材)
一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion Precision TSX-304A
認証番号:228ACBZX00019000
※AiCEは画像再構成に用いるネットワーク構築にディープラーニングを使用しており、本システムは自己学習機能を有しておりません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
公益社団法人日本海員掖済会
小樽掖済会病院
北海道小樽市稲穂1-4-1
TEL 0134-24-0325
https://www.otaru-ekisaikai.jp