キヤノンメディカルシステムズの“Altivity”は、人工知能(AI)を活用したアプローチによって将来的なプレシジョンメディシンの実現に向けて、さまざまな製品や技術を展開して臨床・運用・経営的価値の提供によって医療への貢献をめざすAIソリューションブランドである。Artificial Intelligence Imagingの第2回では、心エコー図検査におけるAltivityの活用について紹介する。超音波センターにプレミアムハイエンドの「Aplio i900 / Prism Edition」2台を導入し、心エコー図検査でのAI活用に先駆的に取り組んでいる徳島大学病院循環器内科の楠瀬賢也講師に、Altivityへの期待を含めて超音波検査に対するAI開発のコンセプトと今後の方向性などを取材した。
徳島大学病院では、超音波診断装置や超音波検査士などのスタッフを集約し、院内の産婦人科、小児科以外の検査を行う超音波センターを開設している。年間の検査件数は1万7430件で、うち経胸壁心エコー6300件、負荷心エコー154件などとなっている(2021年実績)。センターには、Aplio i900 / Prism Edition 2台のほか各社の超音波診断装置が導入されており、超音波検査士8名と研修医などによる検査体制が構築されている。楠瀬講師は超音波センターの診療について、「循環器内科の医師が常駐する体制をとっており、循環器領域の検査が多いのが特色です。また、研修医や若手技師の教育にも力を入れているのが特徴で、上級医が必ずダブルチェックを行っています」と述べる。
心臓超音波(心エコー図)は、MモードやBモード、ドプラ法などを用いて、心臓の構造(形態や容積など)と機能(壁運動や弁機能、血行動態など)を観察する検査である。近年は超音波診断装置の進歩に伴って、3D心エコーやストレイン解析など新たな撮像法やアプリケーションが登場して、日常のルーチン検査で計測項目が増え続けているのが現状だ。楠瀬講師は心エコー図検査の現状について、「15年前に比べてレポートに記載する項目は倍になっています。検査件数が増加しているのは心エコー図検査への信頼度向上の証しでもありますが、同時に専門性が高く、複雑な心エコー図検査を正確に、かつ効率良く進めるためには、精度の高い自動診断支援技術が求められています」と述べる。そこで期待されるのが、近年進化を続けるDeep LearningなどのAI技術を活用した画質向上や検査サポートによるワークフロー改善の機能である。
超音波センターに導入されたAplio i900 / Prism Editionには、AIを用いて開発された先進のアプリケーションが搭載されている。同装置はCPU/GPUを刷新してさらなる高解像化を図ると同時に、設計段階でDeep Learning技術などのAIを使って開発したアプリケーションとして、自動計測機能の“Measurement Assistant”、断面の自動認識と輪郭の自動トレースを行う“Auto Plane Detection”“Automatic initial contour trace”などが搭載された。
Measurement Assistantは、従来の方式では計測に時間を要する波形トレース項目に適用されている。中でも使用頻度の高いLVOT(左室流出路)とAV(大動脈弁)などでAIを用いた自動計測を実現し、熟練技師の計測ポイントの学習データを用いてトレーニングすることで、従来方式の自動計測よりも精度の高い計測が可能になった。楠瀬講師は、「Aplio i900 / Prism Editionはベースとなる画像がきれいで、自動計測の精度が高く、検査時間の短縮につながっています」と評価する。
また、Auto Plane Detectionは、壁運動解析ソフトウエアである“2D Wall Motion Tracking(2D WMT)”でストレイン解析をする際に、ワンクリックでLV(左室)/LA(左房)/RV(右室)/RA(右房)を認識する。Automatic initial contour traceは、断面の自動認識と連動して自動的に輪郭をトレースして解析時間をさらに短縮することができる。楠瀬講師は、「2D WMTは断面の認識精度が高く、安定したストレインの計測が可能です。解析の手間を省くには、修正などのためにクリックする回数をできるだけ減らすことが求められますが、そのためにも装置に任せられる十分な精度が出ることは大きなポイントです」と述べる。ストレイン解析は、抗がん剤治療などがん診療にかかわる腫瘍循環器領域で、心機能を把握する指標として注目され検査数も増えている。同院でもルーチン検査の計測項目にストレインを新たに追加したが、自動計測機能によって従来と同じ検査時間内で測定が行えていると評価する。楠瀬講師は、「AIの活用によって画質や検査の再現性などが向上し、それによって検査時間の短縮などワークフローの改善や自動診断による新たな臨床価値が生まれることが期待できます」と述べる。
■Aplio i-series / Prism EditionのAIを用いて開発された自動解析機能
楠瀬講師は、2018年から循環器領域における超音波画像を用いた自動診断支援技術の開発に取り組んできた。心エコー図へのAI活用の研究の取り組みについて楠瀬講師は、「超音波画像は個人の技量や経験に依存し、画像の評価は主観的な“見た目”の印象による診断がほとんどでした。超音波診断装置の進化で超音波画像の高画質化が進み、より精度の高い画像による検査や解析が可能になりましたが、それだけに客観性や再現性のある新たな解析手法の必要性を強く感じていました」と述べる。放射線科領域でのDeep LearningなどAI技術の医用画像解析への適用が進む中で、楠瀬講師は、「AIを超音波画像に使うことで、画質の向上や数値による定量化などによって、新しい指標に基づいた客観的で再現性の高い診断が可能になるのではと考えたのがきっかけです」と言う。
楠瀬講師は、自動診断に向けたAI適用のプロセスとして、(1) 画質評価、(2) 断面分類、区域分類、(3) 計測、(4) 異常検知の4段階を挙げているが、徳島大学ではこれまで畳み込みニューラルネットワーク(CNN)をベースとした断面分類モデル(断面・区域分類)1)、左室駆出率(LVEF)の推測モデル(計測)2)、局所壁運動異常の検出モデル(異常検知)3)などの開発を行ってきた。楠瀬講師は、「心エコー図にAIを適用するには、複雑な心血管構造を認識するために断面と区域の正確な分類が必要で、その画像を基にLVEFの計測や壁運動異常の検出モデルの開発を行いました。エキスパートの評価との相関性も高く、AIが心エコー検査を支援できる可能性があると言えます」と述べる。さらに、現在はエキスパートが判断した“見た目”のEF(visual EF)をAIに学習させ自動解析に反映するモデルの開発などにも取り組んでいる。
心臓超音波領域でのAI開発の方向性について楠瀬講師は、「当面の課題は再現性のさらなる向上です。誰が検査しても、精度の高いデータが、同じように簡単に取得できるようになることが必要です。各種の診療ガイドラインでも超音波検査の“再現性”に関して記載されているのは腫瘍循環器領域などまだ一部ですが、超音波の検査結果に基づいた診断や治療法の選択のためには再現性の高さは重要なファクターになります。AIの適用で安定して再現性の高い画像や計測結果が得られるようになれば、超音波診断装置はもっとクリアに治療方針の決定に寄与できると期待しています」と述べる。一方で、楠瀬講師のAI研究のターゲットは、その先の病態の鑑別診断にある。楠瀬講師は、「自動計測や自動診断は装置メーカーが実現すると思うので、私たち臨床側は新しい病態や疾患を発見できるAIの開発に取り組んでいきます」と今後の方向性を語る。
徳島大学では、日本医療研究開発機構(AMED)の画像関連データベース事業の主幹施設として、日本の循環器領域の超音波画像データベース構築の重責も担う。心エコー図検査の再現性向上や自動化によるワークフローの改善に向けた研究開発への期待は大きい。
(2022年6月27日取材)
[参考文献]
1)Kusunose, K., et al., Biomolecules, 10 : 665, 2020.
2)Kusunose, K., et al., J. Am. Soc. Echocardiogr. , 33 : 632-635 e1, 2020.
3)Kusunose, K., et al., JACC Cardiovasc. Imaging, 13 : 374-381, 2020.
※本記事に掲載のシステムは、設計段階でAI技術を用いており、各システム自体に自己学習機能は有しておりません。
*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。
一般的名称:汎用超音波画像診断装置
販売名:超音波診断装置 Aplio i900 TUS-AI900
認証番号:228ABBZX00020000
一般的名称:汎用超音波画像診断装置
販売名:超音波診断装置 Aplio i800 TUS-AI800
認証番号:228ABBZX00021000
一般的名称:汎用超音波画像診断装置
販売名:超音波診断装置 Aplio i700 TUS-AI700
認証番号:228ABBZX00022000
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