キヤノンメディカルシステムズは、2021年11月、人工知能(AI)に関連するソリューションの新ブランド“Altivity(アルティビティ)”を発表した。今後のprecision medicine(精密医療)の展開をサポートする重要なコンセプトであり、また、北米放射線学会(RSNA)開催に合わせて発表されたことからもわかるようにグローバルでの事業展開の核ともなるブランドである。今回はSpecial Reportとして、Altivityの生みの親でブランディングの責任者でもあるグローバルマーケティング部部長のキャンディ・ワッサーマン(Candy Wasserman)氏と、同主幹/営業企画部セールスプロモーショングループグループ長の宮谷美行氏に、Altivityのコンセプトや今後の展開をインタビューした。
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─Altivityの全体像からおうかがいします。
Candy:Altivityは、物理的な製品や特定の技術を示す名称ではありません。キヤノンメディカルシステムズのAIソリューション全体のブランド名であり、診断から治療までの過程全体に対して妥協のない画質と価値を、機械学習や深層学習というAI技術を集約して提供するものです。Altivityは、正確で質の高い情報による診断の支援、迅速かつ患者に合ったケアの提供、最適化され効率的なワークフローの構築などをAI技術を活用して可能にします。
Altivityという単語は、ラテン語で“高い”“深い”という意味の「Alt」と、“activity(活動)”や“creativity(創造性)”などのダイナミックな言葉につながる接尾語「-ivity」を組み合わせた造語です。Altivityのブランド名は、“Artificial Intelligence”の領域の中でも機械学習か深層学習を使った技術にのみ使用します。
─Altivityのブランディングのねらいはなんですか。
Candy:ブランディングのねらいは3つあります。1つは、Altivityの下にAI技術を結集することで、より強く確実な成果を顧客に提示できること、現在だけでなく将来に向けた方向性を含めて共有できること、そして当社がソリューションを提供する会社であることをアピールできることです。2つ目は、医療AIと言った時に真っ先にAltivityが出てくるように強力なアイデンティティを構築することです。3つ目は、キヤノンメディカルシステムズの経営スローガンである“Made for Life”や、われわれのリソースを連携して患者を中心にした最適なソリューションを提供する“Collaborative imaging”を、AI技術によってさらに強化することです。
─AI技術が必要とされる背景は。
Candy:世界的に共通した医療の課題があります。経済成長を超えて増え続ける医療費、世界的な医療従事者の不足や日本における働き方改革など負担軽減の課題もあります。また、医療へのアクセスと効率性も問題で、少なくとも世界の半数の人たちが必要な医療サービスにアクセスできていません。そして、個別化医療(personalized healthcare)へのニーズの高まりなど、医療に求められる品質が上がり続けていることもあります。それは、将来的なprecision medicineの展開において、高品質で大量のデータを基に高いアウトカムが求められる中で、データをどのように収集・解析・保管するかの課題にもつながります。これらの課題に対して、キヤノンメディカルシステムズではAltivityやCollaborative imagingによって、患者さんのアウトカムと医療費などのコストを最適化した価値を提供することをめざしています。
─医療の課題にどのようにアプローチしますか。
Candy:Altivityの最終的なゴールはprecision medicineの提供です。そのゴールに向けて3つのステップ(Phase)での段階的な進化を想定しています(図1)。Phase1は、現在すでにソリューションとして提供しているもので、1つはディープラーニング技術を応用した画像再構成技術“Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)”や“Precise IQ Engine(PIQE)”によるノイズ低減や超解像の実現です。もう1つは、診療支援ソリューション“Abierto Reading Support Solution(RSS)”による画像解析の自動化と読影支援です。Phase2は、画像に加えbiologyのデータ(in-vitro)を用いた診断支援システム(Clinical Decision Support:CDS)の展開で、2年から5年での実現をめざしています。そしてPhase3はさらにその先、究極の高解像度と自動診断技術を搭載したモダリティと、in-vitro、in-vivoのバイオテクノロジーで得られたデータなどあらゆる情報を駆使して、適切な診断が可能になるように支援していきます。
─Altivityを展開する中でキヤノンメディカルシステムズとしてのアドバンテージは。
Candy:われわれの経営スローガンであり、企業活動の起点とも言うべきMade for Lifeは、他社との大きな差別化ポイントです。われわれはMade for Lifeのコンセプトの下で、医療に携わる企業として常にお客様に寄り添う“情熱(Passion)”、高画質な画像の提供や低被ばく撮影など他社にない製品や技術を提供する“専門性(Expertise)”、最先端の研究機関や企業と共同して研究開発を行う“連携(Collaboration)”、そして医療の世界で1世紀以上にわたって高い品質の製品を提供してきた“高度な技術力(Craftsmanship)”、これらのサイクルを回し続けることでヘルスケア業界での地位を築いてきました。AltivityはそのMade for Lifeの活動を加速させ、次のレベルに押し上げるためのツールでもあります。
また、世界のトップサイトと連携した産学共同による研究開発のネットワークを構築していることも強みです。例えば、“AI Center of Excellence Edinburgh”では、スコットランドの大学や研究機関と連携してAIの最先端技術の研究開発を行っています。また、CTやMRIの深層学習を用いた画像解析については、日本の広島大学、熊本大学、フランスのボルドー大学などと連携して進めています。さらに、アメリカのジョンズホプキンス大学とは、データマイニングなどビッグデータ解析を中心とした研究開発に取り組んでいます。
宮谷:キヤノンメディカルシステムズでは、Made for Lifeの理念の下、先進の大学や研究機関との共同研究や開発はAltivityの前から進めてきました。例えば、広島大学との連携ではモデルベース逐次近似画像再構成(MBIR)の“Forward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTion(FIRST)”が生まれました。MBIRによって高いレベルで画質向上とノイズ低減を実現したFIRSTの技術は、AiCEやPIQEの教師データとしても活用されています。われわれが一貫して進めてきた高品質画像追究へのチャレンジが、今回のAltivityへとつながりました。
─高精細データが可能にするものはなんですか。
宮谷:われわれには、0.25mmスライスの高精細CT「Aquilion Precision」があります。今後、精密医療に向けたAIを実現するためには精度の高いデータに基づいたネットワークのトレーニングが不可欠です。信頼性の高いAIを実現するためには、精密で信頼性の高いデータが必要です。AltivityのPhase1が高精細画像を取得可能なモダリティと画像再構成技術、解析技術から始まっている意味はそこにあります。正確なデータの裏づけがなければPhase2には進めません。
その根拠(proof point)となる症例画像を提示します。図2は、3T MRIで撮像した海馬の画像です。海馬は記憶を司る器官ですが、アルツハイマー病の多くに海馬の萎縮や変形が見られると言われており、アルツハイマー病の診断では重要な意味を持ちます。MRIではAiCEを適用することで、より短い撮像時間で高画質を得ることができます。図3は、CTの膵臓の描出です。aの画像はAquilion Precisionで撮影した0.25mmの世界最高クラスの高解像度の画像ですが、それにAiCEを適用することでノイズが低減され、膵管およびその周囲の実質がさらに細かく描出されています。
図4は、Abierto RSSを中心にしたAutomation Platformのフローを表しています。Abierto RSSで提供される脳卒中ソリューションは“Hemorrhage analysis”“Ischemia analysis”“Brain Perfusion”などのアプリケーションを提供して、急性期脳梗塞の出血部位や虚血領域を認識して提示します。脳卒中などの脳血管障害では、早期の的確な診断による治療選択が予後改善に大きく影響します。いずれの画像も現在の医療の課題解決に貢献できると考えています。
─最後にメッセージをお願いします。
Candy:キヤノンメディカルシステムズがめざすゴールは、より良い医療をすべての人に提供できるように支援することです。その根幹はMade for Lifeであり、Altivityもそれを実現するための一つのツールです。そして、Made for Lifeの理念の実現のためにはパートナーシップが重要になりますので、それをベースにAIの展開を考えていきます。
(2022年1月31日オンラインで取材)
※AiCE、PIQE、Abierto RSSは設計段階でAI技術を用いており、自己学習機能は有していません。
※脳卒中ソリューションは、装置が自動診断を行うものではありません。
Altivityは、キヤノンメディカルシステムズのAIソリューションブランドです。