栃木県救命救急センターとして地域の救急医療を支えてきた済生会宇都宮病院(病床数644床)は、2019年に救急・集中治療科を発足し、pre-hospitalから救急外来、ICU、病棟までを一手に統括する体制に一新した。ドクターカーやECMO(体外式膜型人工肺)を活用し、初期対応から重症患者管理までシームレスな救急診療を展開している。救急外来では、キヤノンメディカルシステムズのハイクラスエコー「Aplio a / Verifia」2台を導入し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で注目された肺エコーやECMOに活用している。ハイクラスエコーを用いた救急医療の実際について、救急・集中治療科主任診療科長/救命救急センターの小倉崇以センター長と、木村拓哉副センター長に取材した。
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済生会宇都宮病院は1942年に開院、1996年に現在地に移転し、中核病院として地域医療を支えてきた。救急医療においては、1981年に栃木県救命救急センターを受託し、2次・3次の救急医療体制を敷いてきた。救命救急センターでは長年、ER型の診療を行ってきたが、2019年に体制を一新した。その理由について小倉センター長は、「ERの役割は、すべての救急患者を受けて正しく診断し、適切に診療科につなぐことですが、複合疾患や多臓器不全で重篤な患者ほど特定の診療科に引き継ぐことが難しく、当院で診られないというジレンマが生じていました。そこで、重症管理をできる集中治療の専門医を集め、救急外来、ICU、救命救急センター病棟の3部門を統括する救急・集中治療科を立ち上げ、重症患者までしっかりと診療できる仕組みにしました」と説明する。担当領域を拡大したことで、幅広い経験を積めると全国から医師が集まり、現在は22名が在籍する。年間の救急外来受診患者は1万6210人、救急車搬送7392件、救急入院患者数は4924人に上る(2019年実績)。
同科の特徴の一つが、COVID-19の感染拡大で広く知られるようになったECMOだ。ECMOには、呼吸・心臓・心肺蘇生の3種類があるが、同科ではすべてに対応しており、年間80〜100件のECMO導入を実施している。小倉センター長は、「大学病院で各部門が行うECMOを合計して年間100件というのはありますが、市中病院の1部門でこれだけのECMOを行える環境を構築できたのは大きな強みだと思います」と自信を見せる。さらに、2020年10月には“動く救命救急センター”をコンセプトに、ECMO装着や手術も可能なドクターカーの運用を開始。この1年間で957件出動し、重症患者の搬送にも多く活躍しており、高度なpre-hospital careを支えている。
院内外で高度な救急医療を実践できる環境を整えてきた同科では、2019年にキヤノンメディカルシステムズのハイクラスの超音波診断装置「Aplio a / Verifia」を救急外来に2台導入した。多くのスタッフが集結し一刻を争って処置に当たる救急の現場では、手軽に使えるコンパクトな検査装置を求める傾向もあるが、小倉センター長はハイクラスの装置を救命救急センターで使用する意義について、「救急において迅速さは重要ですが、高度医療を実践するには高度な診断が不可欠です。高画質なハイクラスエコーがあることで、精確な診断に基づく、適切な方針の決定と高度な治療が可能になります」と話す。
救急外来はさまざまな患者が受診するが、ほとんどの患者に対してAplio a / Verifiaで超音波検査を行っている。心血管疾患や外傷、腹痛などエコーが有用とされる領域はもちろん、薬物治療の適応判断のための心機能チェックにもエコーを用いるなど、全身で活用する。木村副センター長は、「1分でも早く治療を始めるために迅速な診断が重要です。エコーは、聴診と同じように速やかに実施できる点でほかの画像診断機器より優れており、例えば、急性腹症や外傷においても、イレウスや腹水の有無が初期診療の早い段階でエコーで確認できれば、より早期から的確な治療を行えます。画質が不十分だと診断、治療方針を誤る可能性もありますが、Aplio a / Verifiaでは高画質で診断できるため、より早期から確信をもって治療の方向性を決めることができます」と述べる。
放射線被ばくの影響が懸念される小児においては、侵襲なく検査できる意義も大きい。乳児や幼児においても、重症頭部外傷で大泉門から頭蓋内を観察したり、背部から脊髄硬膜外血腫を評価するなどエコーの活用の幅は広い。また、木村副センター長は、「救急医から循環器内科医へ患者を引き継ぐ際など、救急外来でのAplio a / Verifiaによる確かな画質を基にした診療は、患者を引き継ぐ他科との信頼関係においても重要です」と、ハイクラスエコーの必要性を強調する。
医療に甚大な影響を与えたCOVID-19であるが、診療にエコーが活用されたことで、肺エコーはこの1〜2年で10年分の進歩を遂げたとも言われる。それまでの救急における肺エコーは外傷診療で気胸を評価する程度だったが、COVID-19ではB line(図1)や胸膜下のconsolidation(図3)など特徴的な所見が多く、肺エコーの有用性が広く認識されるようになった。ほかにもA lineやlung slidingなど肺エコーで得られる情報は多く、COVID-19対応で活用する中で、他疾患の診断や経過観察における有用性を実感するようになったと、木村副センター長は話す。
「呼吸不全の患者は身体所見に加え肺エコーで評価を行っています。例えば薬物治療の選択が重要な喘息と心不全など、身体所見だけでは判別が困難な症例でも、肺エコーを加味すれば正確に識別することができ、救急外来においても早期から適切な治療を選択できます。COVID-19でも同様で、身体所見+肺エコーを活用し、早期から適切に診断し治療を開始できます。患者さんへのメリットはもちろん、医療者の感染リスクを下げるなどのメリットもあります」
同科では、肺エコーをICUや病棟での経過観察にも活用しており、研修医にも画像や経験を共有して、日々の変化を詳細かつ立体的・動的に、侵襲なく把握できる肺エコーのメリットを伝えている。全国の救命救急センターは、COVID-19への対応で肺エコーを多く経験したと見られることから、救急での肺エコー活用が今後定着していくことが予想される。
■Aplio a / Verifiaによる臨床画像
同科が注力するECMOにも、Aplio a / Verifiaが活用されている。経皮的カニュレーションは透視下での留置が望ましいとされているが、一刻を争う蘇生ECMO(体外循環式心肺蘇生:ECPR)ではエコー下での穿刺、カニューレ挿入を行っている。大腿静脈から心臓へとカニューレを挿入する際は、肝静脈などへの迷入を防ぐために画像による確認は重要で、木村副センター長は、「非透視下でのECPRカニュレーションでは、胸骨圧迫をしながらでもリアルタイムに使用できるエコーは有用で、エコーでガイドワイヤやカニューレの位置を確認しながら手技を進めます。一刻を争う緊迫した手技の中でも、Aplio a / Verifiaはそれらのデバイスを明瞭に描出してくれるので安心して手技を行うことができます」と説明する。ほかにも、心肺停止時の脳低温療法でバルーン付き中心静脈カテーテルを挿入する際など、救急の手技における活用シーンは多い。
最上位機種のAplio iシリーズの技術を継承したAplio a / Verifia は、ノイズの少ない高精細な画像を提供する技術を実装している。また、23インチのワイドモニタは、複数人で画像を確認する救急外来での手技にも適している。
木村副センター長はAplio a / Verifiaについて、「装置の起動も速く、画質についてもフリースペースがしっかり黒く描出され、心囊液や胸水、腹水などの血性の有無を正確に認識できるので、救急外来やICUに適しています。ドクターカーではポータブルエコーを使用していますが、救急外来に搬入してAplio a / Verifiaで見ると評価が変わるようなケースもあり、救急にハイクラスエコーがなくなるという事態は想像できないですね」と評価する。
同科では、ECMOやドクターカー、ハイスペック装置を駆使した救急医療のモデルケースを作ろうとしている。小倉センター長は、「このモデルを検証しつつ、インフラとして地域に貢献し続けること、そして当科のコンセプトで救命措置ができる医師を育成することが使命です。当科で研修した医師がその経験を生かした拠点作りをする際にはサポートしたいと思いますし、そうした拠点が各地にできることで日本の救急医療が変わるのではないかと思います」と展望する。
ハイクラスエコーも活用した救急医療のモデルが浸透し、高度救急医療が新たな段階へと進むことが期待される。
(2021年11月1日取材)
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一般的名称:汎用超音波画像診断装置
販売名:超音波診断装置 Aplio a CUS-AA000
認証番号:301ABBZX00001000
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