秋田県立循環器・脳脊髄センターは、2019年3月の改称と新診療棟の開設に合わせ、SPECT装置をキヤノンメディカルシステムズの3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」に更新した。脳血流SPECTを中心に心臓や全身領域の検査にも活用しており、GCA-9300Rの高感度を画質向上に生かして、形態画像と総合的に評価をすることで病態の本質に迫り、日常診療に役立てている。同センターでの脳血流評価を中心としたSPECT検査の実際について、放射線科診療部の木下俊文部長、篠原祐樹医師、佐藤 郁技師にインタビューした。
|
|
|
脳卒中の死亡率が高かった秋田県において、“脳卒中の撲滅”をめざして1969年に設立された秋田県立脳血管研究センターは、脳・血管系の疾患に対する診療と臨床に根ざした研究を展開し、県民の健康増進につながる医療を提供してきた。設立50年の節目を迎えた2019年3月、循環器と脳脊髄の高度急性期医療を行う脳心血管病診療棟(新棟)がオープンし、施設名称も秋田県立循環器・脳脊髄センターへと改称された。病床数は184床、年間の入院患者数は約2000人、外来患者数は約4000人で、救急医療においてはドクターヘリで県北地域を広くカバーしながら脳と循環器の救急患者を24時間受け入れている。
木下部長は、「1997年に循環器科を開設して循環器診療も行っていましたが、改称により名実ともに脳と循環器という2本柱がより明確になりました。急性期を中心に脳と循環器の包括的医療をめざし、PCIの体制を整えるなど機能強化を進めています」と説明する。
放射線科診療部には、CT、MRI(3T:2台、1.5T:1台)、血管撮影装置(3台)、SPECT、PET、サイクロトロン、ホットラボなどが整備されている。放射線科医3名、診療放射線技師15名のほか、理工系研究員が4名在籍して放射性薬剤の合成や画像解析を専門的に行っており、「医師、技師、研究員が協力して画像から多くの情報を引き出し、形態画像と機能画像を総合的に評価することで病態の本質に迫る」(木下部長)ことで、高度医療を支える画像検査を提供している。また、県内の医療機関からの検査依頼を受ける画像診断センターも開設しており、県内2施設でしか行えないPET検査をはじめ,充実した検査機器を地域で活用することで県民の健康増進に貢献している。
SPECT検査については長年、頭部専用SPECTと汎用2検出器型SPECTで行ってきたが、新棟開設を機に更新することになり、それまで2台で行ってきた検査に対応可能な装置が検討された。頭部検査が大部分を占めることから、条件としては第一に頭部で高感度・高精細な画像を取得できること、次いで心臓検査も可能なこと、そして骨・腫瘍・副腎シンチグラフィにも対応できることが挙げられた。
その中で候補となったのが、3検出器型のGCA-9300Rである。3つの検出器を三角形に配置したGCA-9300Rは、各検出器が120°分収集することで完了でき、検出器が対向位置にある2検出器型に比べて1.5倍の検出効率を有する。2検出器型よりも安全に検出器を被検者に近づけられることもメリットであり、高い検出効率を高画質化や検査時間の短縮に活用することができる。
木下部長はGCA-9300Rについて、「検査対象となる患者は必ずしも状態が良くないため、限られた検査時間で最低限の画像を取得することはきわめて重要で、その点においても感度の高いGCA-9300Rは有用だと考えました。加えて、循環器に対応するため心筋血流測定ツールが使えること、件数は少ないですが全身の他領域の検査にも対応できることもポイントとなりました」と述べる。頭部SPECTはIterative Chang法で減弱補正が可能で、また同センターではFDG-PETでガリウムシンチグラフィを代替できるため、SPECT/CTにこだわることなく高感度を優先した機器選定の結果、3検出器型のGCA-9300Rの採用が決まった。
同センターでの頭部SPECT検査は脳血流SPECTが最も多く、診断から治療適応の決定、術前術後の評価、フォローアップまで活用している。脳血流SPECTの役割について、篠原医師は次のように説明する。
「超高齢社会で増加する脳血管障害や認知症に対して、また若年でも発症するもやもや病やクモ膜下出血などの疾患に対して、脳血流SPECTで適切に診断し、治療方針を決定することは非常に重要です。近年はCTやMRIでも血流評価を行いますが、蓄積型トレーサーの特徴を生かして、比較的簡便に精度の高い血流評価が可能な脳血流SPECTのニーズは高いと言えます」
脳血流SPECTでは、検査目的に応じて123I-IMP、99mTc-HMPAO、99mTc-ECD(認知症診断)と3種類の製剤を使い分けている。慢性期脳主幹動脈閉塞症やもやもや病などで血行再建が検討される場合には、血流との直線性に優れる123I-IMPを用いてARG法による脳血流定量評価を行った上で、O-15ガスPETで適応を決定しているほか、脳血管障害のフォローアップにも用いている。99mTc-HMPAOは、ほとんどの技師がHMPAOを標識できる技術を有していることから準緊急的な検査にも対応可能で、てんかんやクモ膜下出血術後の脳血管攣縮に伴う脳虚血の評価、頸部内頸動脈狭窄の内膜剥離術やステント留置術における術後過灌流の評価にも活用している。
SPECT検査は、脳血流SPECTを1日に3、4件実施するほか、心臓など頭部以外の検査のオーダには随時対応している。GCA-9300Rの操作性について佐藤技師は、「一般的には、核種によりコリメータを使い分けしますが、導入時の担当者からのアドバイスを基にFANHRのみを導入しました。交換作業なしで頭部検査を続けられます。ヘッドドームによりカメラとの接触を気にする必要がなく簡便にポジショニング可能です」と話す。GCA-9300Rによる検査はスループットが良く、解析まで含めて1日で脳血流SPECT6件、99mTc心筋シンチ負荷+安静を実施した経験もある。
検査ではGCA-9300Rの高い検出効率を画質向上に生かしており、99mTc検査で約20分、123I検査で約30分かけて収集する。以前の頭部専用SPECTの画像と単純に比較することは難しいが、遜色のない画像を得られていると評価しており、佐藤技師は「2検出器では頭部専用装置の画質には到底追いつかない印象でしたが、GCA-9300Rでは減弱補正や散乱線補正も用いることで、専用装置と比べて違和感のない高画質画像を導入直後から得られています」と述べる。
高画質が臨床にもたらすメリットについて、篠原医師は、「脳血管障害の読影では、血流低下域が灌流圧低下による血流低下域なのか、障害された部位から神経線維連絡のあるところに生じた遠隔効果なのか、脳萎縮などの形態変化による部分容積効果なのかを区別することが重要です。GCA-9300Rでは高分解能画像を得られており、その評価がしやすくなりました。また、分解能が高いことで非常に軽度な血流低下や、深部領域の小さな血流低下もとらえやすくなり、病態の正確な把握につながっています」と話す。
脳血流SPECTで必須となるMRIやCTとの比較読影においては、マルチモダリティ対応の画像フュージョンソフトウエア“Mirada Fusion Standardソフトウェア”を活用している。篠原医師は、「SPECT画像が高画質だからこそフュージョンの精度も高く、小さな血流低下域がMRIのどこに相当し、どのような変化が生じているかを信頼性高く評価できます。ほかにも、過灌流症候群では血流上昇域が血管支配と一致しているか、血流に微妙な左右差がある視床や被殻で何が生じているかなどを評価しやすいです」と、フュージョン画像の有用性を説明する。
なお、SPECT検査は画質を重視し時間を短縮せずに行っているが、GCA-9300Rでは検査を途中で切り上げた場合にも画像を作成することができる。患者の体調不良により約5分で切り上げた99mTc検査で、診断可能なレベルの画像を得られた同センターの経験は、GCA-9300Rの検出効率の高さを物語るエピソードだ。
■3検出器型SPECT「GCA-9300R」による臨床画像
木下部長はSPECTへの期待として、「脳・心筋の血流量を正確に測定できることに加え、予備能の評価ができれば治療介入に重要な情報を提供できます。将来的に新しいトレーサーや測定法が出てくればGCA-9300Rと組み合わせて新しい展開ができると期待しています」と述べる。篠原医師は、「GCA-9300Rによる脳血流SPECTと、脳血流測定のゴールドスタンダードであるO-15ガスPETとの比較検討をしたいと思います。また、被ばく低減も重要なテーマですので、投与量低減についても技師や研究員と共に基礎検討に取り組んでいきます」と話す。
形態画像と機能画像の総合評価で病態の解明に挑む同センターの取り組みに、GCA-9300Rの高感度・高画質なSPECT画像がこれからも大きく貢献していくだろう。
(2021年2月19日オンラインにて取材)
地方独立行政法人秋田県立病院機構
秋田県立循環器・脳脊髄センター
秋田県秋田市千秋久保田町6-10
TEL 018-833-0115
https://www.akita-noken.jp