広島市立広島市民病院(743床)は、広島市街の中心に位置し、公的病院として高度医療から救急、周産期医療まで地域の医療ニーズに対応した幅広い診療を行っている。同院に2021年1月、キヤノンメディカルシステムズの次世代Area Detector CTである「Aquilion ONE / PRISM Edition(以下、Aquilion ONE / PRISM)」が導入された。救急部門での急性期脳梗塞疾患や心臓CTなどに活用されている現況を、救命救急センター・西野繁樹センター長、脳神経外科/脳血管内治療科・廣常信之主任部長、放射線診断科・浦島正喜主任部長に取材した。
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1952年に開院した同院は、公的医療機関として地域の医療ニーズに応えるべく、がん、循環器、脳神経疾患から総合周産期母子医療センターまで幅広い診療を提供する。西野センター長は、地域での病院の役割について、「救急医療を含めて高度急性期病院として高いレベルの医療を提供する体制を整えてきました。2014年には地方独立行政法人化して運営基盤の強化を図り、病院の安定的な発展に向けてさまざまな取り組みを進めています」と述べる。
同院の救命救急センターは、1977年に厚生省(当時)から指定を受けた全国4病院の1つであり、長い歴史を持つ。循環器疾患と脳血管疾患を中心に多くの救急患者を受け入れてきたが、2006年に救急科を開設して北米型ER救急として一次から三次までの患者を受け入れている。西野センター長は、「都市型の救急医療では地域のニーズとして、高次から一般救急まで幅広い対応が求められます。救急車受け入れ拒否など、いわゆる“たらい回し”問題を解消する意味でも、地域救急の“最後の砦”として役割を担っています」と説明する。
同院は一次脳卒中センター(Primary Stroke Center:PSC)の認定を受け、急性期脳卒中患者に対して血栓溶解療法(rt-PA)、血栓回収療法を24時間365日行える体制を整えている。脳卒中診療の中心となる脳神経外科/脳血管内治療科(以下、脳神経外科)には医師9名が在籍する。廣常主任部長は診療について、「臨床を中心に脳神経外科領域で脳腫瘍から血管内治療まで対応していますが、急性期脳卒中の診療に関しては、広島医療圏の中で中核を担うという意識で取り組んできました。近年はrt-PAに加えて血栓回収療法の適応が広がり、PSCなどの体制も整いつつあり、救急搬送システムを含めて市内の医療機関とも連携を強化しながら診療に当たっています」と述べる。
同院の超急性期の脳卒中診療は、救急科が窓口となり、脳卒中が疑われる場合には脳神経外科、脳神経内科などで構成される脳卒中グループの医師に専用のPHSで連絡が入り、救急車の到着前からスタンバイする。CT撮影や血管内治療の準備を同時並行で進めることで、最短で治療が可能な体制を構築している。脳梗塞の診断について廣常主任部長は、「CTAで主幹動脈の閉塞を確認することで短時間で診断して治療を開始できるので、従来からCTファーストで行ってきました。しかし、治療法の進化によってさらにより速く的確な診断が求められることから、今回のCT更新につながりました」と述べる。
同院では、計4台(1階放射線診断科2台、救急部門1台、4階入院用1台)のCTが稼働している。今回、このうち3台のCTが同時期に更新され、救急部門に他社製8列CTからのリプレイスで導入されたのがAquilion ONE / PRISMである。選定のポイントになったのが、急性期脳梗塞に対する対応だと西野センター長は言う。
「救急部門で稼働するCTとして、急性期の脳卒中に対して強力な武器になることを選定の第一のポイントに要望しました。Aquilion ONE / PRISMでは、4D-CTAによる血管評価と同時にCT-Perfusion(CTP)での血流評価が可能なことが決め手になりました。現在は、脳血管の閉塞だけでなく脳の血液循環の状態を基に治療方針が決定されるようになっています」と述べる。
今回の導入では、Aquilion ONE / PRISMに加えて医用画像処理ワークステーション「Vitrea」の“CT 4D-Perfusion”による灌流解析が迅速に施行可能な急性期脳梗塞ソリューションを構築した。廣常主任部長は、「ADCTのDynamic Volume Scanによる1回の検査でCTAの可視化とCTPの解析が同時に行える上に、CTPについては従来のカラーマップに加えて灌流状態を示すサマリーマップが短時間で作成されて治療の判断ができます。CTPの画像はわかりやすく、経験の浅い専攻医でも的確に判断できます」と評価する。
脳血管疾患のそのほかの病態について廣常主任部長は、「内頸動脈の狭窄に対する頸動脈ステント留置術(CAS)を施行した際に起こるhyper perfusion(過灌流症候群)について、CTのみで血流の再開通と同時にperfusionによって灌流状態を確認できます。抜管の判断が早めにでき患者さんのQOL向上にも貢献しています」と述べる。
■Aquilion ONE / PRISM Editionによる臨床画像
放射線部門は、放射線診断専門医5名、診療放射線技師45名で構成され、CT、MRI、核医学の年間総検査件数は6万件で、そのうちCTが4万7000件を占める。浦島主任部長は、「多くの画像検査がある一方でマンパワー不足が課題でしたが、2017年から画像診断医が5名になり全体の7割の検査にレポートを作成しています。また、各診療科の高度な診療に対応するため、放射線科では診療科ごとに担当を分けて、ある程度の専門性を持って読影しています。担当科のカンファレンスに参加して連携を深め、質の高いレポートを提供する体制を取っています」と診療の現況を説明する。
Aquilion ONE / PRISMは、救急以外の予約検査についても、腹部や循環器など造影検査を中心に対応しており、1日の検査件数は50〜60件となっている。浦島主任部長は、Aquilion ONE / PRISMではディープラーニングを用いて設計した画像再構成技術の“AiCE(Advanced intelligent Clear-IQ Engine)”によって、被ばく線量が大きく低減されていることを評価する。
「以前の装置が古かったこともありますが、Aquilion ONE / PRISMでAiCEを適用することで検査ごとに表示されるCTDIの数値が半減しているにもかかわらず、画質は大幅に向上しています。頭部のCTAでは細い血管まで描出されるようになっていますし、腹部においても肝臓の動脈相、門脈相、平衡相の三相の撮影で画質が向上し、消化器外科からも術前評価が容易になったとの評価を得ています」
心臓CTについて浦島主任部長は、「Aquilion ONE / PRISMでは、16cmの範囲を1心拍で撮影できます。AiCEの適用で細い血管までクリアに描出されています。心拍数のコントロールが課題ですが、β遮断薬を使用して心拍数を抑えることで対応可能です」と評価する。
また、Aquilion ONE / PRISMでは、dual energy(DE)撮影技術である“Spectral Imaging System”を用いた低エネルギー画像の描出によって、造影剤量の低減が可能になっている。浦島主任部長は、「経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)では、術前に心臓血管外科から心臓と大動脈の情報が求められますが、腎機能が悪い患者が多く造影剤量を抑える必要があります。そのため従来は心臓のみを撮影していましたが、Aquilion ONE / PRISMではSpectral Imaging Systemによる低エネルギー画像の描出で造影剤の投与量を落とすことができ、従来の心臓CTの造影剤量で大動脈まで撮影可能になりました。情報量を落とさずに造影剤腎症のリスクを抑えた検査が可能になっています」と述べる。心臓CTの造影剤40mLで大動脈撮影まで可能になっている。
西野センター長は超急性期の脳卒中への対応について、「今後、“包括的脳卒中センター”への集約も進んでいくと思われます。施設の地域性や体制などさまざまな条件が考えられますが、まずはPSCとして自他共に認められるような実績を積み重ねていくことが大切であり、そのためにハードウエアだけでなくスタッフを含めた体制づくりを進めていきます」と述べる。
Aquilion ONE / PRISMが、救急のみならず高度な医療を展開する同院での診療を力強く後押ししていく。
(2021年2月25、26日オンラインにて取材)
※インタビューにおけるコメントや数字については、ご本人の意見、感想が含まれます。
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