北播磨総合医療センターは、公立2病院が統合して2013年に開院した。脳卒中診療においては、患者に最善の治療を提供するため、複数の診療科が連携して総合的に診療に当たっている。同センターでは、2016年9月にキヤノンメディカルシステムズの超音波診断装置「Aplio i800」を血管エコー専用装置として導入し、条件設定やプローブを整えて、全身領域を対象とした脳梗塞診療の診断治療に活用している。脳梗塞診療における血管エコーの有用性とAplio i800を使った診療の実際について、脳卒中・神経センター副センター長を兼務する脳神経内科の濵口浩敏部長にインタビューした。
北播磨総合医療センターは、神戸大学からの提案により三木市立三木市民病院と小野市立小野市民病院を統合する形で2013年10月にオープンした。“患者と医療人を魅きつけるマグネットホスピタル”をコンセプトに、34診療科、病床数450床で北播磨医療圏南部をカバーする拠点病院として診療を展開している。
濵口部長は2013年4月に三木市民病院に着任し、センター開設に向けて脳卒中診療部門の準備を担当した。脳卒中診療は当時、主として脳神経外科が担っていたが、新病院では脳梗塞は神経内科(2018年に脳神経内科に名称変更)が中心となって診療し、脳神経外科と連携して総合的に脳卒中診療に当たる方針がとられた。センターでは、超急性期脳梗塞に対して血栓溶解療法(rt-PA)や血栓回収療法を実施するため、24時間365日のCT・MRI検査と、タブレットでの遠隔画像診断ができる体制を構築。2015年にSCU(Stroke Care Unit:脳卒中集中治療室)、2016年に脳卒中・神経センターを開設し、2019年には日本脳卒中学会の一次脳卒中センターの認定を受けた。
同センターの脳卒中診療の特徴について、濵口部長は、「救急は断らずに全面的に受け入れ、脳神経内科、脳神経外科、救急科、リハビリテーション科が一体となって診療しています。病棟は、脳神経内科と脳神経外科、軽症から中等症を対象とするSCUを同じフロアに集約し、回診も合同で行うことで、患者にとって最善の治療を迅速に提供できる体制を整えています」と説明する。
脳神経内科は、濵口部長を含めて6名のスタッフが在籍。入院患者は年間約700名、外来患者は週に約250名が来院する。救急は、コンサルテーションも含めて日中と夜間にそれぞれ2〜6件に対応している。
血管エコーのエキスパートである濵口部長は、約10名の臨床検査技師・診療放射線技師とともに脳卒中領域の超音波検査を担っている。脳卒中診療における超音波検査の位置づけについて、濵口部長は次のように説明する。
「特に、脳梗塞の診断治療において超音波検査が果たす役割は非常に大きいと思います。超音波検査は、無侵襲かつリアルタイムにベッドサイドで観察できる点に大きな意義があり、救急外来では、経頭蓋・頸動脈エコーで頭蓋内病変と頸動脈病変のどちらに問題があるかを速やかに判断して、治療方針の決定につなげることが第一の役割です。次いで、心臓や下肢静脈など、頸動脈以外の部位に血栓がないかを確認して脳梗塞の原因を精査し、さらに、患者の状態によっては、肝臓や腎臓、腎動脈、心臓などの合併症の有無も評価します」
血管エコーには、開院時に導入したキヤノンメディカルシステムズの超音波診断装置「Aplio 500」を活用してきたが、SCU開設に当たり、脳梗塞の原因精査や動脈解離の評価が可能なSCUに特化させた装置が必要と考えた濵口部長は、病院に導入を提案。導入に向けて調整する中で、プレミアム超音波診断装置「Aplio iシリーズ」が発売されたことから、「Aplio i800」を2016年9月に導入した。濵口部長は、「脳梗塞の血管エコーは、頭頸部だけでなく全身領域が対象となります。Aplio i800は高画質で汎用性が高く、プローブの種類が豊富で、アプリケーションも充実していることから、あらゆる局面に対応できると期待し、導入を決定しました」と述べる。
Aplio i800は、SCU以外でも広く活用できるように超音波検査室に配置し、必要に応じてSCUや救急外来に移動して使用している。移動時にはモニタを倒すことができ、ダブルホイールキャスタ採用でスムーズな走行が可能だ。救急外来や病棟での検査は、基本的に濵口部長が自ら行っており、その後の詳細な検査は超音波検査室で技師が担当して濵口部長が最終チェックしている。濵口部長は、「Aplio i800は移動が楽で、導入時に血管エコーに特化した条件設定を組んでいるため、移動先ですぐに検査ができます。救急外来ではCTやMRI検査を待つ間のわずかな時間の観察でも、十分な情報取得が可能です」と話す。
導入初期には、血管エコー専用装置として最高のパフォーマンスを発揮するために、“Precision Imaging”や“ApliPure”などの高画質化技術に合わせたダイナミックレンジの条件、Bモード画像とドプラ画像のバランスなどの設定を詳細に作り込み、動脈硬化の状態や患者の体型・年齢に依存せずに良好な画像が得られるように調整した。
またAplio iシリーズは、新開発の高周波24MHzリニアプローブ「PLI-2004BX」やホッケースティック型の高周波22MHzリニアプローブ「PLI-2002BT」をはじめ、豊富なプローブラインアップも特徴だ。同センターでは、導入時には6本だったプローブを10本まで増設。濵口部長は、頸動脈はリニア、内頸動脈高位や鎖骨下動脈はコンベックス・マイクロコンベックス・セクタ、末梢血管はホッケースティックや高周波リニア、腹部大動脈や腎動脈はコンベックス、下肢静脈は大腿がリニア、下腿がコンベックスと、血管領域や部位によってプローブを持ち替えて検査を行っている。濵口部長は、「全身に及ぶ血管エコーで細かく明瞭な画像を取得するためには、プローブの使い分けが必要です。プローブを使い分けることではじめてわかる病態もあります。装置の性能を最大限に引き出して患者に還元するために、院内ではプローブを積極的に持ち替えることを推奨しています」と述べる。
Aplio iシリーズに実装されたiSMI(Superb Micro-vascular Imaging)では、低流速血流をより明瞭に描出可能となった。脳梗塞におけるiSMIの有用性について濵口部長は、「iSMIでは微細な血流を観察でき、プラーク内新生血管の性状評価も可能なため、脳梗塞の治療方針決定にとても有用です。また、境界面を明瞭に描出可能なことから、プラークの見落としが減少したことに加え、内膜剥離術やステント留置術の術後で、血管内腔や血管壁の詳細な情報がほしい場合にも役立ちます」と話す。
さらに、iSMIと24MHzリニアプローブを組み合わせることで、5mmより浅い領域の血流の観察も可能になった。脳梗塞診療における有用性について濵口部長は、「浅側頭動脈と中大脳動脈のバイパス術において重要な、浅側頭動脈の情報を取得できます。また、心原性脳塞栓症では心内血栓が手足の動脈も閉塞する場合があるため、指先の血流を確認して急性動脈塞栓の診断補助にも用いています」と説明する。
Aplio i800には、血管エコーを支援する機能として、頸動脈病変の標準的評価法に記載されているIMT-C10〔頸動脈洞より10mm近位側の遠位壁における中内膜厚(IMT)〕を半自動計測できる機能も初期から組み入れている。さらに、サブプリセットを利用して深度をワンタッチで切り替えられる設定を作成し、患者の体型によって差がある血管の深さにも瞬時に対応できるようにするなど、血管エコー専用装置としての使いやすさを日々追究している。
■Aplio i800による臨床画像
Aplio i800は頸動脈病変における周術期の評価にも活用されている。狭窄率の評価や、可動性成分の評価に用いられているだけでなく、腎機能低下やアレルギーで造影剤を使用できない患者に対するエコーガイド下でのステント留置術も日常で行われている。
濵口部長は、「脳梗塞診療における超音波検査は、頸動脈エコーだけでなく全身領域に対して有用であることを、さまざまな場面で発信していきたいと思っています。高品質な画質とアプリケーション、豊富なプローブを有するAplio i800は、“最善の医療を患者に還元したい”という思いに応えてくれており、今後もiSMIの応用拡大や硬さ評価、計測の自動化など、進化を続けることを期待しています」と話す。
血管エコーを脳梗塞の診断治療に最大限に活用する同院の取り組みが、脳卒中診療の現場に広く浸透していくことが期待される。
(2020年12月11日取材)
北播磨総合医療センター
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