福岡県糟屋郡志免町の医療法人うえの病院(病床数36床)は、福岡市に隣接し福岡都市圏のベッドタウンとして発展を続ける同町の“かかりつけ医”として地域医療を支えている。2020年5月、同院にキヤノンメディカルシステムズの80列CT「Aquilion Lightning / Helios i Edition」が導入された。深層学習(ディープラーニング)を用いて設計された画像再構成技術“Advanced intelligent Clear-IQ Engine-integrated(AiCE-i)”を搭載した80列CTの運用を、田上和夫院長、放射線課の鈴木慶嗣技師長と池崎直子技師に取材した。
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同院は1964年に開院、2002年に現在地(志免2丁目)に新築移転した。診療科目は外科、消化器内科、消化器外科、内視鏡外科、大腸・肛門外科、血液透析内科、リハビリテーション科を標榜する。病床は一般12、地域包括ケア24の計36床で、地域医療を担う民間病院である。田上院長は診療の特徴について、「消化器を中心とする急性期医療、透析医療、そして在宅医療を3つの柱として、地域のかかりつけ医としての役割を果たしています。地域に根差しながら、質の高い医療技術やサービスを提供することで、住民から選ばれる病院をめざしています」と説明する。同院は、2017年に“上野外科胃腸科病院”から“うえの病院”に改称した。その理由を田上院長は、「以前から幅広い疾患を診ていたのですが、地域では消化器に特化したイメージが強かったことから、名称変更でより広い領域で地域に貢献できることをアピールすることがねらいです」と説明する。
急性期医療では、消化器を中心に年間213例の手術を行い、うち腹腔鏡下手術163例(2019年実績)で、より侵襲の少ない単孔式を取り入れるなど先進技術を提供している。透析医療は、同院のほか2010年に開設した透析専門の関連施設「うえの腎透析クリニック」で行っており、透析患者は200人を超える。また、地域医療連携室を設け、医療機関からの依頼検査や患者の紹介・逆紹介、在宅療養の訪問診療など地域医療連携も積極的に展開している。
同院では、2020年5月に16列CTをリプレイスしてAquilion Lightning / Helios i Edition(以下、Helios i Edition)を導入した。Helios i Editionは、“PUREViSION Optics”など上位機種で培ってきた画質向上技術を搭載した80列CTに、ディープラーニングを用いた画像再構成技術であるAiCE-iを搭載した最新機種である。
田上院長はCTの更新について、「幅広い患者層を診療する当院では、CTは欠かせない検査です。機器の更新に当たっては画質はもちろんですが、短い撮影時間による被ばく線量の低減や業務の効率化などをトータルに考えました」と述べる。同院では改称以降、外科医、整形外科医の増員や依頼検査の増加などで、より広い領域の疾患への対応が求められていた。機種選定を担当した鈴木技師長は、「急性期の高度な検査から透析のスクリーニングや在宅医療まで幅広い疾患に対応することを考え、画質やスピード、操作性を中心に選定しました。また、さらなる被ばく低減や次の10年を考えた臨床価値の提供を考慮して、最新技術であるAiCE-iやDual Energyなどを加えたHelios i Editionを選定しました」と説明する。
放射線課は鈴木技師長と池崎技師の2名体制で、CTのほか一般撮影、X線透視装置、マンモグラフィなどの検査を行う。CTは月間の検査件数180件で、腹部の造影検査や三相撮影、血管造影、術前のシミュレーションなど多岐にわたる。鈴木技師長は、「今回の導入では、機種選定から機能の選択まで現場の意見を最も重要視してもらいました。検査は基本的に1名で行うので、操作で困ると現場が回りません。そのため、使い勝手の良さは重要でした。各社の装置を使った経験からしても、操作性はキヤノンのCTが一番良いと感じています」と述べる。
AiCE-iは、本来のシグナル成分を損なうことなくノイズ成分を除去し画質改善や被ばく線量の低減を可能にする。同院では、AiCE-iを全例で適用し、領域は頭部、体幹部、胸部、血管、骨領域で使用している。AiCE-iの運用を鈴木技師長は、「16列と比べて同じSD値でも画質が向上し、診断が可能な画像が得られています。線量も以前より1/10程度まで低減されていますが、まだ下げられる余地があると考えています。整形領域では骨梁まで明瞭に描出されており、検査紹介をいただく近隣の整形外科病院からは画質について高い評価を得ています」と述べる。池崎技師はAiCE-iの画像について、「体格のいい患者さんでも臓器一つひとつが明瞭に描出され、腸間膜もしっかりと見えていて診断しやすい画像を提供できています」と述べる。
同院では、検診目的の胸部CT撮影プロトコールとして、5mAsでの検証を行っている。鈴木技師長は、「AiCE-iを適用して、さらなる線量の低減に取り組んでいきます。当院では、透析患者に対しての
肺疾患や腎細胞がんの定期的なスクリーニング検査を検診プロトコールで行っています。繰り返し検査を行うからこそ、より低線量での撮影が必要です」と述べる。
鈴木技師長は、AiCE-iと金属アーチファクト低減技術“SEMAR”の組み合わせによって、腹部領域の画像が大きく改善していると評価する。
「両側股関節に人工骨頭が留置されていると骨盤腔内はほとんど描出できませんでしたが、SEMAR+AiCE-iでは骨盤内の膀胱や前立腺、腸管などの臓器や腹水の有無を確認できます」
田上院長は、「Helios i Editionでは、人工骨頭のハレーションが抑えられ、骨盤腔内が確認できるのは驚きでした。診断は確実になりました」と述べる。
また、Dual Energy CT(DECT)では、整形領域の不顕性骨折の描出や尿管結石の成分分析などを行っている。不顕性骨折に対しては、DECTでカルシウム成分を抽出した画像を差分することで髄内血腫を描出する“Bone Bruise Image(BBI)”に取り組んでいる。池崎技師は、「一般撮影やプレーンCTではわからない骨折がBBIでは血腫として描出され、他院で撮像したMR画像と比較して骨折を確認できた症例を経験しました。撮影法として確立できるように検討を進めているところです」と述べる。
■Aquilion Lightning / Helios i EditionのAiCE-iによる臨床画像
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Helios i Editionのワークフローについて鈴木技師長は、「画像再構成スピードは50枚/秒と、16列と比べて10倍になっています。以前の16列CTでは再構成処理が検査に追いつかなかったのですが、Helios i Editionでは検査終了後すぐに0.5mmボリュームデータが作成され、ワークステーションでの3D作成も容易になりました。また、広い開口径とAiCE-iの高画質によって、肘のアーチファクトなどを気にせずにそのまま撮影できるのもメリットです」と述べる。
撮影直後に画像を確認できる“Insta View”について池崎技師は、「画像は、撮影するとほぼリアルタイムに表示され、手術の判断などで医師がすぐに画像を見たい時には役立っています」と述べる。鈴木技師長は、「急性腹症で虫垂炎や絞扼性イレウスなど診断によっては緊急の対応が必要なケースもあり、その場で判断できるので助かっています」と述べる。
田上院長は、「当院規模の病院が生き残るためには、地域医療に徹し必要とされる医療を提供することが必要です。最新のCTを生かしながらベストの医療を提供していきたいですね」と展望する。鈴木技師長は、「DECTなど新しい撮影技術に関しては、今後実績を積み重ねて信頼を得られるように画質を追究していきます。Helios i Editionの最新の画像技術を使いこなして、さまざまな疾患に対応できるようにさらに研鑽していきたいですね」と述べる。
地域の“かかりつけ医”として信頼の医療を提供する同院を先進の80列CTが支える。
(2020年8月5日取材)
医療法人うえの病院
福岡県糟屋郡志免町志免2-10-20
TEL 092-935-0316