超高齢社会においては脳血管疾患・心疾患への対応が急務となっている。2019年12月には、「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」が施行され、迅速な治療体制整備などを含めた総合的な取り組みが始まった。茨城県水戸市の水戸ブレインハートセンター(理事長:河野拓司、院長:畑山 徹)は、一次脳卒中センター(Primary Stroke Center:PSC)として地域における脳血管疾患の診療に当たっている。同センターの320列ADCT「Aquilion ONE / Nature Edition」、血管撮影装置「Alphenix Biplane」での脳血管疾患の診療について、脳神経血管内治療科の佐藤栄志部長と、放射線科の芳賀奈々江科長、後藤俊樹主任に取材した。
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水戸ブレインハートセンターは、病院名が示すように脳と心臓の疾患の専門病院として、2009年12月に開設された。病床数は88床、診療科は脳神経外科、脳神経血管内治療科、循環器内科、心臓血管外科、麻酔科、リハビリテーション科を標榜する。CT、MRI2台(3T、1.5T)、血管撮影装置2台などを導入し、脳梗塞、脳動脈瘤、狭心症、心筋梗塞、心不全などに対して、開頭手術や血管内治療、リハビリテーションなどの高度医療を提供している。脳神経疾患に対しては、脳神経外科と脳神経血管内治療科が連携して一体的に診療に当たっている。佐藤部長は、「基本的に対象となる疾患は同じですので、毎朝、合同でカンファレンスを行い、開頭か血管内治療かの適応を判断しています」と説明する。
同センターでは、2019年9月に日本脳卒中学会の一次脳卒中センター(PSC)の認定を受け、2020年1月から運用を開始した。PSCは、“地域医療機関や救急隊からの要請に対して24時間365日脳卒中患者を受け入れ”、“患者搬入後可及的速やかに診療(rt-PA静注療法を含む)を開始できる”施設であり、同センターでは当直医師1名(循環器内科医あるいは脳神経外科医、そのほかオンコール1名)、診療放射線技師1名、看護師の体制で、超急性期の画像診断からrt-PA静注療法 、血栓回収療法まで対応する。同センターでは、PSCの認定以前から、救急を含め脳卒中や心筋梗塞の治療では県内で1、2を争う件数に対応してきた。
佐藤部長は、「施設認定後、運用は大きく変わっていませんが、救急車の搬送件数は増加しており、それに伴って血栓回収療法の施行件数も増えています」と現状を説明する。
2019年3月、同センターにキヤノンメディカルシステムズの320列ADCTのAquilion ONE / Nature Edition(以下、Aquilion ONE)と血管撮影装置のAlphenix Biplane(以下、Alphenix)が導入された。同センターでは、2018年に佐藤部長が杏林大学医学部付属病院から赴任し、脳神経血管内治療科は林 基高医師と2名体制となった。今回の320列ADCTと最新の血管撮影装置の導入についても、脳神経外科が取り組んできたクリッピング手術に加えて血管内治療の体制を整え、スピードと治療の質が求められる脳血管疾患診療の充実をめざしてのことだ。
Aquilion ONEは、高速、高画質の撮影が可能で、ボリュームスキャンによる4D撮影では血管の形状だけでなく血流などが把握できる。また、医用画像ワークステーション「Vitrea」と連携して、さまざまなアプリケーションで急性期脳梗塞などの画像診断をサポートする。
Alphenixは、高度で精緻な手技が要求される血管内治療に対応すべく、イメージングチェーンを刷新して開発された最新の血管撮影装置であり、同施設には12インチ×12インチの検出器を搭載したバイプレーンタイプが導入された。Alphenixには、検出器の画素サイズを76μmまで精細化し、解像度が向上した“Hi-Def Detector”が搭載されており、高度で繊細な血管内治療を支援する。佐藤部長は血管内治療における機器の役割について、「血管内治療は、ステントやコイルなどデバイスの進化で、治療が可能な動脈瘤の適応が広がっています。低侵襲で患者さんの負担が少ない血管内治療を進めるためにも、診断や治療のための画像機器の進歩は欠かせません」と述べる。
医療技術部放射線科には、14名の診療放射線技師が在籍する。当直対応の必要からモダリティごとの担当は決めず、全員がすべてのモダリティを扱えるようにして、24時間365日の診断や治療を支えている。芳賀科長は、「診療に必要な情報を迅速かつ的確に提供できるように技術を磨き、質の高い診療を提供できるように心がけています」と述べる。
脳神経血管内治療科では、2019年、脳動脈瘤コイル塞栓術、血栓回収療法、頸動脈ステント留置術など66件の血管内治療を行った。2020年は前年を上回るペースで増加しており、1~3月の血管内治療は29件となっている。
Alphenixに搭載された高精細検出器のHi-Def Detectorは、ピクセルサイズ76μmと従来の検出器(150~200μm)よりも精細化されている。これによって、より高精細な画像による手技が可能になり、未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術の治療精度や安全性の向上が期待できる。未破裂脳動脈瘤の治療を数多く手掛けている佐藤部長はAlphenixのHi-Def Detectorについて、「従来の透視画像に比べて、解像度が格段に向上しています。コイルを詰めた瘤内の状態がはっきりと見えることはもちろん、透視画像では写らないとされていたステントの構造まで確認できます。また、Cアームの操作性なども良く、安心して手技に集中できます」と評価する。瘤内のコイルの状態がより細かく確認できることで、密度の高いコイリングが可能になり、治療の質と安全性の向上につながっている。佐藤部長は、「コイルは十分パッキングした方が、コンパクション(再開通)が減って治療効果の向上が期待できます。Hi-Def Detectorでは、瘤内の視認性が向上して隙間のないコイリングが可能です。Hi-Def Detectorは、従来の血管撮影装置よりも優れた高解像度が得られ臨床的な有用性も期待できるので、脳血管内治療を実施する施設では欠かせない装置になると思います」と評価する。
■高精細検出器(Hi-Def Detector)による3インチ拡大視野での脳動脈瘤コイル塞栓術(Angio)
Alphenixでは、血管内治療をサポートする独自のワークステーションである「Alphenix Workstation」と連携して、さまざまな機能を利用できる。コーンビームCT(AlphaCT)で撮影された3D画像の観察のほか、ロードマップ表示、被ばく線量モニタリングシステム“Dose Tracking System(DTS)”、Parametric Imaging(PI)/Color Coded Circulation(CCC)などのアプリケーションを搭載する。後藤主任は、「Alphenixでは、DSAからでもロードマップの作成が可能で、被ばくや造影剤の低減が可能になりました。ロードマップの作成時間も短く、表示までのタイムラグも短くなっています。また、バイプレーンのワーキングアングルを、あらかじめ設定した位置に自動的にセッティングできるオートポジショニング機能などで、スムーズな手技をサポートすることが可能です」と述べる。芳賀科長は、「Alphenixではオートピクセルシフトの精度が上がっていて、手動での補正が必要なく負担が軽減しました」と述べる。
そのほか、PI/CCCについては、脳動静脈奇形(AVM、AVF)のシャント疾患の血流評価として利用されている。芳賀科長は、「PI/CCCはDSAの画像から血流の動態を時間経過に合わせたカラー表示が可能で、血管走行と血流をより直感的に把握することができます」と評価する。
未破裂脳動脈瘤は、脳ドックなどで無症候で見つかることが多いが、治療方法は瘤の大きさや形状などから開頭か、血管内治療か、経過観察かを判断する。同センターでは、術前のアンギオによる診断カテーテル検査も行っているが、Aquilion ONEの導入で3D-CTAのみで判断する症例も増えていると佐藤部長は言う。
「Aquilion ONEで3D-CTAの精度が向上し、瘤の形状や細い血管まで確認できるようになり、CTAだけで治療方針を決める症例も増えています」
後藤主任は術前の脳動脈瘤のCTAについて、「以前の64列CTではヘリカルスキャンで撮影していましたが、Aquilion ONEではOne Volume Scanで撮影しています。1回転で撮影できるので体動などのアーチファクトの低減や解像度が向上しており、さらに、逐次近似画像再構成法であるFIRSTを適用することで、ノイズが除去されて末梢血管の描出能が向上しました。CTAでは必ずFIRSTを適用しています」と説明する。FIRSTでは再構成時間が少し長くなるのが課題だが、クモ膜下出血など緊急の場合には、AIDR 3Dで処理した画像を先に提供し、後からFIRSTで処理をする形で運用している。
術後のフォローアップは、X線、MRI、CTで行うが、佐藤部長は、「従来はMRIが多いですが、何か変化があった場合には3D-CTAを撮影することが増えています。以前のCTでは金属アーチファクトで確認できず、最後は血管撮影を行うこともありましたが、Aquilion ONEでは金属アーチファクトの影響を除去できるため、CTでの確認の割合が増えました」と述べる。Aquilion ONEの金属アーチファクト低減技術である“SEMAR”について後藤主任は、「SEMARでは、金属アーチファクトがきれいに除去されて、コイルやクリップがあっても周囲の血管などの評価が可能な画像が提供できるようになりました」と述べる。
PSCでの急性期脳卒中症例ではMRファーストが基本だが、脳梗塞で発症から時間が経過し、血栓回収療法の適応があるかを確認する場合にはCTを撮影している。Aquilion ONEではダイナミックボリュームスキャンを行い、Vitreaでperfusion画像と4D-CTAを作成している。後藤主任は急性期脳梗塞の運用について、「Aquilion ONEで撮影したデータをVitreaに転送することで、perfusion解析と同時に4D-CTAを簡易的に作成することが可能です。これによって血管の走行なども確認できるので、虚血領域を表示して側副血行路の有無を確認できます。ここまでを、Vitreaに転送してから2分弱で解析できるので、急性期の脳梗塞の確認に必要な情報を短時間で提供できます」と評価する。
Vitreaの“Brain Perfusion Bayesian” は、ベイジアンアルゴリズム(ベイズ推定法)を用いた灌流画像解析アプリケーションで、従来のSVD法の課題だったさまざまなノイズ因子の影響を低減し、より精度の高い解析が可能になった。脳血流量(CBF)、脳血液量(CBV)、平均通過時間(MTT)など5種類のマップのほか、サマリーマップにより虚血性コアと思われる部分とペナンブラと思われる部分の確認が行える。後藤主任は、「サマリーマップでは、虚血が示唆される範囲が画像と数値で表示できるので、血栓回収療法が有効かどうか、より的確な判断のためのデータを提供できます」と述べる。
■頸動脈狭窄により灌流異常を呈したperfusion例(CT)
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同センターでは、2020年4月から脳神経血管内治療科に新たに専門医1名が赴任する予定だ。佐藤部長は血管内治療の今後の対応について、「まずはPSCでの虚血性疾患に対する診療プロトコールをしっかりと確立させていきたいです。また、動脈瘤に対しては、新しいCTや血管撮影装置を生かして、クリッピングなどの開頭手術に負けない成績を出していくことが求められます。センターとしてスタッフが一体となって、地域の期待に応えられるように取り組んでいきます」と述べる。
脳血管疾患の診療では、より速く的確な診断と治療が求められる。最新の医療技術が、地域の医療を支える専門センターの診療をサポートする。
(2020年3月9日取材)
医療法人桜丘会 水戸ブレインハートセンター
茨城県水戸市青柳町4028
TEL 029-222-7007
http://www.mito-bhc.com/
モダリティEXPO「Aquilion ONE / NATURE Edition」