国立循環器病研究センターは、大阪府中心部から好アクセスの北大阪健康医療都市(健都)に新築移転し、循環器疾患の究明と制圧を理念に診療・研究・開発に取り組んでいる。新病院では救急対応の強化をめざして、カテーテル室を旧病院の6室から9室へと増設。キヤノンメディカルシステムズの血管撮影装置「Alphenixシリーズ」を4台採用し、冠疾患科や救急診療などで活用している。経皮的冠動脈形成術(PCI)を中心とした「Alphenix」の実際の運用について、心臓血管集中治療室(CCU)の浅海泰栄医長と放射線部の喜多嘉伸副技師長に取材した。
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国立循環器病研究センターは2019年7月、吹田市と摂津市が共同で健康・医療のまちづくりを進める「北大阪健康医療都市(健都)」に新築移転した。新大阪駅から約7分のJR岸辺駅に直結する健都エリアに構えた同センターは、病院、研究所に加え、企業や大学との共同研究拠点となる“オープンイノベーションセンター(OIC)”を整備。予防からリハビリまで循環器診療への総合的な取り組みで健康寿命延伸を推進するとともに、オープンイノベーションによる最先端医療・医療技術の開発にも取り組んでいる。
心血管病を対象に救急治療から慢性期治療・予防まで質の高い高度医療を提供する心臓血管内科部門は、冠疾患科、血管科、心不全科、肺循環科、不整脈科で構成され、約90名の医師が在籍する。また、心臓血管集中治療室(Coronary Care Unit:CCU)では、交代制勤務による24時間365日対応で、心臓救急・心臓集中治療に専門特化したチームがカテーテルインターベンション治療や機械的循環補助を含めた高度医療を提供している。
人口が密集する都市部への移転に当たっては、救急の積極的な受け入れをコンセプトの一つに据え、病院1階に救急外来、カテーテル室、CCU、SCU(脳卒中集中治療室)、放射線部を集約。旧病院では6室だったカテーテル室を9室に増設し、救急にも柔軟に対応できる環境を整えた。
新病院のカテーテル室構築の背景について、浅海医長は、「カテーテル室と救急外来の隣接が、大きなポイントとなっています。増設については、冠動脈疾患や脳の虚血性疾患に対して低侵襲のカテーテルインターベンション治療が積極的に行われるようになっていることも理由です。将来的には中小病院でカテーテル診療を維持することが難しくなり、当院に症例が集中することも想定されます。また、働き方改革の観点から、時間外の検査を抑制するためにも増設が必要と判断されました」と説明する。
血管撮影装置は、旧病院から移設した1台を除いた8台を最新装置に更新し、うち4台にキヤノンメディカルシステムズの血管撮影装置「Alphenixシリーズ」が採用された。カテーテル室は、基本的に診療科・領域ごとに振り分けて運用されており、Alphenixは、冠疾患科、脳血管・脳神経内科/脳神経外科、小児科、不整脈・心不全・血管科/移植部門が使用している。
同院では、経皮的冠動脈形成術(PCI)を年間に約650件施行している。虚血性心疾患の診療は、安定冠動脈疾患を冠疾患科が、急性冠症候群をCCUが中心となって行うが、PCIについては急性期・慢性期を問わず循環器専門医とインターベンション医がチームを組んで行っている。PCIにはAlphenixと他社製血管撮影装置の2台を使用しており、インターベンション医がオンコール体制で対応する緊急PCIについては、Alphenixでの施術が多い。
浅海医長は、旧病院でもキヤノンメディカルシステムズの血管撮影装置を使用していた経験から、使いやすさや画質については信頼していたと言い、Alphenixについても、「予想していたとおり、安定したパフォーマンスで使いやすい装置です。難しいPCIでもストレスなく施術することができます」と評価する。
また同院では、キヤノンメディカルシステムズの320列ADCT「Aquilion ONE」も含めた心臓CTに対応可能なCTが3台稼働している。浅海医長は、「冠動脈CTで短時間に動脈硬化の情報を取得できるようになったことで、冠動脈CTでPCI適応と判断し、冠動脈造影を行わずに直接PCIを施行する症例が増えています。また、病歴から冠動脈疾患が疑われる低リスク症例に対しても冠動脈CTを積極的に行うことで、PCIが必要な患者を見逃すことなく、適切なPCI実施が可能になっています」と話す。冠疾患科・CCUと放射線科医、診療放射線技師が協力することで、モダリティを駆使した緊急症例への迅速で適切な対応が実現されている。
Alphenixシリーズは、高度化するカテーテル治療のニーズに応える次世代の血管撮影装置として2018年に発売された。「Alphenix Core+」をはじめとしたシングルプレーンシステムとバイプレーンのAlphenix Biplane、3種類のサイズのFPDをラインアップし、全身のさまざまな手技に対応する。
画質においては、精緻なカテーテル操作を実現するために、イメージングチェーンを刷新し高画質化を図った。FPDのダイナミックレンジが16倍に拡大したことでハレーションの発生が抑制され、白飛びや画像欠損のない高画質化を実現した。浅海医長はAlphenixの画質について、「非常にコントラストがはっきりした視認性の高い画像を得ることができます。近年はデバイスが進化し、ガイドワイヤも回転追従性が非常に高くなっています。そのため、インターベンション医の操作に対して正確に動作するワイヤの先端の向きなど、繊細な動きも視認できる画質が求められますが、Alphenixはほかの装置と比べて石灰化や複雑病変でのワイヤの追従性がよく見えると感じています」と評価する。画質の向上は、インターベンション医をサポートするコ・メディカルの作業の効率化にもつながっており、喜多副技師長は、「透視でハレーションが起きにくいため、補償フィルタに意識が偏ることなく、モニタの移動などほかの作業を行えます」と述べる。
また、PCIを支援するステント強調機能として、“Stent Mode”と“Dynamic Device Stabilizer(DDS)”の2つが実装されている。浅海医長はその効果について、「ステント拡張後、血管壁に圧着させるためバルーンを再度拡張しますが、ステント強調モードでステントを見やすくすることでバルーンとの位置関係が明瞭になり、確実に遂行することができます」と述べる。
■Alphenixによる臨床画像
Alphenixは、操作性の向上やワークフローの最適化も図られている。撮影プログラムの切り替えやアームのオートポジショニング操作、モニタのレイアウト変更などをワンタッチで可能なタッチパネル操作卓“Alphenix Tablet”や、検査室内外の完全並行処理の機能は、ワークフローを大きく向上させる。喜多副技師長は、「タッチ操作で簡単にモニタに表示する画像のレイアウトを変更でき、術者の望む画像に瞬時に切り替えられます。また、透視や撮影中に操作室側で表示の切り替えや画像処理などができるため、手技を妨げることなく非常に便利です」と話す。
Cアームや寝台の操作には、ワンハンドグリップを採用した。操作性について浅海医長は、「Cアームは直感的に操作ができ、ほかのシステムと比べて動きは軽く機敏だと思います。グリップにより片手でアーム操作とパニングができるため、もう一方の手で角度調整も可能です。取り回しの良さは、緊急PCIにおいてもとても有効です」と述べる。
手技中には、リアルタイムに入射皮膚線量を把握できる線量マッピング機能“Dose Tracking System (DTS)”も表示するようにしており、「長時間の手技になった際に、一か所に線量が集中しないよう手技中にコントロールすることができ、被ばくを抑えることができるようになりました」と浅海医長は有用性を述べる。
Alphenixでは、「Alphenix Workstation」との連携により、3D画像とCアームを連動操作し、アングルを確認することも可能となっている。浅海医長は、「術前CTの3D画像と透視画像の表示角度をリンクさせるといった、PCIを支援するソフトウエアを活用することで、より安全で円滑な手技を行っていきたい」と期待を示す。
同センターとキヤノンメディカルシステムズは、産学連携協力を行うための包括協定を締結している。新しく整備されたOICは、企業とのオープンイノベーションの拠点であり、密な連携が可能な国産企業との共同研究による日本発の新技術の開発にも期待が寄せられる。
今後の展望について浅海医長は、「Alphenixは非常にポテンシャルが高い装置です。血管撮影装置のハードウエアとしてかなり仕上がっているシステムであり、これからはソフトウエアの発展が重要になってくると思います。より良い診断や治療に貢献するソフトウエアの開発もわれわれの一つの使命と考え、取り組んでいきたいと思います」と述べる。循環器病の予防と制圧に挑むナショナルセンターにおける、Alphenixシリーズを活用した臨床と研究への取り組みが注目される。
(2019年12月26日取材)
国立研究開発法人 国立循環器病研究センター
大阪府吹田市岸部新町6-1
TEL 06-6170-1070
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