一般財団法人厚生会仙台厚生病院(409床)は、“選択と集中”を基本方針に、循環器・消化器・呼吸器の3領域に特化した高度先進医療・急性期医療を提供している。同院心臓血管センターでは、2018年8月にキヤノンメディカルシステムズ社製1.5T MRI「Vantage Orian」のグローバル1号機を、循環器専用機として導入した。撮像アシスト機能を活用することで未経験の心臓MRIを軌道に乗せ、画像診断から経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)などstructural heart disease(SHD)の最先端治療の術前評価まで、診療の幅を広げている。Vantage Orianを活用した循環器診療の実際について、循環器内科の桜井美恵部長と放射線部スタッフに取材した。
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仙台厚生病院は1943年に開設後、時代の要請と疾患構造の変化に合わせて診療科目を改廃してきた。現在は“選択と集中”を基本方針に、心臓血管センター、消化器センター、呼吸器センターの3センターで、高度先進医療や急性期医療を提供している。
1996年に開設した心臓血管センターでは、心疾患全般を対象に診療を展開し、現在では全国有数の症例数、手術実績を誇る。同センターの一翼を担う循環器内科は、PCI、アブレーション、心不全心エコー、SHD、末梢動脈の5チームに分かれ、複数のチームが協力しながら高度な治療を提供している。桜井部長は、心不全心エコーチームを中心にSHDチームにも参加している。循環器内科の診療の特徴について、「当院は全国的に見てもSHDの症例数が多く、東北全域から患者さんが集まります。2013年に開始したTAVIは900例を超えたところです。2018年3月に開始したMitraClipも、現時点で100例以上に上ります」と説明する。
同院では以前より他社製1.5T装置が稼働しているが、心臓検査に対応していなかった。しかしながら、SHDに対する経カテーテル治療の開始や、心筋症、心不全患者に対する診断や治療の際の心臓MRIの必要性が検討され、1.5T MRI「Vantage Orian」のグローバル1号機を新たに導入。2018年8月、心臓血管センター専用機として稼働を開始した。
心臓MRI開始に当たっては検査と読影のチームを立ち上げ、勉強会やオーダの働きかけを行ったことで、それまで院内では馴染みが薄かった心臓MRIが順調に施行されるようになった。現在は、診断のための心臓MRI(1日6枠)と術前評価を中心に検査を行っている。
Vantage Orian導入による効果について桜井部長は、「心筋症の診断や心機能評価のみならず、被ばくがなく、造影剤を使わずに検査ができるということで、被ばくを心配する患者さんや繰り返し検査が必要な患者さん、妊娠の可能性のある女性の検査もできるようになったことは大きなメリットです」と指摘する。また、画質については、「非造影冠動脈MRAの画質も良く、診断や治療方針を決める幅が広がりました」と話す。
心臓MRI検査は主に、放射線部の診療放射線技師4名が担当している。放射線部としても心臓MRIはほぼ未経験であったが、心臓血管センターの医師と緊密に連携をとりながら検査をスタートさせた。荒井 剛副技師長は、「心臓MRIの経験者がおらず、Vantage Orian自体も1号機でしたが、那須での撮像トレーニングや、キヤノンメディカルシステムズの担当者の手厚いサポートを受け、順調に稼働させることができました」と振り返る。
検査内容としては、非造影冠動脈MRAと非虚血性心疾患の造影検査の割合が高いが、症例が集まるTAVI関連の術前検査も多いのが特徴だ。検査時間は、非造影検査で約30分、造影検査においてもシネ、T2 black blood、LGE、PSIRなどの遅延造影に加え、造影前後のT1マップなどを一通り撮像しても約50分に収まる。未経験ながらスムーズに検査ができている理由には、撮像アシスト機能の“CardioLine+”と“ForeSee View”が大きな役割を果たしている。
佐藤丈洋技師は、「CardioLine+は1回の息止めで14断面までを自動で設定できます。この機能があることで、未経験でも断面設定にストレスを感じずスムーズな導入が可能だったと思います」と述べる。曽根 理主任も、「検査で最も手間のかかる位置決めをサポートする機能は大変有用です。一から断面設定をすれば、慣れないうちは20分くらいは検査時間が延長していたでしょう。患者さんの負担も軽減できるので助かっています」と有用性を説明する。
また、ForeSee Viewについて笠原梓司技師は、「スキャン前に撮像断面を確認でき、確実な断面設定が可能です。大血管転位などの先天性心疾患や進行した拡張型心筋症においても断面設定はより容易になります」と話す。TAVI術前評価でもForeSee Viewを活用しており、大動脈弁逆流ジェットがある場合などに弁を確認しながらフロー計測の断面設定を行っている。
同院では「Aquilion ONE」2台を含む3台のCT装置が稼働しており、心臓検査もCTを中心に行われてきたが、Vantage Orianの導入により診療の幅が広がってきている。冠動脈評価においては、狭窄の有無に加え、非造影T1強調画像で不安定プラークが高信号に描出されるHIP(high intensity plaque)で、プラークの性状評価が可能になった。桜井部長は、その臨床的有用性について、「HIP陽性(正常心筋とプラークの信号強度比が1.4以上)の場合、冠動脈イベントのリスクが高いとの報告もあり、付加情報があることで、狭窄度がボーダーラインの症例に対する治療方針を明確に決められます」と述べる。心筋症については、MRIによる細分化した疾患評価で治療可能な疾患の拾い上げができ、生命予後の改善につながるというメリットも出てきた。
MRIがCTに対して優位性があるケースとして、桜井部長は腎機能が低下している患者へのTAVI術前検査を挙げる。「腎機能が高度に低下している患者さんに対してTAVIを施行したいケースもありますが、造影CTによる術前評価が難しいため、適応の判断が難しいこともありました。しかし、MRIとエコーを併用することで、造影剤をまったく使用せずにTAVIの術前評価が可能になります」
TAVI術前のアプローチサイト評価、弁周辺計測、石灰化評価を造影CTで行うと、造影剤を60〜120mL使用する。それに対して、アプローチサイトを非造影MRAで評価し、弁周辺計測に経食道エコーとMRIを併用、そして、石灰化を単純CTで評価することで、“造影剤ゼロ”の検査が可能になる。桜井部長は、「MRAと単純CTの石灰化をフュージョンすることで、血管と石灰化の位置情報を把握できます。TAVI直前の大動脈造影で10mLほどの造影剤を使用する程度で、術後はすべてエコーで評価可能です。TAVIの患者さんは高齢で腎機能が低下しているケースも多いため、MRIによる非造影検査は非常に有益だと思います」と述べる。
■Vantage Orianによる臨床画像
検査ではシネとT1マップをほぼ全例で撮像し、画像解析処理ワークステーション「Vitrea」で解析している。佐藤技師は、「左心系の心機能解析は自動でできますし、T1マップやフロー計測も簡便な操作で解析が可能です。右心系のストレイン解析については、精度の高いトレースを活用してマニュアルで解析しています。Vitreaは、8月のSCMR Japan WG Seminar 2019でのシネMRオート解析コンペティションで非常に良好な成績を収めましたが、臨床で使用していて、自動解析の精度も高く、処理も速いと実感しています」と話す。
同院では現在、Vantage Orianのデータを収集し、循環器領域におけるMRIの可能性を多角的に研究中だ。Vantage Orianのさらなる活用について桜井部長は、「冠動脈に関しては心臓ドックにも活用できると思います。健診部門から打診もあるので、放射線部とともに検討を進めているところです」と話す。Vantage Orianが、全国トップクラスの同院の循環器診療をさらに進化させていくことが期待される。
(2019年10月2日取材)
一般財団法人厚生会
仙台厚生病院
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