埼玉県所沢市の医療法人社団桜友会所沢ハートセンターは、西武池袋線小手指駅から車で5分、循環器疾患の専門施設として心臓カテーテル治療を中心に診断から治療、リハビリテーションまで提供している。同センターでは、Aquilion 64をリプレイスして2018年12月にキヤノンメディカルシステムズの超高精細CT「Aquilion Precision」を導入、ルーチン検査として1日10件の冠動脈評価を行っている。循環器専門施設での超高精細CTの運用と今後の可能性について、桜田真己理事長/院長と放射線科の大西圭一科長に取材した。
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所沢ハートセンターは、急性冠症候群(ACS)や心不全などに対する心臓カテーテル治療(PCI)を中心とする循環器専門施設として、2005年に桜田院長が立ち上げた。病床数は30床(うちHCU5床)で、循環器内科と放射線科を標榜する。心臓カテーテル室2室、循環器内科の常勤医師7名で、24時間365日の救急対応を行っている。桜田院長はセンターでの診療について、「所沢地区の急性期の心臓疾患に対して、専門的な医療を提供したいと考えて開業しました。最初の10年間は年間800件以上のカテーテル治療を行いましたが、最近は治療成績が良いことから再狭窄のカテ治療は減少傾向にあります」と説明する。
2019年4月からは、常勤医師によるカテーテルアブレーションによる不整脈治療がスタート、さらに心臓リハビリテーションと透析医療を行う“透析・リハビリセンター”がオープンするなど診療体制を充実させている。桜田院長は、「患者さんの背景となる高血圧や糖尿病、高脂血症などリスクファクターの管理を含めてトータルに病状を診ることで、心イベントを防ぎ、最適な治療を早期に行うことで患者さんのQOLの向上につながると考えて診療を行っています」と述べる。
同センターでは開院時から、冠動脈造影検査を中心に心臓CTを実施してきた。その件数は、Aquilion 64で年間1500件に上る。CTは、開院当初の16列から64列へと更新してきたが、今回、超高精細CTであるAquilion Precisionが導入された。導入のねらいを桜田院長は、「64列CTで冠動脈の評価を行ってきましたが、石灰化やステント内腔の評価には、さらに高い空間分解能が必要だと痛感していました。キヤノンメディカルシステムズが高解像度の新しいCTを開発中と聞き、ADCTではなく超高精細CTの発売を待って導入しました」と述べる。
Aquilion Precisionは、0.25mm×160列、1792chの検出器を搭載し、X線管や撮影寝台を含めて機構を一新して、従来CTとは異なる高解像度の画像収集を可能にしたCTである。2017年の発売以来、大学病院などを中心に国内23施設で稼働中(2019年6月現在)だが、循環器の専門病院での導入は同センターが初となる。超高精細CTへの期待を桜田院長は、「冠動脈CTに求めるのは疾患を見逃さないことです。しかし、従来のCTでは、石灰化のブルーミングアーチファクトなどの影響でステント内腔の再狭窄を疑われても判断がつかないケースがありました。高齢者では運動負荷試験が十分にできず、“おそらくないでしょうね”としか評価できないケースがあり、経過観察中にいつ心イベントを起こすかわからない不安がありました。Aquilion Precisionの高精細画像では、この“おそらく”をクリアして、確信を持ってPCIに移行することができます。実際に、CT画像でPCIに移行できるケースは、2割程度増えました。患者さんにとってメリットがあるだけでなく、医師にとってもモチベーションアップや働きやすい環境の構築につながっています」と述べる。
同センターでは、2018年12月のAquilion Precision導入から半年で900件近い検査を行っている。桜田院長はAquilion Precisionの評価について、「従来のCTでは判断がつかなかった内腔がはっきりと確認できるようになり、確信を持って治療方針を決定することができます」と述べる。現在、冠動脈治療に使われるステントは、薬剤溶出性ステント(drug eluting stent:DES)が主流で、さらに2.25mmなど小径化も進んでいる。「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン」では、CTによるステント評価は3mm未満は推奨しないとなっており、それよりも細径の2.25mmは従来のCTではほとんど描出できなかった。桜田院長は、「小径ステントの登場でPCIの適応が拡大し使用例が増えていますが、従来のCTでは評価は難しくフォローアップができませんでした。Aquilion Precisionでは、2.25mmのステントの内腔まで確認が可能で、CTによるフォローアップが可能になることが期待されます」と述べる。大西科長は、「従来CTでは、ほぼかたまりにしか見えなかったステントがストラットの1本1本まで描出されています。Aquilion Precisionの登場はガイドラインも変えうる可能性があると思います」と評価する。
また、ステント内腔の描出だけでなく、Aquilion Precisionでは超高精細画像によって、ステント内に形成される内皮や内膜の状況が観察できる。例えば、DESではステントを覆う内皮化が進むことで血栓症を防ぐことができ、内皮化が確認できれば出血のリスクを伴う抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)の投与停止の判断をより適切に行うことができる。ステント内腔は、従来は血管内視鏡や血管内超音波(Intra Vascular Ultrasound:IVUS)で観察する必要があったが、Aquilion Precisionで可能になれば、より低侵襲で簡便な適応判断ができるようになると桜田院長は期待する。
「Aquilion Precisionでは、0.2mm程度の内皮の観察が可能です。また、ステントの内膜増殖は再狭窄にもつながりますので、Aquilion Precisionの超高精細画像で継続的に評価することで、DESの性能や薬効の評価も可能になることが期待されます」
桜田院長は、プラークの性状についてもAquilion Precisionの超高解像度によって、評価が可能になるのではないかと述べる。
「従来のCTと比べて明らかにプラークの描出能が向上しており、プラーク性状の悪性度が判断できるのではないかと期待しています。血管内視鏡やIVUSでなければ観察できなかったプラークの性状が、非侵襲で簡単に検査できるCTでわかれば患者さんにとっても大きなメリットです」
同センターでは、2048や1024マトリックス画像を読み込み、CT値ベースやクラスタリング処理で精度良くプラーク・デンシティの測定が行えるキヤノンメディカルシステムズの医用画像処理ワークステーション「Vitrea」によるプラーク解析にも、今後取り組む予定だ。
■Aquilion Precisionによる冠動脈の描出
Aquilion Precisionでの冠動脈CT撮影は、心拍コントロールの状態が良く、心拍数60bpm以下で安定している場合には心電図同期フラッシュスキャンで、心拍数が高い場合にはコンティニュアス撮影を行っている。Aquilion Precisionでは、1024マトリックスの画像を作成でき、従来CTの512マトリックスに比べて4倍の情報量を得ることができる。同センターでは、石灰化やステントの評価は1024、それ以外は512マトリックスで作成して使い分けている。大西科長は、「Aquilion Precisionはヘリカル撮影を行うため、64列の時とほぼ同じノウハウで撮影が可能です。プロトコールの作成では先行施設を参考にしましたが、複数種類の焦点サイズやSHRやHRといった撮影モードの選択を、運用に合わせて最適化しています」と説明する。
画像再構成については、撮影後のルーチン検査では“AIDR 3D Enhanced”で処理を行い、スピード優先で画像を提供している。AIDR 3D Enhancedはノイズ低減効果が高く診断に有用だが、さらに高精細な評価を行いたい場合は“FIRST”も利用している。現在の検査件数は1日平均8件、多い時には13件であり、ワークステーションでの処理も含めて10分以内に検査を完了させている。
桜田院長はAquilion Precisionによる今後の展開について、「経営的な面で言えば確かに高額な装置ですが、良い道具はスタッフのモチベーションを向上させますし、それだけの価値がある装置だと半年間運用して実感しています。現在は臨床データを蓄積しはじめたところで、今後、さまざまな症例や目的ごとに解析を行い、薬効評価などでエビデンスを構築して治療に反映させていくことが必要です。心疾患の患者さんのQOLが少しでも向上するように取り組んでいきたいと思います」と展望する。
Aquilion Precisionがもたらした超高精細画像は、冠動脈疾患の診断、治療に新たなインパクトをもたらしている。同センターでの今後の成果が大いに注目される。
(2019年5月29日取材)
医療法人社団桜友会
所沢ハートセンター
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