高松平和病院(香川県高松市)は、2017年9月にキヤノンメディカルシステムズの1.5テスラMRI「Vantage Elan」と乳房専用コイル“ブレストSPEEDER”を導入したことで、マンモグラフィ、超音波、MRIによる乳がんの総合画像診断を院内で完結できる環境が整った。患者に合わせた適切なポジショニングと脂肪抑制技術により、MRIは乳がん診療に有用な情報を提供している。Breast Solution第4回は、第1回のマンモグラフィ(FFDM)で登場していただいた同院を再び訪ね、乳がん診療におけるMRIの役割や活用方法について、乳腺外科の何森亜由美医師にインタビューするとともに、Vantage Elanを用いた乳房MRI検査の実際について担当技師に取材した。
高松平和病院は、2011年4月に乳腺外科を開設し、女性スタッフによる乳がん診療を開始した。四国初の女性乳腺専門医として、乳腺外科を牽引する何森(いずもり)亜由美医師(上の写真右)は、乳腺超音波診断を中心とした乳がん診療のエキスパートであり、日常診療を行いながら、乳がん総合判定技術の標準化をテーマとした研究にも取り組んでいる。
同院では、マンモグラフィはトモシンセシス対応の「Pe・ru・ru LaPlus for Tomosynthesis」、超音波診断装置は「Aplio 500」(いずれもキヤノンメディカルシステムズ社製)を導入し、乳がん診療に活用している。そして、2017年9月にMRI装置が0.3テスラ永久磁石型システムから1.5テスラ MRI「Vantage Elan」(以下、Elan)に更新されたことで、乳房MRIを実施可能になり、乳がん画像診断を院内で完結できる環境が整った。
MRI更新にあたっては、既存のMRI検査室に導入可能な装置ということを基準に機種選定が行われた。永久磁石型MRIが置かれていた18m2の検査室に設置するという厳しい条件を、省スペース設計のElanがクリアした。Elanは、同社の1.5テスラMRIで初めて機械室不要の設計を実現し、クラストップレベルの最小設置面積を誇る。
同院ではElanが稼働するまで、乳房MRIは近隣の画像センターに外注していた。院内で乳房MRIを実施できるようになったメリットを、何森医師は次のように述べる。
「外注していた時には、術前の広がり診断症例がほとんどでしたが、検査がしやすくなったことで、良悪性を診断するためにも活用しています。立体的なMIP像などは、患者さんにわかりやすく説明できるため、安心感や納得感につながっていると思います」
同院のMRI検査は、6名の診療放射線技師が担当し、整形を中心に1か月あたり約130件の検査を実施。乳房MRIについては、柴田知亜紀技師(上の写真左)と森弘那技師(同真中)の2名が専任で担当している。
Elanとともに導入された4chの乳房専用コイル“ブレストSPEEDER”には、コイルの位置を上下左右の任意の位置に動かすことができるというユニークな特徴がある。森技師は、「腹臥位で乳房を穴に入れるだけの専用コイルをイメージしていましたが、コイルの高さや幅を変えることができるため、患者さんの乳房に合わせて、最適な位置にコイルを配置することができます」と述べる。日本人に多い小さめの乳房でも、コイルの位置を調整して乳房に近づけ、さらにコイルを上下動して乳房をコイル中心にすることで、高いSNRの画像を取得することができる。検査では、柴田技師と森技師が左右それぞれの乳房のポジショニングを行い、適切にポジショニングができていることを互いに確認して、撮像を行っている。柴田技師は、「Elan導入後すぐに、男性乳がんの患者さんの検査をすることになり、撮像できるか心配でしたが、ブレストSPEEDERでは問題なく対応することができました」と、たとえ経験が浅くても、ブレストSPEEDERでは容易にポジショニングできると話す。
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乳房MRI検査は、体動と患者の負担を軽減するため、約20分で撮像可能なプロトコールを作成した。撮像シーケンスをT2強調画像、T1強調画像、拡散強調画像、プレスキャン、Dynamic、高分解能T1強調画像に絞り込み、T1強調画像以外は脂肪抑制を行っている。検査後に、Dynamicのサブトラクション画像の作成とサジタルを再構成する。乳房は形状が特殊なため、脂肪抑制が効きにくい部位の一つであるが、Elanでは脂肪抑制法“Enhanced Fat Free”により、確実な脂肪抑制を得られることが特長である。従来のCHESS法が脂肪抑制パルスを1回印加するのに対し、Enhanced Fat Freeは2回印加することでCHESS法よりも高い脂肪抑制効果を得ることができる。森技師は、「脂肪抑制の撮像では、約20秒のテストスキャンを行って、脂肪抑制が効いていることを確認してから本スキャンに入ります。これまで、脂肪抑制不良を理由に再撮像をしたことはありません」と説明する。
何森医師は、乳房MRIにおける脂肪抑制の重要性について、「当院でMRIに求めているものは、病変の検出だけではありません。その後のインターベンションを精確に行うために、脂肪抑制の効いた画質で得られる分解能の高い情報(後述)が必要不可欠です」と話す。
■Vantage Elanを用いた乳がん診療(臨床画像)
同院では、乳房MRIを術前の精査(副病変の検索)や広がり診断、マンモグラフィや超音波検査で確定診断に至らなかった場合などに実施している。MRIでは、背景乳腺の造影効果であるBPE(background parenchymal enhancement)を踏まえて造影部位の臨床的意義を検討し、Dynamicカーブを利用して評価を行うが、超音波診断を軸として乳がん画像診断に取り組んできた何森医師は、MRIにおいても“形状”が決め手となることが多いと話す。
「私は超音波をコントラストではなく、形状で読影します。MRIでも同様に形状が評価できる高い空間分解能が必要です。Elanでは、脂肪抑制の効いた画質でクーパー靭帯や血管などの正常構造と乳腺の分布が明瞭に描出され、微細な構造が表現できています。それを目安にセカンドルック超音波を行うことで、淡い小さな病変も含めて99%は同定できます。MRIは、セカンドルック超音波を支援し、その後の細胞診や針生検につなげることで臨床的に有意義な検査になると考えています」
両側乳腺症のフォロー中に超音波検査で乳がんが発見された症例についてMRI検査を行ったところ、病変から離れた場所に5mmほどの扁平で不正な信号域が認められた。患者の希望で範囲を広げて切除し、病理にて同部位は同時多発の非浸潤性乳管癌(DCIS)と診断された。何森医師は、「同部位はセカンドルック超音波でも乳腺症にしか見えなかったのですが、MRIでは周囲のBPEやほかの乳腺症と違う形で描出されたため、指摘することができました」と、MRIが有効だった症例を振り返った。
マルチモダリティを有効に活用し、確実に診断をつけることの大切さを強調する何森医師は、そのための技術の普及に向けた思いを次のように話す。
「診断・治療を行う外科医に、セカンドルック超音波ができるMRIの読影方法や活用方法を、もっと広く知ってほしいと願っています。最近では、MRIによる乳腺分布を目安にしたセカンドルック超音波の有用性が海外で報告されていますが、日本ではまだあまり知られていません。超音波とMRIで正常構造を読影する方法がわかれば、比較的容易な手技です。今後は、リキッドバイオプシーや遺伝子診断が行われるようになり、MRIが行われる機会も増えるでしょう。MRIで見つかったものを、超音波の形状を問わずきちんと描出することで正しく診断し、治療に進むことが可能になります」
MRIなどのさまざまなモダリティの適切な活用が、個別化医療が進む乳がん診療においても重要な役割を果たしていくに違いない。
(2019年5月16日取材)