愛知県豊田市の吉田整形外科病院(78床)は、2017年3月にキヤノンメディカルシステムズの3T MRI「Vantage Galan 3T」を導入し、高い空間分解能を生かして関節を中心とした整形外科領域の検査に活用している。2018年2月に、システムのソフトウエアバージョンをV5.0にバージョンアップしたことで、脂肪抑制アプリケーション“WFS”の適用シーケンスが拡大したほか、断面設定支援機能“ForeSee View”が実装され、高精度かつ再現性の高い検査を容易に実現できるようになった。MSK(整形領域)Solution第1回は、Vantage Galan 3Tが整形外科領域に与えるメリットについて、放射線科の笹尾征昭副技師長とMRI担当技師の方々に取材した。
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吉田整形外科病院は、脊椎専門の整形外科病院として1974年に開院、2000年に現在地に新築移転した。診療体制の拡充に伴い、2011年には人工関節手術などの専門的治療を行う「豊田人工関節・股関節疾患センター」を院内に開設。年間900件近くの手術を行い、手術からリハビリテーションまで一貫した治療を提供している。笹尾副技師長は診療の特徴について、「整形外科治療で高名な医師も多く在籍していますし、ヘルニア治療薬など最新の薬物療法も積極的に取り入れているため、地元だけでなく県外からも多くの患者さんが来院されます。また、スポーツリハビリテーションにも力を入れており、プロ選手やオリンピックをめざすアスリートの方々のサポートも行っています」と説明する。
MRIは、2012年から1Tと1.5Tの2台(共に他社製)体制で検査を行ってきたが、関節の検査を強化したいとの考えから、より詳細な観察が可能な高空間分解能画像を得られる3T装置への更新が決まった。
装置の選定では、複数ベンダーの装置を検討し、施設見学も行った。Vantage Galan 3T(以下、Galan 3T)については、笹尾副技師長とMRI検査を担当している診療放射線技師4名でキヤノンメディカルシステムズの那須本社を訪れ、実際に関節などを撮像して検討した。笹尾副技師長は当時を振り返り、「手の外科を専門とする院長からは、指などの詳細な評価をしたいという要望があったため、“16chフレキシブルSPEEDER”により非常に細かいところまで描出できる点を評価しました。また、MRI検査は1枠30分と決めているため、撮像時間や解像度など、少し厳しい条件を提示していたのですが、Galan 3Tはすんなりとクリアしました」と述べる。
また、近年は体格の大きい患者が増えていることや、関節検査はオフセットや屈曲位で撮像することから、ラージボアであることも必要で、Galan 3Tの71cmという広い患者開口径も高く評価された。医師による画質評価を経てGalan 3T の採用が決定し、2017年3月より稼働を開始した。
MRI検査については4名の担当技師が1か月ごとのローテーションで検査を担当し、2台で月間500〜600件ほどの検査を実施している。Galan 3Tでは四肢関節検査を中心に行い、関節以外の領域やインプラントのある患者は1.5Tで検査している。
同院では、3Tの高いSNRを検査時間の短縮ではなく高空間分解能の向上に生かしている。MRI担当技師は、「靭帯損傷の評価では、1.5Tでは断裂の有無の大まかな評価しかできませんでしたが、空間分解能が上がったことで、完全断裂か部分断裂かの評価まで可能になりました。損傷の程度によって治療方針や完治にかかる時間が変わってくるため、スポーツ外傷などではGalan 3T指定での検査オーダもあります」と話す。
Galan 3Tでは、16chフレキシブルSPEEDERと各関節に最適化したサポートパッドにより、セッティングの手間を軽減し、専用コイルで得られるような良好な画像を取得可能となっている。16chフレキシブルSPEEDERは、柔軟性の高い形状で、手や肘、足首などの部位に直接巻き付けるように装着できる。M/L2サイズのラインアップで、多様な部位、さまざまな体格の患者に対応する。専用コイルでは、撮像部位とRFコイルの間に隙間ができないようにタオルなどで固定する必要があったが、16chフレキシブルSPEEDERとサポートパッドにより、セッティングがスムーズに行えるようになった。MRI担当技師は、「巻きやすく身体に密着できるコイルは、高いSNRを得られるため、明瞭な画像が取得できます」と、関節撮像における有用性を説明する。
また、「ポジショニングにかかる時間も、以前と比べて短くなりました。足関節の検査では、足をはめ込むサポートパッドがあるので、誰でも同じような角度で撮像できます」と話す。笹尾副技師長も、サポートに使うスポンジは弾力があり固定性が高く、身体をコイルに密着させやすいと評価している。
同院のGalan 3Tは、2019年2月にシステムのソフトウエアをV5.0にバージョンアップした。それに伴い、断面設定支援機能“ForeSee View”が実装された。ForeSee Viewは、2Dまたは3Dでスキャンした画像を用いたMPR画像を作成し、プランニング操作に合わせて撮像断面をリアルタイムに表示することができる。位置決めのための撮像を省略できるだけでなく、本スキャン前に撮像後に得られる断面を確認できる、言わば“未来予測”を可能にする機能である。
MRI担当技師は、関節検査におけるForeSee Viewの有用性を次のように説明する。
「骨折や靭帯損傷でギプス固定しているなど、屈曲した状態での膝や肘の検査では、ほしい断面とは異なる角度の画像になってしまうこともあります。ForeSee Viewでは、撮像後の画像を予想できるため、再撮像をすることが少なくなりました」
また、靭帯損傷で靭帯が伸びていたり、断裂している場合は、靭帯の走行を予想することは難しいため、ForeSee Viewで実際の状態を見て確実に断面を設定できるメリットは高い。笹尾副技師長は、「靭帯の角度は、健常であっても人によって微妙に異なります。これまでは、例えば膝の靭帯であれば、“大腿骨の内顆と外顆のこの辺りを結ぶ線で切ると出てくる”というように、技師の経験値によるところが大きいものでした。事前に予想図を確認できることで、経験に関係なく、誰でもねらった断面の画像を撮像できるようになります」と述べ、検査の標準化や再現性の向上、検査時間の短縮に有効であると説明する。
■ForeSee Viewによる断面設定
新バージョンでは、1スキャンでマルチコントラストが得られて、確実な脂肪抑制を可能にする“WFS”(Water Fat Separation)の適用シーケンスが拡大した。それによって、従来は脂肪抑制が効きにくかった関節など整形領域の部位でも良好な脂肪抑制が可能になった。
MRI担当技師は、「WFSによってきれいに脂肪抑制した画像が得られるようになりました。隙間がある指の辺縁などもきちんと脂肪抑制が効くようになっています」と述べる。
現在、医師を含めた画質の検討を進めており、脂肪抑制を高いレベルで実現したWFSの臨床での活用が期待される。
■Vantage Galan 3Tによる臨床画像
Galan 3Tを活用した今後の取り組みについて、笹尾副技師長は、「ForeSee Viewは新しい機能なので、他院での活用法なども共有しながら、関節を中心に検査に活用していきたいと思います。患者さんにとっては、できるだけ短時間で検査が終わることが大きなメリットとなるので、ForeSee Viewで確実、簡単にほしい断面が得られることで、再撮像することのないMRI検査を提供できると思います」と期待を述べた。
(2019年3月1日取材)
医療法人慈和会 吉田整形外科病院
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