岡山県倉敷市の川崎医科大学附属病院は、病床数1182、診療科35、医師441名、看護師1029名など職員は総勢2043名で、岡山県内で最大級の規模を持つ高度医療機関である。同院では、検査の効率化により検査待ち時間の解消と同時にスタッフの働き方改革も視野に入れて、キヤノンメディカルシステムズの80列CT「Aquilion Prime SP」を救命救急センターと画像診断センターに導入した。大学病院としての診療の現況と2台の80列CTの運用を、園尾博司病院長と中央放射線部の松田英治技師長ほかスタッフに取材した。
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川崎医科大学附属病院は1973年に開設、「医療は患者のためにある」「24時間いつでも診療する」を理念に、高度医療の提供と教育機関としての役割を果たしている。園尾病院長は、「開設者であり初代病院長でもある川崎祐宣先生の理念を継承しています。シンプルで大変重要な理念であり、すべての職員がこれを共有して診療を行っています」と述べる。また、医学生や医師の教育についても“良医”を育てることを目標とする。園尾病院長は、「医療職としての専門的な知識や技術を持つだけでなく、良い人間性とチーム医療が大切です。チーム医療の実践を学ぶためのプログラムとして“川崎塾”を開設しています。医師だけでなく多職種が参加して、人として成長することをめざしています」と述べる。
診療では、特定機能病院として高度救命救急センターを設置して一次から三次までの救急医療に対応する。救急科と各診療科の医師13名の当直体制で、年間4000台の救急車を受け入れている。また、2001年に日本初のドクターヘリを運航させた病院でもあり、現在は1日1、2回、年間400件の搬送実績を誇る。そのほか、地域がん診療連携拠点病院、災害拠点病院、県認知症疾患医療センターなどの指定を受け、急性疾患から慢性疾患まであらゆる領域で高度な医療を提供する体制を整えている。
中央放射線部は診療放射線技師41名が在籍し、CT、MRIなどの診断、放射線治療、核医学診療の3つの部門で運営されている。同院の検査部門は、本館のほか院内3か所の画像診断センターに分かれている。松田技師長は、「画像検査の必要性に合わせて拡大していった結果、分散してしまったのが実情で、装置には画質や機能と同時に効率化やワークフローを向上できる機能を求めています」と説明する。
同院には2台のAquilion Prime SPが、救急部門と検査部門にほぼ同時(2017年12月と2018年1月)に導入された。その経緯を松田技師長は、「先に更新の検討を進めたのは救急用CTでした。2008年から救命救急センターに救急専用の16列CTを導入して運用してきました。しかし、救急CTの撮影が増加するにつれ、広範囲の連続撮影や夜間の3D画像作成にも対応できるスピードとパワーが必要になってきました」と述べる。2017年の救急外来受診者のうち、放射線関連の検査を行ったのは8719人だが、このうちCT検査を行ったのは5375人(1.6人に1人)に上る。臨床的優位性と救命救急のCT検査で最も重要な検査スピード、画像処理能力などワークフローへの寄与を総合的に評価してAquilion Prime SPの導入が決まった。
その選定の過程で、さらに画像診断センターのCTの増設が決まった。ここではAquilion 64と他社製16列CTの2台で検査を行っていたが、1日の検査件数は80〜90件で約1/3が当日至急検査であり、予約待ち日数は3〜5週間となっていた。松田技師長は、「患者待ち時間と同時に、検査に対応するスタッフの時間外勤務の延長も課題でした。働き方改革を進める必要性からも、検査のワークフローの改善が見込める機種の増設を決定しました」と述べる。
問題となったのは設置場所で、新たにCT室を設けるスペースはなく、過去にシングルCTが設置されていた部屋に導入することになった。松田技師長は、「性能は救急用CTの導入の際の検討で十分に評価していましたが、狭い部屋に設置できるかが問題でした。Aquilion Prime SPは、本体・コンソールともコンパクト化されており設置が可能なことが決め手となりました」と述べる。
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今回のAquilion Prime SPの導入について救急部門の黒住 晃主任は、「救急のCT撮影では、全身の状態を確認したいという救急医をはじめ各診療科医師からの要望があります。以前の16列CTでは全身撮影の際には空間分解能と時間分解能のトレードオフに悩まされていました。Aquilion Prime SPでは、管球容量が7.5MHUとなり、パワーが必要な撮影を連続して行ってもストレスなく検査が可能になりました。さらに、画像再構成が速く画像が表示されるのを待つ時間がありません。救急車が続いて連続撮影が必要な場合でもためらうことなく撮影が可能です」と評価する。
救急部門のAquilion Prime SPには、SUREPositionが搭載されている。SUREPositionでは、コンソールから寝台の上下左右の移動が可能になる。スピードが優先される救急撮影では、患者が必ずしも寝台のセンターにセッティングされるとは限らない。黒住主任は、「撮影部位はFOVのセンターに置きたいのですが、当直では技師は1名なので体位の修正には体力も必要で時間もかかっていました。SUREPositionでは操作卓のボタンでベッドの操作ができます。時間の短縮にもなり画質も向上します。移動後にAECで再び計算されて最適な画質で撮影できるのもメリットです」と使い勝手を説明する。
救急ではリードなど器具が装着されたまま撮影することも多く、アーチファクトが問題となっていた。黒住主任は、「従来は可能な限りリードをFOVからはずしていたため、手間も時間もかかっていました。Aquilion Prime SPでは、PUREViSION Opticsの効果でリード線からのアーチファクトが大きく低減しています。リード線を気にせず撮影でき時間短縮につながり、救急でのメリットは大きいですね」と説明する。
また、Aquilion Prime SPではガントリ開口径が78cmとなったが黒住主任は、「高齢者で腕を上げることが難しい患者さんもいます。旧CTでは挙上が十分でなく肘がガントリに接触してしまうことがありましたが、Aquilion Prime SPではその心配なく撮影できています」と説明する。
■Aquilion Prime SPによる臨床画像
検査部門でCTを担当する池長弘幸主任はAquilion Prime SPでの検査について、「64列に比べても明らかに撮影時間が短縮され、患者さんの息止めが楽になり体動が抑えられていることを実感しています。画像再構成時間の速さについても、検査終了後に待たされることなく次の処理にストレスなく移ることができ、ワークフローの改善を肌で感じています」と説明する。
検査では全身のオーダがあるが、特に心臓や胸腹部大血管、下肢上肢の末梢血管など血管系の検査についてはAquilion Prime SPが第一選択となっている。池長主任は、「心臓検査についてはすべてAquilion Prime SPで行っており、高速撮影によって冠動脈の描出能が向上しています。さらにAIDR 3D Enhancedによってノイズが抑えられ末梢血管まで明瞭に描出できます。撮影のスピードと精度の向上によって、撮影する技師にとってもストレスのない撮影が可能です」と述べる。
金属アーチファクト除去技術であるSEMARについて池長主任は、「放射線科のIVRでは、脳動脈瘤のコイル塞栓術後の確認のほか、口腔領域での義歯の影響を受ける顎や耳下腺の周囲の診断の際にもアーチファクトが除去されて診断が可能になったという評価を受けています」と述べる。また、被ばく低減については、PUREViSION OpticsやAIDR 3D Enhancedの効果によって、Aquilion64と同等の画質(SD)でDLP換算で3割程度線量が削減できている。
Aquilion Prime SPについて、松田技師長は車に例えて次のように評価する。
「320列のADCTはハイスペックで何でもできる、いわばF1マシンです。一方で、Aquilion Prime SPは近所の買い物にも使えるし、F1レースにも参加できる性能を持ったマシンです。スピードや操作性など日常検査に必要な機能を備えた上で、救急の連続撮影や全身撮影、心臓の冠動脈撮影などの高度な検査にも対応可能です。大学病院であると同時に臨床病院として多様な機能を求められる、当院のような施設には最適な選択だったと思います」
Aquilion Prime SP導入によるワークフロー改善によって、スタッフの働き方改革が加速され、質の高い病院経営へ貢献することが期待される。
(2018年3月2日取材)
川崎医科大学附属病院
岡山県倉敷市松島577
TEL 086-462-1111