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CTと血管撮影装置が独立した2room型 Angio CTによる“ハイブリッドER”が稼働 〜救急初期診療におけるAngio CTのメ

関西医科大学総合医療センター

 

関西医科大学総合医療センターでは、救命救急センターに2つの部屋に独立したCTと血管撮影装置を、必要に応じてドッキングしてAngio CTとして使用できる「2room型 Angio CT」を設置した“Hybrid Emergency Room(以下、ハイブリッドER)”を構築した。救急外傷患者の初期診療における迅速な処置をサポートすると同時に、医療資源の有効活用という救急診療の課題を解決する新しいソリューションである。救命救急センターのハイブリッドERにおける2room型 Angio CTの運用について、岩坂壽二院長と救急医学科の中森 靖教授に取材した。

新本館の完成を機に地域に密着した超急性期医療を提供

関西医科大学総合医療センターは、2016年5月に本館がリニューアルし関西医科大学附属滝井病院から改称し新たなスタートを切った。新しい本館は、CCU/GICU9床、HCU4床、内視鏡専用手術室や眼科専用手術室など11の手術室を備え、超急性期医療を行う病院としての体制を整えた。34診療科と、診療科の枠を越え共同で専門的な医療を提供する26のセンターを設けて超急性期医療を支えている。岩坂院長は診療の特長を、「本館のオープンを機に総合医療センターと名前を改めましたが、大学病院としてだけではなく、二次医療圏を中心に地域に密着した高度急性期医療を提供する病院としての設備、機器、診療体制を整えました。リニューアルから1周年を迎え、地域の医療機関とも連携しながら最新かつ安心で安全な医療を提供しています」と説明する。
同センターでは、滝井病院時代から精神神経科のスタッフが各診療科と連携しながら、身体と同時に精神的なケアを行うリエゾン精神医療を提供している。また、患者の利便性と費用負担軽減の観点から、外来調剤を院内処方に切り替えた。岩坂院長は、「超急性期を扱う病院だからこそ、病気を治すだけではなく患者さんの不安や心配を取り除いて、本当の意味で安心できる医療を提供することが重要です。大学病院の専門的な技術を持った多くのスタッフが連携して高度な医療を提供することで、センターのキャッチフレーズである“大切な人を受診させたい病院へ”を実現しています」と述べる。
現在、旧病院施設の跡地にサッカーグラウンドと同じ広さを持つ“ホスピタルガーデン”の整備を進めており、2018年春には憩いのある病院として完成の予定だ。

岩坂壽二 院長

岩坂壽二 院長

中森 靖 教授

中森 靖 教授

 

 

救命救急センターに2ルームタイプのハイブリッドERを構築

同センターの救命救急センターは南館の1階にあり、スタッフは10名、ICU14床を含めた32床体制で、24時間365日、年間2000件の三次救急を受け入れ、“断らない救急”を実践している。また、精神科医と精神保健福祉士が常駐し、精神疾患合併救急症例の受け入れや「大阪府自殺未遂者支援センター(IRIS)」を設置しているのも特長だ。救命救急センターの位置づけについて岩坂院長は、「超急性期を担う当センターにとって救命救急センターは診療における柱の一つです。外傷センターやIRISなど、他の診療科とも連携して三次救急の重症患者を中心に多くの患者を受け入れています」と述べる。
救命救急センターでは、2017年7月から東芝メディカルシステムズの2room型 Angio CTを導入したハイブリッドERが稼働している。2room型 Angio CTは、あらかじめ同室(1ルーム)にセッティングされたAngio CTではなく、CTと血管撮影装置をそれぞれ独立した装置として部屋を分けて構築し(2ルーム)、必要に応じて組み合わせて利用できる。中森教授は、2ルームでのハイブリッドER構築のねらいを、「CTと血管撮影装置を組み合わせたAngio CTが、救急の重症外傷患者の初期診療に有効なことは間違いありませんが、一方で高額なAngio CTを救急医療のためだけに導入するのは病院にとってハードルが高く、ハイブリッドERのさらなる普及のためには経済性をクリアすることが一つの課題でした。そこで、普段はCTと血管撮影装置として通常の検査に利用でき、緊急時のみドッキングして利用できるシステムとして構築したのが2room型 Angio CTです」と語る。

高度医療の提供と経済性を両立する2room型 Angio CT

2room型 Angio CTは、80列CTの「Aquilion PRIME」と血管撮影装置「Infinix Celeve-i」を隣接した2つの部屋に設置し、通常は独立したCTと血管撮影装置として使用し、Angio CTとして運用が必要になった時にCTガントリを隣室まで移動(スライディングガントリ機構)して利用する。CT室で単独で使用する際には、CT寝台と組み合わせて通常のCTとまったく同じ検査ができる。
中森教授は、「2room型 Angio CTのコンセプトは、Angio CTのCTの有効活用ではありません。普段はCTと血管撮影装置をそれぞれ完全に独立して利用し、重症患者が発生した時のみAngio CTとして利用するという発想の転換で装置の運用効率を高め、導入のハードルを下げてハイブリッドERを中小規模の病院でも導入できるようにすることがねらいです」と説明する。今回の2room型 Angio CTの導入について岩坂院長は、「ハイブリッドERは確かに救急診療には有効ですが、病院経営の観点では採算性を考えると厳しい面があります。2ルームタイプにすることで、高度な医療と日常診療に対応できる合理性の高い運用が可能になり、中森教授を中心とした救命救急センターでの活用に期待しています」と述べる。

CTガントリの呼び込み時間は45秒程度と、迅速な使用ルームの変更が可能

CTガントリの呼び込み時間は45秒程度と、迅速な使用ルームの変更が可能

Cアームは天井懸垂式で未使用時には待避でき、さまざまな人的配置や機材の移動に対応できる。

Cアームは天井懸垂式で未使用時には待避でき、さまざまな人的配置や機材の移動に対応できる。

 

2011年に日本初のハイブリッドERを構築

ハイブリッドERは、2011年に中森教授が前任地の大阪急性期・総合医療センターで世界で初めて構築したシステムである。初療室にAngio CTを導入するだけではなく、寝台や照明の天吊、大型モニタの設置などの改良を行い、患者を移動させずに救急初期診療、CT撮影、緊急手術、TAEなどがその場で行えるようにした。中森教授の考案によるハイブリッドERのコンセプトは大きな反響を呼び、現在までに全国7施設で同様のシステムが構築、運用されている。
中森教授は、最初にハイブリッドERを構築するに至った経緯を次のように述べる。
「循環が不安定な重症外傷の初期診療ではCT撮影は禁忌とされていますが、日本では救急部門に隣接したCTで外傷患者の全身撮影が行われています。最近のさまざまな検討から、緊急止血術が必要な外傷患者のスクリーニングCTが予後の改善に寄与することが明らかになってきました。とはいえ、患者の移動などで撮影から治療開始までに時間がかかることが問題でした。ハイブリッドERでは、ほとんどの患者に対してCTが可能であり、CTが撮影できれば患者の状態が把握できます。その上で、IVRか、手術か、保存療法か、治療戦略を立てられる意味は大きいです。特に複数箇所に問題がある外傷患者の救命には有効で、問題を同時に把握し素早くアプローチして処置することが可能です」
大阪急性期・総合医療センターでのAngio CT導入後は、導入前に比べてCT撮影までの時間が23分から11分に、撮影終了までは42分から18分に短縮した。治療成績(予後)に関しても、ハイブリッドER構築前後の比較で向上したという。

■救命救急センターの2room型 Angio CTの構成

救命救急センターの2room型 Angio CTの構成

 

 

必要時に隣室からCTガントリを移動してAngio CTとして運用

2room型 Angio CTでは、CTのガントリは床のレールを移動する。ケーブル類はすべて床下に埋め込まれており、レールの段差も少ないため、清潔な環境が保たれ、血液や洗浄水による駆動装置への影響もない。ガントリの移動や部屋を分ける扉の開閉もスムーズで、隣室からCTガントリを呼び込む時間は45秒程度。救急隊から重症外傷患者搬送の連絡があった場合でも、あらかじめAngio CTとしてセッティングしておくのではなく、患者到着後に気道確保など救急処置を行ってから、ガントリを呼び込んで撮影を行っている。また、血管撮影装置のCアームについても天井懸垂型でケーブルも装置内に収められており、未使用時には部屋の隅に待避できるため、手術の際にも広い空間が確保できる。
2room型 Angio CTのメリットについて中森教授は、「救急の処置の際に初療室に大きなスペースを確保できることです。1ルームタイプのAngio CTでもCTのガントリはベッドサイドから待避するので邪魔にはなりませんでしたが、2room型 Angio CTではガントリが完全に待避するので、初療室の広さを実感しました。IVRや手術の際にも機材を置くスペースが十分に確保でき準備がスムーズになりました。緊急の大動脈ステント留置術もハイブリッドERで行うことができ、CTが完全に待避するメリットを改めて感じています」と評価する。
また、Aquilion PRIMEの開口径78cmのワイドボアは、人工呼吸器や点滴のルートなどさまざまな器具が装着される救急患者の検査でのメリットは大きいと中森教授は次のように言う。
「外傷患者に創外固定具を装着すると従来のCTでは検査できないことがありましたが、Aquilion PRIMEではテーブルを下げることで空間が確保できます。CTガイド下のスクリュー固定などの処置も創外固定具を装着したまま可能になり、開口径が広くなったメリットを感じています」

■2room型 Angio CTでの救急外傷患者の臨床例

2room型 Angio CTでの救急外傷患者の臨床例

 

CT検査から治療への迅速な移行で重症外傷の救命率を向上

2room型 Angio CTの2017年7月4日からの稼働1か月(28日間)の運用実績は、IVR42件、CT299件となっている。IVRの内訳は、救命救急センターが9件、救急患者の少ない午前中を中心に放射線科が腹部のTAEなどを33件行っている。CTについても1日10件のうち、半分が救急撮影、残りが入院患者などの緊急検査となっている。初期の稼働状況について中森教授は、「当初の想定どおり、CTと血管撮影装置それぞれの稼働状況も順調であるのに加え、ハイブリッドERとしても活用できています。本館の放射線部のCTは予約で埋まっていますので、当日の緊急検査や入院患者の検査を行っています」と述べる。
ハイブリッドERの運用で、救急部門のスタッフにはより迅速な対応が求められるようになった。中森教授は、今後は緊急の外科手術やIVRの基本技術を習得した救急医の教育と養成が重要になると次のように述べる。
「患者が到着して10分後には治療方針が決まります。以前のように外科や放射線科のスタッフを呼んでいる時間はありません。救急スタッフは、全員がIVRや開腹手術ができることが求められます。もちろん重症であれば、専門スタッフにバトンタッチしますが、少なくとも初期の止血術などに対応できる技術を身につけておくことが必要です。そのために、放射線科や外科の手術に救急スタッフが助手としてついて勉強できるような体制にしています。その中で各科とのコミュニケーションを深め、連携を密にした救急医療を進められるようにしています」
中森教授は、ハイブリッドERは重症外傷患者だけでなく、来院時心肺停止(cardiopulmonary arrest on arrival:CPA)の患者の救命に貢献する可能性があると言う。
「CPAは救命できないことがほとんどですが、ハイブリッドERでは、一般的な心肺蘇生術から経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support:PCPS)の導入と同時に、CTによるスクリーニング、冠動脈造影やPCIなどが患者を動かすことなく一連の流れとして行うことができます。それによって実際に救命できる症例が増えています」
2room型 Angio CTの登場で救急部門でのAngio CT導入のハードルが下がり、重症患者の初期診療をサポートするハイブリッドERの普及に拍車がかかることが期待される。

(2017年8月30日取材)

 

関西医科大学総合医療センター
大阪府守口市文園町10-15
TEL 06-6992-1001

関西医科大学総合医療センターの本館(左)と救命救急センター(右)

関西医科大学総合医療センターの本館(左)と救命救急センター(右)

 

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