静岡県浜松市の聖隷三方原病院(荻野和功院長)は、県下最大の病床数934床(一般810、精神104、結核20)を持つ浜松市を中心とする県西部地域の中核医療機関である。同院に、2017年5月、東芝メディカルシステムズの最新の80列CTである「Aquilion Prime SP」が導入された。64列CTからのリプレイスとなるAquilion Prime SPの使用経験について放射線科の高橋 護医長、画像診断部の土屋甲司技師長とCT・アンギオグループのスタッフ(永峯岳樹係長、中野 仁技師、渥美雄介技師)に取材した。
聖隷三方原病院は、2015年に静岡県内で初めて高度救命救急センターの認可を受け、常駐するドクターヘリによる搬送を含めた高度救命救急医療の提供など、県西部の中核的役割を果たしている。また、キリスト教の精神に基づき結核患者の療養所からスタートした設立の理念から、精神科や日本初のホスピス(緩和ケア病棟)の設置など地域のニーズに対応した幅広い医療を提供していることも特長だ。
画像診断部には診療放射線技師38名が在籍し、一般撮影・透視、CT・アンギオ、MRI、核医学、放射線治療、ERの各部門で検査を行っている。ER部門は、高度救命救急センターの開設に合わせて設置され、4名のスタッフ(1名が常駐)で救急の高度で専門的な検査に対応する。
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同院に導入されたAquilion Prime SPは、2017年4月に発売された東芝メディカルシステムズの80列のAquilion PRIMEシリーズの最新機種である。同シリーズの高速、高精細、低被ばく検査のコンセプトを継承しながら、X線光学系技術PUREViSION Opticsをはじめとする上位機種の最新技術を投入して、さらなる低被ばく、造影剤量の削減と高精細画像の提供を可能にした。
同院のCT検査件数は、2台で1日110〜120件であり、予約検査枠とほぼ同数のオンコールの検査が行われるなどフル稼働している。高橋医長はCT検査について、「臨床科にとってCTが以前の単純写真のような位置づけになっており、オーダが増えています。それだけに画質を担保しながら被ばく線量の低減が求められます」と述べる。
同院では、2007年から「Aquilion 64」2台で診療を行ってきたが、今回、そのうち1台を先行して更新しAquilion Prime SPが選定された。土屋技師長は、「2台のCTのうち、1台を先行して更新するということで、検査の質の担保を重視して80列を選択しました。Aquilion Prime SPは、前機種からの操作性の継続による安全性や、また、バリアブルピッチヘリカルスキャンやSEMARなど上位機種と同等の機能が利用できることなど、今後のCT部門の展開も考慮して選定しました」と述べる。
Aquilion Prime SPでは、撮影線量は従来の半分以下となった。高橋医長は、「画質は維持しつつ、その中で線量を下げた撮影条件を設定しました。逐次近似法特有の画像のクセがなく、読影する上で問題ありません」と述べる。導入後の変化として、中野技師は処理スピードのアップによるスループットの向上を挙げ、「装置のレスポンスが早く、撮影開始までの操作の待ち時間がほとんどなくなりました。また、画像再構成速度も70枚/秒と高速で撮影後も待たされることはありません。1人の患者さんの検査時間は確実に短縮しています」と述べる。操作性もAquilion64とほぼ変わらないインターフェイスで、操作研修も必要なく導入初日からフル稼働できた。
Aquilion Prime SPは、78cmの大開口経を実現すると同時に、設置スペースについてもコンパクト化されている。同院では64列と同じ部屋の同じ位置に設置したが、ガントリの横幅が小さくなりスペースに余裕ができて、ストレッチャーやベッドでの検査室への搬入がスムーズになった。また、ワイドボアの検査でのメリットを中野技師は、「高齢者の円背の患者さんでも無理な姿勢を取らなくても、寝台を下げてガントリの中心で撮影できます。また、救急搬送でドレーンの入った状態の患者さんでも干渉することなく、医療安全の面でもメリットを感じています」と評価する。
また、Aquilion Prime SPでは、操作室のコンソールで寝台の上下左右の移動をコントロールできる“SUREPosition”が搭載された。永峯係長は、「ポジショニングが多少甘くても、操作卓から調整できるのでセッティング時間が短縮しました。つらそうな患者さんを無理矢理動かす必要もなく、患者さんにやさしい機能だと言えます」と述べる。
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Aquilion Prime SPの金属アーチファクトの低減技術である“SEMAR”について永峯係長は、「他社製CTの金属除去に比べても精度が高く、アーチファクトの除去効果が高いと感じます」と評価する。SEMARは、整形外科のインプラント、腹部の大動脈ステントグラフト、頭部の脳動脈瘤クリッピングなどがある場合に適応している。渥美技師は、「SEMARは撮影後のデータに適応することも可能です。日常検査で使用する上で問題ない再構成速度です」と述べる。中野技師は、「CTグループでは月間200件の3D作成を行っていますが、Aquilion Prime SPではノイズの少ないデータ収集によって作成のスループットが向上しています。整形外科からの患者説明や術前シミュレーションの作成依頼が多いのですが、SEMARでアーチファクトが除去できるので、3D画像の精度も作成のスピードも向上しました」と述べる。
バリアブルピッチヘリカルスキャンは、1回のスキャンで心電図同期の有無や寝台移動速度、管電流などの設定を切り替えることができる。同院では、心臓血管外科からの依頼で頸部から下肢までの血管撮影や心臓のバイパス手術後のフォローアップなどで、1日3件、月間50件程度のバリアブルピッチヘリカルスキャンでの撮影を行っている。中野技師は、「全身の血管撮影は全例Aquilion Prime SPで行っています。頸部血管、心臓の冠動脈、肺塞栓、大動脈解離、下肢のASOを見たいという依頼もありますので、下肢まで合わせたバリアブルピッチヘリカルスキャンを施行するケースもあります。撮影のタイミングが合うとデータを読み込んだだけで、そのまま3Dが作成可能なデータが収集できます」と評価する。
また、Aquilion Prime SPでは、精度の高い差分画像が得られる非剛体位置合わせサブトラクションが可能だが、同院では肺血栓塞栓症の診断に用いている。サブトラクションでは、胸部の単純と造影の画像を差分することで、肺野内の血流のカラーマップ表示や肺血管のMIP表示を行う。高橋医長は、「サブトラクションの精度が高いので、太い血管だけでなく末梢血管まで塞栓の診断が可能です。今後、症例を増やしエビデンスを蓄積していくことが必要ですが、肺塞栓の診断が可能になると期待しています」と述べる。また、従来は位置合わせが難しかった腹部領域にも適用可能となっている。永峯係長は、「肝動脈塞栓術でリピオドールのアーチファクトで観察できなかった部分の造影効果の可視化にも期待しています」と述べる。
■Aquilion Prime SPによる臨床画像
高橋医長はこれからのCTへの期待について、「全身血管の観察などが簡単に可能になったからこそ、臨床科に対してはもう一度CT検査の被ばくについて注意喚起をする必要があるかもしれません。Aquilion Prime SPでは、従来機種に比べて半分以下に線量は低減されていますが、これに満足することなく、さらなる線量低減を進めてほしいと思います」と述べる。
土屋技師長は、「操作性や寝台移動などの機能は、臨床現場での細やかなニーズをとらえた国産企業ならではと感じます。被ばく低減などと併せて、今後も技術開発に期待しています」と述べる。高度急性期医療を核に地域を支える同院の診療に最新80列CTが貢献する。
(2017年7月5日取材)
社会福祉法人聖隷福祉事業団
総合病院聖隷三方原病院
静岡県浜松市北区三方原町3453
TEL 053-436-1251