静岡市駿河区のこんどうクリニックは、静岡済生会総合病院で呼吸器外科科長を務めていた近藤大造院長が、2003年に開業した内科、呼吸器科を標榜するクリニックである。開院からシングルヘリカルCTを導入して肺がん患者のフォローアップや早期発見に取り組んできたが、 2015年10月に東芝メディカルシステムズの16列/32スライスCT「Aquilion Lightning」にリプレイスした。「肺がんの早期発見がライフワーク」と語る近藤院長に、肺がん診療の現況とAquilion Lightningの運用について取材した。
近藤院長は、1991年に静岡済生会総合病院で呼吸器外科を立ち上げ、外科科長として2003年まで2000例近い手術を手掛けてきた。2003年に現在地にクリニックを開業したが、開業の目的として肺がん手術を行った患者の術後フォローアップと同時に、肺がんの早期発見というねらいがあったと近藤院長は次のように述べる。
「肺がんの早期発見は、私のライフワークです。肺がんを早期に、誰が手術しても助かるような段階で発見することで、できるかぎり肺がん死をなくしたいというのが開業の目的の一つでした。そのためには、クリニックといえども肺がんの早期診断のためにCTの導入が必須でした」
同クリニックでは、開院からシングルCT(東芝社製Asteion)を導入し、肺がん術後のフォローアップや、検診などで異常陰影を指摘された患者へのCT検査を行ってきた。近藤院長は、肺がんの診療について、「胸部X線写真で気になった場合や、健康診断で異常陰影を指摘されて受診された患者さんに対して、CTを撮影し良悪性を判断します。CTでがんと判断できる場合もありますが、がんを否定できない場合もありますので、その場合は経過観察として1か月後に再びCTを撮影します。そこで、急激な変化がなく悪性度が低いと判断すれば、3か月後、半年後と継続して観察していきます。無症状のごく早期の肺がんの発見のためにはCT検査は不可欠であり、その意味でCTはこのクリニックの心臓部と言っていいかもしれません」と述べる。
2015年10月に、シングルCTをリプレイスして東芝メディカルシステムズのAquilion Lightningが導入された。導入の経緯について近藤院長は、「開業から10年以上が経過し、地域に根ざした診療が軌道に乗ってきたことから、CTについても単なる更新ではなく、さらにパワーアップした肺がん診療が可能な機種を導入したいと考えていました。4列から16列まで価格を含めてさまざまな機種を検討しましたが、シングルCTよりもさらに低被ばくで、高速、高画質の検査が可能なAquilion Lightningを選択しました」と述べる。
Aquilion Lightningは、東芝メディカルシステムズの16列/32スライスCTの最新機種であり、同社がAquilion ONEシリーズで培ってきたハイエンド技術を搭載しており、新型検出器“pureViSION Detector”、0.5mmスライススキャン、“AIDR 3D Enhanced”によって、高精細画像の低被ばくでの撮影を可能にする。
また、78cmのワイドボアや最小設置面積9.8m2と省スペースでの導入が可能で、シングルCTからのリプレイスにも対応する。同クリニックでもレイアウトを変えることなく、シングルCTの部屋にそのまま設置することができた。近藤院長はAquilion Lightningでの肺がん診療について、「多列化によるボリュームデータでの観察で、確信を持った診断が可能になりました。10年先を見据えた肺がん診療が可能な体制になりました」と語る。
Aquilion Lightningでの肺がん診断のメリットについて、近藤院長は16列検出器によるボリュームデータが収集可能になったことで、MPRによる多断面での診断が可能になったと次のように述べる。
「シングルCTではアキシャル画像を確認するしかなかったのですが、Aquilion LightningではボリュームデータからMPRを再構成することで、アキシャル画像だけでなくサジタル画像、コロナル画像によって多方向からの観察が可能になりました。これによって肺がんの性状などがより詳細にわかり、診断能は確実に向上しています」
従来、アキシャル画像だけでは診断がつかず経過観察となったような症例でも、MPRによる多断面の観察で、その場で胸膜の肥厚や葉間膜の炎症など、明らかにがんを否定することができるようになった。近藤院長は、「画像が高精細になったこと、より広い範囲が観察できることで、解剖学的な関係まで把握でき、異常陰影の良悪性の診断能が向上し、従来よりも診断に迷うケースは少なくなりました」と、Aquilion Lightningによるメリットを述べる。
さらに、Aquilion Lightningでは、全肺を1回10秒程度の息止めで撮影が可能だ。シングルCTでは全肺撮影には2、3回の息止めによる分割撮影が必要で、異常があれば1mmのthin sliceを改めて撮り直し、HRCTを作成していた。近藤院長は、「肺の撮影は、もともと呼吸機能の悪い患者さんが多いので、息止めや撮影時間の短縮は大きなメリットです。さらに、異常があった場合でも再撮影の必要がなく被ばく低減にもつながっています」と評価する。
また、再撮影が不要になったことは、待ち時間の短縮など患者サービスの向上にもつながっている。近藤院長は、「多くの外来患者さんが待っている中で、再撮影から再び診察というのは診療時間が長くなり、すべての患者さんを長くお待たせすることになります。また、1か月後に再撮影する場合、がんではないかという不安を抱えたままで過ごすのはストレスですので、1回の撮影データで診断できるメリットは大きいですね」と多列化と高速撮影のメリットについて説明する。
同クリニックでは、シングルCTの時から、線量を下げた撮影プロトコールを採用し、被ばく線量の低減に積極的に取り組んできた。シングルCTでも約1.1mSvと低線量だったが、Aquilion Lightningではさらに約0.6mSvまで低減した。線量の設定は、逐次近似応用再構成AIDR 3D Enhancedを軸にして、数種類のプロトコールとその撮影画像を検討し、最適なプロトコールを選定した。被ばく低減への考え方について近藤院長は、「肺がんCTは、経過観察など繰り返し撮影を行う必要があることから、できるかぎり線量は下げたいと考え、当初から被ばく線量の削減に取り組んできました。シングルCTでも通常の胸部CTに比べて1/7という低い設定でしたが、今回はそれをさらに半分近くまで下げることができました。画質については以前と変わらず、診断に支障ありません」と説明する。
Aquilion Lightningでは、体格や部位に合わせて線量を最適化する“Volume EC”とAIDR 3D Enhancedを連動させることで、低線量でも肺尖部のストリークアーチファクトがなくなり、ボリュームデータのMPRによる観察と合わせて診断能は向上していると近藤院長は評価する。
■Aquilion Lightningによる低線量肺がんCT撮影
クリニックのスタッフは、近藤院長以下、看護師3名、診療放射線技師1名、医療事務5名などとなっている。Aquilion Lightning導入後のCT検査件数は、1日平均6〜8件、多い時で10件程度の撮影を行っている。撮影は診療放射線技師が行うが、不在時には近藤院長自ら撮影を行うこともあるという。操作性に関しては、「マニュアルを作成してありますが、たまに使っても戸惑うことなく問題なく撮影できます。もともと開院当初は自分で撮影していましたので問題ありません」とのことだ。
さらに、同クリニックでは、CTによる肺がん検診を行っている。肺に不安がある患者を対象に保険外診療で6300円で肺がんCTを行う。年間で500件程度の受診があるとのことだ。撮影には、通常の全肺検査と同じプロトコールを使用している。
同クリニックの外来は現在1日平均75人前後だが、そのうち7〜8割が再診患者で、肺がんの経過観察やCOPDやぜんそくなど呼吸器疾患で定期的に受診する患者が多い。近藤院長は、「高血圧や糖尿病などさまざまな病気を抱えて通院している患者さんの中からは、少なくとも肺がん死は絶対に出さないことが目標です。しかし、悪性度の高い、たちの悪いがんの場合、半年の間に増大しリンパ節転移まで進行する例もあります。そういったがんに対しては、より小さい段階で発見し治療を行うことが必要で、診療の中で短時間で検査が可能なCTには期待しています」と述べる。さらに、近藤院長はCTへの要望として、さらなる低線量化を挙げる。「診断能を下げることなく、多くの人が被ばくを心配せずに肺がんCTを受けられるようになって、誰が手術しても治るような肺がんの早期発見が可能になることが理想です」と近藤院長は述べる。
地域の中で肺がんの早期診断に取り組むこんどうクリニックに新たに加わったAquilion Lightningのさらなる貢献が期待される。
(2016年2月24日取材)
こんどうクリニック
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