社会福祉法人函館厚生院 函館中央病院は、22診療科、病床数527床、道南地区では唯一の総合周産期母子医療センター(NICU9床、GCU18床)の開設、北海道のがん診療連携指定病院の指定を受けるなど、急性期医療を中心に地域に根ざした医療を展開している。同院では、2014年7月に東芝メディカルシステムズの320列Area Detector CT(ADCT)である「Aquilion ONE/Global Standard Edition」を導入、地域の中核病院として高度な診断技術の提供と同時に、低被ばくで造影剤量にも配慮した検査に取り組んでいる。同院でのADCTの導入と運用について、橋本友幸病院長、放射線科の藤田信行臨床顧問とスタッフに取材した。
函館中央病院の運営母体である社会福祉法人函館厚生院は、1900年に3名の篤志家が私財を提供して設立した“函館慈恵院”がそのルーツであり、1930年に開院した同院も“心ある医療”の理念の下、小児・周産期医療など地域に根ざした医療を提供してきた。橋本病院長は、「創立からの理念を受け継ぎ、経済的、身体的に恵まれない方々を助けることを第一に考え、小児科や周産期医療などいわゆる“不採算”事業にも積極的に取り組んできました。2014年に産科医療功労者厚生労働大臣表彰を受賞したのも、これまでの取り組みが評価されてのことです。同時に急性期病院として、高度で先進的な医療の提供は重要な責務であり、これを両輪としてお互いが補完し合いながら病院経営を進めています。そこで、最新の診断機器として導入したのがAquilion ONE/Global Standard Editionです」と説明する。
2016年には北海道新幹線が函館まで開業予定で、開通後には本州からの移動人口の増加も期待される。橋本病院長は、「函館市は病院が多く医療環境が充実した地域ではありますが、その中で今回のADCTの導入は、藤田臨床顧問をはじめとする放射線科の専門医による診断の提供と併せて、当院の大きな特長となると期待しています」と述べる。
放射線科は、藤田臨床顧問と髙橋千尋科長の医師2名で、CT、MRI、RIによる画像診断を中心に行っている。特にCT、MRIについては、原則として1時間以内の迅速なレポートの提供を行っており、2名体制ながら画像診断管理加算2の施設基準(8割以上を読影)を満たしている。検査件数は月間でCT1100件、MRI700件にのぼる。
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同院では、4列CTをリプレイスして2014年7月からAquilion ONE/Global Standard Editionが稼働し、Aquilion CXL(64列)との2台体制で運用されている。Aquilion ONE/Global Standard Editionは、320列のArea Detectorを搭載し、1回転0.35秒でのボリュームスキャンや逐次近似法を応用した低線量撮影技術である“AIDR 3D”によって、高速かつ高画質、低被ばくでの撮影が可能なADCTである。藤田臨床顧問はADCTのアドバンテージについて、「16cm幅の検出器で1回の撮影で広範囲のボリュームスキャンが行えるので、例えば心臓では時相によるズレがなく、動きの影響の少ないデータ収集が可能になりました。また、高速スキャンと広い開口径で、救急の外傷患者の撮影でも短時間に低線量で撮影でき、ボリュームデータを基に骨などの条件で画像を再構成して読影が可能です。より少ない線量で多くの情報が得られると同時に、患者さんに負担が少ない検査が行えることは大きなメリットです」と評価する。
診療放射線技術科の斉藤猛美副技師長はADCTの導入について、「最先端の技術を搭載したCTが導入されたことで、スタッフのモチベーションは上がっています」と述べる。診療放射線技師は21名。そのうちCT担当は7名で、それぞれ頭頸部、腹部、胸部・整形外科、心臓などの専門領域を持って検査に当たっている。CTを担当する駒野圭史主任技師は、Aquilion ONE/Global Standard Editionを中心とするCT室の運用について、「それぞれが担当領域のプロトコールを作成し、それに沿って全員が検査を行っています。Aquilion ONE/Global Standard Editionでは、デュアルエネルギーをはじめ新しい技術、アプリケーションが利用できるようになり検査の幅が広がっています」と述べる。
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Aquilion ONE/Global Standard Editionの“デュアルエネルギーシステム(以下、デュアルエネルギー)”では、135kVと80kVの2つの管電圧でボリュームスキャンを行い、物質弁別解析やヨード強調画像など、さまざまな情報を得ることができる。同院では、デュアルエネルギーで腎結石の成分分析、肝臓がんのダイナミックCTなどを行っている。藤田臨床顧問は、「従来、結石の成分分析には時間もコストもかかりましたが、デュアルエネルギーで簡単に解析可能です。また、肝臓がんのダイナミックCTでは、低電圧撮影画像で造影剤が明瞭に描出されるため、通常のダイナミック撮影では判別が難しい症例でも診断が可能です。これによって肝細胞がんの診断能が向上すると同時に、腎機能が悪い患者さんの検査では画質を維持したまま造影剤量を減らすことが可能です」と説明する。デュアルエネルギーについては、2014年12月に行われた「画論 The Best Image 2014」において、駒野主任が“脊椎破裂骨折”でAquilion ONE部門の優秀賞を受賞した。これは、脊椎の破裂骨折をデュアルエネルギーによる実効原子番号画像を作成して解析したものだ。斉藤副技師長は、「これまでMRIでしかわからなかったような情報が得られるようになれば、診療の流れも変わってくることになります」と今後の取り組みに期待する。
また、Aquilion ONE/Global Standard Editionでは、インプラントなどの金属アーチファクトを低減させる“SEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)”の効果が指摘できる。藤田臨床顧問は、「SEMARによって、これまでアーチファクトで診断ができなかった部位でも読影が可能になり、特に整形外科領域では診断の幅が広がりました」と述べる。さらに、Aquilion ONE/Global Standard Editionでは、面検出器を用いた連続撮影によるボディパーフュージョン撮影が可能になっている。藤田臨床顧問は、「Aquilion ONE/Global Standard Editionでは、16cm幅でパーフュージョン撮影が可能になり、ほぼ肝臓全体をとらえることができます。さらに、CTパーフュージョンでの課題だった被ばく線量についても、AIDR 3Dによって大きく削減することが可能です。パーフュージョン撮影では、かなり線量を落としても、造影剤によってSNRが向上します。これによって、従来のダイナミックスタディ4相分と同等か、それ以下の線量での撮影が可能になると考えています」と期待する。
■症例1 息止め不可の状態で撮影した症例
■症例2 TACE後治療効果判定:肝パーフュージョン
同院では、腹部は管電流150mAs程度で撮影しており、ADCT導入以前の350mAsからは、約6割低減されている。藤田臨床顧問は、「ADCTでは、AIDR 3Dや再構成関数など撮影条件を最適化することで、さらに被ばく線量の低減は可能だと考えています。現状でも、整形外科の腰椎撮影では4方向の単純X線写真よりも、ADCTの方が被ばく線量は少なく、多くの情報量が得られます。骨盤や下部腰椎の検査は、最初にCTを撮影して単純X線写真は経過観察に使うべきと考えます。また、デュアルエネルギー撮影での造影画像から造影剤の情報を引いて仮想的に単純CT画像を作成する仮想単純画像(virtual non-contrast)を用いることで、泌尿器科の結石分析や、ダイナミックCTで単純CTを省略することも期待されます。同様に、腹部領域や小児撮影についても、線量低減の方向性について検証を進めていきます」と、今後のCTの被ばく低減への期待を述べている。
Aquilion ONE/Global Standard Editionでの今後の取り組みについて駒野主任は、「新しい技術を用いた撮影法については、全国でもまだあまり発表されていません。デュアルエネルギーや整形領域の4Dイメージングなど、新しい領域にチャレンジしていきたいですね」と言う。
同院では、がん診療体制の強化を図るため、2018年をめどに診療棟の建て替えが計画されている。次の時代を見据えて進化を続ける函館中央病院の原動力として、ADCTがフル活用されることが期待される。
(2014年12月19日取材)
社会福祉法人
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