鹿児島と沖縄のほぼ中間に位置する奄美大島の中核病院である鹿児島県立大島病院(315床、眞田純一院長)は、2014年6月に離島では初めてとなる救命救急センターをオープンした。24時間の受け入れ体制と集中治療室などを整備し、奄美群島の医療を支える最後の砦として高度医療を提供する。同センターに救急対応のCTとして、東芝メディカルシステムズの80列ヘリカルCTである「Aquilion PRIME/Focus Edition」が導入された。離島における救急医療を担う同センターの診療の現況とCTの運用について、救命救急センターの服部淳一センター長と中央放射線部の田畑一文技師長、渡幸二郎技師に取材した。
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県立大島病院の救命救急センターは、鹿児島県では鹿児島市立病院、鹿児島大学附属病院に次ぐ3施設目となるが、離島地域では初めての本格的な救命救急センターである。本院に隣接したセンターは、地上7階建て、1階には、初療室、診察室、X線撮影室、CT室、手術室、2階にICU4床、HCU6床を備える。屋上にはヘリポートを設け、自衛隊などのヘリ搬送や将来的なドクターヘリの運用に対応できるようにした。服部センター長は、離島における救命救急センターの役割を次のように説明する。
「奄美大島を中心とする奄美群島の救急医療体制の充実を図るため、24時間の患者受け入れ、集中治療室の開設、災害医療拠点病院の機能強化、臨床研修センターの開設という4つの柱で整備を進めました。急患や重症患者を集中的に受け入れ、高度な医療を提供することで、周辺の離島を含めて群島内で完結できるワンランク上の救急医療を提供することがねらいです」。
救命救急センターでは、医師2名、看護師32名を含む39名のスタッフをそろえ、ICUでは4:1看護で対応する。発症の初期段階にICUで短期間に手厚い治療を行うことで重症化を防ぎ、一般病床への転床やリハビリへの移行が期待できる。ICUの平均在院日数は3〜4日程度となっている。
また、4〜6階には、研修ホールや宿泊施設を整えた臨床研修センターを併設した。20室の宿泊室や最新のシミュレータを導入して、医師、看護師、コ・メディカルなどのトレーニングが行える。服部センター長は、「研修施設を整備し、離島の医療を支える人材を育成することがもう1つのねらいです。宿泊施設などを充実させ、鹿児島県本土はもちろん、全国から研修者を受け入れることも想定しています」と述べる。
奄美大島は、離島では佐渡島に次ぐ面積を持ち、奄美市と大島郡で人口は約5万人。周辺の徳之島や沖永良部島などを含めた奄美群島での人口は12万人となる。奄美群島では、高度な医療を提供できる医療機関は奄美大島に限られており、島嶼での救急患者は、船で来院するか、重症であれば鹿児島(鹿屋)や沖縄の自衛隊のヘリを利用した搬送となり、その数は年間200件に上る。それだけに、奄美群島内で高度な医療を提供できる救命救急センターに対する住民の要望は大きかった。服部センター長は、「今回の救命救急センターの立ち上げには構想の段階から携わりましたが、ドクターヘリの運用を含めて高度なセンターを整備することで、本土との医療格差が解消できると考えました」と経緯を語る。
同センターでは、クラークが実施記録を入力する救急情報システムや、手術室内を撮影して処置の検証を行う“デブリーフィング”が可能なシステムなどを整えている。また、鹿児島大学とのTV会議システムや救急車との連携システムを導入して、的確な患者搬送が行えるようにした。服部センター長は、「当センターとして、できる限り高度で専門的な対応が可能な設備・体制を整えるのと同時に、より専門的な判断が必要なときには、大学の専門医と遠隔カンファレンスを行い、治療法や搬送の必要性を判断できるようにしました」と述べる。
同センターに導入されたのは、80列ヘリカルCTである「Aquilion PRIME/Focus Edition」。救急医療におけるCTの役割と機種選定について、服部センター長は、「救急医療においては、CTは検査の中心であり大黒柱になっています。意識障害やCPAで搬送された患者には、外傷や内因性疾患にかかわらず、CTによる全身のpanscanで出血部位や疾患の同定を行います。free airの判断も、以前は単純写真でしたが、現在はCTで腸間膜の微小なairまで同定でき、消化管穿孔と診断できます。それだけにCTには、スピードと迅速な判断が可能な画質を求めました」と述べる。
同センターでは、救急搬送される患者の7割でCT撮影を行う。疾患としては、外傷のほか、脳卒中、脳梗塞や血栓症など頭部、血管系の撮影が多い。服部センター長は、「緊急に処置が必要な重症患者は3、4割ですが、脳梗塞や血栓症など病変の特定や出血部位の同定など、CT画像による診断は不可欠です。救急フロアについても、処置室からX線、CT撮影まで検査が素早く行えるようにレイアウトしました」と述べる。オープンから2か月でのCTの検査件数は、7月が180件、8月が242件で、多いときには1日14、5件の撮影を行う。
■Aquilion PRIME/Focus Editionによる救急panscan画像
救急でのCT検査について、CT検査を担当する渡技師は、「撮影スピードが速く、息止めが困難な場合でも呼吸性移動の影響を受けずに画像が得られます。また、画像再構成も高速で、撮影後すぐに画像が確認できることもメリットです」と述べる。服部センター長は救急時のCT画像の利用について、「撮影後に手術室の横に設置したワークステーションですぐにMPRなどを観察することができます。血管や骨折の状況をその場で確認して、そのまま手術を行うことが可能です」とメリットを説明する。
救急のCTでは、患者を固定するバックボードのままの撮影や、点滴などさまざまな器具を装着したままの撮影、意識がなく動かせない患者など、通常の検査とは異なる状態で行われることが多い。Aquilion PRIME/Focus Editionでは、780mmの開口径と左右42mmの寝台横スライド機能でポジショニングの難しい救急での撮影をサポートする。服部センター長は、「緊急搬送後に自動心臓マッサージシステムを装着していても、そのまま撮影できます。また、寝台の横スライド機能によって、FOVの中心に移動して撮影が可能です」と評価する。同センターでは以前からオートプシーイメージング(Ai)の全身撮影を行っているが、Aquilion PRIME/Focus Editionでは死後硬直があっても、そのままで撮影できる開口径の余裕があると渡技師は述べる。
また、Aquilion PRIME/Focus Editionでは、逐次近似画像再構成である“AIDR 3D”を用いて低線量撮影を行っている。田畑技師長は、「すべての検査でAIDR 3Dを適用した撮影を行っています。従来と同等の画質のまま、被ばく線量を低減した撮影が可能になっています。画質と線量の低減については、今後ファントムを用いた検証を進める予定です」と線量低減への取り組みを説明する。
本院の放射線部では、Aquilion64、Asteionの2台のCTが稼働する。検査件数は、月平均650〜660件で、ほかに冠動脈CTが月15〜20件。そのほか、検診部門では低線量CTによる肺がん検診を実施しており、週2回5件程度の検査を行っている。診療放射線技師は田畑技師長を含めて10名。田畑技師長はCTの導入について、「当院では、これまで東芝製CTを3世代にわたって使用してきました。救命救急センターのCTについても操作性はもちろんですが、離島という土地柄から、故障が少ないこと、トラブル時やメンテナンスへの迅速な対応などをトータルに評価して機種を選定しました」と説明する
鹿児島県では、2016年までに同センターを中心としたドクターヘリの運用をスタートする予定で準備が進められている。現在は、島外からの患者搬送や鹿児島本土などへの患者の転送は、自衛隊や沖縄県のドクターヘリが利用されているが、服部センター長は、広域での迅速な救急対応にはドクターヘリの導入が欠かせないと語る。
「離島を抱える奄美地域では、重症化を防ぎ、少しでも多くの生命を救うためにも、ドクターヘリの早期導入が望まれます。また、面積が広い反面、高速道路が整備されていない島内の救急搬送においても、ドクターヘリの重要性は大きいと思います。今後は、自治体の枠を超えた広域連携など、救命救急体制についても継続して検討していくことが必要です」。
救急医療において画像診断のファーストチョイスとして大きな役割を果たすCTの中で、画質や撮影スピード、広い撮影空間を確保するAquilion PRIME/Focus Editionが離島の救急医療を強力にサポートしている。
(2014年8月25日取材)
鹿児島県立大島病院
鹿児島県奄美市名瀬真名津町18-1
TEL 0997-52-3611
※左が救命救急センター
http://hospital.pref.kagoshima.jp/oshima/