能登半島の中央、石川県七尾市にある公立能登総合病院(管理事業者:吉村光弘、院長:橋本正明、病床数:434床)は、県の地域がん診療連携協力病院、救命救急センター、地域災害医療センターなどの機能を持ち、七尾市のみならず能登半島全域の中核病院の役割を担っている。同病院に、2013年8月、東芝メディカルシステムズの80列CT「Aquilion PRIME/Focus Edition」が導入された。64列からバージョンアップされた「Aquilion/CXL Edition」との2台体制となった同院でのCTの運用について、放射線科の中村功一医長、放射線部の塩崎 潤技師長、山本聡明主任に取材した。
公立能登総合病院では、2014年4月に放射線治療装置(Elekta Infinity)を更新したが、従来、治療計画用として使用してきた4列のAquilionをリプレイスし、Aquilion PRIME/Focus Editionが2013年8月から先行稼働した。同時に、もう1台のAquilion 64についてもAquilion/CXL Edition(以下、CXL)にバージョンアップし、0.5mmスライスの高精細・高速撮影とAIDR 3Dによる低被ばく検査が行える体制を整えた。新しいCTの導入について塩崎技師長は、「地域中核病院として多様な検査に対応する必要がある当院では、CTには診断から治療まで高いレベルで対応できることが求められます。今回の更新では、ハイスペックCT2台を配備し、円滑な検査を行えるようにすると同時に、治療計画やIVRにも利用できることを考えて機種の選定を行いました」と述べる。
同院は、能登地域全域の住民に対する安全で質の高い医療の提供をめざし、三次救急への対応、地域連携の促進、在宅医療や精神科デイケアへの取り組みなど、地域中核病院として幅広い診療を行っている。放射線科では、 2台のCTのほか、1.5T MRI、血管撮影装置2台、SPECT2台などを導入。検査件数は、月間でCT1360件(腹部800、頭部560)、MRI350件、核医学230件などとなっている。スタッフは、放射線診断医が中村医長以下常勤2名、非常勤2名。CT、MRI、一般撮影、核医学、マンモグラフィなど、ほぼすべての検査について読影を行うほか、中村医長の専門であるIVRでは、肝臓のTACE、透析シャントの血管形成術(PTA)、PTCD、胆管ステント、膿瘍ドレナージ、その他の生検術など、年間150〜200件を行っている。また、放射線治療については、週1回の専門医による治療計画のもと、月間で270件(照射件数)を行う。
診療放射線技師は16名。同院では、当直は1名で対応し、時間外でも一般撮影からCT、頭部MRIなどのオーダがあることから、全員が一通りの検査に対応できるようトレーニングしている。また、 4月から女性の診療放射線技師を中心に超音波検査にも対応するなど、業務の拡大にも積極的に取り組んでいる。塩崎技師長は放射線部の運営方針について、「安全で信頼性の高い検査を提供することと同時に、スタッフのスキルアップのために専門技師の認定取得を進めています」と説明する。
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Aquilion PRIME/Focus Editionは、従来Aquilion 4が設置されていた部屋に、そのまま入れ替わる形で導入された。Aquilion PRIME/Focus Editionは、80列の多列CTにもかかわらず最小設置スペースが14.8m2とコンパクトになっており、穿刺用モニタや検査室内用コントローラ、治療計画用のフラットベッドなどを含めて設置することができた。塩崎技師長は、「4列の部屋にそのまま設置でき、現場としては今までの運用や体制を変える必要がありませんでしたので助かりました」と評価する。
同院では、以前はAquilion 64をメインとして、Aquilion 4を治療計画と頭部単純撮影用として運用してきたが、リプレイス後も運用を引き継ぎ、CXLを腹部の造影検査を中心にしたメインのCTとし、Aquilion PRIME/Focus Editionでは、そのほかの単純撮影や救急検査、CTガイド下生検などのIVR、治療計画などを行っている。塩崎技師長は、「造影のためのスタッフの配置や運用の関係から、CXLをメインマシンとして、Aquilion PRIME/Focus Editionには救急や当日依頼など予約外の検査を割り振っています。以前は、どうしても64列CTに検査が集中するため、検査までの待ち時間が発生していましたが、更新後はトータルのスループットが向上したことで検査時間が短縮し、より高速なAquilion PRIME/Focus Editionによって当日検査にも柔軟に対応できるようになりました」と述べる。
同院のCT検査は1日約60件だが、予約の検査枠は1日20枠で、そのほかは予約外の当日検査となる。同院では、地域医療支援センターを通じて地域の開業医との高額医療機器の共同利用を進めており、この依頼検査が月間20件程度ある。また、夜間の時間外の撮影件数が月間200件程度あり、これらの検査への対応が求められていた。塩崎技師長は、「救急に関してはすべてAquilion PRIME/Focus Editionで撮影しています。検査の処理能力が大幅に向上したことで、当日の依頼にも余裕を持って対応できるようになりました。その上で、Aquilion PRIME/Focus Editionでは、生検や放射線治療計画などにも対応でき、幅広い用途に高いレベルで適用できることが大きなメリットです」と述べる。
Aquilion PRIME/Focus Editionは、0.5mm×80列/160スライスによる高画質を提供するヘリカルCTだが、中村医長は新しいCTでの画像診断について、「あらゆる領域で、高精細で質の高い画像が提供されています。もう1台もCXLにバージョンアップしたことで、すべての検査で質の高い画像が得られています」と高く評価する。
また、同院では、Aquilion PRIME/Focus Editionを用いて、CTガイド下で肝生検や膿瘍ドレナージ、肺の胸腔鏡下手術(VATS)の術前マーキングなどを行っている。Aquilion PRIME/Focus Editionでは、78cmの広い開口径と左右にそれぞれ4.2cmスライド可能な寝台によって、CTガイド下穿刺を実施する環境が大きく向上したと中村医長は次のように言う。
「CTガイド下の穿刺では、透視画像で確認しながら穿刺針を進めます。従来のCTでは、ボアに入った患者さんの上部の空間が狭く、寝台を下げたり患者さん自身の位置を左右にずらしたりして、穿刺針を扱える空間を作っていました。Aquilion PRIME/Focus Editionでは、ボア径が広く余裕があり、また寝台自体が左右にスライドできるため、体移動など患者さんに負担をかけることなく空間を作ることができます。穿刺針の清潔操作などに気を遣わずに穿刺に集中でき、精度の高い手技が可能になっています」
この開口径の広さにより、通常の撮影においても、腕が十分に挙げられない高齢者でもガントリに腕が当たることがなくなり、楽に検査ができるようになったと山本主任は評価する。また、寝台のスライドは、救急でのバックボードに固定された患者の撮影の際にも、患者を持ち上げて移動することなく容易にFOVの調整ができることがメリットだと塩崎技師長は述べている。
山本主任は、Aquilion PRIME/Focus Editionでは、撮影後の画像再構成が高速化したことで、検査のスループットが向上したことを利点として挙げる。「当日や緊急の検査では、最初の単純撮影の画像をもとに画像診断医の指示を受けて、その後の撮影を行うケースがよくありますが、スキャン後の再構成スピードが速く、すぐに画像が表示されるため、指示を受けるタイムラグが少なく、次の撮影にスムーズに移ることができます。それによって検査時間が短縮し、患者さんの待ち時間も少なくなっています」とメリットを説明する。
同院では、CXLにバージョンアップしたことで、2台のCTで低線量撮影画像再構成技術である“AIDR 3D”を使った低被ばく撮影を実現している。両CTとも東芝の推奨する設定を使用して、全検査でAIDR 3Dを適用した検査を行っており、従来に比べて25〜50%の線量低減となっている。中村医長は、「AIDR 3Dを適用することで画質の変化を心配しましたが、まったく違和感はありませんでした。従来と変わらない運用の中で被ばくを低減した検査が可能になっています」と評価する。山本主任は、検査業務の中でも、特にAIDR 3Dを意識することなく、すべての検査で高画質で低被ばく線量の撮影が可能になっているとAIDR 3Dの運用を述べている。
160スライスと128スライスという高速・高精細撮影が可能なCTによる検査体制を整えた公立能登総合病院。今後の取り組みとして、CTコロノグラフィへの対応なども考えていきたいと塩崎技師長は語る。また、山本主任は、「現在、CXLで行っている造影検査についても、いずれはAquilion PRIME/Focus Editionで行っていきたいと思います」と今後の方向性を述べている。
能登半島の中核病院として、救急から地域連携まで幅広い対応が求められる同院の診療を、2台のハイスペックCTによる検査体制が支えていく。
(2014年7月3日取材)
公立能登総合病院
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