公益財団法人福島県保健衛生協会は、福島県全域で巡回による集団検診や施設での人間ドック、二次精密検査などの検診事業を展開しているが、福島市にある総合健診センターに、2013年8月、東芝メディカルシステムズの80列CT「Aquilion PRIME/Focus Edition」が導入された。CTでは、胸部、腹部、頭部の人間ドックのオプション検査を行うほか、高精細、高速撮影を生かした肺気腫(COPD)解析、CT Colonography(CTC)の提供も予定されている。検診施設におけるAquilion PRIME/Focus Editionの役割と運用について、診療部の緑川重夫部長(兼画像診断管理センター長)、放射線課の亀山欣之補佐、半澤俊和主任、松井志穂技師に取材した。
福島県保健衛生協会は、“県民の健康と明るく豊かな暮らしを守ること”を基本理念として、各種の健康診断や人間ドックなど検診関連事業のほか、理化学分析、健康づくり・支援などの事業を行っている。検診関連事業では、本部(福島市)のほか、県内4か所の支所(郡山市、会津若松市、南相馬市、いわき市)を通じて、福島県全域で県民を対象にした巡回型の集団検診と、総合健診センターでの人間ドックなどの施設型検診を展開する。巡回検診では、胃部検診車16台、胸部検診車11台、マンモグラフィ搭載検診車2台などで、年間胸部20万人、胃部9万人の検査を行っている。施設型検診の中核となる本部の総合健診センターには、一般撮影装置1台、X線TV3台、CT1台、マンモグラフィ1台などが導入されており、ほかに上部内視鏡検査などにも対応する。センターでは、一般の健康診断や人間ドックのほか、集団検診後の精密検査(二次精検)などを実施しており、2012年度の実績は人間ドック3368人、健康診断6593人、二次精検696人となっている。検診業務に携わるスタッフは、医師6名、診療放射線技師33名、看護師20名などで、そのほか巡回検診などには非常勤や嘱託の看護師が対応する。
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総合健診センターでは、1994年の開設と同時にCTを導入して、主に人間ドックのオプション検査として、胸部、腹部(内臓脂肪量計測含む)、頭部の撮影と、二次精検の胸部CT撮影などを行ってきた。2013年度の撮影件数は3月までで960件、内訳は人間ドックのオプション検査が607件、その他健康診断270件、二次精検が83件となっている。
緑川部長はセンターでのCT検査の現状について、「人間ドックのCTでは、胸部は主に肺がんのスクリーニングを、腹部では肝胆膵から腎臓までチェックします。CTでは、超音波検査では描出が難しい膵臓の確認ができますが、一方で嚢胞などは超音波検査の方がわかりやすく、両方の画像をクロスチェックすることで、より正確な診断が可能です」と述べる。
同センターでは、健診や人間ドックは午前中で検査が終了し、午後には便潜血検査も含めて、すべての検査結果をそろえて結果説明を行う。読影から結果説明まで担当する緑川部長は、「結果を踏まえて受診者に説明することで、二次精検などの次のステップへの対応を含めて、きめの細かいフォローが可能です」とメリットを説明する。
同センターでは、2013年8月に従来の4列CTをリプレイスして、80列のAquilion PRIME/Focus Editionが導入された。当初は、64列で各社の機種を検討していたが、2013年3月に80列×0.5mmの検出器を搭載し、高画質、高スループットと本体のコンパクト化を実現したAquilion PRIME/Focus Editionが発売されたことで、同装置の導入が決まった。検診施設での多列CTの導入を進めた理由を緑川部長は次のように語る。
「検診であっても、撮影スピードの向上による息止めや検査時間の短縮は、受診者の負担軽減につながります。Aquilion PRIME/Focus Editionでは、0.5mmスライス厚で80列のディテクタを搭載したことで、64列に比べても高精細で広い範囲を、短時間で撮影可能です」
緑川部長は、福島県立医科大学、大原綜合病院などを経て、2013年4月から同センターに赴任した。福島医大では、東芝メディカルシステムズのヘリカルCT(TCT-900S)の共同開発に携わった経験を持つ。亀山補佐は、一時不在だった常勤の放射線診断医として緑川部長の赴任が決まったことも、ハイスペックCTの導入につながったと次のように言う。
「CTに造詣の深い緑川部長を迎えることで、今までの検診業務のレベルアップだけでなく、新しい検診項目に取り組むことが可能になります。同時に新しい機器の導入は、センターの若手の診療放射線技師にとっても、これからのモチベーションにつながります」
もう1つ、選定の大きなポイントになったのが、撮影時の被ばく線量の低減である。福島県下では、東日本大震災後の福島第一原発事故の影響で、X線を利用する検査の受診者数が減少している。半澤主任は、「住民は放射線被ばくに対して敏感になっており、少しでも被ばくのある検査は避けたいという心理が働いています。われわれも、医療放射線の役割や安全性について積極的に情報を発信して、理解が得られるように努力しています」と医療被ばくへの取り組みを説明するが、CTの選定に当たっても被ばく低減技術は大きな選択肢となった。亀山補佐は、「もともと健常者に対して行う検診用途ということもあり、被ばく線量の低減は大前提でした。東芝の“AIDR 3D”では、従来に比べて75%以上の低減が可能になるということで、大きなポイントになりました」とAquilion PRIME/Focus Editionの被ばく低減の技術を評価する。
■Aquilion PRIME/Focus Editionによる胸部低線量撮影画像
Aquilion PRIME/Focus Editionは、2013年8月から稼働した。同センターでは、検診のピークの時期(春、秋)には、午前中で25件前後のCT検査を行うこともあるが、撮影スピードの向上やポジショニング時間の短縮で、検査のスループットは向上していると半澤主任は言う。
「4列とは違い管球の容量に余裕があり、クーリングタイムを気にせずに連続撮影が可能です。また、ガントリの開口径が広くポジショニングの時間も短縮されています」
低線量撮影の画像の評価について緑川部長は、「診断にはまったく問題ありません。腹部と胸部では撮影条件を変えており、特に肺については被ばくを下げるため低電圧撮影を行っています」と説明する。胸部CT撮影条件は、Volume ECとAIDR 3D(SD30)を使用し、低線量での検査を行っている。松井技師は低線量撮影について、「どこまで線量を下げられるか、稼働前に東芝の担当者とも相談して、AIDR 3Dのレベルによる画像の違いを緑川部長にも確認してもらい、プロトコールを決定しました」と説明する。CTでは0.5mmで撮影し、5mm再構成、コロナル画像も提供している。緑川部長は、「CTの本体でコロナル画像まで作成できることで、時間の短縮や手間を省くことができました。コロナル画像は受診者への説明にも利用しています」と述べる。
同協会では、2014年4月からAquilion PRIME/Focus EditionによるCOPD(肺気腫)検査およびCT Colonography(CTC)をスタートする予定だ。亀山補佐は新しい検診項目の追加について、「健診の項目も多様化しており、受診者が求めるサービスのレベルも高くなっています。検診施設としても、検査技術や撮影方法の進化に対応しながら、新しい検査を提供することが求められています。Aquilion PRIME/Focus Editionの導入は、その一環でもあり、性能を生かした検診項目の追加に取り組んでいきます」と述べる。
COPDについては、胸部のCT撮影時のデータをziostation2の“CT肺野・気管支測定”で解析しレポートを提供する予定だ。また、CTCについても、前処置を含めた検査のワークフローや読影体制の整備を行って、1日2件程度の検査枠で募集をスタートする。亀山補佐は新しいオプション検査への取り組みについて、「CTCでは、Aquilion PRIME/Focus Editionの高速撮影によって、息止め時間や撮影時間の短縮など受診者の負担を軽減できるように取り組んでいきます」と語る。
Aquilion PRIME/Focus Editionの導入で、検診業務の多様なニーズへの対応に取り組む同センターでは、次のチャレンジとして、Aquilion PRIME/Focus Editionにオプションとして搭載されている“デュアルエネルギー・ヘリカルスキャンシステム”を使った解析を挙げる。緑川部長は、「デュアルエネルギーでは、結石などの成分分析が可能になりますが、検診の中で生かせないか今後検討を行っていきます」と述べている。
検診の役割が高まる中で、高画質、高スピード、低被ばくのAquilion PRIME/Focus Editionの特性を生かした、検診領域での展開が注目される。
(2014年2月28日取材)
公益財団法人 福島県保健衛生協会 総合健診センター
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