医療法人瑞心会 渡辺病院は、伊勢湾にのびる知多半島の南部、愛知県知多郡美浜町で、内科、消化器内科、循環器内科、呼吸器内科、脳神経外科、整形外科などを標榜する111床(一般50、回復30、療養31)の内科系総合病院である。同院を中核として、同じ敷地内に、特別養護老人ホームや老人保健施設など介護福祉施設、健診センターが併設されており、地域に対して医療・福祉・予防医学を三位一体で提供するのが特徴だ。同院に、2013年6月、東芝メディカルシステムズの「Aquilion PRIME/Focus Edition」が導入された。大腸CT検査、心臓CTなどに取り組む同院での80列CT の運用について取材した。
渡辺病院は、渡邊靖之院長・理事長の父親である渡邊元嗣氏(現名誉理事長)が1962年に個人診療所として開業、76年に渡辺病院を設立、84年に111床に増床し現在の基盤が確立した。高齢者医療、福祉の重要性にいち早く着目し、88年以降社会福祉法人を設立して特別養護老人ホーム、老人保健施設などを拡充し、2005年には健診センターを開設するなど、予防医学から福祉まで広くカバーできる体制を整えてきた。2012年に就任した渡邊院長は、「渡辺病院は、2011年に50周年を迎えることができました。これも、地域の信頼と支援があったからこそで、今後もそれに応えるべく“高い医療技術”の提供と、“あたたかな思いやりのある医療”を実践していきます」と診療のコンセプトを述べる。同院の特色のひとつが、渡辺病院を中核として、健診センターから介護福祉施設までが、同じ敷地内に併設されていることだ。渡邊院長は、「グループが一体となって、さまざまなサービスを住民に提供できることが特色です」と語る。
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同院では、2013年6月にCTとMRIの同時更新を行い、新しいCTとして東芝メディカルシステムズの80列マルチスライスCT「Aquilion PRIME/Focus Edition」を導入した。渡邊院長は、CT、MRIなど高度医療機器の導入について、「最良の医療を提供するためには医療の質の向上も重要であり、的確な診断と早期発見の精度向上のために不可欠」と言うが、CTに関しては特に渡邊院長の専門である循環器領域の“心臓CT”と、“大腸CT検査(CTC)”への対応をポイントに機種選定を行った。渡邊院長は、「これまで心臓検査はトレッドミルと心エコー検査で診断してきました。冠動脈CTの実施で、心臓カテーテル検査や血管内治療のための紹介が必要な場合にも、より正確な情報に基づいた的確な判断が可能です。また、CTCについても、内視鏡検査に抵抗があって検査ができなかった患者さんに対して選択肢が広がることが期待されます」と導入のねらいを述べる。
Aquilion PRIME/Focus Editionは、Aquilion ONEを筆頭とするAquilionシリーズで培ってきた技術力を注ぎ込み、2013年に新たに市場投入したヘリカルスキャンCTの最高機種であり、これまでの64列CTではトレードオフとされてきた“高分解能と高速撮影”、“被ばく低減と高画質”の要求を高いレベルで両立させている。導入にあたっては、各社のCTを比較検討した上で、これまでの稼働実績を含めて東芝メディカルシステムズを選定。稼働施設の見学を行い、CTCや冠動脈CTの実施状況を調査して機種を決定したという。Aquilion PRIME/Focus Editionの選定に至った理由を渡邊院長は次のように説明する。
「実際の稼働施設なども見て、画質の高さと撮影のスピードから導入を決定しました。従来から稼働していた同社のCTの安定した稼働実績に加えて、CTとMRIを同一メーカーでそろえたことで、メンテナンスなどのサービスを含めた安心感がポイントになりました。新しい機器が導入されることは、患者さんへのインパクトはもちろん大きいですが、職員のモチベーションアップという効果も実感しています」
放射線科のスタッフは、診療放射線技師4名。今回の機器更新では、MRI(Vantage Titan 1.5T)を同時に更新し、画像処理用ワークステーションとPACS(Rapideye Core)も併せて導入。CT、MRIに関してはフィルムレスの体制を整えた。放射線科の高瀬正也技師は、新しい機器を中心とした運用について、「撮影スピードの向上によって検査の効率が上がりました。少ないスタッフで効率的な検査を行うために、操作室を挟んで両側にCTとMRIを配置するなど動線を工夫しました。高精細のMPR画像がルーチン画像となったため、5.0mm厚のアキシャルとコロナル画像をPACSに送っており、診断精度の向上とワークフローの効率化にもつながっています」と説明する。
消化器内科の秋田真志副院長は、CTの読影について、「CTデータが高精細になったこととPACSが導入されたことで、MPRで読影する機会が増えました。腹部の消化器領域では、ダイナミックCTやDIC-CTなどさまざまな検査を行っています」と述べる。
同院では4列のAquilionからのリプレイスとなったが、Aquilion PRIME/Focus Editionではガントリ内のユニットを小型化してコンパクト化を図っており、80列という最新スペックにもかかわらず、従来の検査室に設置することができた。また、開口経78cmのワイドボア化によって、ポジショニングなど余裕のある空間で心臓CTやCTCなどさまざまな検査に対応する。
■症例1 大腸CT検査
■症例2 冠動脈CT
同院では、Aquilion PRIME/Focus Editionが導入された2013年6月から、大腸CT検査(CTC)をスタートした。健診センターの人間ドックのメニューにも組み込まれている。CTCは午前検査の場合、前日の夜に下剤(1800mLの等張液)を服用し、タギングなしの前処置を行う。自動炭酸ガス注入による腸管拡張から仰臥位、腹臥位の2体位撮影を行い、退出までの検査時間は10〜15分。CTCの運用の中で高瀬技師は、「スキャン時間はもちろん、撮影後の画像処理が速く検査の効率が上がっています。CTCでは1回の検査で2000〜3000枚の画像になりますが、撮影後すぐに画像が表示されますので、追加の体位での撮影が必要かどうか、その場で判断できます」と高速撮影のメリットを実感している。
CTCのメリットについて、秋田副院長は、「これまで大腸内視鏡に抵抗感があって検査を避けてきた患者さんが、大腸検査を受診するきっかけとなることが大きいです。CTCによってポリープがあることがわかれば、内視鏡検査を受けるきっかけになります。便潜血が陽性でも検査を受けなかった患者さんが、より気楽にスクリーニング検査を受けていただけることで、適切な診断、治療につなげることができることは、患者さんにとっても、医師にとっても意義は大きいですね」と評価する。
CTCの読影に関しては、技師2名で1次チェックを行った後、秋田副院長を含めて最終的な診断を行う。1次チェックの読影時間は1症例20分程度、ワークステーションを使って仮想内視鏡表示やMPRを組み合わせて読影を行う。秋田副院長は、「残渣の多いケースでは、ポリープなのか、残渣なのか、判断がつきにくいことがあり、多少オーバーリーディングになりがちですが、前処置やタギングなども含め今後の発展に期待して、患者さんのために慎重に判断しています」と現状について語る。
高瀬技師は、前処置の方法などCTCについては、まだ検討の余地があり、「タギングを行うための最適な前処置の方法などについて検討していきたい」と述べる。
また、Aquilion PRIME/Focus Editionでは、すべての検査で低線量撮影画像再構成技術“AIDR 3D”を使用したプロトコルで撮影を行っている。現在は、 同社の推奨のプロトコルを使用しており、従来の半分程度の線量で撮影されている。高瀬技師は、今後、撮影件数を積み重ねて、さらなる被ばく線量の低減にも取り組んでいきたいとのことだ。
冠動脈CTについては、循環器科医である渡邊院長が、積極的に心臓CTを実施する構想を持っていることから、今後さまざまな展開が予想される。冠動脈CTの撮影について高瀬技師は、「今回のCT導入時に心臓CTをスタートしましたが、他院で豊富な心臓CT検査を経験したスタッフが担当しています。Aquilion PRIME/Focus Editionでは撮影時間が短いため、検査時の息止めなど患者さんの負担も少なく、良好な画像が得られています」と評価する。
地域から信頼される病院として発展を続ける渡辺病院。今後、Aquilion PRIME/Focus Editionによるさまざまな診療の広がりが期待される。
(2014年1月9日取材)
医療法人瑞心会 渡辺病院
愛知県知多郡美浜町
大字野間字上川田45-2
TEL 0569-87-2111
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