熊本セントラル病院では、東芝メディカルシステムズの最新鋭CTである「Aquilion PRIME/Beyond Edition」が2013年3月から稼働し始めた。8列CTからリプレイスする形で導入された同CTは、80列/160スライス、0.35秒スキャン、AIDR 3Dなど、同社の最先端の技術が投入されている。それが地域医療の現場でどのように生かされているのか。安倍弘彦理事長と放射線科の立石文明課長にインタビューした。
熊本セントラル病院では2013年3月に、東芝メディカルシステムズの「Aquilion 8」から最新マルチスライスCTである「Aquilion PRIME/Beyond Edition」にリプレイスした。1987年に熊本県菊池郡大津町に開院した同院は、肝・胆・膵などの消化器領域では、県内でもトップレベルの診療実績を誇る。また、2本の幹線道路に接しているという立地条件から、交通外傷患者が搬送されるケースも多い。さらに、リハビリテーションや居宅介護にも力を注いでおり、菊池医療圏の地域医療と介護を支える施設として機能している。
このような位置づけにある同院において、CTの重要性は高く、担う役割は大きい。安倍理事長は、「当院の診療の中心となっている消化器、整形、脳神経領域においては、診断・治療のための画像診断が非常に重要な位置づけにあります」と、説明する。
こうした観点から導入されたAquilion PRIME/Beyond Editionは、1か月平均で350〜400件程度の検査を行っていて、安倍理事長の言葉のとおり、消化器、整形、脳神経領域を中心に、同院の診療を支える存在となっている。
同院の放射線科には、Aquilion PRIME/Beyond Edition以外にも、東芝メディカルシステムズのモダリティが多く導入されている。安倍理事長は、同社のMRI部門のスタッフとともにMRCPの撮像法の開発にも取り組んだ。また、放射線科の立石課長も、同社が誇る非造影MRAの技術開発にかかわった。このような長年にわたる協力関係もあり、Aquilion 8の更新に際しても、同社の装置を中心に検討を行った。立石課長は、「装置の仕様要件は、64列以上の検出器を搭載していることでした。これは心臓CTの施行を視野に入れていたためです。そこで、各社の64列以上の装置を比較、検討しましたが、特に短時間で広範囲を撮影できることを選定では重視しました。Aquilion PRIME/Beyond Editionは0.5mmのスライス厚で80列なので、1回転で40mmの範囲を撮影できます。これが64列ならば32mmしかカバーできず、撮影時間や検査全体のスループットに影響します。また、他社の64列CTの場合、スライス厚0.625mmでの40mmとなります。同じ範囲を撮影するのであっても、高精細な画像を得るには0.5mmスライス厚のAquilion PRIME/Beyond Editionの方が有利です。私たちは、この“0.5”という数字にこだわりました」と語る。このスピードと画質へのこだわりがAquilion PRIME/Beyond Edition選定の最大の理由であった。
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こうして導入されたAquilion PRIME/Beyond Editionは、Aquilion 8のあった撮影室に入れ替わりで設置された。通常、CTは、多列検出器の搭載などの高性能化によって装置自体が大型化してしまうが、Aquilion PRIME/Beyond Editionは、コンパクト設計を特長としている。780mmという広いガントリ開口径を持ちながらも、最小設置面積は14.8m2で、8列や16列の装置が設置されていた部屋をそのまま利用でき、リプレイスには最適と言える。
実際に、装置が稼働し始めてから3か月が過ぎるが、導入時にこだわったAquilion PRIME/Beyond Editionのスピードと画質は、着実にメリットをもたらしている。例えば、腹部から骨盤部までの撮影では、従来の装置では15秒近く要していたが、現在では約5秒と、1/3程度に短縮されている。これは、0.35秒スキャン、80列という多列化に加え、秒間2572view数の専用DAS(Data Acquisition System)、同社のArea Detector CT「Aquilion ONE」用に開発されたV-TCOT再構成アルゴリズムの採用など、最先端技術が余すところなく注ぎ込まれた成果である。さらに、スキャン中に並行して画像再構成処理を行うことが可能なため、検査全体のスループットが向上している。立石課長は、「従来はアキシャル画像を作成し、その後、依頼元の診療科からのオーダに応じて再度画像再構成して、コロナル像、サジタル像を提供していました。しかし、現在では、スキャン条件を設定する“エキスパートプラン”で、アキシャル像に加え、コロナル像、サジタル像も追加しており、すぐに依頼先の診療科へMPR像を提供できます。患者さんが寝台から降りる時点で、すでに画像処理を終えているくらいスピーディです」と述べている。このような検査効率の向上は、検査数を増やすことにもつながるが、それだけでなく、スタッフの業務時間短縮にも結びつき、病院経営の観点からも、メリットだと言える。
■症例1 全脳CTP+頭頸部CTA症例
■症例2 手関節骨折(橈骨)症例
一方、Aquilion PRIME/Beyond Editionの画質がもたらすメリットは、部位別検査件数の変化などに表れている。
8列の装置では体幹部の撮影が60〜70%の比率を占めていたが、現在は頭頸部のCT angiography(CTA)や四肢などの整形領域の検査が増えているという。「頭頸部のCTAは、軌道同期ヘリカルスキャンによってサブトラクションができるようになり、精度が高くなっています。CTAなどのangiographyや心臓CTでの冠動脈解析は、合わせて導入したワークステーションのVitreaで画像処理を行っていますが、これも非常に便利です。撮影データをワークステーションに送信すれば、ワンクリックで自動処理するので、検査後すぐに依頼元の診療科へ画像を提供できています」と、立石課長は説明する。さらに、頭部のCTパーフュージョン(CTP)でも、Aquilion PRIME/Beyond Editionにリプレイスした効果が生まれており、立石課長は、「8列の装置では、基底核領域を4断面で表示していましたが、Aquilion PRIME/Beyond Editionでは、4断面に加え、小脳から基底核までの8断面、脳全体の12断面が選択できるようになりました」と述べている。
また、整形領域では、骨折部分が明瞭に描出されている点が、医師から高く評価されている。これは、0.5mmスライス厚×80列検出器により、高精細に広範囲を撮影できるためであり、X線一般撮影以上に有用な情報を提供し、術前プランニングなどに用いられている。
このほかにも、胸腹部の広範囲の撮影において、部位に応じて寝台の速度を変速して撮影ピッチを可変する“バリアブルヘリカルピッチ”を使用し、肺梗塞症例などでは、高速で往復スキャンし、4D画像を作成できる“ダイナミックヘリカルスキャン”を用いるなど、Aquilion PRIME/Beyond Editionに搭載された同社独自の技術を生かした検査を行い、有用性の高い情報を診療科に提供している。
Aquilion PRIME/Beyond Editionでの検査では、全例で低線量撮影画像再構成技術“AIDR 3D”を用いて、少ない被ばく量で高精細画像を提供できているが、今後は、より患者さんに負担をかけない検査をめざしたいと立石課長は考えている。現在はスキャンの設定を変更しながら、AIDR 3Dを用いた低電圧撮影のプロトコールの検討を重ねている。一方、心臓CTを視野に装置を更新した同院だけに、今後は心臓CTの検査件数を増やしていくことも大きな目標である。安倍理事長は、以前他院で行った64列装置による心臓CTでペースメーカーの金属アーチファクトが出ていたものが、Aquilion PRIME/Beyond Editionではその影響が出ていないので、適応を拡大できると期待している。さらに、自身の専門である消化器領域では、CTPにも取り組みたいと考えている。こうした臨床面での展望に加え、安倍理事長は、地域医療の視点から次のように語る。
「今後は、Aquilion PRIME/Beyond Editionでの紹介検査を増やしたいと思います。菊池医療圏は総合病院が少ないため、当院がCT検査などを受け入れて、中核的な役割を果たすことで、地域に貢献していきます」
8列から80列に装置を更新したことにより、CT検査の適応が広がった熊本セントラル病院。今後も、Aquilion PRIME/Beyond Editionの性能を存分に生かせるよう検討を続けながら、そのメリットを臨床を通して地域住民に還元し、地域医療を支える病院としての使命を果たしていく。
医療法人潤心会 熊本セントラル病院
熊本県菊池郡大津町大字室955
TEL 096-293-0555