Aquilion PRIMEでは、異なる2つのエネルギー値のX線で撮影することでエネルギー透過性の違いから物質弁別(Material Decomposition)を行う“Dual Energyヘリカルスキャン”が可能である。泌尿器科領域における尿路結石の質的診断へのDual Energyヘリカルスキャンの応用について、尿路結石センターにおけるin vivoと in vitroでの取り組みついて紹介する。
Aquilion PRIME(東芝メディカルシステムズ)は、Dual Energyヘリカルスキャンが可能であり、尿路結石の質的診断への応用が考えられている1、2)。
尿路結石のうち最も頻度が高く、その約9割を占めるカルシウム含有結石は、通常、腹部単純X線撮影(KUB)によって、存在診断および局在診断が可能である。一方、尿酸結石は放射線透過性であるため、通常のKUBではとらえにくく、その画像診断としては、超音波断層法やX線CTが有用である。造影剤を使用して、結石を陰影欠損像として認識しながら体外衝撃波砕石術(ESWL)などの治療を試みることもあるが3)、簡便な方法とは言い難い。
尿酸結石の頻度は、カルシウム含有結石に次いで2番目ではあるが、その数は約5%と尿路結石全体では低頻度ではある。しかし、画像診断により尿酸結石をカルシウム含有結石と鑑別する臨床的意義は、尿酸結石は化学溶解が可能であり、それを利用した再発防止が十分に見込まれる点にある。例えば、高齢である、出血傾向がある、抗血栓療法を中止できない、他の重大な合併症を有している、などの理由により、積極的には結石除去治療を適用できない例に対して、あらかじめ尿酸結石であることが推定されれば、尿アルカリ化薬などの内服による結石溶解療法も選択可能となる。これまではKUBでは描出されにくい結石を、いわばnegative selectionによって尿酸結石などの放射線透過性結石と診断していたが、Dual Energyスキャンにより、客観的な診断が可能となりつつある。
CT値は、水を0 Hounsfield unit(HU)、空気を-1000 HUと定義しており、その値はX線の管電圧で変化する。この管電圧によるCT値の変化の程度は、結石の種類で異なることが知られており、例えば尿酸結石では、高電圧(135~140kV)と低電圧(80kV)のCT値はほとんど差がない(図1)。
しかし、カルシウム含有結石の1つであるカーボネイトアパタイト結石では、低電圧でのCT値は高電圧の約2倍を示し、尿酸結石のそれとは明確に区分することができる4)。われわれの解析では、最も頻度の高いシュウ酸カルシウム結石において、低電圧は高電圧の1.3~1.8倍程度のCT値を呈することが確認された(図2)。
これらの結果を踏まえ、われわれは腎結石および尿管結石の診断過程でAquilion PRIMEでのCT検査を実施し、Dual Energyスキャンを加えた検討を行った。454例、634結石を対象とし、Dual Energy解析により推定された結石成分と、実際に排出された結石の成分分析結果と比較検討した。それぞれの尿路結石に対する治療の結果、95結石が得られ、その成分(赤外分光分析)は、シュウ酸カルシウム 82結石、カーボネイトアパタイト結石 6結石、尿酸 4結石、シスチン 2結石、リン酸マグネシウムアンモニウム 1結石であった。これらの比較により、Dual Energyスキャンで結石成分を正しく推定できた例(正診率)は、カルシウム含有結石では85.2%、尿酸結石では75.0%であった。
Aquilion PRIMEにおけるDual Energyスキャンでは、カルシウム含有結石の代表として炭酸カルシウムを選択し、検量線(回帰直線:y〈高電圧CT値〉=0.74x〈低電圧CT値〉)を描いている。しかし、炭酸カルシウムはヒトの尿路結石としてはほとんど見られない成分であるため、一般的な物質で再検討する必要がある。そこで、患者から実際に排出された結石を用いて、Dual Energyスキャンを行い、in vitroで高電圧CT値と低電圧CT値を解析した。
赤外分光分析により、尿路結石のうち最も頻度の高いシュウ酸カルシウム(図3)と診断された10結石を用いたDual Energy解析では、炭酸カルシウムに比し、高電位と低電位でのCT値の差はより大きかった(図4)。10結石の解析では、両者の相関は良好であり、炭酸カルシウムとは異なる回帰直線が得られた(図5)。すなわち、シュウ酸カルシウムのDual Energyスキャンによる高電位と低電位のCT値の解析には、再検討の余地があると思われた。一方、検討例は少なかったが、尿酸結石でのDual Energy解析の再現性は良好であった(図6、7)。
Dual Energyスキャンは、異なる2つのエネルギー値のX線で撮影することにより、物質固有のエネルギー透過性の違いから新たな画像情報を取得し、Material Decomposition(物質弁別)の可能性を見出している。尿路結石の診療においては、その治療前にCT検査によって結石成分を推定できる強力なツールとなりうるものである。尿酸結石は、放射線透過性という特徴から、これまでも臨床的に成分推定を行ってきたが、その判断には経験的な側面が大きいのも事実である。Dual Energyスキャンでは、evidenceに基づいたより客観的な評価が可能となり、尿酸結石に対する結石溶解療法の適応決定などへの応用が期待される診断法と考えられる。
今後は、尿酸結石やカルシウム含有結石以外の結石成分(シスチンやリン酸マグネシウムアンモニウムなど)、またカルシウム含有結石のうち、シュウ酸カルシウム(一水和物、二水和物)、リン酸カルシウムやカーボネイトアパタイトとの弁別が可能かなどを含めた、in vivoと in vitro双方からのさらなるアプローチが必要であろう。
※共同研究者:北彩都病院放射線科 井上宏紀、渡邊圭太、佐藤 光、山代浩二
[参考文献]
1)Matlaga, B.R., Kawamoto, S., Fishman, E. : Dual source computed tomography; A novel technique to determine stone composition. Urology, 72,1164-1168,2008.
2)山口 聡:実地診療における痛風・高尿酸血症の診断学~泌尿器科学的診断. 高尿酸血症と痛風. 20, 43-48,2012.
3)Streem SB. : Visualization and removal of uric acid calculi. Kidney stones: Medical and surgical management, Coe FL, Favus MJ, Pak CYC, Parks JH, Preminger GM (eds), Lippincott-Ravens Publishers, 991-1006,1996.
4)高橋 哲、伊藤俊英:DSCTによる腹部の検査と診断. インナービジョン, 24,85-89,2009.